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第3章
8 血だらけの兵士
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王国には魔術団が存在する。それはあちこちの街へ派遣されている。だが近年、魔術団の力が弱まっている。それは力を持った者が少なくなっているからだった。
(魔力に近い力……)
現にユリアーナにもそれが発現する気配がない。
人間には必要なくなるのかもしれない、力。その力によって、この国は守られてきたのだ。
「ユリアーナ」
ソファーで魔術書を読んでいたユリアーナに声をかける。
「お客さんが来るから自分の部屋へお行き」
森が客を招き入れたことを感じ取ったエレンは、ユリアーナが広げていた魔術書を片付け始める。
「はい」
魔術書を手渡し、ユリアーナを2階へと押しやる。今日の客はユリアーナと対面させるわけにはいかない。心のどこかで感じていた。
2階に上がったのを確認して、階段を消した。始めっから1階だけの小屋だと、錯覚させる為の魔術を施す。
(なんとなく、ユリアーナと会わせてはいない気がする)
それはエレンの直感だった。
程なくして、小屋のドアをノックする音が聞こえた。エレンはそっとドアを開ける。そこには血だらけの兵士がふたりいた。鎧についている紋章からして、スティール王国の兵士だ。
「た、助けて…くだ……さい」
ひとりの兵士がもうひとりを抱えてる状態で、ここまで逃げてきたのだろう。血だらけの兵士の意識が、遠くの方へと向かっている。抱えてきた兵士は、この血だらけの兵士を助けたいが為にここまで来たのだ。
「中へ」
ふたりを中へ入れると、小屋に結界を張る。
硬い床に兵士を寝転がせ、その兵士をじっと見る。
(命が尽きようとしている)
こんな姿の兵士をまだ6歳のユリアーナには見せられない。2階に上がらせて正解だと思った。
「敵国にやられたのか?」
エレンは連れてきた兵士に訊ねる。
「そうだ」
連れてきた兵士も左腕を矢で負傷している。瀕死の兵士は腕だけではなく、腹や背中にも大きな切り傷があった。
「ここに来るまでよく持ったなぁ」
エレンはそう言うと、戸棚から薬箱を出す。中にはたくさんの薬が入っていて、その中のひとつの瓶を取り出した。
青いキレイな色をした液体。ユリアーナが作ったセレスの薬だ。完成した後、使いやすいように小瓶に移して薬箱に入れておいたものだ。それを傷口にかけると、兵士は「う……っ!」と呻き声を上げた。
セレスの薬瓶が空になるくらい傷口は広く深い。セレスの薬は傷によく効くが、これだけの傷に効くかエレンでも分からなかった。
「あ、あの……」
腕を負傷した兵士が心配そうに瀕死の兵士を心配している。見たこともない青い液体を不審がってるのを感じた。
「これはセレスの薬。傷を癒す力があるのだ」
そしてエレンは兵士の腕を掴み、この兵士にもセレスの薬を振りかけた。
瀕死の兵士と腕を負傷した兵士に、惜しみ無くセレスの薬を使った。小瓶5、6本は使った。
腕を負傷した兵士の傷は、セレスの薬で塞がり痛みもなくなった。だが、瀕死の兵士の方はまだ傷口は塞がらない。広範囲に渡って傷があるからなのか、なかなか塞がらないのだ。
(無理……かな)
瀕死の兵士を見ては、考え込む。兵士の傷はゆっくりと塞がっていくのは見てとれる。だが、それは本当にゆっくりだった。
「助かりますか?」
腕に傷追った兵士が言う。この者にとって、大事な友なのだろう。酷く不安で心配そうな顔をしている。
「さあな。この薬は傷を癒すことが出来るといっても、ここまで酷い傷はどうなのか……」
「あなたの魔法でなんとか出来ないんですか!」
焦ってる兵士はエレンに詰め寄る。
「魔法で治すことが出来ても一時的だ。人の寿命は産まれた時に決められてる。それを永らえるかどうかは、その人の生き方による。その人の生に対する執念によるのだ」
それを聞いていた兵士が悔し涙を流した。
「じゃ……、こいつは、助からない…?」
「それはこの者の思いによる。私はそれを手助けるだけ。魔法だって人の寿命に関与出来ない」
寿命を操作出来ないのだ。ワドロフスキーの場合は、この森の魔力によって永く生き永らえた。それはこの森がワドロフスキーを選んだからだ。
だが、この兵士はどうだろう。森が引き入れたのかもしれないが、生かしてくれるだろうか。
◇◇◇◇◇
カタン。2階から音がした。ユリアーナが何かをしている。兵士はその音に驚いて天井を見上げる。
