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龍と桜
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「おい、桜」
妹の部屋に勝手に入り、顔を見る。最近桜は、俺が部屋に入ることを嫌がる。
「勝手に入って来ないでよ、お兄ちゃんッ!」
可愛らしい声で叫ぶ桜が、愛しくて仕方ない。ぷくっと触れた頬に、プスッと指で突く。
「そんな顔すんなよ、桜」
顔を覗き込み、桜の顔を真直で見る。俺はこの瞬間が好きだ。
シスコンだって言われてもいい。
実際、そうだし。
桜は世界で一番可愛いと思ってる。
桜と付き合う男は、俺が認めたヤツじゃないとダメだ。
そう決めている。
「もう、いいから出て行ってよッ!」
部屋から追い出そうと、俺を押してくる桜。
「いいじゃん、桜」
俺はそれでも桜の部屋に入ろうと、頑張ってみる。
3つ下の妹の桜は、本当に可愛くて仕方ない。こんな俺が、頬が緩む瞬間といえば桜と一緒にいる時だろう。
「ママー!お兄ちゃんが部屋に勝手に入って来る~!」
桜は階下にいる母親に、助けを求めていた。そんな桜に負けを認めたフリをして、俺は自分の部屋に戻って行く。
俺、大野龍。
高校2年。
暴走連合黒龍の面子だ。
桜は俺が、黒龍にいることは知らない筈だ。話してもいないし、桜が夜出歩くことはしない。
だから知らない。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
うちは母子家庭だ。父さんは俺が小学校の時に、癌で死んだ。母さんと桜と3人で、父さんが残した家に住んでる。
桜の記憶の中には、父さんはどんな風に残ってるのかは知らない。ただ俺の中の父さんの姿は、薄れていってる。それが自分自身、嫌で仕方なくてどうにもならなくて、俺は夜の街に出る。
今日もまた繁華街に繰り出していた。
「龍!」
振り返ると、そこには繁華街で知り合ったユウキがいた。ユウキとは同じ歳だが、どこの誰かなんて知らない。
ただ繁華街では有名なヤツだった。
「ユウキ、また女と一緒か?」
ニカッと笑ってユウキを見る。ユウキの隣には派手な女が、ユウキの腕に纏わりついていた。
「そういうお前はまたひとりか?女、紹介してやっか?」
ユウキはそう嫌味を言う。
コイツはそういうヤツだった。いろんな女と関係を持つ。それも何人ものの女と、その日限りの関係を。
「遠慮しとく。俺、まだ女に刺されたくねぇし」
俺はそう言うと、ユウキに手を振って歩いて行く。
繁華街では喧嘩があちこちで起こっていた。それをみんな笑いながら見ている。止めるやつなんていない。
「やれー!!」
「そこだッ!」
野次馬の声が響く、広場の方を歩いていた。そこで喧嘩していたのは、カズキさんだった。
俺が憧れているカズキさん。
ここら一帯を支配する、「黒龍」のキングの弟。ナンバー3のカズキさん。カズキさんの双子の兄、ヨシキさんがキングだ。ナンバー2は、シュンイチさんっていって喧嘩が滅法強い人。
この3人はいつも一緒にツルんでいた。俺が知ってる限り、いつも一緒だった。
喧嘩を見物していた俺は、カズキさんと目が合った。
そして俺にニヤと笑うと、相手にカウンターを食らわし喧嘩に勝ってしまった。
ま、そう簡単に負ける人じゃねぇけど。
「カズキさん」
「よう龍」
唇を切ったのか、血が流れていた。それを手の甲で拭うと、俺に財布を渡した。
「飲みもん、買って来いや。ビールがいいな。ここで飲もうぜ」
いつもそうやって俺をパシリに使うけど、俺はこの人に憧れている。
俺はカズキさんの財布を手に、コンビニまで行く。この繁華街のコンビニは、ヤンキーの溜まり場だった。そこでバイトしてるヤツも、そういうヤツだし。店長は昔、ヤバイことやってたんじゃねぇかっていうヤツ。
──この繁華街は荒んでいる。
コンビニでビールを数本買って、カズキさんが待つ広場まで戻る。するとまたそこで喧嘩が始まっていた。
「カズキさん」
喧嘩しているのは、やっぱりカズキさんだった。喧嘩しているやつに、声かけるのもどうかと思ったっけど。
「龍!加勢しろや」
カズキさんがそう言うから、俺はコンビニの袋を地面に置き、着ていたスタジャンを脱いだ。結構気に入ってるもんだから、汚れるのは嫌だった。
カズキさんと喧嘩してるのは、結構な大男だった。それに加え、カズキさんは細腕。見た目はそんな感じだ。
けど、カズキさんは意外と筋肉がある人だ。
ドカッ!
カズキさんは喧嘩相手に蹴りを食らわして、俺がそいつにパンチを食らわした。相手は見た事もないヤツだった。
ここら辺のやつじゃないのは、一目瞭然だった。
数分行われてた喧嘩は、俺達の勝利で終わった。2対1で卑怯だと思ったけど、カズキさんが加勢しろと言ったからなぁ。
「乾杯ッ!」
ぬるくなったビールを、広場で飲み始めた。
「アイツ、なんなんっすか?」
俺はそう聞いていた。
見た事もないヤツ。初めて見る顔だった。
「知らん」
カズキさんはそう言いながら、2本目のビールを開ける。
「ここらも今、ヤバイからなぁ」
「BTのことっすか」
「ああ」
今黒龍の幹部は、BTのことで手一杯だった。
黒龍だけじゃない。暴走連合の幹部たちが、BTのことで手一杯なんだ。
「カズキさんも一応、幹部なのにこんなところで喧嘩してていいんっすか」
「いいんだよ」
ポカッと頭を軽く叩かれた。
「今は喧嘩してぇ気分なんだ」
ビールを5本も空けてるカズキさんは、ポツリと呟いた。
「昔惚れた女を、捕まえなきゃなんねぇんだよ。それでも今惚れてる女は、ヨシキの女だしな。その女の為に、昔惚れた女を捕まえるんだよ」
酔った勢いでか、俺にそう言った。
「なぁ、龍よ」
カズキさんは俺に言う。
「俺はどうしたらいいんだ?」
その問いに俺は答えられなかった。
カズキさんは胸を痛めていた。それが分かるくらい、せつないことだった。
妹の部屋に勝手に入り、顔を見る。最近桜は、俺が部屋に入ることを嫌がる。
「勝手に入って来ないでよ、お兄ちゃんッ!」
可愛らしい声で叫ぶ桜が、愛しくて仕方ない。ぷくっと触れた頬に、プスッと指で突く。
「そんな顔すんなよ、桜」
顔を覗き込み、桜の顔を真直で見る。俺はこの瞬間が好きだ。
シスコンだって言われてもいい。
実際、そうだし。
桜は世界で一番可愛いと思ってる。
桜と付き合う男は、俺が認めたヤツじゃないとダメだ。
そう決めている。
「もう、いいから出て行ってよッ!」
部屋から追い出そうと、俺を押してくる桜。
「いいじゃん、桜」
俺はそれでも桜の部屋に入ろうと、頑張ってみる。
3つ下の妹の桜は、本当に可愛くて仕方ない。こんな俺が、頬が緩む瞬間といえば桜と一緒にいる時だろう。
「ママー!お兄ちゃんが部屋に勝手に入って来る~!」
桜は階下にいる母親に、助けを求めていた。そんな桜に負けを認めたフリをして、俺は自分の部屋に戻って行く。
俺、大野龍。
高校2年。
暴走連合黒龍の面子だ。
桜は俺が、黒龍にいることは知らない筈だ。話してもいないし、桜が夜出歩くことはしない。
だから知らない。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
うちは母子家庭だ。父さんは俺が小学校の時に、癌で死んだ。母さんと桜と3人で、父さんが残した家に住んでる。
桜の記憶の中には、父さんはどんな風に残ってるのかは知らない。ただ俺の中の父さんの姿は、薄れていってる。それが自分自身、嫌で仕方なくてどうにもならなくて、俺は夜の街に出る。
今日もまた繁華街に繰り出していた。
「龍!」
振り返ると、そこには繁華街で知り合ったユウキがいた。ユウキとは同じ歳だが、どこの誰かなんて知らない。
ただ繁華街では有名なヤツだった。
「ユウキ、また女と一緒か?」
ニカッと笑ってユウキを見る。ユウキの隣には派手な女が、ユウキの腕に纏わりついていた。
「そういうお前はまたひとりか?女、紹介してやっか?」
ユウキはそう嫌味を言う。
コイツはそういうヤツだった。いろんな女と関係を持つ。それも何人ものの女と、その日限りの関係を。
