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第1章
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それからも度々、ライブハウスの近くで栞の姿を目撃した。栞はこっちをチラッと見るだけで、なにも言わない。輝の姿を確認すると、すぐに路地裏に逃げ込んで行くのだ。
この日もそうだった。夏休みに入ってすぐにライブがあった。いつものようにライブを終えると、ライブハウス前には、常連のファンの女の子たちがいた。そのファンの子たちに、笑みを振りまき、ありがとうと言葉を交わして、ファンの子たちにそろそろ帰りなさいと、零士が告げた。その言葉に素直にうなずくファン。そのメンバーは、ファンたちが去るのを待った。
(ん?)
路地裏から姿を見せた栞は、露出している肌は傷だらけだった。ふらふらと歩きながら、輝の前を通り過ぎていく。
「先輩っ!」
輝は咄嗟に栞の手を掴んだ。
掴まれたことにより、輝に振り返った。その顔は、苦痛で歪んでいた。
「輝!」
栞と輝のところにやってきた湊が、輝が掴んでいる人を見て驚いた。
「先輩…」
栞の姿を見て、驚いた。見ると顔にも傷があった。栞のキレイな顔が、見ていられないくらいになっていた。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
「──……りっ!栞ーっ!どこだっ!」
その声を聞いて、輝は栞の手を掴んだまま、ライブハウスの中へと戻った。湊もメンバーもライブハウスの中へと戻る。
「どうしたんだ?彼女は?」
「…先輩。俺と湊の中学の時の……」
輝は、バーカウンターのところにあった椅子に、栞を座らせた。
「先輩…。栞先輩?」
栞は、身体を震わせていた。
「誰なんだ、あの男は」
後から入ってきた崇弘は、追ってきていた男のことを言った。
崇弘が見た男は、ヒョロとした真面目そうなサラリーマン。だがその男の形相は、恐ろしい顔をしていたそうだ。
「あんたは何なんだ?」
崇弘は栞を見下ろしていた。それが栞にとって、恐ろしく見えたのか、また小刻みに震えた。
「タカ。やめろ」
輝はそう言うと、オーナーからコップに入った水をもらった。
「はい。栞先輩」
優しい声で栞に手渡すと、栞はそれをゆっくりと口に含む。
「…迷惑、かけて…ごめんね」
小さな声で、やっとそう言った。
「なにがあった?ずっと、心配してたんだよ」
「……ごめんね」
栞はそれしか言わなかった。
「車、用意出来たよ」
オーナーがそう言った。このままでは帰せないと判断したのか、ライブハウス前にはタクシーが停められていた。そのタクシーに輝と湊、そして栞が乗って地元に戻っていく。崇弘と真司、そして零士は来た時と同じように帰って行った。
「栞先輩」
輝が隣に座る栞に話しかけた。何があったのか、気になって仕方ない。それでも栞は話そうとはしなかった。
タクシーに揺られて、20分。地元に帰ってきた3人は、タクシーを降りた。オーナーが気を利かせて、タクシー代は支払済みだった。
「栞先輩の家って、南町だっけ?」
そう言って栞を送って行こうとする。だけど栞はそれを拒否した。
「ダメだよ。もう遅いし。女の子は気をつけないと」
「輝の言うとおりだよ。輝に送ってもらって」
湊がそう言うと、タクシーを降りたところと反対側へ歩いて行った。その後ろ姿を見送って、輝は栞の手を握った。そうでもしないと、栞が逃げて行きそうだった。
「輝くん…」
やっと輝の名前を呼んだ栞は、微かに笑みを浮かべた。だがその笑顔は、無理をしているようだった。
「先輩。なにがあった?」
その問いに、ただ首を振るだけだった。
「教えて。先輩。守りたいんだ」
輝はそう言った。そう口をついて出ていた。それでも栞は、ただ首を横に振るだけだった。
「はぁ…。相変わらず、先輩って頑固だね」
栞の性格を知ってるよというように、輝は栞を見ていた。
「スマホ、持ってる?」
コクンと頷く栞。輝を見ると、スマホを取り出していた。
「電話番号、知らないから」
「…でも、私……」
「彼氏に怒られる?」
「え」
「彼氏。一緒に住んでるって聞いた」
「……誰に聞いたの。そんな話」
「秋山先輩」
「……秋山くん?秋山拓哉くん?」
「うん。高校、一緒だから」
「そっか…」
そこまで言って、栞は顔を上げた。
「秋山くんに言って。変な噂、流さないでって」
「え?」
「彼氏なんかいないよ、私……」
その後は、言葉が続かなかった。
「ごめん。帰る…」
栞はそう言って、輝から離れようとした。だが掴まれたままの手を、振り解くことが出来なかった。
「先輩。俺……、助けに行くから。だから……」
その真剣な眼差しに、栞は根負けしたのか、スマホを取り出した。そしてその場で連絡先を交換した。
(やっと…、連絡先を知ることが出来た)
それは輝だけではなく、栞も感じていたことだった。
この日もそうだった。夏休みに入ってすぐにライブがあった。いつものようにライブを終えると、ライブハウス前には、常連のファンの女の子たちがいた。そのファンの子たちに、笑みを振りまき、ありがとうと言葉を交わして、ファンの子たちにそろそろ帰りなさいと、零士が告げた。その言葉に素直にうなずくファン。そのメンバーは、ファンたちが去るのを待った。
(ん?)
