紅い薔薇 蒼い瞳 特別編

星河琉嘩

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ほんとは好きなだけなのに

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 次の日。
 私は学校に遅れて行った。


 昨夜、髪の色をオレンジ色にした。なんでオレンジ色なのか、分からない。
 ただ昨日の夕陽が、キレイなオレンジ色だったから。


 今までひとつに束ねていた髪は下ろして、スカートはこれでもかってくらいに短くした。そんな私が、生徒達の目にはどう映るのか分かってる。
 それでもなんで、私がそんな格好をしているのかって。


 それはヨシキに近付きたいから。


 でも。
 私が起こした行動は、自分とは思っていた行動とは全くの別の行動だった。



      ◆◆◆◆◆



 ガラッ!


 教室のドアを開けると、クラスメート達がこっちに視線を向ける。
 その視線が痛い。
 でも私はその視線を無視して、教室の中へ入って行く。


 そしてベランダ側の方へと目を向けた。ベランダ側の席では、シュンくんとヨシキと、隣のクラスのカズキが話をしていた。
 その3人がいる席へ、ズカズカと歩いて行く。私に気付いたシュンくんが、一度私を見た。
 私の姿にびっくりして!目を丸くする。そしてヨシキもカズキも、びっくりしていた。


「シュンくん」
 私はシュンくんに声をかけていた。
 ヨシキではなく、シュンくんにだ。


「あたし……」
 そう言葉を口にしようとした時、シュンくんが私に言った。


「話しかけんな」
 それはもう、関係ないって言っていて。
 それが悲しかった。
 でも私は自分を止められなかった。


「別れない」
 その言葉に、シュンくんは眉間に皺を寄せた。
「私、別れない」
「……んだとッ!」
 声を荒げたシュンくんは、クラスメート達の注目の的だった。





「私、別れないッ!」




 私は叫んでいた。


 別れない。
 別れるとヨシキといられなくなる。
 だから別れない。


 じっとシュンくんを見る。
 そのまま私は続ける。
「私、ヨシキが好きよ。それは認める。だけどシュンくんとは別れたくないの」
 その言葉に、クラス中がざわついたのを感じた。そして私は、シュンくんを傷つける言葉を口にした。



「だって。シュンくんと一緒にいれば、ヨシキの傍にいられるでしょ」



 その言葉に、シュンくんの怒りはMAXになった。でも私はお構いなしだった。
 ヨシキもカズキもわけ分からないって顔をしていたけど、関係ない。私は私の欲望の為にしか、動くことしか出来ないんだから。


「お前とは別れるっつたろ」
 低い冷たい声。それでも昨日聞いたよりは、怖くはなかった。
「嫌よ。私は別れない。もし、別れるって言うなら……」
 私はそう言って、制服のポケットからあるモノを取り出していた。それは教室に入り込んだ、太陽の光に反射して眩しく光る。そのモノを自分の方に向けて、シュンくんに笑った。



 クラス中が悲鳴を上げた。
 それは分かる。
 でも客観的にそれを聞いていた。




「シュンくんが別れるっていうなら、私、ここで死ぬから……」




 私はそう言って、首筋にそのモノを当てた。首筋からは、真っ赤な鮮血が流れ出ていた。







「「「マミッ!」」」






 シュンくんの声とヨシキとカズキの声。クラスメートたちの悲鳴。
 それが遠くで聞こえた気がした。



      ◆◆◆◆◆



 気付いたら病室のベットの上だった。



 首元には、包帯が巻かれていた。そして傍にはユリ先輩がいた。
「バカッ」
 ユリ先輩は私の部の先輩。ヨシキとカズキのお姉さんだけど、部の先輩。
「あんた、何してんの!」
 私の為に怒鳴ってくれる、唯一の先輩ひと


「ユリ先輩……」
 名前を呼ぶと、険しい顔をしたユリ先輩が私を抱きしめてくれた。
「もう二度と、んなことすんじゃねぇよっ」
 ヤンキーな先輩の言葉遣いは悪くて、でも時折、本来の先輩が出る。



 優しい先輩が見えてくる。




「あんた、ヨシキが好きだったんだ」
 そう言う先輩に「はい」と言う。
「先輩」
「ん」
「あたし、ヨシキの傍を離れたくないんです」
 そう口にしていた。




「だから、あたしを青薔薇に入れて」




 ユリ先輩は暴走連合【黒龍】の傘下、青薔薇に属してる。だからユリ先輩にそう言っていた。
「ヨシキの傍にいたいから?」
「はい」
「あんた、青薔薇ってどんなことでもすんだよ?」
「はい」
「人を傷つけんだよ?」
「はい」
「それでも、ヨシキの傍にいたいのかよ」
「はい」


 ため息を吐いたユリ先輩が、私を見た。
「マミ。約束しろ」
 先輩が私に言った言葉。
「もう二度と、シュンイチを傷つけるな。仲間を傷つけるな」



 族は人を傷つける。
 でも、仲間は傷つけない。


 だから言った言葉だった。



 ユリ先輩とそう約束して、私は青薔薇に入った。
 そしてと呼んでいたのを、と呼び方を変えた。そう呼べと言われたから。
 そして私は、ヨシキの傍にいられるようになった。シュンくん達を説得したのは、ユリだった。だから初め良い顔しなかったシュンくんは、ユリに言われてなのか私を中に入れてくれた。




 私はただ好きなだけ。
 ヨシキを好きなだけなの。



 そのまま2年になり、ヨシキとクラスが離れた。それでも屋上でみんなと授業をサボっていたり、放課後遊んでいたりしたから、離れても寂しくはなかった。


 3年生のユリは受験があるのに、一緒になって遊んでくれた。
 季節が過ぎ、ユリは高校生になった。
 私もユリと同じ高校へ行こうと決めていた。
 ユリがいなかったら、ヨシキの傍にいられなかったから。




 好きなだけなの。
 本当に好きなだけなの。
 だからこんなにも傷つけるなんて思わなかった。





 ねぇ。
 だから振り向いてよ。


 どんなんでもいいの。
 私を見て欲しいだけ。


 いつか私に触れてくれるその日まで、私は待つから。




 ねぇ、ヨシキ……。






 END
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