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第1章
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輝たちがライブハウスへ出入りするようになったのは、2年生になった頃だった。
初めは見る側だったが、いつしかそこのスタッフと仲良くなり、ステージに立つようになった。ステージに立ち始めた頃は、客はほぼいない状態だった。それがいつしか、ファンがつくようになっていた。
「あ、またあの子来てる」
ステージ袖から会場を覗く真司は、女の子を物色するかのように見ていた。実際はそんなことはなく、ただ女の子が好きで見てるだけなのだが……。
それでも輝は呆れていた。
地元にある、老舗のライブハウス【Heaven】
そこのオーナーは、若いミュージシャンを応援してくれていた。だからまだこんな高校生の出演を、許してくれたのかもしれない。
「あ、更ちゃんいるね」
常連となった、ファンの女の子の名前を呼んだ。更は輝たちと同じ歳だった。しかも零士とは、中学が一緒という偶然。
「でも一瀬が、こんなところに出入りするとはなぁ…」
零士はそう呟く。
「さて。時間だ」
湊はそう言うと、ギターを持った。まだ高校生な彼らが持つ楽器は、それほどいいものではない。真司に至っては、このライブハウスの所有物なのだから。
それでも彼らを見に来てくれる客がいるのも確かだった。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
何度目かのライブの後。ライブハウスから出た湊は、輝の方を見た。
「なに」
「あれ…」
湊が指した方を見ると、見覚えのある顔がそこにあった。だがその人を見て、輝は誰だか分からなかった。
「栞先輩…だよな?」
湊の声でようやく輝は誰だか理解したようなものだった。
栞のその姿は、中学生の頃とは真逆になっていて、信じられないほどだった。
(栞先輩…)
その人影は輝に気付くと、目線を下に下げた。そしてそのまま路地裏へと、ふらふらと歩きながら姿を消していった。
「あ…っ」
小さく声を出した輝は、その後ろ姿を見送るだけだった。
(先輩…。なんであんなところに……)
自宅に帰ってからも、栞の変わり果てた姿が離れないでいた。あんなに清楚な雰囲気を持った栞が、今は夜の街を歩く女王のようだった。
そんなことを考えていたら、湊からスマホにメッセージが入った。
《あれ、本当に栞先輩かな》
湊も信じられないと、感じていたのだ。だけどあの顔は紛れもなく、自分が好きになった人だ。
(信じられない…)
そう思うのは、輝だけではなかった。
次の日。登校すると、中学の時の先輩、秋山拓哉が輝を見つけて走ってきた。
「高幡!」
そう呼んで、輝と並んで歩く。同じバレー部だった秋山は、高校に入ってからも輝をバレー部に誘っていた。秋山は輝のひとつ上の先輩だ。輝はその秋山に視線を向けると、言った。
「またバレー部の誘いですか」
「違う違う。それに俺はもう引退だ」
「じゃなんですか?」
「お前、滝沢栞と仲良かったろ」
「まぁ…」
「あいつ、ヤバイかもよ」
「え?」
秋山が持ってきた話によると、栞が家出をしていて、男の家にいるらしい。その男がかなりヤバめの男で、身体を売って、その男の為に金を稼いでいるらしい。…というものだった。
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
秋山の話は、そのくらいの衝撃だったのだ。輝は秋山を見て、昨日の話をした。
「ライブハウスって、あのHeavenか?」
「はい」
「あの近くって、ホストクラブとかもあったよな」
「あります」
「ホストとかキャバ嬢とかも彷徨いてるよな」
「あー…」
輝は気にしていなかったが、そういえばそうかもと思い返した。
「その中に滝沢栞がいたって話だ」
(じゃ、昨夜の栞先輩…)
派手な服装。それも男を誘うような服装だった。それに、足取りが覚束《おぼつか》なかった。そんな栞に声をかけられなかったのだ。
「アイツがなんでそうなったのかは、分からねぇんだよ」
校舎に向かいながら、秋山はそう言った。
「クラスメートだったから、気になるけどな」
