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第2章
7.トーラ・ココ
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ユリアはヘルマンの部屋へ連れてこられた。
ヘルマンの部屋は広く、三段ほど階段を登った先に天蓋付きのベッドがあり、フロアには十人は座れそうなソファがあり、その先には巨大なテラスがある。
座るように言われ、ユリアはソファに腰掛けた。ヘルマンがその対面に座る。
「――突然で、驚いただろう」
「……………」
「どこから話そうか……あのフィンというのは、トーラ・ココという店の男娼だ」
「男娼……」
ざわざわと胸が落ち着かない。これは自分が聞かないといけない話なのだろうか。
「モンクレアには巨大な歓楽街がある。夜、ここから見ても一際輝いているあたりだ。王国内でも有名な夜の街で、各地から人が訪れる。中でもトーラ・ココは高級娼館として有名なんだ」
しばらくの沈黙。ヘルマンが重い口を開く。
「かつて、よく彼を買っていた」
「き、聞きたくないです」
ユリアは咄嗟に言った。ヘルマンがはっとして、また静かに視線を落とす。
「――そうだな。すまない」
長い沈黙が流れた。
「今朝出かけていたのは、トーラ・ココへ、もう利用することはないと言いに行ったんだ。わざわざ言いに行くのもおかしな話だが……昨日のことがあったから」
そんな話をされても、混乱した頭ではよく理解できなかった。
まだ狼狽えたまま、何を聞けばいいのかわからない。何も知りたくないような気もするし、色々なことが気になっているような気もする。
長い沈黙をヘルマンがどう捉えたのか、低い声が響いた。
「私を軽蔑するか」
わかっている。貴族が娼館で遊ぶのなんて、当たり前のことだ。
社交の一環として連れ立っていくこともあるほどだと、ユリアでも知っている。
しかもヘルマンには妻子がいない。何もおかしいことはない。
それでも、引っかかるのは……。
「あの、フィンっていう人……ご主人様の事を受け止められるのは自分だけだって」
勇気を出して、聞いてみる。
気になったところはたくさんあるけど、一番引っかかったのはそれだった。
男娼のフィンが躊躇なく城まで押しかけることができるほどの、心の距離だったのか。騎士が約束のない彼を通すほどの頻度で。
それほど深い付き合いだったのか。
――いや、やっぱり聞きたくない。
「あの―――」
「私の中で、フィンでないとという思いがあったのは事実だ。それがあの者を付け上がらせ、今日のようなことになった」
ユリアは驚いてヘルマンを見た。
ガラガラと足場が崩れていくような感覚だった。
口の中が渇いて、うまく言葉が出てこない。
「そ、れは……つまり、お二人は、愛し合って――」
「それは違う」
ヘルマンはきっぱりと断言した。
「あくまで客と男娼の関係だった。……………」
沈黙があった。ヘルマンが珍しく言い淀んでいる。
ユリアは意味が分からなかった。
愛し合っていないのに、彼でないといけないということがあるのだろうか。
「――僕には、わかりません」
ユリアは声を絞り出した。
ヘルマンはいつもはっきりと道筋を示してくれた。ユリアが分からないところは、何度でも説明してくれて、すぐにすっきりともやを晴らすように、教えてくれていた。
こんなに歯切れの悪いヘルマンは初めてだ。
それで思い合っていないというんだろうか。
――一体何年の付き合いなんだろう。
――何度肌を合わせれば、あれほどためらいなくヘルマンに抱き着いたりするようになるんだろう。
――ヘルマンは彼に何を囁き、彼はヘルマンに何を……。
ユリアはたまらなくなって、立ち上がった。
「ユリア」
ヘルマンの呼びかけにも答える余裕はなかった。
「私が嫌になったか」
少し頼りないヘルマンの声に、ユリアはその瞳を見た。
青い瞳がユリアをじっと見つめている。
ヘルマンは何かに迷っているようだった。
「――僕に、ご主人様を嫌うことなんて……」
そうだ。ヘルマンはユリアの主人であり、命の恩人で、ユリアを人間に戻してくれた人。
