もう一度会いたい……【もう一度抱きしめて……】スピンオフ作品

星河琉嘩

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第2章

12

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 BRのツアーは順調に進んでいた……訳ではなかった。
 REIJIが本格的に活動を再開したばかりで、まだ後遺症も残ってる。歌う分には申し分ないくらいに回復している。だが時々、あの事件の時の傷が疼くということがあった。結婚を発表したあの頃もムリに表に出てきていた。リハビリもかなり長い間やっていた。子供が産まれるからと、ムリに復帰を早めた結果、体調を崩すということもあったのだ。だからこそ、ちゃんと回復するのを待とうと活動休止をしていた。今回のツアーは2年ぶりの完全復活のツアーだった。

「れいちゃん……」
 福岡のライブが予定よりも早く切り上げられたのは、REIJIがステージ裏で倒れたという経緯がある。それにより、アンコールなしのライブになった。それではファンに申し訳ないと、演奏はしなくとも顔だけは出そうと、崇弘たちに抱えられてステージに戻りファンに顔を出したのだ。
 その姿を見たファンは「無理しないでー」と叫んでいた。
 ライブ翌日のニュースでその映像が流れた時、沙樹は胸が締め付けられた。
(柚子ちゃん、心配してるだろうな……)
 大好きな柚子を思って、苦しくなった。
 学校に行く前に柚子の家に寄った沙樹に、柚子は毅然とした態度で沙樹を出迎えた。

「心配してくれてありがとうね」
 にっこりと笑う柚子だが、心配してるのが分かる。
「れいちゃん、まだ回復してなかったの?」
「基本的には大丈夫よ。でも後遺症なのかな……。時々、傷口が痛むらしくて……」
 柚子はあの事件のことを話したがらない。それもその筈だ。自分の友達(だと思っていた)が起こしたのだから。
「ほら。学校に行ってらっしゃい。遅刻するわよ」
「ん……」
 柚子に背を押されて、学校まで向かう。沙樹は柚子のことが心配で、何より零士や輝たちのことも心配だった。
 それでも沙樹に出来ることはないし、何かを出来そうにもなかった。だからこそ、沙樹は今やるべきことをするしかなかった。




     ◇◇◇◇◇



 学校に着くとREIJIが倒れたという話で持ちきりだった。その話を聞くと胸が苦しくなる。沙樹はそのことに気付かないフリをして、席についた。
「おはよ」
 結子が沙樹の席に寄ってくると心配そうな顔を向けていた。
「お兄さんに連絡とった?」
 首を横に振った沙樹は結子の顔を見る。
「電話、出なかったの」
「そう……。大丈夫だといいね」
「うん」
 自分よりも柚子が心配してる。そのことが一番気がかりだった。

「おっ。高幡!」
 朝から元気な圭太が沙樹へと寄ってくる。その姿を見てため息を吐く。
「朝から元気だね」
 結子が圭太をジロッと見て嫌そうに言う。圭太はクラスの中でも結構浮いていて、それに本人は気付いてない。
「なんだ、なんだ?元気ねぇじゃん。他のやつらもそうなんだけどよー」
 大声で言う圭太にクラスのBRファンがうんざりしていた。
「あ、そっか。REIJIが倒れたんだっけ?そんなことで元気ねぇのか。つーか、高幡、お前もファンなのか?」
「全国の女子の大半がファンだと思うよ」
 結子の言葉に他のクラスの女子が賛同した。
「田山の言葉はBRファンを敵に回してるわ」
「そうよ!高幡さんが落ち込むのも無理はないわ!」
「私たちだって心配なんだから!」
 そう叫んだうちのふたりは小学校から同じ学校のふたりだった。ショートカットの宮崎さち。ミディアムロングの笹山朱莉あかり。このふたりがそんなことを言うとは思ってもいなかった。

「田山なんかほっといていいから!」
 沙樹の傍に寄って来たふたりは、圭太を追い払った。
「宮崎さん……。笹山さん……」
 ふたりの顔を見ると心配そうに沙樹を見ていた。そして小声で沙樹に聞いた。
「お兄さんと連絡は?」
 ふたりは同じ学校だったから沙樹が誰の妹かは知っている。到底、沙樹があのAKIRAの妹だということを隠すことはこの地元では無理があるのだ。
「あんたたち、知ってるの?」
「小学校から一緒だし」
「私は幼稚園、一緒だよ」
 さちは沙樹とは半年、幼稚園が一緒だった。
「あれ?そうだっけ……?」
 そう言う沙樹にさちは笑った。
「覚えてない?」
「幼稚園の頃のことはあんまり……」
 高幡の家に来たばかりで、高幡の家の人に慣れるので必死だった。人の顔色ばかり伺って、家でも口数が少なかった。
「まぁ、あの頃はって呼んでも返事しなかったからねぇ」
「あ……。ごめん」
「謝って欲しいわけじゃないし、寧ろこっちが謝んなきゃ!」
 さちはそう言って頭を下げた。それに倣うように朱莉も頭を下げる。
「小学校の時、親がって言ってたからよく知らずにその通りにしてた」
「うちらだけじゃないと思う。そのうち親が言ってる意味が分かってきて、どうすればいいのか分からなくなっていったの」
「で、話しかけるタイミングがズレて……」
「本当は嫌ってるわけじゃない。高幡のことを知らないだけ」
「ごめんね」
「ごめんなさい」
 ふたりはそうやって、頭を下げた。
「や、やめてよー。仕方ないじゃん。私、愛人の子だし」
「でも有名だったよ?」
「なに」
「上のイケメンお兄さん3人に溺愛されてるって」
「で……っ……溺愛って」
「だって見かけるとお兄さんたち、特に3番目のお兄さんの溺愛っぷり、凄かったもん」
「え……っ!いつ?なに?えっ。お兄がなにしてた?」
 慌ててる沙樹にふたりは笑った。
「転んで膝擦りむいた沙樹ちゃんをおぶって走ってた」
「えっ」
「私は両手いっぱいに女の子向けのファションブランドの袋を持って、家に入る所を見た」
「他にもあるよー」
 ふたりは楽しそうに沙樹の兄たちの溺愛っぷりを披露してた。その話を結子は目をキラキラさせながら聞いていた。
「想像つくー」
「え?」
「もしかして大原さん、会った?」
「うん。沙樹の家に行った時に会った」
「えーいいなー」
「ほんと、イケメンだよねー」
 キャッキャッとはしゃぐ3人に、沙樹は恥ずかしくなる。
「ねぇ」
「ん?」
「これからは私たちも混ぜてもらっていい?」
「え……っ」
「お昼、ふたりで食べてるでしょ」
「大原さんと高幡と仲良くしたいなぁって思ってたの」
 ふたりの提案に、結子は沙樹を見た。沙樹はどうしたらいいか分からず戸惑う。そんな沙樹を分かっている結子だったが、沙樹にもっといろんな人と繋がって欲しいとも願った。だからふたりの提案に笑って「いいよー」と言った。沙樹も戸惑いの顔をしながらも頷いた。
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