66 / 160
ツンデレガチ勢★聖騎士団編
番外編 君がいなくて毎日が無糖
しおりを挟む※タイトルだけのお粗末なチョコ要素ですがバレンタインプレゼントです。
※『番外編 聖なる日の奇跡①②』を見ないと分からない内容になっています。
********************
「おはよ」
朝。
登校1番、俺が教室に入って挨拶すると、クラスメイト達がざわめき出した。
…まぁ、前の自分の姿を考えれば、当然か。
「勇輝、もう大丈夫なの?」
真っ先に話し掛けてきたのは、康治郎を除いた中で、一番の友人であり、ライバルだった瀬戸。
「ああ。迷惑かけたな」
「まったくだよ。…………ねぇ、あのさ」
珍しく、聞きにくそうに瀬戸が目配せ。要件は大体、分かるけど。
「何?」
「……もしかして、じろちゃんの夢、見た?」
「ああ。瀬戸もなんだろ? 奥野、谷川、三島、聖さんの夢にも出てきたんじゃないか?」
「え、阿山から聞いたの?」
谷川が少し驚いたように俺を見た。
お前、俺と康治郎を題材にBL本描いてるんだってな。良いぞもっとやれ。ただし女役は絶対に康治郎だぞ。同担拒否は勿論、リバもダメだ。
「おう。色々話して励まして貰ったよ。原因が何言ってやがんだって話だけどなw」
でもやっぱり、ただの夢じゃなかった。なら、あのトロフィー型の神が言った事も本当って事だ。やった。また、康治郎に会える。
「………お前らはさ、何話したわけ?」
猥談なんてしてねーだろーな。康治郎は俺のだってのに。
「俺は異世界のお話とぉ、ゲームのセーブデータ3つ貰ったよん!」
自慢げに見せられた三島のスマホの画面には、ゲーム『パズドラマ』が表示されていて、ユーザー名は『じろー』になっていた。
………まぁ、三島は康治郎に不埒な感情を抱いている訳ではなさそうなので、これくらいは許してやろう。
「私も、異世界の話聞いた! だから今は最強王国騎士団長×ヘタレ賢者の話を…」
「どうせなら召喚勇者×天然たらし転移者で頼む」
「…! そっ、それって…!!」
皆まで言うな。当然、勇者の名前は【勇輝】。転移者の名前は【康治郎】だろうがな。
谷川が『生ホモ執着ありがとーございますっ!』って言って倒れたっぽいけど、気にしない。
「俺は動物と深海と宇宙について研究しなきゃいけなくなったよ」
「何がどうしてそうなった? ……いや、やっぱり言わなくて良い。どうせ、康治郎の為なんだろ?」
「うん、そう。じろちゃんのところに行けた時、いっぱい驚かせてあげたいからね。で、俺、イギリスの大学に行ってくる」
「……急だな」
「そこの大学に行く事が、最短だから。これから毎日勉強漬けだろうけど、まぁたまには遊んでよ」
瀬戸の机を見ると、英語で書かれた参考書が何点か。専門用語の英語参考書と、俺でも名前は聞いた事がある有名大学のパンフレットが乱雑に置かれていた。
瀬戸とは康治郎の可愛さについてよく議論した中だし、共に康治郎を虫から守ってきた。
だから、是非とも頑張ってほしい。そして転生後は康治郎を驚かせてほしい。
俺には出来ないから、応援する。
「……で、杉山。テメーはなんだ」
「っ…!」
教室の中心部で、杉山がビクッと反応する。周りの頭の弱い取り巻き連中が『は?』みたいな間抜けな顔をするが、俺には分かっている。コイツは、康治郎と会った筈だ。
このクソ羽虫、康治郎を気にして何かとちょっかい掛けていたし、康治郎は康治郎でコイツに苦手意識を抱いていた。
まったく…康治郎にいらんもの抱かせるな。康治郎が抱いて良いのは俺への愛情と友情と欲情だけであって、羽虫ごときに康治郎の容量を使わせるなんてもったいない。
「え、えっと…」
「どーせ、告白したんだろーが」
「……………」
「じろちゃんは優しいから、転生してまた会えたらお友達から~、って結論に落ち着いたんじゃない?」
「…………………」
俺と瀬戸の問い詰めに、杉山は泣きそうな表情で俯いた。
いつも…康治郎が生きていたのなら、こんな風に誰かを責めるような雰囲気になった途端、何とか話を逸らそうと一生懸命大声で別の話題を持ち掛ける。そしてみんな、そんな康治郎が大好きだった。
でも、今はいない。誰も庇おうとしないし、そもそもクラスメイト達は、何の話をしているのか分かっていない。