嫌うどころか、たとえ他に愛する人がいたとしても。それをどうこう言うことなどできるはずがない。
「私が愛しているのはお前だけだ」
もう何度も聞いたヘルマンの思い。――それをこんなに居心地の悪い気持ちで聞いたのは初めてだった。
ユリアは暗い顔のまま、返事をすることができなかった。
何と答えたのかもわからない。
気が付けばヘルマンの部屋を出て、城を出て、街へ向かっていた。
少し距離を置きたかった。
『フィンでないとという思いが――』
ヘルマンのその台詞が繰り返し、繰り返し何度も頭を回っていた。
ユリアは当てもなく街を歩いていた。
昨日大まかな場所の説明は受けていたから、川沿いを少しぶらぶらと歩く。
賑やかな商店通りを抜け、少し静かな図書館の前の通りに出た。
頭を冷やそうと思って歩いてみるが、考えは一向にまとまらなかった。
「――あんた、ユリアっていう人か」
突然背後から声をかけられて、見ると、見知らぬ男だった。
清潔感、とまではいかないが、普通のシャツにズボンの、一般的な平民の格好をしている。
「貴方は?」
「あんたに会いたいって人がいるんだ。トーラ・ココのフィンっていえば、わかるか?」
ユリアは警戒して一歩下がった。そうでなくても見知らぬ男の人は怖い。
「そう身構えなくても、何もしねえよ。俺はそこの下働きでね。金髪碧眼を探して来いって言われて、すぐわかったぜ。――フィンがちょっと会って話したいらしいんだ。あいつ今、オーナーから謹慎を受けて出てこれねえから。代わりに来てほしいんだよ」
「そう言われても、初対面の方についていけません」
「だよなあ」
ユリアは無視して歩き出した。男が並んで歩くので、ユリアは手にじっとりと汗をかくのを感じた。
男はそれには気づかず、ポリポリと頭をかく。
「――なあ、助けると思って来てくれないか?トーラ・ココの中だから、悪いことにはならねえだろ。心配なら城に遣いをやったらいい」
無視していても、男は追いかけてくる。
「フィンのやつ、相当参ってるからさ。自暴自棄になって、公爵様にご迷惑がかかるなんてことになったら、困るだろ?」
ユリアは足を止めた。
「脅しているんですか」
「滅相もない!こっちは助けてほしいって、お願いする立場で」
ユリアはしばし考えこんだ。
何も自分から、行く必要はない。ヘルマンはちゃんと処理するだろう。
でも心のどこかで、このわだかまりを確かめたい気持ちもあった。
『フィンでなければ――』
『ちゃんと受け止められるのは――』
二人がそれぞれ言った言葉が沈み込むように引っかかっている。
聞いてみたいと思った。無謀だとわかっているけれど。
ユリアは意を決した。
「オーナーにまずご挨拶させてください。それから、僕には指一本触れないこと。この二つを守っていただけますか」
「オーナーに……?や、まあ……わかった」
ユリアは近くの商店から城に伝令を飛ばし、男と共に歓楽街に向かった。
まだ昼なので、歓楽街は閑散としていた。
どの店も扉が閉まっている。それでも一目で歓楽街とわかる飾りが通りにびっしりと並んでいた。
そのうちのひときわ立派な建物に看板があった。
男と共に中に入る。しばらく待って男は年配の男を伴ってきた。
「――今日は城からの客が多いなあ」
薄茶色の髪を肩の下まで伸ばした、四十代くらいの男だった。細身で、整った顔をしている。オーナーというからもっと年配を想像していた。
高級そうなシルクのシャツをだらしなく着崩している。それでもどこかそれが似合っていた。
「どうも、トーラ・ココのオーナーです。オーナーって呼んでください」
「……初めまして」
「これは――また、逸材じゃないか。ねえお兄さん。ちょっとうちで働かない?君なら城一つ買うのも夢じゃないよ」
ぐい、と身を乗り出されてユリアは思わず後ずさりした。
「あっ、オーナー、指一本触れるなって言われてるんですよ」
「わかってる、わかってる。触らないよ。――その顔、たまんないね。俺が怖いか?ん?」
オーナーはにやにやと近づいて、ふうっと息を吹きかけてくる。
ユリアは突然のことに驚いて固まった。
「うわ、可愛い。固まっちゃった」
「オーナー!ちょっと、やめてくださいよ。この人怒って帰っちゃったらどうすんですか」
