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第2章
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幼い頃の栞が住んでいた所は、今いる所よりももっと田舎だった。そこで栞は母親と父親と3人で暮らしていた。
父親はまともに仕事はしないで、母親が生活を守る為に仕事をしていた。その間、父親が何をしているかというと、酒を飲みまだ3歳にも満たない栞に、怒鳴ったり殴ったりしていた。ただ父親は、外面がいいから、たまに栞を連れて近所の公園に遊びに行く。それはその姿を近所の人たちに、自分はいい父親だと見せる為だった。
「……ぃやあぁぁっ!」
夜になるとそんな栞の声が響く。その声は近所にも聞こえた。だが母親はそのことを知らない。夜も仕事をしている母親は、なにも知らないのだ。
次の日。外で遊んでると、近所のオバサンが栞に対して言う。
「お父さんの言うことを、ちゃんと聞かないとダメじゃないの」
そう言われると、悲しい顔をしてみせる。それでも栞はいけない子だと、近所の人は思っている。どんなに訴えても、栞の話をまともに聞いてくれる大人はいなかった。
幼い栞は母親には話せないでいた。話すと、母親が悲しむことを知っていたからだ。
母親が栞の状態を知ったのは、栞が3歳になる頃。七五三の為に、やってきた写真館。着物に着替える為に、スタッフが栞を連れて行くと、スタッフが母親に言った。
「お子さんのアザはどうしたんですか?」
それを聞いた母親は、慌てて栞のもとへと行く。栞の身体には無数のアザ。
「知らなかったんですか?」
スタッフの問いかけに、母親は絶望した。それと同時に夫への不信感でいっぱいだった。そして自分を責めた。
(これを知られない為に、栞の世話は自分がするって言ってたの…?)
赤ん坊の時期を過ぎた頃から、栞の世話は全面的に父親がしていた。母親が世話を焼こうとすると、すぐに父親が間に入ってくる。だから栞のお風呂も着替えも、ここ数年させてもらえなかった。
栞への虐待を知ってから、母親はすぐに動いた。証拠を取りそれを持って、弁護士へと向かう。守る為に、栞には辛い思いをさせてしまった。そのことを、母親はずっと後悔している。
「栞。ごめんね」
父親から離れる時、母親はそう言った。その言葉の意味は、栞には分かっていなかった。ただ父親と離れることの意味だけは、分かっていた。
父親はまともに仕事はしないで、母親が生活を守る為に仕事をしていた。その間、父親が何をしているかというと、酒を飲みまだ3歳にも満たない栞に、怒鳴ったり殴ったりしていた。ただ父親は、外面がいいから、たまに栞を連れて近所の公園に遊びに行く。それはその姿を近所の人たちに、自分はいい父親だと見せる為だった。
「……ぃやあぁぁっ!」
夜になるとそんな栞の声が響く。その声は近所にも聞こえた。だが母親はそのことを知らない。夜も仕事をしている母親は、なにも知らないのだ。
次の日。外で遊んでると、近所のオバサンが栞に対して言う。
「お父さんの言うことを、ちゃんと聞かないとダメじゃないの」
そう言われると、悲しい顔をしてみせる。それでも栞はいけない子だと、近所の人は思っている。どんなに訴えても、栞の話をまともに聞いてくれる大人はいなかった。
幼い栞は母親には話せないでいた。話すと、母親が悲しむことを知っていたからだ。
母親が栞の状態を知ったのは、栞が3歳になる頃。七五三の為に、やってきた写真館。着物に着替える為に、スタッフが栞を連れて行くと、スタッフが母親に言った。
「お子さんのアザはどうしたんですか?」
それを聞いた母親は、慌てて栞のもとへと行く。栞の身体には無数のアザ。
「知らなかったんですか?」
スタッフの問いかけに、母親は絶望した。それと同時に夫への不信感でいっぱいだった。そして自分を責めた。
(これを知られない為に、栞の世話は自分がするって言ってたの…?)
赤ん坊の時期を過ぎた頃から、栞の世話は全面的に父親がしていた。母親が世話を焼こうとすると、すぐに父親が間に入ってくる。だから栞のお風呂も着替えも、ここ数年させてもらえなかった。
栞への虐待を知ってから、母親はすぐに動いた。証拠を取りそれを持って、弁護士へと向かう。守る為に、栞には辛い思いをさせてしまった。そのことを、母親はずっと後悔している。
「栞。ごめんね」
父親から離れる時、母親はそう言った。その言葉の意味は、栞には分かっていなかった。ただ父親と離れることの意味だけは、分かっていた。
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