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~♪~♪~♪~♪
五月蝿く着信が鳴る。画面を見ると賢の文字。その文字を見ると大きくため息を吐く。
「なに?」
通話ボタンを押すと賢の生意気な声が聞こえた。
『姉さん!男とショッピングモールにいただろ』
まだ小学生の賢だが、話し方はもう生意気に大人ぶってる。
『父さんに知られたくなったら金くれ』
「小学生が持つ限度があるでしょ」
『あ、バラされたい?』
「勝手にして」
『あれ、姉さんのカレシ?』
人の話はまるで聞いてない賢にウンザリする菜々美は、またため息を吐く。
どうも賢とは馬が合わない。それはやっぱりあの養父の子だからだと思ってる。
「私にいたらおかしい?もう24なんだからね」
『おかしい訳じゃないけど、父さんが知ったらなぁ……と』
いつもこうして養父の存在をちらつかせる。それがまた生意気で嫌になる。
どうにかして菜々美からお金をもらおうと必死だ。それでも後から養父の雷が落とされる方が嫌な思いをする。
『なぁ、姉さん!』
うんざりしてきたこのやり取りに、菜々美はため息を吐く。
ため息も何度目だろう。
「養父さんに報告しておく」
養父は菜々美が賢にお金を渡すことも嫌ってる。賢には甘いが、それでもお金の面は厳しいのだ。
お互い、養父を引き合いにしてはどうにかしてやろうと思ってる。
賢は養父のことを出してお金をもらおうとする。菜々美は養父のことをだして賢に引き下がってもらおうとする。
『父さんは関係ないだろ!』
「関係あるでしょ」
『ちくしょ──……』
プチッ!と電話を切った賢にため息吐いて、養父の携帯の番号を押した。
あまりかけたくない相手。だけど、賢のあまりにも酷い態度に呆れていた。
『なんだ』
電話の向こうで機嫌の悪い声がする。いつもそうだ。菜々美との会話はこんな声を出す。
(威圧感……)
電話越しでもそれが分かる。だからこそ、話をするのも嫌になるのだ。
「賢からお金の催促があった」
『で、やったのか?』
「あげてない」
『やってないなら報告するな』
「この前も催促されたから。なんか欲しいもの、あるんじゃないの?」
『小遣いはやってるから渡すんじゃないぞ』
「分かってる」
短い電話を切って大きくため息を吐く。たったそれだけのことなのに、どっと疲れが出る。
養父と話した後は、何もする気が起きなくなる。それくらい、気力が奪われる。
(賢は言うだろうなぁ)
翔と一緒にいたことを、賢は言うだろう。賢から伝わるよりは自分から言った方がいいってことを、菜々美は理解してる。だけど、なんて言ったらいいのか分からないし、直接言えるかと言ったらきっと言えない。
《付き合ってる人がいます》
菜々美はメッセージアプリから、それだけを入れた。無駄なことは一切入れずに、その事だけ。
スマホを置いてキッチンへ行く。冷蔵庫から缶ビールを出して、戸棚からはミックスナッツを出す。ソファーの方へ行き、テレビをつけて缶ビールを開けた。
仕事はやる気は起きなくなってしまったから、もう飲むしかない。
「翔は何してるんだろ」
ビール片手にそんなことを思う。
(そんなことを考えるなんて……)
以前の菜々美なら信じられないことだった。恋人がいた経験はない。だからひとり部屋にいて、相手を思うこともなかった。
(会いたい……)
ひとりでいる夜がこんなにも寂しいものなのかと膝を抱える。
グイッと缶ビールを喉に流し込む。
(今日の私はおかしい)
昨日は翔がうちにまで来て、身体を重ね、朝を迎えた。その後にデートをして……。思えば順番が逆な気がするが、菜々美はその1日を長く感じていた。
夕食を外で食べた後、翔はマンションまで菜々美を送って自分のアパートに帰っていった。
その後ろ姿を名残惜しそうに見ていた菜々美は、寂しいという思いを押し殺していた。そして部屋に入り、お風呂に入った後に賢からの電話だったのだ。
フワフワとした気持ちから、一気にどん底へと落とされたような気持ちになった。養父と電話で話さなきゃと電話もした。だからこそ、おかしいと感じていた。
翔のことを考えると浮いた気持ちになる。だけど、養父と賢のことを考えると沈んでしまう。
今の自分がおかしいことに気付かないわけがない。だからこそ、アルコールが増える。
冷蔵庫から何本目かの缶ビールを取り出すと、その場で開けてグイッと飲み干す。
菜々美は時々こうなることがある。こんな飲み方はよくないと思いながらも、一気に飲み干す。
いくら強いからといってもこんな飲み方はよくない。分かってる。
(あの人たちのことがなきゃ……)
翔のことだけを考えて幸せな時間を過ごしていたのに、それをぶち壊した賢が恨めしい。
テーブルに置いてあったスマホが音と共にバイブで動く。手に取るとメッセージアプリの通知だった。
通知の相手は養父からだ。
恐る恐る開くと、見たくもない文面だった。
《別れなさい。私は許さない》