秋山はそう言うと、自分の下駄箱がある方へと向かった。その後ろ姿を見送って、輝も自分のクラスの下駄箱へと向かった。
初めは見る側だったが、いつしかそこのスタッフと仲良くなり、ステージに立つようになった。ステージに立ち始めた頃は、客はほぼいない状態だった。それがいつしか、ファンがつくようになっていた。
「あ、またあの子来てる」
ステージ袖から会場を覗く真司は、女の子を物色するかのように見ていた。実際はそんなことはなく、ただ女の子が好きで見てるだけなのだが……。
それでも輝は呆れていた。
地元にある、老舗のライブハウス【Heaven】
そこのオーナーは、若いミュージシャンを応援してくれていた。だからまだこんな高校生の出演を、許してくれたのかもしれない。
「あ、更ちゃんいるね」
常連となった、ファンの女の子の名前を呼んだ。更は輝たちと同じ歳だった。しかも零士とは、中学が一緒という偶然。
「でも一瀬が、こんなところに出入りするとはなぁ…」
零士はそう呟く。
「さて。時間だ」
湊はそう言うと、ギターを持った。まだ高校生な彼らが持つ楽器は、それほどいいものではない。真司に至っては、このライブハウスの所有物なのだから。
それでも彼らを見に来てくれる客がいるのも確かだった。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
何度目かのライブの後。ライブハウスから出た湊は、輝の方を見た。
「なに」
「あれ…」
湊が指した方を見ると、見覚えのある顔がそこにあった。だがその人を見て、輝は誰だか分からなかった。
「栞先輩…だよな?」
湊の声でようやく輝は誰だか理解したようなものだった。
栞のその姿は、中学生の頃とは真逆になっていて、信じられないほどだった。
(栞先輩…)
その人影は輝に気付くと、目線を下に下げた。そしてそのまま路地裏へと、ふらふらと歩きながら姿を消していった。
「あ…っ」
小さく声を出した輝は、その後ろ姿を見送るだけだった。
(先輩…。なんであんなところに……)
自宅に帰ってからも、栞の変わり果てた姿が離れないでいた。あんなに清楚な雰囲気を持った栞が、今は夜の街を歩く女王のようだった。
そんなことを考えていたら、湊からスマホにメッセージが入った。
《あれ、本当に栞先輩かな》
湊も信じられないと、感じていたのだ。だけどあの顔は紛れもなく、自分が好きになった人だ。
(信じられない…)
そう思うのは、輝だけではなかった。
次の日。登校すると、中学の時の先輩、秋山拓哉が輝を見つけて走ってきた。
「高幡!」
そう呼んで、輝と並んで歩く。同じバレー部だった秋山は、高校に入ってからも輝をバレー部に誘っていた。秋山は輝のひとつ上の先輩だ。輝はその秋山に視線を向けると、言った。
「またバレー部の誘いですか」
「違う違う。それに俺はもう引退だ」
「じゃなんですか?」
「お前、滝沢栞と仲良かったろ」
「まぁ…」
「あいつ、ヤバイかもよ」
「え?」
秋山が持ってきた話によると、栞が家出をしていて、男の家にいるらしい。その男がかなりヤバめの男で、身体を売って、その男の為に金を稼いでいるらしい。…というものだった。
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
秋山の話は、そのくらいの衝撃だったのだ。輝は秋山を見て、昨日の話をした。
「ライブハウスって、あのHeavenか?」
「はい」
「あの近くって、ホストクラブとかもあったよな」
「あります」
「ホストとかキャバ嬢とかも彷徨いてるよな」
「あー…」
輝は気にしていなかったが、そういえばそうかもと思い返した。
「その中に滝沢栞がいたって話だ」
(じゃ、昨夜の栞先輩…)
派手な服装。それも男を誘うような服装だった。それに、足取りが覚束《おぼつか》なかった。そんな栞に声をかけられなかったのだ。
「アイツがなんでそうなったのかは、分からねぇんだよ」
校舎に向かいながら、秋山はそう言った。
「クラスメートだったから、気になるけどな」
秋山はそう言うと、自分の下駄箱がある方へと向かった。その後ろ姿を見送って、輝も自分のクラスの下駄箱へと向かった。
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