「何もない」
エレンはそう言うと倒れてる兵士を見る。
(このままここに置いておくわけにはいかないな)
立ち上がり小屋の外に出る。エレンの小屋の隣、エレンの母親の小屋を開ける。魔法でライトを照らすと薄暗かった小屋が明るくなった。母親の小屋は、人気がないだけではなく、いつも暗い。昼間でも外の光は入っては来ないのだ。
(母様の魔法かな)
暗いのはエレンの母親の魔法のせいだと感じている。肉体はなくとも、母親がそこにいて誰も近寄らないようにしているのかもしれない。
「母様」
誰もいない小屋に声をかける。小屋に響くエレンの声に、シェリーの魂が呼び起こされた。
《エレン》
シェリーの声と共にぽわぁんと姿を現した。煙がかったその姿は、普通の人間は見ることは出来ないだろう。
「この国の兵士が傷付いてここまで来たの。暫くこの家で過ごさせてもいい?」
エレンが魂にそう言うとシェリーはゆっくりと頷いた。
《この家はもうあなたのもの。好きに使いなさい。ただ魔力があるものがたくさんあるから、普通の人間には触らせないように》
そう言うとスーッと消えていなくなった。
エレンはシェリーの家を出ると、ホエールを呼び出した。どこにいても呼ばれればやってくるホエールは、すっ飛んで来た。
「傷付いた兵士を母様の家に寝かせる。手伝え」
そう言うとホエールを引きずり、シェリーの家に入る。シェリーが使っていた寝室とは別の部屋に、使われたことのないベッドが置いてある。そこには子供向けのオモチャや、魔道具などがあった。それはきっとエレンの為だろう。いつかエレンと過ごしたいと考えて置いてあったのだと。
その部屋の魔力が強いものを別の部屋に移し、1階にある魔力の強いものも、別の部屋に移していった。
そしてエレンの小屋へ戻りふたりを連れてシェリーの家へと入った。
ホエールは瀕死の兵士を抱えて、ブツブツと文句を言ってる。その度にエレンに睨まれ、大人しくなる。
2階の部屋に兵士を寝かせると、腕を負傷した兵士に振り返る。
「あんた、名前は?」
「ジェイ」
「ジェイ。この家にあるものは魔力がある。魔力が強い物は奥の部屋に移したが、全て移せたわけではない。不必要に触らないように」
「分かった」
「それと、彼が急変したらすぐ知らせて」
そう言って窓を指す。窓にはエレンが作成した呼び鈴があった。
「これを鳴らすといい」
「分かった」
「後で食事を用意する」
「ありがとう……」
ジェイはそう言うと涙を流した。
(魔力に近い力……)
現にユリアーナにもそれが発現する気配がない。
人間には必要なくなるのかもしれない、力。その力によって、この国は守られてきたのだ。
「ユリアーナ」
ソファーで魔術書を読んでいたユリアーナに声をかける。
「お客さんが来るから自分の部屋へお行き」
森が客を招き入れたことを感じ取ったエレンは、ユリアーナが広げていた魔術書を片付け始める。
「はい」
魔術書を手渡し、ユリアーナを2階へと押しやる。今日の客はユリアーナと対面させるわけにはいかない。心のどこかで感じていた。
2階に上がったのを確認して、階段を消した。始めっから1階だけの小屋だと、錯覚させる為の魔術を施す。
(なんとなく、ユリアーナと会わせてはいない気がする)
それはエレンの直感だった。
程なくして、小屋のドアをノックする音が聞こえた。エレンはそっとドアを開ける。そこには血だらけの兵士がふたりいた。鎧についている紋章からして、スティール王国の兵士だ。
「た、助けて…くだ……さい」
ひとりの兵士がもうひとりを抱えてる状態で、ここまで逃げてきたのだろう。血だらけの兵士の意識が、遠くの方へと向かっている。抱えてきた兵士は、この血だらけの兵士を助けたいが為にここまで来たのだ。
「中へ」
ふたりを中へ入れると、小屋に結界を張る。
硬い床に兵士を寝転がせ、その兵士をじっと見る。
(命が尽きようとしている)
こんな姿の兵士をまだ6歳のユリアーナには見せられない。2階に上がらせて正解だと思った。
「敵国にやられたのか?」
エレンは連れてきた兵士に訊ねる。
「そうだ」
連れてきた兵士も左腕を矢で負傷している。瀕死の兵士は腕だけではなく、腹や背中にも大きな切り傷があった。
「ここに来るまでよく持ったなぁ」
エレンはそう言うと、戸棚から薬箱を出す。中にはたくさんの薬が入っていて、その中のひとつの瓶を取り出した。
