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第4章
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試験が終わり、夏に入った頃。崇弘が沙樹を連れ出していた。
「どこに行くの?」
そう言う沙樹にニコッと笑った。
「零士から聞いててな」
運転する崇弘の横に座るのは、アメリカ以来だった。
「れいちゃん?」
「そ」
「あ、あれだ」
見えてきた建物を指すと、車はその敷地に滑り込んで行った。
「ここ?」
車から降りてその建物を見る。そこまで大きくないがとても綺麗な外観。
(タカちゃんとこの別荘よりは小さいかな)
それもその筈。1日限定一組しか泊まれないホテル。プライベートホテルのようなものだ。
中で働く従業員は、本当に少人数。夜になると近くにある宿舎へ戻るから、夜は完全にふたりきりになる。
「ここ、零士たちが来たことあるらしくて」
「そうなの?」
「ふたりでどこかに行くってことが出来ないだろ。で、零士がここ勧めてきた」
勧めてくるくらいだから、相当ここが良かったのだろう。
「ようこそお越しくださいました」
ホテルの従業員は、深々と頭を下げる。
「予約した時にもお願いしたけど…」
と、崇弘は従業員に話しかけた。
「心得ております。ここにいる者たちは、お客様のことは一切口外いたしません。気にせずにお寛ぎ下さい」
そう言うと中へ案内された。
◇◇◇◇◇
ホテルの目の前には、プライベートビーチがある。しかも他からは入って来れないようになってる。
「凄い~」
ホテルから見える海が、太陽の光を浴びてキラキラとしている。沙樹たちの地元には海がない。海に行くとなると、結構な遠出になるから日帰りでは行けない。
「ほんとだ。あとで海入ろうか」
隣にいる崇弘はそう言って荷物を寝室の方へ運んでいた。
一階はリビング。大きなテレビとソファーが置いてある。キッチンもとてもキレイで、朝昼晩とシェフが豪華な食事を提供してくれる。2階には寝室がいくつかある。それとキッズルームのような遊び場。子供がいても楽しめるようになっている。
「沙樹ー!」
2階から沙樹を呼ぶ声がした。沙樹は2階へと上がり、崇弘のところへと行く。崇弘は主寝室となる部屋にいた。
「こっちからのが凄ぇぞ」
主寝室の大きな窓。そこを開けると広いバルコニー。そこから見える海の景色がとてもキレイだった。
沙樹は思わず言葉を失うくらいだった。
「零士に感謝だな」
崇弘はそう言うと沙樹に笑った。
沙樹と崇弘は目の前にある海へと向かった。沙樹は運動は得意だけど、泳ぎだけは苦手だった。それは子供の頃に溺れかけたことがあったから、苦手となってしまったのだ。
それを知ってる崇弘は、沙樹に浮き輪を借りてきた。このホテルにはそういうものも置いてある。
「はい」
沙樹に渡すと照れたように「ありがとう」と言った。
崇弘の前で水着姿になることが恥ずかしいと、顔を見れないでいる。そんな沙樹が可愛くて仕方ないと、崇弘は顔を覗き込んだ。
「──……っ!」
目の前に崇弘の顔が見え、いたずらっ子のような目で笑う。そんな顔をされたら、余計にどうしたらいいのか困ってしまう。
「沙樹」
「もうっ、タカちゃんっ」
恥ずかしさでいっぱいになる沙樹に対して、崇弘は余裕のある態度で沙樹を抱きしめていた。
◇◇◇◇◇
「久しぶりに海で遊んだー!」
と、ホテルの方へ歩きながら叫んだ。
「シャワー浴びてこいよ」
海から上がったばかりのふたりは、1階にあるシャワールームへと向かう。
「へぇ。凄いな」
海から上がってすぐにシャワールームが使えるように、ビーチ側から入れるようになっていた。
「先使いな」
ポンと頭に手を置く。そして崇弘はもう一度、海へと走った。
(元気だな……)
