4 / 19
第1章
1
しおりを挟む
「輝」
光葉高校の前に立つ、輝と親友の愛川湊。同じ中学から来たふたりは、ニッと笑って教室へと向かった。
「なぁ。沙樹はどうだ?」
聞いてきたのは、半年前に突然出来た妹のことだった。高幡家にやって来た沙樹は、笑うことなく、大人たちの顔色ばかりを窺う、そんな子供だった。
「まだ慣れてくれないよ」
初めは父親に対して怒りしかなかったのが、今は呆れてしまい、そして沙樹に対しては、今まで持ったことのない感情を持っていた。
「妹って、なんであんなに可愛いんだろう」
「だろ?」
そう言った湊も、妹がいる。その妹をこれでもかってくらいに溺愛している。
「ま、笑うようになってくれればいいけど」
輝の心配は、この先どこまでも続くとは、その時は思ってもみなかった。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
入学早々、親友の湊が事件を起こした。同じクラスになった、別の中学から進学してきた、大槻零士。この男と目を合わせた途端、殴り合いのケンカになってしまったのだ。
その騒ぎを聞きつけて、隣のクラスにいた輝は、駆けつけた。誰かとケンカをしている湊を、輝は初めて見た。
湊は基本穏やかな性格をしている。自分の感情を出す時は、いつも決まって妹の柚子に何かあった時だった。
それなのに、零士と顔を合わせた途端、感情が爆発したように、ケンカをしている。そのことに、輝は驚いた。
「入学早々、停学かよ…」
湊の家の湊の部屋。学校帰りに湊の家に寄った輝は、呆れた顔をする。それに対して、湊は申し訳ないという顔を見せていた。
「柚子ちゃんは?」
湊の妹の柚子は、中学校に入学した。湊と仲が良かったから、自然と柚子のことも知っている。
「もう芽依と出かけた」
芽依というのは、湊の家の2件隣の家の子。柚子と仲良しの女の子だ。輝はその名前は知っていたが、会ったことはない。湊から柚子の話を聞くと、必然的にその名前も出てくるからだ。だがのちに芽依と会うとは、思ってもいない。
「そっか…」
柚子は大人しい性格だが、明るく人に好かれやすい。それに比べ、輝の妹の沙樹は、人を寄せ付けない。小学校入学したての沙樹は、笑うことをしない。子供らしくない子供なのだ。
「沙樹ちゃん、まだ笑わないの?」
「あぁ…」
輝が中学3年の秋に、沙樹は父親に連れられて高幡家にやって来たのだ。それから半年は経つ。だが、まだ沙樹の笑った顔を見ていないのだ。
「また、遊びに連れてきていいか?」
輝は湊と遊ぶ時、たまに沙樹を連れてきていた。それは両親が忙しいこともあったが、沙樹が一番懐いたのは輝だったからだ。
「おぅ。停学明けたらな」
湊はそう笑った。
「で、なんでケンカしたんだよ」
輝の一番気になっていることを聞いた。湊がケンカするなんて、思いもよらなかった。
「………分からねぇ」
湊は少し考えた後、そう言った。
「なんだよ、それ」
輝は呆れた顔をした。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
湊の停学が開けたのは、それから1週間後のことだった。それは零士も同じだった。
湊と一緒に登校した輝は、湊を零士と会わせたくなかった。入学早々、ケンカをするくらいだから相性がよくないのだろうと、輝は感じた。だが予想に反して、ふたりは相性が良かったのだ。
教室に入ると、既に零士はいた。ふたりは互いの顔を見た途端、なぜか笑い出したのだ。それをクラスメイトや、廊下にいた同級生たちが不思議そうに見ていた。それは輝もそうだった。
廊下からふたりの笑う姿を見て、輝はどこか寂しく感じた。輝にとって、湊は一番仲のいい友人。その友人を取られる思い…ではないが、面白くはなかったのだ。
「輝!」
休み時間になって、零士を連れた湊が輝のクラスにやって来た。
「コイツ、面白ぇよ」
殴り合いのケンカをした筈なのに、笑いながら話す湊。それに対して零士も笑いながら、湊と話している。
「あ、零士。輝は俺の親友。高幡屋の三男だよ」
「お前、高幡屋の息子か」
地元では有名な高幡屋。知らないやつはいなかった。だが、輝はそう言われるのが嫌だった。
思わず、ムッとした顔をする。
「零士。悪いな。コイツ、高幡屋の息子って言われるの、嫌なんだよ」
「湊。お前が先に言い出したんだろうが」
輝は湊を軽く睨んだ。
「あぁ、悪い」
輝にそう言い、湊はアハハと笑った。
光葉高校の前に立つ、輝と親友の愛川湊。同じ中学から来たふたりは、ニッと笑って教室へと向かった。
「なぁ。沙樹はどうだ?」
聞いてきたのは、半年前に突然出来た妹のことだった。高幡家にやって来た沙樹は、笑うことなく、大人たちの顔色ばかりを窺う、そんな子供だった。
