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龍と桜
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その噂を聞いたのは、BTとの最後の戦いが迫っていた頃だった。俺は家にも帰らず、喧嘩の準備の為に走り回っていた。
「龍!」
繁華街でカズキさんと一緒に歩いていた時、後ろから女を連れて歩いているユウキに出会った。
「あ、カズキさんも一緒でしたか」
ユウキはカズキさんにそう言うと、ペコッと頭を下げた。
「聞きました?」
とユウキがカズキさんに言う。
「今、この周辺で女共が襲われてるって話」
「え」
カズキさんと俺は顔色が変わった。
また、リナさんが襲われるんじゃないかっていう不安が過った。それはカズキさんも同じで、険しい顔をしていた。
「BTの下っ端が、派手に暴れてるようだぜ」
俺を見て言うユウキは、人事のように言った。
「黒龍は……、どうするんですか?放っとくつもりっすか?」
「……ヨシキたちは忙しいからなぁ」
カズキさんが考え込んだ理由は分かってる。BTとの最後の決戦が、近付いているから。
「下っ端達に任せましょうか?」
俺はそう言った。その言葉に、カズキさんは俺を見てニヤッと笑った。
「じゃ、お前が指揮を取れ」
カズキさん直々にそう言われた俺は、嬉しくてしょうがない。まさかそんな大役を任されるとは思ってもいなくて、だから俺は気付くことはなかった。
妹の桜の身に危険が迫ってること。
そもそも妹がこの界隈に、夜姿を現すことなんてなかったから、安心しきっていたんだ。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
カズキさんと別れた俺は、ユウキとビールを飲みながら繁華街を歩いていた。ユウキは常に女に不自由してなくて、羨ましく思う。歩いているだけで女が声をかけてくる。それでもユウキは気に入った女じゃなきゃ、それに応えることはないが。
「なぁ、お前どこで噂聞いてきたんだ?」
ゴクッとビールと喉に流し込んで、ユウキを振り返る。右手の指には煙草が挟まれていて、左手には缶ビールを持ってる。その缶ビールを口につけかけて、こっちを見たユウキは「あ?」と声を出す。
「だから女共が襲われてるって話」
「……ああ」
ユウキはそう言うと缶ビールを飲み干し、その空き缶を街中に設置されてるゴミ箱に放り投げた。カンッ!という音を立てて、ゴミ箱に入った空き缶を見つめながら、ユウキは歩く。
「俺はこの繁華街の住人だぜ。知らないことはねぇよ」
そう言って煙草を咥えた。そのひとつひとつの行動が、男の俺でも見惚れてしまうくらいスマートだ。
「お前んとこ、妹、いんだろ」
不意にそう言われた俺は、ドキッとした。何故かそうなった。
「気をつけるように言っとけよ」
忠告される。
俺にとって桜は、誰にも渡したくねぇくらい可愛い妹だ。つい虐めてしまいたくなるくらい、可愛い。
「妹はこの時間、家にいるよ。塾だって、こことは正反対の場所だ」
俺は油断していた。その油断があんな事件を巻き起こした。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
下っ端たちを連れて、この繁華街を練り歩くようになって数日。何度も路地で、女共が襲われかけてるのを目撃する。その度に下っ端を使って助けさせる。
一度ヤラれてるとこを目撃してしまって、マジでどうしようかと思ったくらいだ。
あんな現場は見たくねぇもんだ。
女の叫び声が耳に痛い。
それが桜だったらどうしようかと、考えるだけで嫌だった。
「ま、あり得ねぇけどな」
ポツリと呟いた俺に、不審そうに見る下っ端。その下っ端に「なんでもねぇよ」と言う。
繁華街の一角に立ってると、いろんな人種がいるのが分かる。
クスリ売ってるヤツ。
身体を売る女。
ナンパ待ちしてる女。
女を物色している男。
黒龍が支配しているこの繁華街だって、分かってるのかってくらい荒れている。
「昼間の顔と違うな」
煙草に火をつけて歩き出した俺に、聞こえた悲鳴。その悲鳴に胸騒ぎがした。
妹の声とダブって聞こえた。
まさか、ここにいるとは考えられなかったが。
桜は俺とは正反対。真面目で優等生。道を外すなんてことはあり得ない。
それが桜だ。
そんな桜とユウキが、出会うことも考えられなかったから、人づてにその話を聞いた時、マジで驚いた。