五月蝿く着信が鳴る。画面を見ると賢の文字。その文字を見ると大きくため息を吐く。
「なに?」
通話ボタンを押すと賢の生意気な声が聞こえた。
『姉さん!男とショッピングモールにいただろ』
まだ小学生の賢だが、話し方はもう生意気に大人ぶってる。
『父さんに知られたくなったら金くれ』
「小学生が持つ限度があるでしょ」
『あ、バラされたい?』
「勝手にして」
『あれ、姉さんのカレシ?』
人の話はまるで聞いてない賢にウンザリする菜々美は、またため息を吐く。
どうも賢とは馬が合わない。それはやっぱりあの養父の子だからだと思ってる。
「私にいたらおかしい?もう24なんだからね」
『おかしい訳じゃないけど、父さんが知ったらなぁ……と』
いつもこうして養父の存在をちらつかせる。それがまた生意気で嫌になる。
どうにかして菜々美からお金をもらおうと必死だ。それでも後から養父の雷が落とされる方が嫌な思いをする。
『なぁ、姉さん!』
うんざりしてきたこのやり取りに、菜々美はため息を吐く。
ため息も何度目だろう。
「養父さんに報告しておく」
養父は菜々美が賢にお金を渡すことも嫌ってる。賢には甘いが、それでもお金の面は厳しいのだ。
お互い、養父を引き合いにしてはどうにかしてやろうと思ってる。
賢は養父のことを出してお金をもらおうとする。菜々美は養父のことをだして賢に引き下がってもらおうとする。
『父さんは関係ないだろ!』
「関係あるでしょ」
『ちくしょ──……』
プチッ!と電話を切った賢にため息吐いて、養父の携帯の番号を押した。
あまりかけたくない相手。だけど、賢のあまりにも酷い態度に呆れていた。
『なんだ』
電話の向こうで機嫌の悪い声がする。いつもそうだ。菜々美との会話はこんな声を出す。
(威圧感……)
電話越しでもそれが分かる。だからこそ、話をするのも嫌になるのだ。
「賢からお金の催促があった」
『で、やったのか?』
「あげてない」
『やってないなら報告するな』
「この前も催促されたから。なんか欲しいもの、あるんじゃないの?」
『小遣いはやってるから渡すんじゃないぞ』
「分かってる」
短い電話を切って大きくため息を吐く。たったそれだけのことなのに、どっと疲れが出る。
養父と話した後は、何もする気が起きなくなる。それくらい、気力が奪われる。
(賢は言うだろうなぁ)
翔と一緒にいたことを、賢は言うだろう。賢から伝わるよりは自分から言った方がいいってことを、菜々美は理解してる。だけど、なんて言ったらいいのか分からないし、直接言えるかと言ったらきっと言えない。
《付き合ってる人がいます》
菜々美はメッセージアプリから、それだけを入れた。無駄なことは一切入れずに、その事だけ。
スマホを置いてキッチンへ行く。冷蔵庫から缶ビールを出して、戸棚からはミックスナッツを出す。ソファーの方へ行き、テレビをつけて缶ビールを開けた。
仕事はやる気は起きなくなってしまったから、もう飲むしかない。
「翔は何してるんだろ」
ビール片手にそんなことを思う。
(そんなことを考えるなんて……)
以前の菜々美なら信じられないことだった。恋人がいた経験はない。だからひとり部屋にいて、相手を思うこともなかった。
(会いたい……)
ひとりでいる夜がこんなにも寂しいものなのかと膝を抱える。
グイッと缶ビールを喉に流し込む。
(今日の私はおかしい)
昨日は翔がうちにまで来て、身体を重ね、朝を迎えた。その後にデートをして……。思えば順番が逆な気がするが、菜々美はその1日を長く感じていた。
夕食を外で食べた後、翔はマンションまで菜々美を送って自分のアパートに帰っていった。
その後ろ姿を名残惜しそうに見ていた菜々美は、寂しいという思いを押し殺していた。そして部屋に入り、お風呂に入った後に賢からの電話だったのだ。
フワフワとした気持ちから、一気にどん底へと落とされたような気持ちになった。養父と電話で話さなきゃと電話もした。だからこそ、おかしいと感じていた。
翔のことを考えると浮いた気持ちになる。だけど、養父と賢のことを考えると沈んでしまう。
今の自分がおかしいことに気付かないわけがない。だからこそ、アルコールが増える。
冷蔵庫から何本目かの缶ビールを取り出すと、その場で開けてグイッと飲み干す。
菜々美は時々こうなることがある。こんな飲み方はよくないと思いながらも、一気に飲み干す。
いくら強いからといってもこんな飲み方はよくない。分かってる。
(あの人たちのことがなきゃ……)
翔のことだけを考えて幸せな時間を過ごしていたのに、それをぶち壊した賢が恨めしい。
テーブルに置いてあったスマホが音と共にバイブで動く。手に取るとメッセージアプリの通知だった。
通知の相手は養父からだ。
恐る恐る開くと、見たくもない文面だった。
《別れなさい。私は許さない》
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