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龍と桜
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「その話、マジかよ!?」
俺は黒龍の面子に、食って掛かっていた。
「マジっすよ」
俺から数歩下がって答える男。この男から、ユウキがその他多数の女と手を切ったって聞いた。その話が信じられなかった。
「あの女好きがか?」
信じられないって顔をした、ユウキの顔馴染みたち。俺も信じられなかった。常に女が隣にいる姿を目撃している。
ケンカも好きでセックスも好きな男が、たくさんの女を切ったことが信じられなかった。
「その話、どこから聞いたんだ?」
俺はそいつに聞いた。
「繁華街でもう有名ですよ」
俺を見てはそう答える。
繁華街で有名?
マジでそんな噂が流れてんのか。
俺は今、例のことで走り回っているからそんな噂を聞く事がなかった。
「ユウキさん、マジな女が出来たとかで女全部切ったみたいっす」
──マジな女!?
ますます信じられねぇ。あのユウキがマジになる女ってどんなヤツだよ。そもそもあのユウキが、女にマジになんてなるのかよ。信じられない思いのまま、俺は繁華街に出向いた。
繁華街に行けば答えは分かる筈。ユウキはいつも繁華街で遊んでいる。
ケンカしていたり女といたり。
「あ。いた!」
路上に座り込み、ビール片手にケンカを見学しているユウキ。ケンカしているヤツらに野次を入れていた。
「どこ見てんだよっ!」
そういう声を飛ばしている。
「ユウキ!」
俺はユウキに近付き、ケンカを見る。
「どこのやつらだ?」
「知らん」
ビールをグビッと飲み込むと、その空き缶をケンカしているヤツらに向かって投げた。こんなメチャクチャなヤツが、マジで惚れる女なんていんのかよ。
不思議に思い、俺はユウキを見た。
「んだよ」
ユウキを見た俺に毒づく。
「お前、マジな女出来たって?」
その言葉に俺を見るユウキ。ユウキは今まで見た事のない笑顔を、俺に向けた。
「ああ。あの女だけは、誰にも渡したくねぇ。守りてぇんだよ」
その笑顔とそのセリフが、本気なんだって分かった。
ユウキの心を奪った女はどんな女なのか、分からない。だけどユウキは、その女を紹介してはくれない。
「だって付き合ってるわけじゃねぇんだよ。知り合ったばっかだし」
今までのユウキとは、考えられない言葉が返ってきた。
「お前の言葉だとは思えねぇな」
煙草を咥えながら、ユウキを見る。ユウキの横顔を見ると、微かに頬を赤らめているのが分かった。
──ガキみてぇに頬を赤らめてる。
今まで何人の女と、夜を共にしたか分からねぇ。そんな男が、たったひとりの女にドキマギしている。
それを見るのが不思議と可笑しかった。
「お前、俺をバカにしてんだろ」
そう俺を見たユウキは、いつもの憎まれ口を叩くユウキで、そんなユウキに勝ち誇ったように笑ってやる。
「だってよ、こんなお前、初めてじゃん。面白れぇよ」
ケタケタと笑う俺に気分を害したのか、蹴りを入れてくる。その蹴りを避けて、俺はユウキを見た。
ユウキは俺にからかわれながらも、涼しい顔をしている。
──さっき見たユウキの照れたような顔は幻だったのか???
「お前は?」
ユウキに言われて、俺は顔を上げる。
「お前はいねぇの?」
それが好きな女を指してるのは分かった。
でも俺はそんな女はいなかった。
いつも桜ばっかり見ていたから、桜を守っていたから。そんな感情を他の女に抱いたことはない。
……というよりも桜への思いを超えるような女がいねぇだけ。
だからと言って、俺は桜にそういう曲がった感情を抱いてるわけでもねぇ。
桜は大事な妹だから。
「その顔はいねぇな」
フッと笑いを零したユウキは、何が可笑しいのか静かに笑う。
こいつはこういうところがある。
静か過ぎて怖ぇ。
何を考えているのかも分からないこの男は、人を寄せ付けているようで寄せ付けていない。他人を信じていないのかもしれない。
そんな男が惚れた女。
俺はその女を見てみたくなった。
心底見てぇと思った。
「会わせろ」
俺が言うと、ユウキはさっきと同じ言葉を言った。
「付き合ってるわけじゃねぇんだよ。知り合ったばっかだしな」
煙草の煙が空に昇っていく。ふぅ……とため息を吐くように、煙を吐き出す。
「会いたいのはこっちなんだよ」
せつない声が返って来た。
本当に切ない声だった。
「なんだよ、それ」
気付かないフリをして、俺はユウキに言った。
「ん?」
「会いたいなら会えばいいじゃねぇか」
「ああ……」
咥えていた煙草を、ポトッと地面に押して火を踏み消した。
「連絡先、知らねぇ」
その言葉に俺は「はぁ!?」と大声を出していた。
「連絡先、知らねぇって……お前ぇ」
ユウキの顔を見ると、静かな顔でひとこと言った。
「聞いてねぇんだ」
そんなこと、あり得るか?
コイツは本当にユウキか?
