もう一度会いたい……【もう一度抱きしめて……】スピンオフ作品

星河琉嘩

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第5章

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 居間には沙樹の上の兄3人と、母親の由紀子。その4人の視線が痛いと、崇弘は感じていた。
 柊は崇弘を睨み、糾と輝は可笑しそうに笑ってる。

「まさか、沙樹ちゃんの好きな人が崇弘くんなんてねぇ……」
 しみじみと言った感じで、話す由紀子は崇弘を見る。
「ま、おばさんから見てもかっこいいものね」
 沙樹の顔を見ると、由紀子はにっこりと笑った。
「柊」
 由紀子は柊を見ると、静かに言葉を発する。
「沙樹が決めた人に、あなたが言える立場にはないわ」
 たったそれだけを言う。だが、柊は納得していない。
「だって、オフクロ!コイツといくつ離れてると思ってるんだよ!」
「そうね。でもお父さんと紗那さんだって離れていたわ」
 崇弘は驚いた。高幡家では、普通に沙樹の実の母親の話題が出るのだ。そのことに崇弘が驚かないわけがなかった。

「離れてるって言ったって、せいぜい5コとかだろ」
 柊が由紀子を見る。
「20よ」
 その言葉に、柊たちは固まっていた。
「あなた達は、紗那さんに会ったことないものね」
 由紀子も会ったことはない。だが、紗那がどんな人なのか、見に行ったことがある。その時はまだ沙樹は存在していなく、紗那と高幡の父が、紗那のアパートから出てくるところを見たのだ。
「紗那さん、本当に苦労してたんだろうなって。あの時はまだ19とかじゃなかったかしら。沙樹を産んだのは二十歳だってお父さん言ってたわ」
 紗那が二十歳の頃、高幡の父は36だった。そのことを輝たちは知らなかった。
「いや、若いんだろうなとは思ってたけど……、あのクソオヤジっ!」
 柊はそう言うと、それ以上は言わなかった。


「あの……」
 崇弘は由紀子の方を見た。そして正座をした崇弘は、畳に頭をつけた。
「今までご挨拶に伺わなくて本当に申し訳ございません」
 崇弘の行動に、由紀子はにっこりと笑った。
「いいのよ。お忙しいことは分かっているわ」
「しかし……っ」
「そんなに頭を下げないで。私は会えて嬉しいわ」
「ありがとう…ございます」
 崇弘はそう言うと漸く頭を上げた。その間も輝は面白そうに笑っていた。



     ◇◇◇◇◇



「えっ!あの着物って、沙樹のお母さんの?」
 沙樹がまだ高校生の頃、BLUE ROSEが写真集を出したことがあった。その時に崇弘が着た女性ものの着物。あれは輝が面白そうだからと、実家から借りていったのだ。
「キレイな着物でしょ」
「そりゃお父さんが紗那さんに贈ったものだもの」
 由紀子はそれを沙樹の成人の日に着せようと、考えている。それを沙樹には伝えてある。
「紗那さん、成人の時に晴れ着を着れなかったからって」
「紗那さんの親は?」
「折り合いが悪かったのか、紗那さんを放置よ。だから紗那さんは両親は亡くなったと、そう周りに言ってたらしいの。紗那さんの葬儀にも両親は来なかったらしい。弟さんも」
 由紀子から聞く紗那の話は、崇弘には信じられない世界だった。崇弘は三浦家の次男。本来なら、長男の幸弘のサポートをするべき立場にいる。子供の頃から躾や作法など、厳しく言われ、それでも愛情を持って育てられた。
 そんな崇弘からしたら、紗那の話は衝撃だったのだ。
 だからなのか、由紀子は沙樹を大切に大切に育ててきたのだ。それはもちろん、上の兄たちも沙樹を大切にしてきたのだ。だからこそ、兄たちは崇弘とのことを素直に認めたくないのだ。ま、輝と糾は一度ふたりが別れた時のことを見ていて、その時の沙樹がどんなだったか知ってるから、何も言わないのだ。

 柊だけはまだ納得はいってないが……。


「ここが沙樹の部屋?」
 沙樹は実家に置いていったものを持って行こうと、部屋に入る。その後を崇弘は着いて行き、一緒に中へ入っていった。
 輝とは付き合いが長いが、この部屋には入ったことはない。
「なんか全然イメージが違う」
 以前、先輩たちを入れたときも言われた言葉を崇弘も言った。
 純和風な外観の家。それなのにこの部屋だけは空間が違うのだ。引戸だった扉を洋風の扉にしてもらい、押し入れを改造してクローゼット風にしたり……と、沙樹好みにした。それでもまだまだこの部屋は和風の雰囲気が残る。

 沙樹が長年使っていた学習机の上には、高校生の頃の崇弘たち5人と沙樹が一緒に写ってる写真が、フォトフレームに入れられ置かれていた。
「こんな写真、まだあったんだ」
 フォトフレームを手にした崇弘は、懐かしむように目を細める。その写真の中の自分が、まさか沙樹と付き合うことになるとは思ってもいなかった。
「やっぱ、マズイよな…」
 崇弘の言葉に「ん?」と不思議そうな顔をする。
「いや、よくよく考えると俺ってヤバくない?」
「なにが」
「小学生の頃のお前を知ってるんだよ。まだ小さい女の子。その女の子と俺が付き合ってんだよ。ヤバイ男だよ」
 声が段々と小さくなっていく。
「私、もう小さくないよ」
 崇弘の服の裾を掴む沙樹が、なんとも愛しい。この手を離したくないと、強く願った。
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