崇弘の姿を目で追った沙樹は、シャワールームへ足を踏み入れた。
沙樹がシャワールームから出ると、崇弘がこっちに戻ってくるのが見えた。
(着替えて来なきゃ……)
バスタオル一枚な状態は恥ずかしい。バタバタと階段を上り、寝室へ行くと自分のバッグから洋服を出した。素早く着替えを済ませると、今度は部屋に付いてるバスルームへと行く。そこに置いてあるドライヤーで髪を乾かした。
沙樹がリビングの方へ戻った頃には、キッチンでは専属のシェフが忙しく夕飯の調理をしていた。ひとりの従業員がダイニングをキレイにし、テーブルを整えていた。
キッチンとリビングは扉で遮られていた為、沙樹にはその様子は見ることが出来なかった。
リビングのソファーに座って崇弘が来るのを待っていた沙樹は、手にしたスマホを手持ち無沙汰だというように弄っていた。
「焼けたな」
そう声がし、振り返るとタオルで髪の毛を拭きながらリビングに入ってくる崇弘の姿を見た。
「タカちゃんこそ」
そう言った沙樹の隣に座り、リビングのテレビを付ける。外は陽が暮れてきて、微かに太陽の光が部屋に入ってきていた。
「三浦様」
程なくして従業員が、リビングにいる崇弘たちに声をかけた。
「お食事の準備が整いました」
頭を下げる従業員はそう言って、ダイニングキッチンへと案内する。そこは個室のレストランのようだった。
「どうぞ」
従業員が椅子を引き、ふたりが座るのを待った。ふたりが向かい合って座るのを確認すると、料理の説明をしながら次から次へと運ばれる。
いくら沙樹の家でもこんな料理は食べる機会がない。びっくりした顔をする沙樹に対して崇弘は、慣れているのか表情は変えない。それもそうだ。実家が凄いところなのだから。
「ではお食事が終わりましたら、こちらはそのままにしておいて下さいませ。時間になりましたらスタッフが片付けに参りますので」
そう言うと、従業員たちは一端このホテルから立ち去った。
ふたりきりになった沙樹と崇弘は、おしゃべりをしながら目の前にある料理に手を付けた。
「どこに行くの?」
そう言う沙樹にニコッと笑った。
「零士から聞いててな」
運転する崇弘の横に座るのは、アメリカ以来だった。
「れいちゃん?」
「そ」
「あ、あれだ」
見えてきた建物を指すと、車はその敷地に滑り込んで行った。
「ここ?」
車から降りてその建物を見る。そこまで大きくないがとても綺麗な外観。
(タカちゃんとこの別荘よりは小さいかな)
それもその筈。1日限定一組しか泊まれないホテル。プライベートホテルのようなものだ。
中で働く従業員は、本当に少人数。夜になると近くにある宿舎へ戻るから、夜は完全にふたりきりになる。
「ここ、零士たちが来たことあるらしくて」
「そうなの?」
「ふたりでどこかに行くってことが出来ないだろ。で、零士がここ勧めてきた」
勧めてくるくらいだから、相当ここが良かったのだろう。
「ようこそお越しくださいました」
ホテルの従業員は、深々と頭を下げる。
「予約した時にもお願いしたけど…」
と、崇弘は従業員に話しかけた。
「心得ております。ここにいる者たちは、お客様のことは一切口外いたしません。気にせずにお寛ぎ下さい」
そう言うと中へ案内された。
◇◇◇◇◇
ホテルの目の前には、プライベートビーチがある。しかも他からは入って来れないようになってる。
「凄い~」
ホテルから見える海が、太陽の光を浴びてキラキラとしている。沙樹たちの地元には海がない。海に行くとなると、結構な遠出になるから日帰りでは行けない。
「ほんとだ。あとで海入ろうか」
隣にいる崇弘はそう言って荷物を寝室の方へ運んでいた。
一階はリビング。大きなテレビとソファーが置いてある。キッチンもとてもキレイで、朝昼晩とシェフが豪華な食事を提供してくれる。2階には寝室がいくつかある。それとキッズルームのような遊び場。子供がいても楽しめるようになっている。
