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第2章
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「遅い!」
目の前にいる一郎は、栞を見下ろしそう威嚇した。その声は、栞の身体を凍らせる。たったひとこと言われただけなのに、動かなくなってしまう。
「早く、金稼いでこいっ!」
一郎のアパートには、栞の為の服が置いてある。それを着て、夜の店に出勤するのだ。
「早くしろ!」
栞を部屋に入れると、さっさと着替えろと言う。栞の趣味とは真逆の、色っぽい服やアクセサリー。それを身につけて、アパートを出る。
一郎のアパートから然程離れてはいないところに、所謂ピンク街がある。そのうちの一軒が、栞が出勤する【Aquamarine】だ。
年齢を誤魔化し、その店に入った栞だが、この日オーナーが栞の年齢に気付くとは、思ってもいなかった。栞は着飾ると、年齢よりもかなり大人っぽくなる。だから一郎は、バレずにいけるとでも思ったのだろう。
「おはようございます…」
声に力はない栞を、このオーナーの男性は心配していた。一郎に連れられて、ここに来た。一郎が「この娘をここで働かせろ」と告げた。その日からこの店で、栞は働いている。
「カナちゃん」
この店では、カナと呼ばれている。誰がカナとつけたのかは、もう覚えていない。でも本名で呼ぼれるよりは、ずっといい。
「大丈夫?」
オーナーの瑞原は、栞に近付くとそう言った。瑞原を見上げると、ただ頷く。そんな栞を見ては、心配そうに言う。
「なにもこんなところで働かなくても…」
そんな店のオーナーなのに、そんなことを言う。
「オーナー。それ、私たちにも言ってくれます?」
瑞原の横を通り過ぎたレイコが言う。レイコはこの店一番の人気者だった。指名されるのは、レイコが多い。
「オーナー。着替えるんで、出て行って下さい」
控え室からオーナーを追い出すと、レイコは栞に近付いた。
「またそんな暗い顔をして」
レイコは栞の顔を覗き込む。
「座って」
大きなミラーの前に栞を座らせると、栞の髪を弄り出した。
「キレイな髪よね」
栞は真っ黒なストレートの髪をしている。
「さらさら…」
そう言いながら、栞の髪をセットしていく。
「レイコ。ズルいじゃない」
後ろから入ってきたアミは、栞の隣に座った。アミはレイコとは同じ大学の子で、ふたりでこの店にやってきた。
「カナって、ほんとキレイな顔してるよねぇ」
カナの顔を覗き込むと、そっと栞の頬に触れた。
「肌もプルプルだわ」
「なにかしてる?」
ふたりは聞くが、栞は首を横に振る。特別な何かをしているわけではない。安い化粧水で保湿をしているくらいだ。
「わー、羨ましい」
このふたりは、栞が実は高校生だと知っている。知っているが黙っている。なにか事情があると、感づいているのだ。
「またあんたたちは、カナを構ってるの?」
後から入ってきたユナは、キツイ目を向けていた。このユナは、初めから栞のことを気に入らない。レイコとアミのことも気に入らないから、キツイ言い回しをしてくるのだ。
「カナの方が可愛いからって、僻まない」
レイコはそう言うと、栞の髪のセットを続ける。そしてアミは栞のメイクを直してる。それがまた気に入らないユナは、さっさと準備をして控え室を出ていく。
「気にしなくていいのよ」
「そうそう。ユナは誰に対してもああなんだから」
「よし、出来た」
アミはそう言うと、栞を見た。
「行こっか」
「はい」
栞は頷いて、ふたりの後を追った。
目の前にいる一郎は、栞を見下ろしそう威嚇した。その声は、栞の身体を凍らせる。たったひとこと言われただけなのに、動かなくなってしまう。
「早く、金稼いでこいっ!」
一郎のアパートには、栞の為の服が置いてある。それを着て、夜の店に出勤するのだ。
「早くしろ!」
栞を部屋に入れると、さっさと着替えろと言う。栞の趣味とは真逆の、色っぽい服やアクセサリー。それを身につけて、アパートを出る。
一郎のアパートから然程離れてはいないところに、所謂ピンク街がある。そのうちの一軒が、栞が出勤する【Aquamarine】だ。
年齢を誤魔化し、その店に入った栞だが、この日オーナーが栞の年齢に気付くとは、思ってもいなかった。栞は着飾ると、年齢よりもかなり大人っぽくなる。だから一郎は、バレずにいけるとでも思ったのだろう。
「おはようございます…」
声に力はない栞を、このオーナーの男性は心配していた。一郎に連れられて、ここに来た。一郎が「この娘をここで働かせろ」と告げた。その日からこの店で、栞は働いている。
「カナちゃん」
この店では、カナと呼ばれている。誰がカナとつけたのかは、もう覚えていない。でも本名で呼ぼれるよりは、ずっといい。
「大丈夫?」
オーナーの瑞原は、栞に近付くとそう言った。瑞原を見上げると、ただ頷く。そんな栞を見ては、心配そうに言う。
「なにもこんなところで働かなくても…」
そんな店のオーナーなのに、そんなことを言う。
「オーナー。それ、私たちにも言ってくれます?」
瑞原の横を通り過ぎたレイコが言う。レイコはこの店一番の人気者だった。指名されるのは、レイコが多い。
「オーナー。着替えるんで、出て行って下さい」
控え室からオーナーを追い出すと、レイコは栞に近付いた。
「またそんな暗い顔をして」
レイコは栞の顔を覗き込む。
「座って」
大きなミラーの前に栞を座らせると、栞の髪を弄り出した。
「キレイな髪よね」
栞は真っ黒なストレートの髪をしている。
「さらさら…」
そう言いながら、栞の髪をセットしていく。
「レイコ。ズルいじゃない」
後ろから入ってきたアミは、栞の隣に座った。アミはレイコとは同じ大学の子で、ふたりでこの店にやってきた。
「カナって、ほんとキレイな顔してるよねぇ」
カナの顔を覗き込むと、そっと栞の頬に触れた。
「肌もプルプルだわ」
「なにかしてる?」
ふたりは聞くが、栞は首を横に振る。特別な何かをしているわけではない。安い化粧水で保湿をしているくらいだ。
「わー、羨ましい」
このふたりは、栞が実は高校生だと知っている。知っているが黙っている。なにか事情があると、感づいているのだ。
「またあんたたちは、カナを構ってるの?」
後から入ってきたユナは、キツイ目を向けていた。このユナは、初めから栞のことを気に入らない。レイコとアミのことも気に入らないから、キツイ言い回しをしてくるのだ。
「カナの方が可愛いからって、僻まない」
レイコはそう言うと、栞の髪のセットを続ける。そしてアミは栞のメイクを直してる。それがまた気に入らないユナは、さっさと準備をして控え室を出ていく。
「気にしなくていいのよ」
「そうそう。ユナは誰に対してもああなんだから」
「よし、出来た」
アミはそう言うと、栞を見た。
「行こっか」
「はい」
栞は頷いて、ふたりの後を追った。
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