もう離さない……【もう一度抱きしめて……】スピンオフ作品

星河琉嘩

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プロローグ

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 栞は中学では、殆どひとりだった。誰とも関わろうとはしなかった。小学校の友人とも、距離を置くようになってしまった。

「栞」
 いつも気にしてくれていたたったひとりの友人、榎本萌が栞に声をかける。萌だけが、栞に何が起こっているのかを知っていた。誰にも話せなくて、苦しんでいるのを知っていた。
「お母さんたちに話せないの?」
「……話すのが怖い」
 栞はそう言うのが精一杯だった。


 怖いと、言う栞。それが普段の生活にも現れていた為、同級生たちからはの対象になっていた。からかうだけならまだいい。それ以上のことをされていたのだ。
 特に女子からは、ねちっこい嫌がらせをされていた。男子からは、それとは違う視線を向けられることが多い。


「栞は美人だから、もっと自信を持てばいいのに」
 朱莉の言葉に栞は苦笑いするだけ。
(今の環境でそんな風になれないよ)
 栞はそう感じていた。
 そんな栞が出会ったのは、高幡輝。同じ中学の後輩だった。輝は入学した時から、誰もが知る人物だった。何しろ、の三男坊なのだから、知らない人はいない。それに加えて輝は、見た目がいい。まだ中学一年だけど、見た目が大人っぽいのだ。

「先輩」
 図書室でひとり課題をやっていると、輝が顔を出す。
「また部活サボってるの?」
 図書室にいるのは、栞と輝だけだった。
「あんなにキツイとは思わなくて」
「結城先輩にまた怒鳴られるよ」
 バレー部に所属している輝が、ここにサボりに来るようになったのは、夏が終わってから。
「輝くん。戻りなよ」
 そう諭すが、輝は戻らない。
「辞めようかな…」
「まだ入って半年じゃない」
「けど……」
 スネる姿は、やっぱり年下だと思ってしまう。
「うちの学校は、何かしら部活に入ってないとダメよ」
「栞先輩は?」
「私は文学部なのよ」
 栞は文学部だから、図書室にいつもいる。他の部員は例のごとく、幽霊部員ばかりだった。
 たまに3年の先輩が顔を出すが。
「いいから戻りなさい」
 そう言って輝を図書室から追い出す。このやり取りが、毎日のように繰り返される。初めは本気で嫌がっていた栞だが、だんだんと輝と話すことが息抜きになっていた。
 それと同時に、輝に対するある思いが芽生えていることも、自覚していたのだ。


「高幡ー!」
 そんな声がどこかで聞こえるたびに、ドキッとするようになってる。それでも輝に、その思いを伝えることはしなかった。
(私なんかじゃ迷惑だよね)
 そう感情を押し込めていた。
 そもそも学年が違うから、校内でもすれ違うことも殆どない。輝が図書室に出向かなきゃ、会えないこともあるのだ。

 3年生になると、ますます輝に会う機会が減った。受験勉強の為に、放課後は塾に通っていたからだ。文学部も殆ど出なくなった。
(会いたい)
 そう願っても、会えないことが当たり前になっていった。栞はなかなか会えないのは、仕方ないことだと言い聞かせていた。
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