「えー、いいんじゃない?またフィンのわがままでしょ。相手にしなくていいんだよ、えっと……お名前聞いたっけ」
「ユリアです」
「うん、ユリア君ね。いくつ?」
「……十八です」
「いいね、最高!今日から働けるよ!」
「結構です」
ユリアは来たことを後悔した。
補佐官としての仕事で、ユリアは関わっていないが娼館関連のものもある。公共事業に近い扱いなのだ。特にこういった高級娼館は基本的にはある程度公爵領に管理されているので、下手な店より話が通じると思っていた。
だからフィンと話す前にオーナーに話を通していれば安心かな、と思ったのだが。
こんなに変な、掴みどころのない人だとは。
「残念だなあ。――じゃあさ、俺の恋人にならない?天国見せてあげるよ」
オーナーの台詞に寒気がした。ユリアはたまらなくなって店を出ようとする――が、下働きの男に土下座で入り口を塞がれた。
「ユリアさん、お願いします!オーナーの非礼は俺が、謝ります!どうかフィンに会ってやってください」
「………………」
「お前ね、あんまりわがまま聞くんじゃないよ。謹慎の意味ないでしょ。――公爵様怒らせたら、俺の首が飛んじゃうんだから」
なるほど、ヘルマンが昨日の一件に一言入れたのだろう。
「ユリア君も断っていいんだよ。あいつ、見目はいいから昔からちやほやされて育ったから。今会ったら罵詈雑言の嵐だよ」
「オーナー、俺がせっかくお連れしたのに。やめてくださいよ」
「お前はフィンのご機嫌取りたいだろうけどね。俺は公爵様が怖いの」
大げさに腕を組んで体を揺らしている。
「今朝もさ、寝てるとこ起こされたと思ったら、もう視線だけで人を殺しそうな勢いで――どんな教育をしているんだ――って。そりゃ往来で抱き着くなんて前代未聞だけどね」
その上呼ばれてもいないのに城まで上がりこんで騎士に届けられた。
謹慎は当然の措置ということだ。
「――ま、行くって言うなら止めはしないけど。泣いて出て来ることにならないようにね」
オーナーはそういってまた奥に下がっていった。
なんというか、苦手な人だ。
「ユリアさん、こっちに……」
下働きの男に促されてユリアはフィンの部屋に向かった。
ヘルマンの部屋は広く、三段ほど階段を登った先に天蓋付きのベッドがあり、フロアには十人は座れそうなソファがあり、その先には巨大なテラスがある。
座るように言われ、ユリアはソファに腰掛けた。ヘルマンがその対面に座る。
「――突然で、驚いただろう」
「……………」
「どこから話そうか……あのフィンというのは、トーラ・ココという店の男娼だ」
「男娼……」
ざわざわと胸が落ち着かない。これは自分が聞かないといけない話なのだろうか。
「モンクレアには巨大な歓楽街がある。夜、ここから見ても一際輝いているあたりだ。王国内でも有名な夜の街で、各地から人が訪れる。中でもトーラ・ココは高級娼館として有名なんだ」
しばらくの沈黙。ヘルマンが重い口を開く。
「かつて、よく彼を買っていた」
「き、聞きたくないです」
ユリアは咄嗟に言った。ヘルマンがはっとして、また静かに視線を落とす。
「――そうだな。すまない」
長い沈黙が流れた。
「今朝出かけていたのは、トーラ・ココへ、もう利用することはないと言いに行ったんだ。わざわざ言いに行くのもおかしな話だが……昨日のことがあったから」
そんな話をされても、混乱した頭ではよく理解できなかった。
まだ狼狽えたまま、何を聞けばいいのかわからない。何も知りたくないような気もするし、色々なことが気になっているような気もする。
長い沈黙をヘルマンがどう捉えたのか、低い声が響いた。
「私を軽蔑するか」
わかっている。貴族が娼館で遊ぶのなんて、当たり前のことだ。
社交の一環として連れ立っていくこともあるほどだと、ユリアでも知っている。
しかもヘルマンには妻子がいない。何もおかしいことはない。
それでも、引っかかるのは……。
「あの、フィンっていう人……ご主人様の事を受け止められるのは自分だけだって」
勇気を出して、聞いてみる。
気になったところはたくさんあるけど、一番引っかかったのはそれだった。