黙ったままの杉山に、更に問おうとした時、ガラリと教室のドアが開いて担任の教師が入ってきた。
教師は俺の存在に一瞬怯えたような顔を見せたが、すぐに教室の異様な空気に気付いたようで、俺を避けながら事情を聞こうとしている。…クソヘタレが。
「何でもないですよ、先生。勇輝がやっと立ち直ってくれて、みんなで喜んでいたんです。けれど、杉山が水を差すような事を言ったので…、つい……」
瀬戸が安心安全の100パーセント偽物スマイルで、クラスを代表して説明する。嫌がらせなのか、杉山のせいにしたのは英断だと思う。
教師は優等生の瀬戸の言葉と笑顔にころっと騙され、心底ホッとしたような様子で喜んだ。
俺の立ち直りか、それとも問題が起きていなかったという安堵か…。
なんだか、康治郎がいなくなってから、人の嫌な部分ばかりが目についてしまうようになった。康治郎から溢れ出る優しさオーラで隠されていた悪意や欺瞞、保身第一が表に出てきただけなんだろうが…、やっぱり、俺には康治郎が必要なんだろう。
杉山は放課後、問い詰める事にする。
********************
「おっ、俺だって阿山が好きなんだよ!! 阿山だって、嫌がってはなかったし!!」
「開き直んじゃねーよ羽虫が! 康治郎は俺のだっつーの!! お前ごときが手ェ出して良い存在じゃねェ!!」
「嫌だ!! 俺は阿山とセックスしたい!!!」
「テメェェェェェェ!!!」
放課後。
勇輝と杉山がギャンギャン言い争っている間に、俺は教室の隅で青ざめた聖さんに話し掛けた。
「こんにちは聖さん」
「…瀬戸くん……」
「君はじろちゃんと何の話をしたのかな。まさかと思うけど、勇輝が好き、なんてじろちゃんに言ってないよね」
「…!! …ごめん…なさい……」
やっぱりか、この女。
じろちゃんは聖さんが好きだった。だから、想いを伝えた可能性が高い。
だけどこの女は勇輝に想いを寄せていて、じろちゃんは付属品のように扱っていた。当然、勇輝がそれに気付かないはずもなく、俺も勇輝もこの女を嫌悪していた。
「……最悪だよ。ほんと」
「……………」
「ねぇ、知らなかった? 勇輝は君が大嫌いなんだよ。俺もね。君を拒絶しなかったのは、君が勇輝に近付くと、じろちゃんも寄ってくるから。君さ、じろちゃんが死んでちょっと嬉しかったでしょ?」
「…………!」
「最悪だよお前。お前が死ねば良かったのに」
あ、良いなコレ。誰かに悪意をぶつけるって、結構スッキリする。
じろちゃんがいなくて溜まるストレスは、全部こうやって発散しても良いかも。
「…ぐす……、ふぇ…」
「不快だから声出さないでくれない?」
何泣いてンだか。じろちゃんの方が泣きたかったはずなのに。
「あのー、瀬戸? なんで聖さん泣いてるの?」
谷川が、恐る恐るといった様子で話し掛けてきた。
ふと教室を見渡すと、ほとんどの奴らが驚愕の表情で俺らを見ている。勇輝も杉山も。
「…聖さんね、じろちゃんが死んでちょっと嬉しかったんだって」
「は? 何それ。どういう事?」
勇輝と杉山の言い争いをおもしろおかしく観戦していた三島が、怒気を孕んだ声音を発した。
三島だけではない。どんな意味でも、じろちゃんは好かれていた。だから、すぐさま教室中に聖さんを責めるような空気が満ちる。
俺も、責め続けるつもりだったんだけど…、聖さんの顔がさらに青くなったその時、奥野が俺と聖さんの間に割って入った。
「みんな、落ち着いてよ。聖さん、吉川が好きだったんでしょ? 恋のライバルの死を願うなんて、ない話じゃないわ。吉川も瀬戸も、阿山が誰かを好きになったらさ、そいつ殺したくならない?」
「…なる」
「なら、寛大に受け止めなさい。もし私が転生出来ちゃったら、聖さんが泣かされたって阿山にチクるけど」
「………分かったよ、もう責めない」
奥野の奴…、庇うなんて、じろちゃんに感化されたかな。まぁ、チクられたらヤだし、このくらいにしといた方が良いか。
じろちゃん。俺ね、じろちゃんの事が大好きなんだ。大好きなものを否定されれば、誰だってムカッとするでしょ? だから、許してね。
191
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる