もう離さない……【もう一度抱きしめて……】スピンオフ作品

星河琉嘩

文字の大きさ
5 / 19
第1章

2

しおりを挟む
 湊を中心に、零士がやってきて、それに続くように、三浦崇弘と佐々木真司が集まった。クラスは違うが、なぜか湊の周りに集まって来たのだ。
(湊は凄ぇな)
 輝はそう感じていた。
 ふと気付くと、湊の周りには人が集まっている。それは男も女も関係なく、集まっていた。
(そういえば…)
 湊と話すようになったのは、中学1年の初めの頃だった。バレー部に入ってすぐのことだった。別のクラスの湊は、陸上部に所属していた。お互い1年生は体力作りの為に、学校外を走るということがあった。そのタイミングがたまたま同じで、湊と輝の走る速度も同じくらいだったのだ。
 クラスも部活も違う。なのに、話すようになっていたのだ。そこから今もずっと、友人関係は続いている。

「ふっ…」
 思わず笑みがこぼれる。
「輝っ!」
「なに、笑ってんだよ」
 輝の肩を叩きながら言う零士に、輝は顔を上げる。
「いや、湊って凄ぇなって」
「何がだよ」
「人が集まるんだよ、お前は」
 湊を見る輝に、その場にいたみんなはなぜか納得してしまった。



     ❏ ❏ ❏ ❏ ❏



「ねぇ、高幡くん。愛川くんは?」
 そう声をかけられた。声をかけてきたのは、クラスの女子。北山優樹菜だった。手足の長い女の子だ。
「今日、学校来てないの?」
 今日は体調不良で、学校を休んでいたのだ。輝と湊は同じ中学出身。毎日一緒に登校してくるのを優樹菜は知っていたのだ。
「風邪だってさ。なんで?」
 輝はそう答えると、優樹菜を見た。優樹菜は「別にいいじゃない」と、頬を赤らめていた。いくら鈍感な人でも分かるくらい、赤くなっていた。だが輝は、そんな優樹菜の気持ちには気付かなかった。


 休み時間になると、湊を中心に集まるメンバーだが、この日は湊なしのメンバーが輝の元にやってきていた。零士は音楽雑誌を片手に、崇弘はバイクの雑誌を片手にやって来た。そして真司は、裸のオネェチャンが表紙のヤバイヤツを持っていた。
「湊、休みだって?」
 真司はそのヤバイ雑誌を、めくりながら言った。
「真司。学校でんな本、見てんなよ」
 輝は呆れながら、真司を見る。
「いいじゃん。輝も見る?」
 本を差し出すが、輝はそれを拒否した。

 真司は女の子が大好きなのか、いつも女の子が周りにいる。真司から声をかけているわけではないらしいが、常に女の子に囲まれているのだ。今もこうして輝のところにいるが、女の子が真司を見てはキャーキャー言っている。実際、輝にはたくさんの女の子と付き合ってると、噂話が絶えない。輝はそんなことを気にすることもしない。
「そういや、俺、彼女出来たぜ」
 自らそう言った真司に、輝は呆気に取られた。
 手に持ってる雑誌を、その彼女が見たら嫌な思いをするのではと、輝は呆れていた。
(彼女がこれを見たら、修羅場になるんじゃ…)
 女心が分からない輝でも、これは嫌だろうなと理解出来る。だけど真司は、そんなことは気にしていないようだった。

「お前らはそういうの、いねぇの?」
 崇弘は呆れた顔をして、真司を見る。
「みんな、お前みたいにバカバカと彼女出来ねぇの!」
 崇弘と真司は、小学校の時からの幼馴染み。だからこそ、真司の今までのことを知っている。もちろん、歴代の彼女も知っているのだ。


 そんな真司を眺めて、ある意味羨ましいと感じる。彼女がいるということに、羨ましいと思わないわけない。だが輝には、彼女を作ろうという思いはなかった。
 その理由は、栞の存在だった。中学の時に好きになった、ひとつ上の先輩。卒業する半年前に告白したが、それはあっさりとフラれてしまった。それなのに、卒業した日。いつもいた図書室の机の裏に、手紙が残されていた。その手紙を読んでしまったら、諦めるにも諦めがつかないでいるのだ。
(元気でいるかな)
 そう思うが、栞とは連絡も取れない。そもそも、電話番号を知らないのだ。バレー部の先輩に聞いてみても、栞と連絡を取ってる人はいないらしいと聞いた。
(どこでなにをしているのか)
 輝は、栞を心配していた。栞の性格を知っているからこそ、なにかあっても誰かに頼ることはしていないだろうと予想はつく。
「輝!」
 物思いにふけっていると、零士が声をかけた。
「湊ん家、行こうぜ!」
「は?」
「いや、見舞いにさ」
「あ、行きたい!」
「今日の授業のノート、見せないと」
 次々と言う3人に根負けした輝は、諦めたように笑いかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...