男娼のフィンが躊躇なく城まで押しかけることができるほどの、心の距離だったのか。騎士が約束のない彼を通すほどの頻度で。
それほど深い付き合いだったのか。
――いや、やっぱり聞きたくない。
「あの―――」
「私の中で、フィンでないとという思いがあったのは事実だ。それがあの者を付け上がらせ、今日のようなことになった」
ユリアは驚いてヘルマンを見た。
ガラガラと足場が崩れていくような感覚だった。
口の中が渇いて、うまく言葉が出てこない。
「そ、れは……つまり、お二人は、愛し合って――」
「それは違う」
ヘルマンはきっぱりと断言した。
「あくまで客と男娼の関係だった。……………」
沈黙があった。ヘルマンが珍しく言い淀んでいる。
ユリアは意味が分からなかった。
愛し合っていないのに、彼でないといけないということがあるのだろうか。
「――僕には、わかりません」
ユリアは声を絞り出した。
ヘルマンはいつもはっきりと道筋を示してくれた。ユリアが分からないところは、何度でも説明してくれて、すぐにすっきりともやを晴らすように、教えてくれていた。
こんなに歯切れの悪いヘルマンは初めてだ。
それで思い合っていないというんだろうか。
――一体何年の付き合いなんだろう。
――何度肌を合わせれば、あれほどためらいなくヘルマンに抱き着いたりするようになるんだろう。
――ヘルマンは彼に何を囁き、彼はヘルマンに何を……。
ユリアはたまらなくなって、立ち上がった。
「ユリア」
ヘルマンの呼びかけにも答える余裕はなかった。
「私が嫌になったか」
少し頼りないヘルマンの声に、ユリアはその瞳を見た。
青い瞳がユリアをじっと見つめている。
ヘルマンは何かに迷っているようだった。
「――僕に、ご主人様を嫌うことなんて……」
そうだ。ヘルマンはユリアの主人であり、命の恩人で、ユリアを人間に戻してくれた人。
嫌うどころか、たとえ他に愛する人がいたとしても。それをどうこう言うことなどできるはずがない。
「私が愛しているのはお前だけだ」
もう何度も聞いたヘルマンの思い。――それをこんなに居心地の悪い気持ちで聞いたのは初めてだった。
ユリアは暗い顔のまま、返事をすることができなかった。
何と答えたのかもわからない。
気が付けばヘルマンの部屋を出て、城を出て、街へ向かっていた。
少し距離を置きたかった。
『フィンでないとという思いが――』
ヘルマンのその台詞が繰り返し、繰り返し何度も頭を回っていた。
ユリアは当てもなく街を歩いていた。
昨日大まかな場所の説明は受けていたから、川沿いを少しぶらぶらと歩く。
賑やかな商店通りを抜け、少し静かな図書館の前の通りに出た。
頭を冷やそうと思って歩いてみるが、考えは一向にまとまらなかった。
「――あんた、ユリアっていう人か」
突然背後から声をかけられて、見ると、見知らぬ男だった。
清潔感、とまではいかないが、普通のシャツにズボンの、一般的な平民の格好をしている。
「貴方は?」
「あんたに会いたいって人がいるんだ。トーラ・ココのフィンっていえば、わかるか?」
ユリアは警戒して一歩下がった。そうでなくても見知らぬ男の人は怖い。
「そう身構えなくても、何もしねえよ。俺はそこの下働きでね。金髪碧眼を探して来いって言われて、すぐわかったぜ。――フィンがちょっと会って話したいらしいんだ。あいつ今、オーナーから謹慎を受けて出てこれねえから。代わりに来てほしいんだよ」
「そう言われても、初対面の方についていけません」
「だよなあ」
ユリアは無視して歩き出した。男が並んで歩くので、ユリアは手にじっとりと汗をかくのを感じた。
男はそれには気づかず、ポリポリと頭をかく。
「――なあ、助けると思って来てくれないか?トーラ・ココの中だから、悪いことにはならねえだろ。心配なら城に遣いをやったらいい」
無視していても、男は追いかけてくる。
「フィンのやつ、相当参ってるからさ。自暴自棄になって、公爵様にご迷惑がかかるなんてことになったら、困るだろ?」
ユリアは足を止めた。
「脅しているんですか」
「滅相もない!こっちは助けてほしいって、お願いする立場で」
ユリアはしばし考えこんだ。
何も自分から、行く必要はない。ヘルマンはちゃんと処理するだろう。