「遠慮しとく。俺、まだ女に刺されたくねぇし」
俺はそう言うと、ユウキに手を振って歩いて行く。
繁華街では喧嘩があちこちで起こっていた。それをみんな笑いながら見ている。止めるやつなんていない。
「やれー!!」
「そこだッ!」
野次馬の声が響く、広場の方を歩いていた。そこで喧嘩していたのは、カズキさんだった。
俺が憧れているカズキさん。
ここら一帯を支配する、「黒龍」のキングの弟。ナンバー3のカズキさん。カズキさんの双子の兄、ヨシキさんがキングだ。ナンバー2は、シュンイチさんっていって喧嘩が滅法強い人。
この3人はいつも一緒にツルんでいた。俺が知ってる限り、いつも一緒だった。
喧嘩を見物していた俺は、カズキさんと目が合った。
そして俺にニヤと笑うと、相手にカウンターを食らわし喧嘩に勝ってしまった。
ま、そう簡単に負ける人じゃねぇけど。
「カズキさん」
「よう龍」
唇を切ったのか、血が流れていた。それを手の甲で拭うと、俺に財布を渡した。
「飲みもん、買って来いや。ビールがいいな。ここで飲もうぜ」
いつもそうやって俺をパシリに使うけど、俺はこの人に憧れている。
俺はカズキさんの財布を手に、コンビニまで行く。この繁華街のコンビニは、ヤンキーの溜まり場だった。そこでバイトしてるヤツも、そういうヤツだし。店長は昔、ヤバイことやってたんじゃねぇかっていうヤツ。
──この繁華街は荒んでいる。
コンビニでビールを数本買って、カズキさんが待つ広場まで戻る。するとまたそこで喧嘩が始まっていた。
「カズキさん」
喧嘩しているのは、やっぱりカズキさんだった。喧嘩しているやつに、声かけるのもどうかと思ったっけど。
「龍!加勢しろや」
カズキさんがそう言うから、俺はコンビニの袋を地面に置き、着ていたスタジャンを脱いだ。結構気に入ってるもんだから、汚れるのは嫌だった。
カズキさんと喧嘩してるのは、結構な大男だった。それに加え、カズキさんは細腕。見た目はそんな感じだ。
けど、カズキさんは意外と筋肉がある人だ。
ドカッ!
カズキさんは喧嘩相手に蹴りを食らわして、俺がそいつにパンチを食らわした。相手は見た事もないヤツだった。
ここら辺のやつじゃないのは、一目瞭然だった。
数分行われてた喧嘩は、俺達の勝利で終わった。2対1で卑怯だと思ったけど、カズキさんが加勢しろと言ったからなぁ。
「乾杯ッ!」
ぬるくなったビールを、広場で飲み始めた。
「アイツ、なんなんっすか?」
俺はそう聞いていた。
見た事もないヤツ。初めて見る顔だった。
「知らん」
カズキさんはそう言いながら、2本目のビールを開ける。
「ここらも今、ヤバイからなぁ」
「BTのことっすか」
「ああ」
今黒龍の幹部は、BTのことで手一杯だった。
黒龍だけじゃない。暴走連合の幹部たちが、BTのことで手一杯なんだ。
「カズキさんも一応、幹部なのにこんなところで喧嘩してていいんっすか」
「いいんだよ」
ポカッと頭を軽く叩かれた。
「今は喧嘩してぇ気分なんだ」
ビールを5本も空けてるカズキさんは、ポツリと呟いた。
「昔惚れた女を、捕まえなきゃなんねぇんだよ。それでも今惚れてる女は、ヨシキの女だしな。その女の為に、昔惚れた女を捕まえるんだよ」
酔った勢いでか、俺にそう言った。
「なぁ、龍よ」
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「俺はどうしたらいいんだ?」
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