路地裏から姿を見せた栞は、露出している肌は傷だらけだった。ふらふらと歩きながら、輝の前を通り過ぎていく。
「先輩っ!」
輝は咄嗟に栞の手を掴んだ。
掴まれたことにより、輝に振り返った。その顔は、苦痛で歪んでいた。
「輝!」
栞と輝のところにやってきた湊が、輝が掴んでいる人を見て驚いた。
「先輩…」
栞の姿を見て、驚いた。見ると顔にも傷があった。栞のキレイな顔が、見ていられないくらいになっていた。
❏ ❏ ❏ ❏ ❏
「──……りっ!栞ーっ!どこだっ!」
その声を聞いて、輝は栞の手を掴んだまま、ライブハウスの中へと戻った。湊もメンバーもライブハウスの中へと戻る。
「どうしたんだ?彼女は?」
「…先輩。俺と湊の中学の時の……」
輝は、バーカウンターのところにあった椅子に、栞を座らせた。
「先輩…。栞先輩?」
栞は、身体を震わせていた。
「誰なんだ、あの男は」
後から入ってきた崇弘は、追ってきていた男のことを言った。
崇弘が見た男は、ヒョロとした真面目そうなサラリーマン。だがその男の形相は、恐ろしい顔をしていたそうだ。
「あんたは何なんだ?」
崇弘は栞を見下ろしていた。それが栞にとって、恐ろしく見えたのか、また小刻みに震えた。
「タカ。やめろ」
輝はそう言うと、オーナーからコップに入った水をもらった。
「はい。栞先輩」
優しい声で栞に手渡すと、栞はそれをゆっくりと口に含む。
「…迷惑、かけて…ごめんね」
小さな声で、やっとそう言った。
「なにがあった?ずっと、心配してたんだよ」
「……ごめんね」
栞はそれしか言わなかった。
「車、用意出来たよ」
オーナーがそう言った。このままでは帰せないと判断したのか、ライブハウス前にはタクシーが停められていた。そのタクシーに輝と湊、そして栞が乗って地元に戻っていく。崇弘と真司、そして零士は来た時と同じように帰って行った。
「栞先輩」
輝が隣に座る栞に話しかけた。何があったのか、気になって仕方ない。それでも栞は話そうとはしなかった。
タクシーに揺られて、20分。地元に帰ってきた3人は、タクシーを降りた。オーナーが気を利かせて、タクシー代は支払済みだった。
「栞先輩の家って、南町だっけ?」
そう言って栞を送って行こうとする。だけど栞はそれを拒否した。
「ダメだよ。もう遅いし。女の子は気をつけないと」
「輝の言うとおりだよ。輝に送ってもらって」
湊がそう言うと、タクシーを降りたところと反対側へ歩いて行った。その後ろ姿を見送って、輝は栞の手を握った。そうでもしないと、栞が逃げて行きそうだった。
「輝くん…」
やっと輝の名前を呼んだ栞は、微かに笑みを浮かべた。だがその笑顔は、無理をしているようだった。
「先輩。なにがあった?」
その問いに、ただ首を振るだけだった。
「教えて。先輩。守りたいんだ」
輝はそう言った。そう口をついて出ていた。それでも栞は、ただ首を横に振るだけだった。
「はぁ…。相変わらず、先輩って頑固だね」
栞の性格を知ってるよというように、輝は栞を見ていた。
「スマホ、持ってる?」
コクンと頷く栞。輝を見ると、スマホを取り出していた。
「電話番号、知らないから」
「…でも、私……」
「彼氏に怒られる?」
「え」
「彼氏。一緒に住んでるって聞いた」
「……誰に聞いたの。そんな話」
「秋山先輩」
「……秋山くん?秋山拓哉くん?」
「うん。高校、一緒だから」
「そっか…」
そこまで言って、栞は顔を上げた。
「秋山くんに言って。変な噂、流さないでって」
「え?」
「彼氏なんかいないよ、私……」
その後は、言葉が続かなかった。
「ごめん。帰る…」
栞はそう言って、輝から離れようとした。だが掴まれたままの手を、振り解くことが出来なかった。
「先輩。俺……、助けに行くから。だから……」
その真剣な眼差しに、栞は根負けしたのか、スマホを取り出した。そしてその場で連絡先を交換した。
(やっと…、連絡先を知ることが出来た)
それは輝だけではなく、栞も感じていたことだった。
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