いつもいろんな女といるユウキ。
チャラチャラしたユウキ。
見た目カッコイイけど、いかにもヤンキーっていう風貌。
それなのに、桜はなんでユウキを選んだんだろう。
マジで不思議に思う。
俺の桜が、他の男のもんになるんて思ってもいなかった。その相手がユウキだなんて、信じられなかった。
「龍!」
繁華街でカズキさんと一緒に歩いていた時、後ろから女を連れて歩いているユウキに出会った。
「あ、カズキさんも一緒でしたか」
ユウキはカズキさんにそう言うと、ペコッと頭を下げた。
「聞きました?」
とユウキがカズキさんに言う。
「今、この周辺で女共が襲われてるって話」
「え」
カズキさんと俺は顔色が変わった。
また、リナさんが襲われるんじゃないかっていう不安が過った。それはカズキさんも同じで、険しい顔をしていた。
「BTの下っ端が、派手に暴れてるようだぜ」
俺を見て言うユウキは、人事のように言った。
「黒龍は……、どうするんですか?放っとくつもりっすか?」
「……ヨシキたちは忙しいからなぁ」
カズキさんが考え込んだ理由は分かってる。BTとの最後の決戦が、近付いているから。
「下っ端達に任せましょうか?」
俺はそう言った。その言葉に、カズキさんは俺を見てニヤッと笑った。
「じゃ、お前が指揮を取れ」
カズキさん直々にそう言われた俺は、嬉しくてしょうがない。まさかそんな大役を任されるとは思ってもいなくて、だから俺は気付くことはなかった。
妹の桜の身に危険が迫ってること。
そもそも妹がこの界隈に、夜姿を現すことなんてなかったから、安心しきっていたんだ。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
カズキさんと別れた俺は、ユウキとビールを飲みながら繁華街を歩いていた。ユウキは常に女に不自由してなくて、羨ましく思う。歩いているだけで女が声をかけてくる。それでもユウキは気に入った女じゃなきゃ、それに応えることはないが。
「なぁ、お前どこで噂聞いてきたんだ?」
ゴクッとビールと喉に流し込んで、ユウキを振り返る。右手の指には煙草が挟まれていて、左手には缶ビールを持ってる。その缶ビールを口につけかけて、こっちを見たユウキは「あ?」と声を出す。
「だから女共が襲われてるって話」
「……ああ」
ユウキはそう言うと缶ビールを飲み干し、その空き缶を街中に設置されてるゴミ箱に放り投げた。カンッ!という音を立てて、ゴミ箱に入った空き缶を見つめながら、ユウキは歩く。
「俺はこの繁華街の住人だぜ。知らないことはねぇよ」
そう言って煙草を咥えた。そのひとつひとつの行動が、男の俺でも見惚れてしまうくらいスマートだ。
「お前んとこ、妹、いんだろ」
不意にそう言われた俺は、ドキッとした。何故かそうなった。
「気をつけるように言っとけよ」
忠告される。
俺にとって桜は、誰にも渡したくねぇくらい可愛い妹だ。つい虐めてしまいたくなるくらい、可愛い。
「妹はこの時間、家にいるよ。塾だって、こことは正反対の場所だ」
俺は油断していた。その油断があんな事件を巻き起こした。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
下っ端たちを連れて、この繁華街を練り歩くようになって数日。何度も路地で、女共が襲われかけてるのを目撃する。その度に下っ端を使って助けさせる。
一度ヤラれてるとこを目撃してしまって、マジでどうしようかと思ったくらいだ。
あんな現場は見たくねぇもんだ。
女の叫び声が耳に痛い。
それが桜だったらどうしようかと、考えるだけで嫌だった。
「ま、あり得ねぇけどな」
ポツリと呟いた俺に、不審そうに見る下っ端。その下っ端に「なんでもねぇよ」と言う。
繁華街の一角に立ってると、いろんな人種がいるのが分かる。
クスリ売ってるヤツ。
身体を売る女。
ナンパ待ちしてる女。
女を物色している男。
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まさか、ここにいるとは考えられなかったが。
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そんな桜とユウキが、出会うことも考えられなかったから、人づてにその話を聞いた時、マジで驚いた。
いつもいろんな女といるユウキ。
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