【完結】淋しいなら側に

サイ

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2黒国の城で

3(※)

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 その日以来、王は度々千を連れて歩くようになった。もちろん自分の側からは離さず千に自由はないが、時折執務の間にまで千を連れた。家臣らは千をいない者として振る舞っていたが、どうしても千は慣れなかった。人前で王が自分に触れてくるのは顔を上げられないほど恥ずかしい。
 その日も王は執務室に千を連れていた。
「毅旺様……ご政務をなさらなければ、また……」
「いらぬ心配をするな」
 早く解放してほしくて放った言葉も、すぐに打ち消される。毅旺は千を膝に乗せると、後ろ髪をつかんで深い口づけをしてきた。まだ日も高いのに、いつ誰が入ってくるのかと千は気が気ではない。下唇を噛まれ、舐められ、息が上がってくる。
「毅旺様……黒王陛下」
「うるさい口だ。少し黙っていろ」
「お願いです。こんなところで……」
 毅旺の手が着物の裾を割って入ってくる。千は必死でその手を押しとどめた。こんなところでされてはたまらない。
「わがままな奴」
 毅旺は千を離すと、降りろ、と命じた。ほっとして膝から降りたのも束の間、毅旺が自分の着物の裾をあけた。座ったまま、毅旺のものが明るみに出る。
 ぎょっとして千は毅旺を見上げた。毅旺は表情を変えず、目線でしゃがめ、と言う。自分の前にしゃがめと。
「されるのが嫌ならば私を満足させてみろ。上手にできれば、夜まで待ってやろう」
「陛下……」
 身体が固まる千に、毅旺は更に続けた。
「嫌だというなら構わないぞ。だが早くしないともうすぐ大臣が来る時間だ」
 千は覚悟を決めて毅旺の前に滑り込んだ。机の下に潜り込むようにして身をかがめる。
 初めてではない。方法は、連日教え込まれている。だがまだ上手にできないでいた。いつも王が焦れて千を組み敷くことになる。また今回もそうなるのではないかと思いながらも、ゆっくりと露わになったそこを口に含んだ。
 初めはゆっくり、徐々に力を込めて。歯が当たらないように注意しながら千は舌を動かした。気配で、王が政務を再開したことがわかる。
 少し悔しいように思いながら、千は目をつぶって集中した。少しずつ王の物はふくれあがってくる。
 苦しくなって時々息を乱しながら、それでもしばらくしてようやくしっかりと持ち上がる。いつの間にか、王は書き物をしていない方の左手で千の頭を押さえつけていた。のどに先端が当たって苦しくなる。それでも離してもらえず、訳がわからなくなってくる。
「早くしろ、千。もたもたしていると大臣の前でお前を抱くぞ」
 返事などできるはずもない。前にも一度、侍女の前で抱かれたことがあった。とんでもなく恥ずかしかった。もう二度とそんな思いはごめんだ。
 唾液が溢れ出てくる。それを飲み込むこともできなくて、唇を伝って落ちていった。口の中が王の先走りなのか自分の唾液なのか、粘ついた液で満たされてる。
「んっ……」
 王の手が千を撫でるように動き、思わず声が漏れる。
 そのときだった。
 扉が開き、失礼しますと声が聞こえる。大臣だ。びくりと身体を起こそうとして、力強い王の手に押さえられる。
「誰が終わっていいと言った」
 かっと顔が赤くなるのがわかった。それでもここで犯されるよりはと舌を動かす。
「陛下……」
 言いかけて、大臣が止まった。千を連れてきているのは知っているのだ。その姿を少し探して、王の前に伏せている千を見て言葉を止めた。
「何の用だ」
 王が平然と問いかけるため、大臣も平静を装うしかない。
「朱国より、使者が参りました」
「使者?———ああ、奴の妹を送り返した返答か」
「はい」
「奴はなんと?宣戦布告でもしてきたか」
「いいえ」
 大臣は遠慮がちに執務机に書類を置く。注意深く、その行為からは目を逸らしながら。
「先の三都市については、地方軍の先走り。三都市返却と共に新たな同盟を結びたいと。こちらが望むのであれば新たな人質交換も思慮に入れたいそうです」
「人質か。どうせ向こうは、緋王に妻子なく王族など直系は皆死に絶えたろうに」
「返答はいかがなさいますか」
 毅旺は唇の端を持ち上げるようにして笑った。
「大臣はどう思う」
「は……」
 突然聞かれて、大臣は言い淀んだ。王が意見を聞いてくるなど、非常に珍しい。必死で頭を巡らせる。
 王の怒りに触れぬよう、言葉を選んで。
「その、我が国は国庫にさほどの余裕があるわけではありませぬ。長期にわたる戦を始めるよりは、朱国の申し出を交渉の種に、有利な同盟を結ぶことが良いかと」
「つまらんな」
 毅旺はしばらく目を閉じ、そして己の前にうずくまる千を見下ろした。
 数ヶ月ですっかり白くなったうなじに、うっすら汗が浮かんでいる。
 ふと、楽しいことを思いついたようにその顔に笑みが浮かんだ。残酷な、獣のような笑みだった。冷たい手が、千の髪をつかんで身を起こさせる。突然のことで千はバランスを崩し、毅旺の身体に寄りかかった。
「千、いいことを思いついた。日頃から退屈そうにしているお前にこの城を見せて回ってやったが、やはりお前はまだ満足していないようだ」
「陛下……?」
 そういう顔をしている時は、ろくな事をさせない。経験がそう言っていた千は、思わず身を固くした。
「朱国へ行ったことはないだろう。どうだ、お前、行ってくるか」
「朱国……?」
 豊かな国、朱国。突然行くかと問われても意味が分からない。
「行くなら、私の側室として、お前を朱国の王へ人質に差しだしてやろう。妻の一人もおらぬ朱国の王を、見事お前の美貌で零落させてみよ。晴れて緋王がお前に溺れることがあれば、お前に自由を与えてやる」
 意味を理解できず、千は答えることができなかった。
「そう案じずとも、土臭い緋王であれば自然とお前を気に入るだろう」
「俺は……毅旺様にとってもう用済みって事ですか」
「まさか。お前に仕事を与えただけだ。———ああ、お前には呪具をつけさせよう。なに、心配するな。私から逃げようとさえしなければ、その身を焼くことなどない」
 呪具と聞いて、千の顔は青ざめた。毅旺は時折、怪しげな呪具を使うことがある。黒国には昔からいくつか王族に伝わる呪具があり、千は何度か毅旺に抱かれるとき使われたことがある。身体の自由を奪われたり、幻覚を見たり、どれも苦しいものばかりだった。
 毅旺の楽しげな顔を見ていると、余計に不安は募っていく。城の中で閉じこめられる生活もこの上ない苦痛だったが、見知らぬ朱国へと人質として行けと命じられ、訳が分からない。しかも、緋王を落とせなどと。
 だが、行きたい、という気持ちもあった。
 この自由のない、息の詰まるような生活から抜け出せるのなら。
「俺……行きます」
 自然と声が出ていた。
 自由。それは今の千が、最もほしいと思うものだったからだ。
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