「まだ慣れてくれないよ」
初めは父親に対して怒りしかなかったのが、今は呆れてしまい、そして沙樹に対しては、今まで持ったことのない感情を持っていた。
「妹って、なんであんなに可愛いんだろう」
「だろ?」
そう言った湊も、妹がいる。その妹をこれでもかってくらいに溺愛している。
「ま、笑うようになってくれればいいけど」
輝の心配は、この先どこまでも続くとは、その時は思ってもみなかった。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
入学早々、親友の湊が事件を起こした。同じクラスになった、別の中学から進学してきた、大槻零士。この男と目を合わせた途端、殴り合いのケンカになってしまったのだ。
その騒ぎを聞きつけて、隣のクラスにいた輝は、駆けつけた。誰かとケンカをしている湊を、輝は初めて見た。
湊は基本穏やかな性格をしている。自分の感情を出す時は、いつも決まって妹の柚子に何かあった時だった。
それなのに、零士と顔を合わせた途端、感情が爆発したように、ケンカをしている。そのことに、輝は驚いた。
「入学早々、停学かよ…」
湊の家の湊の部屋。学校帰りに湊の家に寄った輝は、呆れた顔をする。それに対して、湊は申し訳ないという顔を見せていた。
「柚子ちゃんは?」
湊の妹の柚子は、中学校に入学した。湊と仲が良かったから、自然と柚子のことも知っている。
「もう芽依と出かけた」
芽依というのは、湊の家の2件隣の家の子。柚子と仲良しの女の子だ。輝はその名前は知っていたが、会ったことはない。湊から柚子の話を聞くと、必然的にその名前も出てくるからだ。だがのちに芽依と会うとは、思ってもいない。
「そっか…」
柚子は大人しい性格だが、明るく人に好かれやすい。それに比べ、輝の妹の沙樹は、人を寄せ付けない。小学校入学したての沙樹は、笑うことをしない。子供らしくない子供なのだ。
「沙樹ちゃん、まだ笑わないの?」
「あぁ…」
輝が中学3年の秋に、沙樹は父親に連れられて高幡家にやって来たのだ。それから半年は経つ。だが、まだ沙樹の笑った顔を見ていないのだ。
「また、遊びに連れてきていいか?」
輝は湊と遊ぶ時、たまに沙樹を連れてきていた。それは両親が忙しいこともあったが、沙樹が一番懐いたのは輝だったからだ。
「おぅ。停学明けたらな」
湊はそう笑った。
「で、なんでケンカしたんだよ」
輝の一番気になっていることを聞いた。湊がケンカするなんて、思いもよらなかった。
「………分からねぇ」
湊は少し考えた後、そう言った。
「なんだよ、それ」
輝は呆れた顔をした。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
湊の停学が開けたのは、それから1週間後のことだった。それは零士も同じだった。
湊と一緒に登校した輝は、湊を零士と会わせたくなかった。入学早々、ケンカをするくらいだから相性がよくないのだろうと、輝は感じた。だが予想に反して、ふたりは相性が良かったのだ。
教室に入ると、既に零士はいた。ふたりは互いの顔を見た途端、なぜか笑い出したのだ。それをクラスメイトや、廊下にいた同級生たちが不思議そうに見ていた。それは輝もそうだった。
廊下からふたりの笑う姿を見て、輝はどこか寂しく感じた。輝にとって、湊は一番仲のいい友人。その友人を取られる思い…ではないが、面白くはなかったのだ。
「輝!」
休み時間になって、零士を連れた湊が輝のクラスにやって来た。
「コイツ、面白ぇよ」
殴り合いのケンカをした筈なのに、笑いながら話す湊。それに対して零士も笑いながら、湊と話している。
「あ、零士。輝は俺の親友。高幡屋の三男だよ」
「お前、高幡屋の息子か」
地元では有名な高幡屋。知らないやつはいなかった。だが、輝はそう言われるのが嫌だった。
思わず、ムッとした顔をする。
「零士。悪いな。コイツ、高幡屋の息子って言われるの、嫌なんだよ」
「湊。お前が先に言い出したんだろうが」
輝は湊を軽く睨んだ。
「あぁ、悪い」
輝にそう言い、湊はアハハと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
おしどり夫婦の茶番
Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。
おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。
一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる