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最終章
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左の薬指には銀色のリング。
金色のロングヘアーに青い目。
それが秋月理菜。
今では理菜を知らない人はいないってくらい、有名になっていた。学校でも繁華街でも。理菜に何かしてくるヤツは、そうそういない。
何かしてくるようなヤツがいれば、それは暴走連合と敵対しているチームのヤツらだ。
だが繁華街に出入りしている限り、その心配は薄い。繁華街は暴走連合で固められている。
しかもジンとジョージもいる。
理菜に何かしてくるヤツは、バカなヤツだ。理菜に声をかけてくるヤツは、バカなヤツだ。
誰もがそう認識していた。
「お前、クィーンか?」
そう声かけられたのは、3月の半ばだった。学校はもう3年生は卒業して、2年と1年しか登校していない。そんな季節に、理菜は学校の廊下で声をかけられた。振り返るとそこには、榛南中の制服を着た男子がふたり立っていた。
「誰?」
理菜はそう突き放すように言うと、相手は鼻で笑うようにこっちを見ていた。
「へぇ。お前がねぇ……」
人を舐め回すかのように見るふたりを、理菜は睨み返した。
「結構可愛いじゃん」
そう言ったひとりはニヤッと笑い、理菜の腕を掴む。掴まれた腕が気持ち悪くて、思わず振り払った。
「気安く触んないで」
なるべく低い声を出して言う理菜に、ふたりは乾いた声で笑う。
それが自棄に耳につく。
そしてそれがムカつく。
「なんの用?」
理菜はふたりを睨み付けたままだった。
「そんな怖い顔しないでよ」
そう言われても、睨むことを止めない。
「ほんとそんな顔しないでよ」
ふたりは理菜の行く手を阻もうとする。それでも歩いて行こうとした。
──だってあたしには用はないし、誰だか分かんないし。
「なぁ、お前ほんとにクィーンなのか?」
そう言う男子ふたりは、理菜を見据える。
「だったら何?」
そう返すと、ふたりはぱっと花が咲いたかのような笑顔になる。
「俺達を黒龍に入れてくれるように、キングに頼んでくんない?」
そんなバカなことを言ってきた。
「出来るわけないでしょ。そもそもあたしが頼んだからって、入れて貰えるような世界じゃない」
そう告げて理菜は歩く。
「佐々木たちは入ってんじゃん。それってお前の口添えだろ」
「あのふたりは自分でやったんだ。あたしは関係ない」
浩介とキヨシは、自分たちで入れて貰えるようにした。理菜はそのことに全く関係していない。
「いいじゃねぇか」
肩を掴んだひとり。その途端、背筋に冷たいものが走った。
──やっぱり、ダメ…。
どんなに時間が経とうとしても、気の許す相手じゃないと、触れられると気持ち悪いと感じる。忘れられていないのだ。
「……して」
口から出た低い声に、ふたりは一瞬驚いた顔をする。それでも女だから、舐められているのか、不敵な笑みを浮かべ理菜を見据える。
「……離して」
もう一度声が出る。今度はちゃんと言葉になって出た。低い声はあまり出したくない。
──疲れるから、こういう声は出したくない。
でも自然と声が出ていた。
「離せッ!」
男子ふたりに睨むと、理菜の肩に置かれていた腕を、これでもかってくらい力を入れて掴んだ。一瞬顔を顰めた男子が理菜を睨んでいた。
「あたしに気安く触んな!」
そう言った理菜の視界に入ったひとつの影。ゆっくりと歩いて来る男の影。その男は理菜の腕を掴み、理菜に言い寄っていたふたりの男子を睨んでいた。
「ヨシキ」
理菜に振り返った良樹は、ため息を吐いて再び男子ふたりに視線を向けた。
「人の女に手ぇ出すんじゃねぇや」
低い声でそう言った良樹の表情は、鬼のような形相だった。その良樹を見た途端、ふたりはアワアワと慌てだした。そしてそのまま、「すみませんッ!」と言って走り去った。
「はぁ……。お前ぇ何やってんだよ」
呆れた声でこっちを見るヨシキは、ほんとに呆れてるらしく、理菜の腕を掴んだままで歩き出した。
「なんでここにいるの?」
理菜はそう聞くと、振り返ることなく答える。
「お前ぇが遅ぇからだ」
そう言うと、理菜を学校から連れ出した。
正門の脇には、バイクが停めてあった。そのバイクに跨った良樹は、エンジンをかけた。理菜はヘルメットを受け取り、後ろに乗ると、それを確認した良樹はバイクを走らせた。
いつものように倉庫に行くのかと思ったら、繁華街に向かっていた。
繁華街でいつもの場所にバイクを停めると、やっぱりいつものようにいつもの面子がいて挨拶をしていく。その間もしっかりと、理菜の手を握る良樹に着いていく。
「どこ行くの?」
そう聞いても教えてくれない。だから黙って着いて行く。黙って良樹と歩いて行って着いた先。いつもは入らないような、ちょっと洒落たレストランに入って行く。
「ヨシキ?」
理菜はそう声をかけるけど、良樹はそのまままっすぐ奥へと向かう。店員さんももう分かってるのか、何も言わない。どんどん奥へ進んで行くと、ひとつの扉があった。その扉を開くと、良樹は入って行く。
「ヨシキ?」
不安になりもう一度そう聞く。そして理菜に振り返ると笑って言う。
「誕生日おめでとう」
そう言ってくれた良樹に、思わず頬が緩んだ。
「今年は、あいつらがいない方がいいだろ」
そう言って笑う。
「ここ、知り合いの店だから心配すんな」
なんて言って椅子に座る。だから理菜も反対側の椅子に座った。
──もう、いつもなんでこうびっくりさせるようなことをするかな。
去年の誕生日も、かなりびっくりした。あの日に貰ったリングは、今も理菜の左手の薬指に嵌ってる。
一度も外したことのないそのリングは、流石に外したことないだけあってすり傷がついてあった。
「はい。これ」
良樹が手渡してくれた小さな箱。
「開けていい?」
「ああ」
良樹の返事を聞いて、その小さな包みを開けた。小さなジュエリーケース。それを開けると、小さな赤いピアスが入っていた。
「ありがとう」
そう言って良樹に顔を向けると、嬉しそうに微笑んでいた。そして理菜はポケットから鏡を取り出して、つけていたピアスを外し、新しいピアスをつけた。
「うん。似合ってる」
なんて真面目にそんなことを言うから、思わず顔を赤くした。そんな理菜を見て、クスクス笑う良樹の顔を見れなくて俯いていたら、良樹理菜の傍まで来て左手のリングに触れた。
「これ、もう外せよ。いつかこれよりもいいもん買ってやる」
そんなことを言われたら、ますます顔を赤くしてしまう。なんでそんなことを、さらっと言えちゃうのか不思議だった。
「リナ」
耳元でそう言う良樹。だけど理菜は首を横に振るだけ。
「なんで?」
「これでいいいの」
それだけ言って理菜は笑った。
青い目、金色のロングの髪。
左薬指に銀色のリング。
耳には赤いピアス。
クィーンと呼ばれる理菜の姿は、誰もが知ってる──……。
金色のロングヘアーに青い目。
それが秋月理菜。
今では理菜を知らない人はいないってくらい、有名になっていた。学校でも繁華街でも。理菜に何かしてくるヤツは、そうそういない。
何かしてくるようなヤツがいれば、それは暴走連合と敵対しているチームのヤツらだ。
だが繁華街に出入りしている限り、その心配は薄い。繁華街は暴走連合で固められている。
しかもジンとジョージもいる。
理菜に何かしてくるヤツは、バカなヤツだ。理菜に声をかけてくるヤツは、バカなヤツだ。
誰もがそう認識していた。
「お前、クィーンか?」
そう声かけられたのは、3月の半ばだった。学校はもう3年生は卒業して、2年と1年しか登校していない。そんな季節に、理菜は学校の廊下で声をかけられた。振り返るとそこには、榛南中の制服を着た男子がふたり立っていた。
「誰?」
理菜はそう突き放すように言うと、相手は鼻で笑うようにこっちを見ていた。
「へぇ。お前がねぇ……」
人を舐め回すかのように見るふたりを、理菜は睨み返した。
「結構可愛いじゃん」
そう言ったひとりはニヤッと笑い、理菜の腕を掴む。掴まれた腕が気持ち悪くて、思わず振り払った。
「気安く触んないで」
なるべく低い声を出して言う理菜に、ふたりは乾いた声で笑う。
それが自棄に耳につく。
そしてそれがムカつく。
「なんの用?」
理菜はふたりを睨み付けたままだった。
「そんな怖い顔しないでよ」
そう言われても、睨むことを止めない。
「ほんとそんな顔しないでよ」
ふたりは理菜の行く手を阻もうとする。それでも歩いて行こうとした。
──だってあたしには用はないし、誰だか分かんないし。
「なぁ、お前ほんとにクィーンなのか?」
そう言う男子ふたりは、理菜を見据える。
「だったら何?」
そう返すと、ふたりはぱっと花が咲いたかのような笑顔になる。
「俺達を黒龍に入れてくれるように、キングに頼んでくんない?」
そんなバカなことを言ってきた。
「出来るわけないでしょ。そもそもあたしが頼んだからって、入れて貰えるような世界じゃない」
そう告げて理菜は歩く。
「佐々木たちは入ってんじゃん。それってお前の口添えだろ」
「あのふたりは自分でやったんだ。あたしは関係ない」
浩介とキヨシは、自分たちで入れて貰えるようにした。理菜はそのことに全く関係していない。
「いいじゃねぇか」
肩を掴んだひとり。その途端、背筋に冷たいものが走った。
──やっぱり、ダメ…。
どんなに時間が経とうとしても、気の許す相手じゃないと、触れられると気持ち悪いと感じる。忘れられていないのだ。
「……して」
口から出た低い声に、ふたりは一瞬驚いた顔をする。それでも女だから、舐められているのか、不敵な笑みを浮かべ理菜を見据える。
「……離して」
もう一度声が出る。今度はちゃんと言葉になって出た。低い声はあまり出したくない。
──疲れるから、こういう声は出したくない。
でも自然と声が出ていた。
「離せッ!」
男子ふたりに睨むと、理菜の肩に置かれていた腕を、これでもかってくらい力を入れて掴んだ。一瞬顔を顰めた男子が理菜を睨んでいた。
「あたしに気安く触んな!」
そう言った理菜の視界に入ったひとつの影。ゆっくりと歩いて来る男の影。その男は理菜の腕を掴み、理菜に言い寄っていたふたりの男子を睨んでいた。
「ヨシキ」
理菜に振り返った良樹は、ため息を吐いて再び男子ふたりに視線を向けた。
「人の女に手ぇ出すんじゃねぇや」
低い声でそう言った良樹の表情は、鬼のような形相だった。その良樹を見た途端、ふたりはアワアワと慌てだした。そしてそのまま、「すみませんッ!」と言って走り去った。
「はぁ……。お前ぇ何やってんだよ」
呆れた声でこっちを見るヨシキは、ほんとに呆れてるらしく、理菜の腕を掴んだままで歩き出した。
「なんでここにいるの?」
理菜はそう聞くと、振り返ることなく答える。
「お前ぇが遅ぇからだ」
そう言うと、理菜を学校から連れ出した。
正門の脇には、バイクが停めてあった。そのバイクに跨った良樹は、エンジンをかけた。理菜はヘルメットを受け取り、後ろに乗ると、それを確認した良樹はバイクを走らせた。
いつものように倉庫に行くのかと思ったら、繁華街に向かっていた。
繁華街でいつもの場所にバイクを停めると、やっぱりいつものようにいつもの面子がいて挨拶をしていく。その間もしっかりと、理菜の手を握る良樹に着いていく。
「どこ行くの?」
そう聞いても教えてくれない。だから黙って着いて行く。黙って良樹と歩いて行って着いた先。いつもは入らないような、ちょっと洒落たレストランに入って行く。
「ヨシキ?」
理菜はそう声をかけるけど、良樹はそのまままっすぐ奥へと向かう。店員さんももう分かってるのか、何も言わない。どんどん奥へ進んで行くと、ひとつの扉があった。その扉を開くと、良樹は入って行く。
「ヨシキ?」
不安になりもう一度そう聞く。そして理菜に振り返ると笑って言う。
「誕生日おめでとう」
そう言ってくれた良樹に、思わず頬が緩んだ。
「今年は、あいつらがいない方がいいだろ」
そう言って笑う。
「ここ、知り合いの店だから心配すんな」
なんて言って椅子に座る。だから理菜も反対側の椅子に座った。
──もう、いつもなんでこうびっくりさせるようなことをするかな。
去年の誕生日も、かなりびっくりした。あの日に貰ったリングは、今も理菜の左手の薬指に嵌ってる。
一度も外したことのないそのリングは、流石に外したことないだけあってすり傷がついてあった。
「はい。これ」
良樹が手渡してくれた小さな箱。
「開けていい?」
「ああ」
良樹の返事を聞いて、その小さな包みを開けた。小さなジュエリーケース。それを開けると、小さな赤いピアスが入っていた。
「ありがとう」
そう言って良樹に顔を向けると、嬉しそうに微笑んでいた。そして理菜はポケットから鏡を取り出して、つけていたピアスを外し、新しいピアスをつけた。
「うん。似合ってる」
なんて真面目にそんなことを言うから、思わず顔を赤くした。そんな理菜を見て、クスクス笑う良樹の顔を見れなくて俯いていたら、良樹理菜の傍まで来て左手のリングに触れた。
「これ、もう外せよ。いつかこれよりもいいもん買ってやる」
そんなことを言われたら、ますます顔を赤くしてしまう。なんでそんなことを、さらっと言えちゃうのか不思議だった。
「リナ」
耳元でそう言う良樹。だけど理菜は首を横に振るだけ。
「なんで?」
「これでいいいの」
それだけ言って理菜は笑った。
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