あたたかな鳥籠を君に、優しい口づけをあなたに

サイ

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第2章

11.3日目の夜

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 次の日。ユリアはヘルマンの腕の中で目覚めた。
 うわ……!
 ユリアは目の前で寝息を立てて眠っているヘルマンの顔を間近で見て、歓声をあげそうになるのをなんとか堪えた、
 彫刻のような整った顔だ。朝からいいものを見た。
 ヘルマンが寝ているところは非常に貴重だ。
 ふと視線をうつし、ユリアはヘルマンが上半身裸なのに気づいた。
 太い腕を枕にして寝ていたから、目の前に胸が見える。
 え、すごい筋肉……。え、こんなに……?
 着痩せするのだろうか。
 ユリアはそっと手を伸ばした。
 盛り上がった胸に触れ、堪能してからお腹の方へ手を滑らせる。
 割れている。
 力持ちだとは思っていたが、こんなに鍛えているとは知らなかった。
 え、うわ、力入れてないのに固い……。
 押してみて、その硬さに驚く。
「――ユリア?」
 呼ばれてハッと視線をやる。
 ヘルマンがまだ眠そうな目でユリアを見つめていた。
「ご主人様。おはようございます」
「こういう起こし方をされると……襲いたくなるだろう」
「えっ、あ、す、すみません!」
 つい。そこに筋肉があったから。
 そんな言い訳を考えつつ、ユリアは体を起こそうとして――ヘルマンに抱きしめられる。
「早起きだな。もう少し寝ていればいいのに」
「外は明るいですよ」
「夏だからな」
 ユリアはガウンのようなものを着せられていた。体もベタベタしていない。
「体、きれいにしてくださったんですね」
「ああ」
 ヘルマンは目を閉じて、寝ようとしながら返事をした。
「すみません」
「これは、私の趣味のようなものだ。気にするな」
「僕の体…傷だらけだったでしょう」
 実はもうみられているだろうな、とは思っていたが。自分で見ても時々驚くほどの傷である。驚かせてしまったのではないかとヘルマンを見た。
 ヘルマンはまだ目は閉じていたが、抱きしめる手に少し力が入った。
「ああ……でも、陶磁器のようになめらかで、手に吸い付くような――」
 言いながらヘルマンの手はガウンの前を割って、ユリアの首、胸と侵入してきた。
「素晴らしい体だ」
「ちょ、く、くすぐった……」
「君も先程、十分触っただろう?次は私の番だ」
 体のあちこちをヘルマンの手が移動して、ユリアはくすぐったくて身を捩った。
 丸くなったユリアの頭にヘルマンはキスを落とす。
「今度、またゆっくり見せてほしい」
「や、ふふ……え。傷ですか?」
「ああ。君の傷を癒すことはできないかもしれないが……痛むことがないように、全部舐めたい」
 ユリアはどきりとしてヘルマンを見上げた。
 ヘルマンの青い瞳は、穏やかにユリアを見ている。
「今は……痛まないですよ?」
「それでも」
 ちゅ、と今度は唇にキスをされる。
 ヘルマンはユリアの肌を堪能し終えたのか、そっと手を引き抜いてもう一度抱きしめてくれた。
 そのままヘルマンは再び寝てしまい、ユリアは腕から抜け出せないまま、小一時間ベッドでごろごろとして過ごした。



 頬を撫でる感触に目を開ける。
 いつの間にか二度寝してしまっていたようで、窓から入る日差しがすっかり強くなっていた。
 薄いカーテンが引かれていて、自分を起こした人を見上げれば、柔らかな表情のヘルマンがベッドに腰かけていた。
「服……着たんですね」
 寝る前の体を思い出してふと呟く。
「君がそんなに裸が好きだとは思わなかった」
 いつもどおり、しっかりとシャツとベストを着てタイまで着けている。
「誤解です……」
 そんなつもりはなかったのに。ユリアはゆっくりと起き上がった。
 いい香りがする。
 においのもとをたどるとテーブルに朝食が用意されていた。
「お腹は空いていないか?」
 ヘルマンが手を差し出してくれたので、それにつかまって立ち上がる。
「朝摘みのベリーがたくさんとれたと言って、シェフが張り切って用意した。食べよう」
 見れば、湯気の上がるふわふわのスフレにベリーのソースがたっぷり乗っている。その横にはカリカリに焼かれたベーコン、黄色い卵。
「うわあ……」
 思わず歓声を上げてしまった。
 ルイスにも食べさせてやりたい。
「顔を洗ってきなさい。服はそこにある」
「あ、はい!すぐに支度します」

