紅い薔薇 蒼い瞳 特別編

星河琉嘩

文字の大きさ
20 / 52
龍と桜

1

しおりを挟む
「おい、桜」
 妹の部屋に勝手に入り、顔を見る。最近桜は、俺が部屋に入ることを嫌がる。
「勝手に入って来ないでよ、お兄ちゃんッ!」
 可愛らしい声で叫ぶ桜が、愛しくて仕方ない。ぷくっと触れた頬に、プスッと指で突く。
「そんな顔すんなよ、桜」
 顔を覗き込み、桜の顔を真直で見る。俺はこの瞬間が好きだ。
 シスコンだって言われてもいい。
 実際、そうだし。
 桜は世界で一番可愛いと思ってる。
 桜と付き合う男は、俺が認めたヤツじゃないとダメだ。
 そう決めている。

「もう、いいから出て行ってよッ!」
 部屋から追い出そうと、俺を押してくる桜。
「いいじゃん、桜」
 俺はそれでも桜の部屋に入ろうと、頑張ってみる。
 3つ下の妹の桜は、本当に可愛くて仕方ない。こんな俺が、頬が緩む瞬間といえば桜と一緒にいる時だろう。

「ママー!お兄ちゃんが部屋に勝手に入って来る~!」
 桜は階下したにいる母親に、助けを求めていた。そんな桜に負けを認めたフリをして、俺は自分の部屋に戻って行く。


 俺、大野龍。
 高校2年。
 暴走連合の面子だ。


 桜は俺が、にいることは知らない筈だ。話してもいないし、桜が夜出歩くことはしない。
 だから知らない。



     ◊ ◊ ◊ ◊ ◊



 うちは母子家庭だ。父さんは俺が小学校の時に、癌で死んだ。母さんと桜と3人で、父さんが残した家に住んでる。
 桜の記憶の中には、父さんはどんな風に残ってるのかは知らない。ただ俺の中の父さんの姿は、薄れていってる。それが自分自身、嫌で仕方なくてどうにもならなくて、俺は夜の街に出る。


 今日もまた繁華街に繰り出していた。
「龍!」
 振り返ると、そこには繁華街で知り合ったユウキがいた。ユウキとは同じ歳だが、どこの誰かなんて知らない。
 ただ繁華街では有名なヤツだった。
「ユウキ、また女と一緒か?」
 ニカッと笑ってユウキを見る。ユウキの隣には派手な女が、ユウキの腕にまつわりついていた。
「そういうお前はまたひとりか?女、紹介してやっか?」
 ユウキはそう嫌味を言う。
 コイツはそういうヤツだった。いろんな女と関係を持つ。それも何人ものの女と、その日限りの関係を。
「遠慮しとく。俺、まだ女に刺されたくねぇし」
 俺はそう言うと、ユウキに手を振って歩いて行く。
 繁華街では喧嘩があちこちで起こっていた。それをみんな笑いながら見ている。止めるやつなんていない。


「やれー!!」
「そこだッ!」


 野次馬の声が響く、広場の方を歩いていた。そこで喧嘩していたのは、カズキさんだった。
 俺が憧れているカズキさん。
 ここら一帯を支配する、「黒龍」のキングの弟。ナンバー3のカズキさん。カズキさんの双子の兄、ヨシキさんがキングだ。ナンバー2は、シュンイチさんっていって喧嘩が滅法強い人。
 この3人はいつも一緒にツルんでいた。俺が知ってる限り、いつも一緒だった。


 喧嘩を見物していた俺は、カズキさんと目が合った。
 そして俺にニヤと笑うと、相手にカウンターを食らわし喧嘩に勝ってしまった。
 ま、そう簡単に負ける人じゃねぇけど。


「カズキさん」
「よう龍」
 唇を切ったのか、血が流れていた。それを手の甲で拭うと、俺に財布を渡した。
「飲みもん、買って来いや。ビールがいいな。ここで飲もうぜ」
 いつもそうやって俺をパシリに使うけど、俺はこの人に憧れている。


 俺はカズキさんの財布を手に、コンビニまで行く。この繁華街のコンビニは、ヤンキーの溜まり場だった。そこでバイトしてるヤツも、そういうヤツだし。店長は昔、ヤバイことやってたんじゃねぇかっていうヤツ。


 ──この繁華街は荒んでいる。


 コンビニでビールを数本買って、カズキさんが待つ広場まで戻る。するとまたそこで喧嘩が始まっていた。
「カズキさん」
 喧嘩しているのは、やっぱりカズキさんだった。喧嘩しているやつに、声かけるのもどうかと思ったっけど。


「龍!加勢しろや」
 カズキさんがそう言うから、俺はコンビニの袋を地面に置き、着ていたスタジャンを脱いだ。結構気に入ってるもんだから、汚れるのは嫌だった。
 カズキさんと喧嘩してるのは、結構な大男だった。それに加え、カズキさんは細腕。見た目はそんな感じだ。
 けど、カズキさんは意外と筋肉がある人だ。



 ドカッ!


 カズキさんは喧嘩相手に蹴りを食らわして、俺がそいつにパンチを食らわした。相手は見た事もないヤツだった。
 ここら辺のやつじゃないのは、一目瞭然だった。
 数分行われてた喧嘩は、俺達の勝利で終わった。2対1で卑怯だと思ったけど、カズキさんが加勢しろと言ったからなぁ。


「乾杯ッ!」
 ぬるくなったビールを、広場で飲み始めた。
「アイツ、なんなんっすか?」
 俺はそう聞いていた。
 見た事もないヤツ。初めて見る顔だった。
「知らん」
 カズキさんはそう言いながら、2本目のビールを開ける。
「ここらも今、ヤバイからなぁ」
「BTのことっすか」
「ああ」
 今黒龍の幹部は、BTのことで手一杯だった。
 黒龍だけじゃない。暴走連合の幹部たちが、BTのことで手一杯なんだ。
「カズキさんも一応、幹部なのにこんなところで喧嘩してていいんっすか」
「いいんだよ」
 ポカッと頭を軽く叩かれた。
「今は喧嘩してぇ気分なんだ」
 ビールを5本も空けてるカズキさんは、ポツリと呟いた。
「昔惚れた女を、捕まえなきゃなんねぇんだよ。それでも今惚れてる女は、ヨシキの女だしな。その女の為に、昔惚れた女を捕まえるんだよ」
 酔った勢いでか、俺にそう言った。


「なぁ、龍よ」
 カズキさんは俺に言う。
「俺はどうしたらいいんだ?」
 その問いに俺は答えられなかった。
 カズキさんは胸を痛めていた。それが分かるくらい、せつないことだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

処理中です...