そう疑いたくなるくらい、ユウキにしては珍しい行動だった。
俺は黒龍の面子に、食って掛かっていた。
「マジっすよ」
俺から数歩下がって答える男。この男から、ユウキがその他多数の女と手を切ったって聞いた。その話が信じられなかった。
「あの女好きがか?」
信じられないって顔をした、ユウキの顔馴染みたち。俺も信じられなかった。常に女が隣にいる姿を目撃している。
ケンカも好きでセックスも好きな男が、たくさんの女を切ったことが信じられなかった。
「その話、どこから聞いたんだ?」
俺はそいつに聞いた。
「繁華街でもう有名ですよ」
俺を見てはそう答える。
繁華街で有名?
マジでそんな噂が流れてんのか。
俺は今、例のことで走り回っているからそんな噂を聞く事がなかった。
「ユウキさん、マジな女が出来たとかで女全部切ったみたいっす」
──マジな女!?
ますます信じられねぇ。あのユウキがマジになる女ってどんなヤツだよ。そもそもあのユウキが、女にマジになんてなるのかよ。信じられない思いのまま、俺は繁華街に出向いた。
繁華街に行けば答えは分かる筈。ユウキはいつも繁華街で遊んでいる。
ケンカしていたり女といたり。
「あ。いた!」
路上に座り込み、ビール片手にケンカを見学しているユウキ。ケンカしているヤツらに野次を入れていた。
「どこ見てんだよっ!」
そういう声を飛ばしている。
「ユウキ!」
俺はユウキに近付き、ケンカを見る。
「どこのやつらだ?」
「知らん」
ビールをグビッと飲み込むと、その空き缶をケンカしているヤツらに向かって投げた。こんなメチャクチャなヤツが、マジで惚れる女なんていんのかよ。
不思議に思い、俺はユウキを見た。
「んだよ」
ユウキを見た俺に毒づく。
「お前、マジな女出来たって?」
その言葉に俺を見るユウキ。ユウキは今まで見た事のない笑顔を、俺に向けた。
「ああ。あの女だけは、誰にも渡したくねぇ。守りてぇんだよ」
その笑顔とそのセリフが、本気なんだって分かった。
ユウキの心を奪った女はどんな女なのか、分からない。だけどユウキは、その女を紹介してはくれない。
「だって付き合ってるわけじゃねぇんだよ。知り合ったばっかだし」
今までのユウキとは、考えられない言葉が返ってきた。
「お前の言葉だとは思えねぇな」
煙草を咥えながら、ユウキを見る。ユウキの横顔を見ると、微かに頬を赤らめているのが分かった。
──ガキみてぇに頬を赤らめてる。
今まで何人の女と、夜を共にしたか分からねぇ。そんな男が、たったひとりの女にドキマギしている。
それを見るのが不思議と可笑しかった。
「お前、俺をバカにしてんだろ」
そう俺を見たユウキは、いつもの憎まれ口を叩くユウキで、そんなユウキに勝ち誇ったように笑ってやる。
「だってよ、こんなお前、初めてじゃん。面白れぇよ」
ケタケタと笑う俺に気分を害したのか、蹴りを入れてくる。その蹴りを避けて、俺はユウキを見た。
ユウキは俺にからかわれながらも、涼しい顔をしている。
──さっき見たユウキの照れたような顔は幻だったのか???
「お前は?」
ユウキに言われて、俺は顔を上げる。
「お前はいねぇの?」
それが好きな女を指してるのは分かった。
でも俺はそんな女はいなかった。
いつも桜ばっかり見ていたから、桜を守っていたから。そんな感情を他の女に抱いたことはない。
……というよりも桜への思いを超えるような女がいねぇだけ。
だからと言って、俺は桜にそういう曲がった感情を抱いてるわけでもねぇ。
桜は大事な妹だから。
「その顔はいねぇな」
フッと笑いを零したユウキは、何が可笑しいのか静かに笑う。
こいつはこういうところがある。
静か過ぎて怖ぇ。
何を考えているのかも分からないこの男は、人を寄せ付けているようで寄せ付けていない。他人を信じていないのかもしれない。
そんな男が惚れた女。
俺はその女を見てみたくなった。
心底見てぇと思った。
「会わせろ」
俺が言うと、ユウキはさっきと同じ言葉を言った。
「付き合ってるわけじゃねぇんだよ。知り合ったばっかだしな」
煙草の煙が空に昇っていく。ふぅ……とため息を吐くように、煙を吐き出す。
「会いたいのはこっちなんだよ」
せつない声が返って来た。
本当に切ない声だった。
「なんだよ、それ」
気付かないフリをして、俺はユウキに言った。
「ん?」
「会いたいなら会えばいいじゃねぇか」
「ああ……」
咥えていた煙草を、ポトッと地面に押して火を踏み消した。
「連絡先、知らねぇ」
その言葉に俺は「はぁ!?」と大声を出していた。
「連絡先、知らねぇって……お前ぇ」
ユウキの顔を見ると、静かな顔でひとこと言った。
「聞いてねぇんだ」
そんなこと、あり得るか?
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