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プロローグ
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3年生の夏休みに入る頃、輝が女の子と一緒に歩いてる姿を目撃した。
(そうだよね。モテるもん)
輝のことは諦めようと、受験勉強に没頭した。毎日毎日、勉強をする。朝早くから夜遅くまで。
そうして輝に会わなければきっと、忘れられる。
栞はそう考えていた。
「栞先輩」
ある日、栞に輝が会いに来た。3年の教室までわざわざ来ることが珍しい。
「どうしたの?」
「話を…、聞いて欲しくて」
そう言った輝が珍しかった。
「分かった。放課後、図書室に来なさい」
栞が3年生になった頃。文学部は栞ひとりになっていた。だから文学部は廃部したようなもの。だけど、今さら他の部へ入ることは出来ない。学校側もそのまま文学部は残し、栞が卒業したら廃部ということに決めた。
放課後、栞は図書室で輝が来るのを待った。輝は気怠した制服のまま、現れた。
「先輩」
その顔はどこか緊張しているようにも見えた。栞はいつものように、机に向かって本を読んでいた。
「輝くん」
本から目を離すと、にっこりと笑う。それが作り笑いなのは分かっている。
「先輩。俺……、先輩が好きだよ」
それは輝からの告白だった。
「輝…くん……」
栞は、名前を呼ぶのが精一杯だった。そんな栞を見つめる輝は、栞の手を握った。
「分かってるよ。栞先輩は、俺のことなんか好きじゃないって」
「輝くん……」
「だけど、あと少しで卒業しちゃうでしょ。もう少し、栞先輩をひとり占めしたい」
真っ直ぐ見てくる輝の顔を、まともに見られなかった。
「先輩…」
握ってくる輝の手は、とても優しく温かい。その手のぬくもりに、なぜだか涙が出そうになる。それを必死で耐える栞は、輝の手を掴み、自分の手から離した。
「輝くん。ありがとう…。でも、ごめんね」
栞はそう言って、輝に背を向けた。その背中が、話しかけないでと言うようで、輝はなにも言えなかった。
それから半年。栞は卒業して行った。輝は栞がいた図書室で、栞がよく座っていた場所を見ていた。その場所に座り、机を触る。机の裏に触れた時、何かがあることに気付いた。椅子から下り、しゃがみ込んで机の裏を覗き込んだ。
「なんだ、これ…」
机の裏に、封筒がセロテープで貼られていた。慎重にセロテープを剥がし、封筒を手に取る。封筒にはキレイな筆跡で、輝くんへと書かれていた。
その筆跡が誰のものなんて、言われなくとも分かる。幾度となく見てきた筆跡だった。
「栞先輩……」
栞の筆跡で書かれた文字を見ているだけで、その人柄が分かるようだった。
パサッ…。
封を開け、中に入っている便箋を取り出した。
──輝くんへ
これを読んでるってことは、手紙を見つけたってことよね。良かった。見つけてくれて。
他の誰かに見られたら、こんなに恥ずかしいことはないもの。
ほんとは、ちゃんと顔を見て言えばいいのだろうけど、私にはそんな勇気はないから手紙にしたの。
だからといって、これを渡す勇気もなかったから、隠すことにしたの。ごめんね。回りくどいことして。
輝くんと出会った頃。私はなにもかもが絶望だったの。私の居場所がなくて、いつも図書室にいたの。
本の中にしか、私の居場所はなかったの。それを輝くんは別の居場所を作ってくれたのよ。
半年前。
輝くんが私に言ってくれたこと、本当は嬉しかったの。
だけどそれに応えることは、私には出来ないの。
ごめんなさい。本当は輝くんに言いたいのに。その言葉は言ってはダメなの。
だから覚えておいて。
輝くんのことを好きになった私がいたこと。
忘れてもいい。だけど覚えておいて。
輝くん。
ありがとう……。
大山栞──
(そうだよね。モテるもん)
輝のことは諦めようと、受験勉強に没頭した。毎日毎日、勉強をする。朝早くから夜遅くまで。
そうして輝に会わなければきっと、忘れられる。
栞はそう考えていた。
「栞先輩」
ある日、栞に輝が会いに来た。3年の教室までわざわざ来ることが珍しい。
「どうしたの?」
「話を…、聞いて欲しくて」
そう言った輝が珍しかった。
「分かった。放課後、図書室に来なさい」
栞が3年生になった頃。文学部は栞ひとりになっていた。だから文学部は廃部したようなもの。だけど、今さら他の部へ入ることは出来ない。学校側もそのまま文学部は残し、栞が卒業したら廃部ということに決めた。
放課後、栞は図書室で輝が来るのを待った。輝は気怠した制服のまま、現れた。
「先輩」
その顔はどこか緊張しているようにも見えた。栞はいつものように、机に向かって本を読んでいた。
「輝くん」
本から目を離すと、にっこりと笑う。それが作り笑いなのは分かっている。
「先輩。俺……、先輩が好きだよ」
それは輝からの告白だった。
「輝…くん……」
栞は、名前を呼ぶのが精一杯だった。そんな栞を見つめる輝は、栞の手を握った。
「分かってるよ。栞先輩は、俺のことなんか好きじゃないって」
「輝くん……」
「だけど、あと少しで卒業しちゃうでしょ。もう少し、栞先輩をひとり占めしたい」
真っ直ぐ見てくる輝の顔を、まともに見られなかった。
「先輩…」
握ってくる輝の手は、とても優しく温かい。その手のぬくもりに、なぜだか涙が出そうになる。それを必死で耐える栞は、輝の手を掴み、自分の手から離した。
「輝くん。ありがとう…。でも、ごめんね」
栞はそう言って、輝に背を向けた。その背中が、話しかけないでと言うようで、輝はなにも言えなかった。
それから半年。栞は卒業して行った。輝は栞がいた図書室で、栞がよく座っていた場所を見ていた。その場所に座り、机を触る。机の裏に触れた時、何かがあることに気付いた。椅子から下り、しゃがみ込んで机の裏を覗き込んだ。
「なんだ、これ…」
机の裏に、封筒がセロテープで貼られていた。慎重にセロテープを剥がし、封筒を手に取る。封筒にはキレイな筆跡で、輝くんへと書かれていた。
その筆跡が誰のものなんて、言われなくとも分かる。幾度となく見てきた筆跡だった。
「栞先輩……」
栞の筆跡で書かれた文字を見ているだけで、その人柄が分かるようだった。
パサッ…。
封を開け、中に入っている便箋を取り出した。
──輝くんへ
これを読んでるってことは、手紙を見つけたってことよね。良かった。見つけてくれて。
他の誰かに見られたら、こんなに恥ずかしいことはないもの。
ほんとは、ちゃんと顔を見て言えばいいのだろうけど、私にはそんな勇気はないから手紙にしたの。
だからといって、これを渡す勇気もなかったから、隠すことにしたの。ごめんね。回りくどいことして。
輝くんと出会った頃。私はなにもかもが絶望だったの。私の居場所がなくて、いつも図書室にいたの。
本の中にしか、私の居場所はなかったの。それを輝くんは別の居場所を作ってくれたのよ。
半年前。
輝くんが私に言ってくれたこと、本当は嬉しかったの。
だけどそれに応えることは、私には出来ないの。
ごめんなさい。本当は輝くんに言いたいのに。その言葉は言ってはダメなの。
だから覚えておいて。
輝くんのことを好きになった私がいたこと。
忘れてもいい。だけど覚えておいて。
輝くん。
ありがとう……。
大山栞──
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