 ユリアが戻ってきた時にはヘルマンはシャツの袖をめくって、紅茶を入れてくれていた。
「ご主人様、僕がやりますよ」
「いいから食べなさい。――君はもっと太らないといけない」
「食べているんですけどね……なかなか。縦にも伸びなかったですし」
「じゃあせめて横に大きくなりなさい」
「そんな無茶な……」
 ありがたく朝食を食べることにする。シェフが張り切ったというだけあって、朝食は絶品だった。
 量は食べられないからお替わりはできなかったが、完食した。
「よく食べたな」
 ヘルマンがほめてくれた。
「ジャムを土産に持ち帰ろう。ルイスが喜ぶだろう」
「ありがとうございます」
 ルイスの喜ぶ顔を思うと自然と笑みがこぼれる。
 食器を片付けようとしたがヘルマンに止められた。ベルを鳴らして使用人を呼んで片付けさせる。
 主人の寝室に泊まっている立場としては少し気恥しいが、そこはプロである。
 主人が男娼を呼ぼうが、補佐官と一夜を過ごそうが、一々反応しない。下手に噂をしたら首が飛ぶ。公爵家に仕えるというのはそういうものだ。
 城にも本邸と同じように使用人は多くいるが、本邸より複雑で管理が難しいようにも思う。全員通いで交代して城に詰めている。
 質の高い使用人を雇い、複雑な城の維持費だけでも膨大になりそうだが、そこは公爵領の事なので、成り立つのだろう。
 
 そのまま二人は執務室に移った。城の執務室は本邸とほとんど見た目も置いている参考書も変わらない。行き来しても仕事がしやすいように同じようしているらしい。
「報告書は出そろっているな」
「はい」
 ヘルマンに教えてもらいながら、修繕箇所の予算について話し合う。
 今回はあくまで大まかに見ているだけなので、細かく決める必要はないという。それでもわからないことだらけで、何を決めるにも質問して苦労した。
 ヘルマンは根気強く答えてくれた。
「――いいんじゃないか」
 ヘルマンからおおまかな了解を得たのは、夕方に近い時間だった。
 休憩を挟みながらだったが、集中してやり続けてしまった。
「ありがとうございます。ずっと付きっきりで」
「あとはフェルナンドと詰めたらいい」
「はい」
 これで今回の視察の目的が終わったかと思うと、ほっとする。
 書類を片付け、一つ伸びをする。
 ヘルマンを見ると、同じように首を鳴らしていた。
「肩、お揉みしましょうか」
「それもいいが……ちょっと体を動かしてくる」
 今日はまだだったから。ヘルマンはそう言ってジャケットを脱いだ。
「部屋に持って行っておいてくれ。ユリアもゆっくりしていなさい」
「はい」
 おそらく鍛錬に行くのだろう。ほぼ毎日欠かさずに身体を動かしている。一緒に行きたいところだが、ユリアには壊滅的にセンスがない。
 十二歳までの基礎教育に当然剣術もあったが、やるたびに怪我をするのでほとんど型を真似るだけで終わった。走るのも下手をしたらルイスより遅いし、何もないところで躓くこともあるし。
 ユリアは大人しく、ヘルマンの上着を部屋にかけ、書斎で本を借りてきて読書に耽った。
 仕事が終わったのを察して執事がお茶を持ってきてくれた。それにお礼を言って、お茶を飲みながら本をぱらぱらとめくっていく。
 静かな時間だった。
 やがて窓の向こうに夕日が沈んでいく。
 執事が灯りを持って訪れた。
「お茶を換えましょうか」
「いえ、大丈夫です」
 それだけ言って去ってくと、また、静寂。
 少し寂しいような気もするが、こんなに静かに過ごすことも久しぶりなので貴重な時間だ。
 夢中になって読んでいて、ふと影が差す。
 見ると、ヘルマンが風呂上りなのか少し濡れたまま立っていた。
「あ、お帰りなさい」
「集中していたな」
 ユリアは本を閉じる。辺りはすっかり暗くなっていた。
「ゆっくりしていました」
「それはよかった」
 二人で食堂へ行き夕食を食べる。
 明日はもう少し足を延ばして史跡のある所を見に行くことにした。
 観光地にもなっているらしい。
 歓楽街と史跡。セットで観光するんだろうか。
 