でも心のどこかで、このわだかまりを確かめたい気持ちもあった。
『フィンでなければ――』
『ちゃんと受け止められるのは――』
二人がそれぞれ言った言葉が沈み込むように引っかかっている。
聞いてみたいと思った。無謀だとわかっているけれど。
ユリアは意を決した。
「オーナーにまずご挨拶させてください。それから、僕には指一本触れないこと。この二つを守っていただけますか」
「オーナーに……?や、まあ……わかった」
ユリアは近くの商店から城に伝令を飛ばし、男と共に歓楽街に向かった。
まだ昼なので、歓楽街は閑散としていた。
どの店も扉が閉まっている。それでも一目で歓楽街とわかる飾りが通りにびっしりと並んでいた。
そのうちのひときわ立派な建物に看板があった。
男と共に中に入る。しばらく待って男は年配の男を伴ってきた。
「――今日は城からの客が多いなあ」
薄茶色の髪を肩の下まで伸ばした、四十代くらいの男だった。細身で、整った顔をしている。オーナーというからもっと年配を想像していた。
高級そうなシルクのシャツをだらしなく着崩している。それでもどこかそれが似合っていた。
「どうも、トーラ・ココのオーナーです。オーナーって呼んでください」
「……初めまして」
「これは――また、逸材じゃないか。ねえお兄さん。ちょっとうちで働かない?君なら城一つ買うのも夢じゃないよ」
ぐい、と身を乗り出されてユリアは思わず後ずさりした。
「あっ、オーナー、指一本触れるなって言われてるんですよ」
「わかってる、わかってる。触らないよ。――その顔、たまんないね。俺が怖いか?ん?」
オーナーはにやにやと近づいて、ふうっと息を吹きかけてくる。
ユリアは突然のことに驚いて固まった。
「うわ、可愛い。固まっちゃった」
「オーナー!ちょっと、やめてくださいよ。この人怒って帰っちゃったらどうすんですか」
「えー、いいんじゃない?またフィンのわがままでしょ。相手にしなくていいんだよ、えっと……お名前聞いたっけ」
「ユリアです」
「うん、ユリア君ね。いくつ?」
「……十八です」
「いいね、最高!今日から働けるよ!」
「結構です」
ユリアは来たことを後悔した。
補佐官としての仕事で、ユリアは関わっていないが娼館関連のものもある。公共事業に近い扱いなのだ。特にこういった高級娼館は基本的にはある程度公爵領に管理されているので、下手な店より話が通じると思っていた。
だからフィンと話す前にオーナーに話を通していれば安心かな、と思ったのだが。
こんなに変な、掴みどころのない人だとは。
「残念だなあ。――じゃあさ、俺の恋人にならない?天国見せてあげるよ」
オーナーの台詞に寒気がした。ユリアはたまらなくなって店を出ようとする――が、下働きの男に土下座で入り口を塞がれた。
「ユリアさん、お願いします!オーナーの非礼は俺が、謝ります!どうかフィンに会ってやってください」
「………………」
「お前ね、あんまりわがまま聞くんじゃないよ。謹慎の意味ないでしょ。――公爵様怒らせたら、俺の首が飛んじゃうんだから」
なるほど、ヘルマンが昨日の一件に一言入れたのだろう。
「ユリア君も断っていいんだよ。あいつ、見目はいいから昔からちやほやされて育ったから。今会ったら罵詈雑言の嵐だよ」
「オーナー、俺がせっかくお連れしたのに。やめてくださいよ」
「お前はフィンのご機嫌取りたいだろうけどね。俺は公爵様が怖いの」
大げさに腕を組んで体を揺らしている。
「今朝もさ、寝てるとこ起こされたと思ったら、もう視線だけで人を殺しそうな勢いで――どんな教育をしているんだ――って。そりゃ往来で抱き着くなんて前代未聞だけどね」
その上呼ばれてもいないのに城まで上がりこんで騎士に届けられた。
謹慎は当然の措置ということだ。
「――ま、行くって言うなら止めはしないけど。泣いて出て来ることにならないようにね」
オーナーはそういってまた奥に下がっていった。
なんというか、苦手な人だ。
「ユリアさん、こっちに……」
下働きの男に促されてユリアはフィンの部屋に向かった。
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