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第2章
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『会いたかったな……』
ライブが終わった次の日。沙樹は崇弘と電話をしていた。ライブの後に会えなかったことを言う崇弘は、どことなく拗ねているようにも聞こえる。
「仕方ないじゃない。お兄が煩いんだもの」
『まぁな。輝はシスコンだもんな』
「そんなにシスコン?」
『なんだよ、沙樹は分かってないのか』
電話越しにくくくっと笑い声が聞こえる。その笑い声が、とても近くにいるような感じでくすぐったい。
「ねぇ」
『ん』
「次はどこに行くの?」
沙樹の声は寂しそうだ。
『次は大阪』
「そっか……」
沈んだような声が崇弘の胸を締め付ける。暫くは会えないのを崇弘も沙樹も分かっている。
『ツアーが終わるの、来月だからなぁ……』
「ん……」
『ツアー終わったらさ、どっか行こうか』
「え?」
『行きたいところ、考えておいて』
「タカちゃん……」
電話を切ると沙樹は胸がドキドキしていた。
(デート……ってこと?……だよね?)
ドキドキが止まらない沙樹はスマホを抱きしめていた。
◇◇◇◇◇
翌週、学校へ行くとライブに行けた子と、行けなかった子で揉めてる姿があった。それは沙樹のクラスだけではなく、学校全体でだった。廊下を歩いていても「なんであんたが行けて私が行けなかったのよ!」と言い合いになってるのを目にした。
(こりゃ黙ってないとダメなパターンだ)
教室に入ると結子が近寄って来た。小声で沙樹に言う。
「みんなヤバいよ」
「ん」
「内緒にしておかないとだね」
「だね」
そう言い合うくらい、揉めているのだ。呆れてため息を吐く沙樹は、兄のことは誰にも言ってはいけないことだと痛感した。
放課後。いつものように3年生の教室に結子と行く。そこには凪と貴裕が話をしていた。
「あ。来たね」
「先輩~」
結子は凪の元へと行くと抱き着いた。
「もうっ。誰にも言えないのはツライ~」
「ライブのこと?」
「うん。本当は言いたくてしょうがないっ!」
「分かるよ。あんな凄いライブを見たら言いたくなる」
ふたりでそう盛り上がってるところをクスクスと笑う沙樹。そんな沙樹に貴裕は近寄った。
「そんなに凄いライブだったんだ?」
「うん。凄い、カッコよかった」
「凪も早くしゃべりたくてしょうがなかったんだよ」
「今日の学校の雰囲気じゃ話せないもんね」
「本当だよ。BRの名前出しただけでも揉めそうなくらいだったよ」
ふふふっと沙樹は笑う。
「でも……」
凪に視線を向けると沙樹は呟くように言う。
「あの日の帰りは大人しかったんです」
「凪?」
「はい」
「へぇ……」
あの日。結子が車を降りた後、凪は大人しくなり、一切会話をしなかった。家路までの道順を教えるだけで、得に話をしない。それが沙樹には気になった。
「そりゃファンだからな」
「昔から?」
「そ。俺と凪が知り合った頃にはもうBRの大ファンだったよ」
「そうなんだ」
結子と盛り上がる凪を見て不思議な感覚に陥っていた。
(お兄ちゃんを大好きな人とこうして仲良くしているんだよね)
ファンがいるのは嬉しいことだ。だけど、身近な人がってなるとなんとも言えない感覚になっているのだ。
「沙樹」
凪が振り返り沙樹の手を取る。
「あのね」
「ん?」
「私、輝さんが好きっ」
「うん?ファンなんでしょ」
「そうじゃない」
凪が一息つくように大きく息を吸った。
「輝さんが好き。AKIRAとしてじゃなくて、あんたのお兄さんが……、好き」
「え────────……っ!!」
ライブが終わった次の日。沙樹は崇弘と電話をしていた。ライブの後に会えなかったことを言う崇弘は、どことなく拗ねているようにも聞こえる。
「仕方ないじゃない。お兄が煩いんだもの」
『まぁな。輝はシスコンだもんな』
「そんなにシスコン?」
『なんだよ、沙樹は分かってないのか』
電話越しにくくくっと笑い声が聞こえる。その笑い声が、とても近くにいるような感じでくすぐったい。
「ねぇ」
『ん』
「次はどこに行くの?」
沙樹の声は寂しそうだ。
『次は大阪』
「そっか……」
沈んだような声が崇弘の胸を締め付ける。暫くは会えないのを崇弘も沙樹も分かっている。
『ツアーが終わるの、来月だからなぁ……』
「ん……」
『ツアー終わったらさ、どっか行こうか』
「え?」
『行きたいところ、考えておいて』
「タカちゃん……」
電話を切ると沙樹は胸がドキドキしていた。
(デート……ってこと?……だよね?)
ドキドキが止まらない沙樹はスマホを抱きしめていた。
◇◇◇◇◇
翌週、学校へ行くとライブに行けた子と、行けなかった子で揉めてる姿があった。それは沙樹のクラスだけではなく、学校全体でだった。廊下を歩いていても「なんであんたが行けて私が行けなかったのよ!」と言い合いになってるのを目にした。
(こりゃ黙ってないとダメなパターンだ)
教室に入ると結子が近寄って来た。小声で沙樹に言う。
「みんなヤバいよ」
「ん」
「内緒にしておかないとだね」
「だね」
そう言い合うくらい、揉めているのだ。呆れてため息を吐く沙樹は、兄のことは誰にも言ってはいけないことだと痛感した。
放課後。いつものように3年生の教室に結子と行く。そこには凪と貴裕が話をしていた。
「あ。来たね」
「先輩~」
結子は凪の元へと行くと抱き着いた。
「もうっ。誰にも言えないのはツライ~」
「ライブのこと?」
「うん。本当は言いたくてしょうがないっ!」
「分かるよ。あんな凄いライブを見たら言いたくなる」
ふたりでそう盛り上がってるところをクスクスと笑う沙樹。そんな沙樹に貴裕は近寄った。
「そんなに凄いライブだったんだ?」
「うん。凄い、カッコよかった」
「凪も早くしゃべりたくてしょうがなかったんだよ」
「今日の学校の雰囲気じゃ話せないもんね」
「本当だよ。BRの名前出しただけでも揉めそうなくらいだったよ」
ふふふっと沙樹は笑う。
「でも……」
凪に視線を向けると沙樹は呟くように言う。
「あの日の帰りは大人しかったんです」
「凪?」
「はい」
「へぇ……」
あの日。結子が車を降りた後、凪は大人しくなり、一切会話をしなかった。家路までの道順を教えるだけで、得に話をしない。それが沙樹には気になった。
「そりゃファンだからな」
「昔から?」
「そ。俺と凪が知り合った頃にはもうBRの大ファンだったよ」
「そうなんだ」
結子と盛り上がる凪を見て不思議な感覚に陥っていた。
(お兄ちゃんを大好きな人とこうして仲良くしているんだよね)
ファンがいるのは嬉しいことだ。だけど、身近な人がってなるとなんとも言えない感覚になっているのだ。
「沙樹」
凪が振り返り沙樹の手を取る。
「あのね」
「ん?」
「私、輝さんが好きっ」
「うん?ファンなんでしょ」
「そうじゃない」
凪が一息つくように大きく息を吸った。
「輝さんが好き。AKIRAとしてじゃなくて、あんたのお兄さんが……、好き」
「え────────……っ!!」
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