 ユリアは今日はついにお酒を飲ませてもらえなかった。
 まあ、毎日飲むものでもないかなと思うので今日は我慢する。
 ユリアがお休みなさい、と言って別れようとするのでヘルマンはその腕をつかんだ。
「一緒に寝ないのか」
「えっ、い、一緒にですか」
「お酒を飲んだときには誘ってもいないのに私のベッドまで来たのに」
「それは……はい、すみません」
「あと少しだから」
 そう言われて、ユリアはそれもそうだなと思った。
 本邸に帰れば、こんなに気軽にヘルマンと二人きりで過ごす事もなくなる。
 ユリアはヘルマンに抱き着いた。
「そう言われると、寂しいです……」
「そんな声を出すな。別れるわけではないのだから」
 そうだけれど。
 旅先というのは、少し寂しい気分にさせるものなのだ。
 いつも一緒だったルイスから離れて、一人で過ごしていたからだろうか。
 何やら頼りないような気がしてしまう。
 胸のなかに穴が開いたような。
 ユリアは腕に力をこめ、ヘルマンの胸に顔をうずめた。
「――どうした。酔っていないのに」
 ヘルマンはふっと笑ってユリアを抱き上げた。
 ふわりと、軽く抱き上げられてユリアは目を丸くする。子どものようで恥ずかしいが、広い肩にもたれると、安心感があった。
 ヘルマンの首に手を回して頬を摺り寄せた。
「部屋まで連れて行ってくれますか」
「ユリア……君は……いつも急にとんでもなく――」
 その先は聞き取れなかった。ヘルマンはさっさと歩き出して部屋へとユリアを運び、部屋に入ってドアを閉めるなり、ユリアをそのままドアに押し付けるようにして口づけた。
「――っ、ん」
 ドアとヘルマンに挟まれるような形になり、急に塞がれた唇にユリアは声を漏らした。
 身体は抱き上げられたままで、逃げ場がない。いつもとは違ってユリアの方が見下ろすような態勢ではあったが、ヘルマンの舌は侵入した途端荒々しくユリアの口内を貪った。
 ユリアも離れたくなくて、必死でそれにこたえる。
 深く口づけを交わしてお互いが離れるころには、ユリアはすっかり息が上がっていた。
 興奮して頬が紅潮している。それを見てヘルマンの青い瞳に炎が灯ったようだった。
 ちゅ、ちゅ、とユリアの首筋に口づけをする。
 くすぐったいだけではないぞくぞくとした快感に、ユリアはヘルマンの腕の中で体を震わせた。
「あ、はあっ……だめ、それ……」
 首にキスをされただけで達しそうになって、ユリアは必死で身体をよじった。
 思わず首筋を抑える。
「ご主人様……それ、だめです。こんなところで、僕――」
 何を言いたいのかわかっているようだ。ヘルマンはにやりと笑って、そのユリアの手の上からまた口づけを落とした。
「何度でもいけばいい」
「――い、嫌です。僕ばっかり。――あ!今日は、約束しましたよね。僕がご主人様のを咥えるって」
 ヘルマンははたと目を見開いた。
「ユリア。そんな約束はしていないし、その言い方……」
「え――」
 ヘルマンはユリアをベッドに運んだ。
「情緒……いや、恥じらいが足りない」
 ゆっくりとベッドに下され、ユリアはヘルマンを見上げた。
 当然そのまま抱きしめてくれると思い手を伸ばしたのに、ヘルマンは動かなかった。
「ユリア。今日はすこし、恥ずかしいことをしてもいいか」
「は、恥ずかしいこと……?」
 いつもしてるじゃないですか。と言いそうになった。
 ヘルマンは椅子を一つ運んできて、ベッドの横に置いた。そしてそれに座る。
「ご主人様?こっちに来ないんですか」
「ユリア。昨日言っていただろう。服を脱いで、全部見せてほしい」
 ユリアは驚いて辺りを見た。手際のよい執事のおかげで、部屋に戻ってきた時には灯りがしっかりと灯っている。本も読めるほどの明るさだ。
「ここで……僕だけですか」
「ああ」
「ご主人様が脱がせてくれる、のかと」
「――それもいいが……ユリア。私は見たいんだ。どうしようもなく恥ずかしくても、私のためなら頑張って見せてくれるところが」
 そうはっきりと言われると、ユリアも頑張らねば、という思いになる。
 何をやりたいか言ってくれと言ったのはユリアだった。
 しかし……。
 恥ずかしい。
 ヘルマンはじっとこちらを見ている。
 ユリアができるかどうか見ている。
 そして、できたらすごく喜んでくれるんだろう。興奮してくれる。
 そう思うと、ユリアは唾を飲み込んだ。
「やります」

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