青いキレイな色をした液体。ユリアーナが作ったセレスの薬だ。完成した後、使いやすいように小瓶に移して薬箱に入れておいたものだ。それを傷口にかけると、兵士は「う……っ!」と呻き声を上げた。
セレスの薬瓶が空になるくらい傷口は広く深い。セレスの薬は傷によく効くが、これだけの傷に効くかエレンでも分からなかった。
「あ、あの……」
腕を負傷した兵士が心配そうに瀕死の兵士を心配している。見たこともない青い液体を不審がってるのを感じた。
「これはセレスの薬。傷を癒す力があるのだ」
そしてエレンは兵士の腕を掴み、この兵士にもセレスの薬を振りかけた。
瀕死の兵士と腕を負傷した兵士に、惜しみ無くセレスの薬を使った。小瓶5、6本は使った。
腕を負傷した兵士の傷は、セレスの薬で塞がり痛みもなくなった。だが、瀕死の兵士の方はまだ傷口は塞がらない。広範囲に渡って傷があるからなのか、なかなか塞がらないのだ。
(無理……かな)
瀕死の兵士を見ては、考え込む。兵士の傷はゆっくりと塞がっていくのは見てとれる。だが、それは本当にゆっくりだった。
「助かりますか?」
腕に傷追った兵士が言う。この者にとって、大事な友なのだろう。酷く不安で心配そうな顔をしている。
「さあな。この薬は傷を癒すことが出来るといっても、ここまで酷い傷はどうなのか……」
「あなたの魔法でなんとか出来ないんですか!」
焦ってる兵士はエレンに詰め寄る。
「魔法で治すことが出来ても一時的だ。人の寿命は産まれた時に決められてる。それを永らえるかどうかは、その人の生き方による。その人の生に対する執念によるのだ」
それを聞いていた兵士が悔し涙を流した。
「じゃ……、こいつは、助からない…?」
「それはこの者の思いによる。私はそれを手助けるだけ。魔法だって人の寿命に関与出来ない」
寿命を操作出来ないのだ。ワドロフスキーの場合は、この森の魔力によって永く生き永らえた。それはこの森がワドロフスキーを選んだからだ。
だが、この兵士はどうだろう。森が引き入れたのかもしれないが、生かしてくれるだろうか。
◇◇◇◇◇
カタン。2階から音がした。ユリアーナが何かをしている。兵士はその音に驚いて天井を見上げる。
「何もない」
エレンはそう言うと倒れてる兵士を見る。
(このままここに置いておくわけにはいかないな)
立ち上がり小屋の外に出る。エレンの小屋の隣、エレンの母親の小屋を開ける。魔法でライトを照らすと薄暗かった小屋が明るくなった。母親の小屋は、人気がないだけではなく、いつも暗い。昼間でも外の光は入っては来ないのだ。
(母様の魔法かな)
暗いのはエレンの母親の魔法のせいだと感じている。肉体はなくとも、母親がそこにいて誰も近寄らないようにしているのかもしれない。
「母様」
誰もいない小屋に声をかける。小屋に響くエレンの声に、シェリーの魂が呼び起こされた。
《エレン》
シェリーの声と共にぽわぁんと姿を現した。煙がかったその姿は、普通の人間は見ることは出来ないだろう。
「この国の兵士が傷付いてここまで来たの。暫くこの家で過ごさせてもいい?」
エレンが魂にそう言うとシェリーはゆっくりと頷いた。
《この家はもうあなたのもの。好きに使いなさい。ただ魔力があるものがたくさんあるから、普通の人間には触らせないように》
そう言うとスーッと消えていなくなった。
エレンはシェリーの家を出ると、ホエールを呼び出した。どこにいても呼ばれればやってくるホエールは、すっ飛んで来た。
「傷付いた兵士を母様の家に寝かせる。手伝え」
そう言うとホエールを引きずり、シェリーの家に入る。シェリーが使っていた寝室とは別の部屋に、使われたことのないベッドが置いてある。そこには子供向けのオモチャや、魔道具などがあった。それはきっとエレンの為だろう。いつかエレンと過ごしたいと考えて置いてあったのだと。
その部屋の魔力が強いものを別の部屋に移し、1階にある魔力の強いものも、別の部屋に移していった。
そしてエレンの小屋へ戻りふたりを連れてシェリーの家へと入った。
ホエールは瀕死の兵士を抱えて、ブツブツと文句を言ってる。その度にエレンに睨まれ、大人しくなる。
2階の部屋に兵士を寝かせると、腕を負傷した兵士に振り返る。
「あんた、名前は?」
「ジェイ」
「ジェイ。この家にあるものは魔力がある。魔力が強い物は奥の部屋に移したが、全て移せたわけではない。不必要に触らないように」
「分かった」
「それと、彼が急変したらすぐ知らせて」
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