「沙樹ー!」
2階から沙樹を呼ぶ声がした。沙樹は2階へと上がり、崇弘のところへと行く。崇弘は主寝室となる部屋にいた。
「こっちからのが凄ぇぞ」
主寝室の大きな窓。そこを開けると広いバルコニー。そこから見える海の景色がとてもキレイだった。
沙樹は思わず言葉を失うくらいだった。
「零士に感謝だな」
崇弘はそう言うと沙樹に笑った。
沙樹と崇弘は目の前にある海へと向かった。沙樹は運動は得意だけど、泳ぎだけは苦手だった。それは子供の頃に溺れかけたことがあったから、苦手となってしまったのだ。
それを知ってる崇弘は、沙樹に浮き輪を借りてきた。このホテルにはそういうものも置いてある。
「はい」
沙樹に渡すと照れたように「ありがとう」と言った。
崇弘の前で水着姿になることが恥ずかしいと、顔を見れないでいる。そんな沙樹が可愛くて仕方ないと、崇弘は顔を覗き込んだ。
「──……っ!」
目の前に崇弘の顔が見え、いたずらっ子のような目で笑う。そんな顔をされたら、余計にどうしたらいいのか困ってしまう。
「沙樹」
「もうっ、タカちゃんっ」
恥ずかしさでいっぱいになる沙樹に対して、崇弘は余裕のある態度で沙樹を抱きしめていた。
◇◇◇◇◇
「久しぶりに海で遊んだー!」
と、ホテルの方へ歩きながら叫んだ。
「シャワー浴びてこいよ」
海から上がったばかりのふたりは、1階にあるシャワールームへと向かう。
「へぇ。凄いな」
海から上がってすぐにシャワールームが使えるように、ビーチ側から入れるようになっていた。
「先使いな」
ポンと頭に手を置く。そして崇弘はもう一度、海へと走った。
(元気だな……)
崇弘の姿を目で追った沙樹は、シャワールームへ足を踏み入れた。
沙樹がシャワールームから出ると、崇弘がこっちに戻ってくるのが見えた。
(着替えて来なきゃ……)
バスタオル一枚な状態は恥ずかしい。バタバタと階段を上り、寝室へ行くと自分のバッグから洋服を出した。素早く着替えを済ませると、今度は部屋に付いてるバスルームへと行く。そこに置いてあるドライヤーで髪を乾かした。
沙樹がリビングの方へ戻った頃には、キッチンでは専属のシェフが忙しく夕飯の調理をしていた。ひとりの従業員がダイニングをキレイにし、テーブルを整えていた。
キッチンとリビングは扉で遮られていた為、沙樹にはその様子は見ることが出来なかった。
リビングのソファーに座って崇弘が来るのを待っていた沙樹は、手にしたスマホを手持ち無沙汰だというように弄っていた。
「焼けたな」
そう声がし、振り返るとタオルで髪の毛を拭きながらリビングに入ってくる崇弘の姿を見た。
「タカちゃんこそ」
そう言った沙樹の隣に座り、リビングのテレビを付ける。外は陽が暮れてきて、微かに太陽の光が部屋に入ってきていた。
「三浦様」
程なくして従業員が、リビングにいる崇弘たちに声をかけた。
「お食事の準備が整いました」
頭を下げる従業員はそう言って、ダイニングキッチンへと案内する。そこは個室のレストランのようだった。
「どうぞ」
従業員が椅子を引き、ふたりが座るのを待った。ふたりが向かい合って座るのを確認すると、料理の説明をしながら次から次へと運ばれる。
いくら沙樹の家でもこんな料理は食べる機会がない。びっくりした顔をする沙樹に対して崇弘は、慣れているのか表情は変えない。それもそうだ。実家が凄いところなのだから。
「ではお食事が終わりましたら、こちらはそのままにしておいて下さいませ。時間になりましたらスタッフが片付けに参りますので」
そう言うと、従業員たちは一端このホテルから立ち去った。
ふたりきりになった沙樹と崇弘は、おしゃべりをしながら目の前にある料理に手を付けた。
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