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第3章
15.
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つくづく、予想というのは難しいんだなあ、とルイスは思った。
ヴェッターホーンにいる時は守られた毎日で、驚くことというのがそもそもあまりなかった。
こうして調査を始めて、思いもよらないことの連続に会うと、所詮自分の十三年の人生経験では無理があるのだなと痛感する。
ルイスは鉄格子に手をかけた。
牢屋というものに初めて閉じ込められた。もちろん見るのも初めてだ。
揺らしてもびくともしない。当たり前ではあるが。
閉じ込められた牢屋の向かいには、もう一つ牢屋がある。ここがどこなのかもそもそもよくわからない。
ゲオルグの遣いという人について行ったら、てっきり商店へ向かうのだと思ったら背後から目隠しをされて口を塞がれ、荷馬車に積み込まれた後この建物に運ばれた。
時間的には街のどこかではあるのだろうが、おそらくは地下。時間もわかりづらい。
いったい何がいけなかったのか。
することもないのでルイスは考えた。
ここで自分に何かあれば、間違いなくシャルムとオーナーの首は飛ぶ。それはあまりにも申し訳ない。
少し離れたところからついて行くと言っていたベンが、最後までルイスを見失わずここを突き止めていることを祈るしかない。
どれくらい時間が経ったのかわからない。数時間は経ったと思う。
入り口の方からガチャガチャと音がして、数人の足音が聞こえた。
膝を抱えたまま、ケープを深く被りあまり目が合わないように見れば、男が三人。一人は肩に何かを抱えている。
向かいの牢に入っていった。
ドスン、と音がして下ろされたのはやせ細った少年だった。
うめき声をあげ、床に丸まっている。
何がおかしいのか男たちは下品な笑い声を立てていた。
「た、た、……たすけ……」
少年が声を震わせている。
「たてよ、ほら」
男の一人が立たせようと腕を掴むが、少年の膝はがくがくと目に見えて震えており、立つことができない。
「おいおい。しっかりしろよ」
野太い声はそれだけで恐怖心を煽るようだった。男二人が両脇から腕を掴んで立たせるが、それにぶら下がるようになっている。
「主様、こんなの売れるんですか」
「まあ、まだ若いからな。高くはならんだろうが買い手はある」
主様、と呼ばれた男はあとの二人より少し身なりが良かった。
「だってよ。良かったな、売れるってよ」
「ひっ……」
男が小突くと、少年はその場にしりもちをついた。離れていてもわかるほど震えている。頭を抱えて、また丸まってしまった。
「主様、これちょっと遊んでもいいですか」
「お前、その癖どうにかしろ。前回も来たばっかりのやつを駄目にしただろう」
「この震えてるのが、面白いでしょう」
「舌でも噛まれたらどうすんだ。もうちょっと落ち着いてからにしろ」
「――だってよ。じゃあ、また夜に遊びに来てやるよ。それまでに心の準備しておけよ」
男は丸まった少年を弄ぶように小突き、唯一出ていた耳を噛んだ。
「ひいいっ……!!」
少年の悲鳴が響く。
それを見て男たちが本当に楽しそうに笑っている。
男たちは牢屋を出て鍵を閉めた。
そのままルイスに目を止める。
「――あれ?いつの間にもう一人」
「小汚いが……子供か?」
「あれは、ガフマン商会からだ」
「ああ、ゲオルグの」
「モンクレアの男娼らしいぞ。遊ぶならあっちだな」
「へえ……」
男二人が舌なめずりするのが分かる。
歩を進められ、まずいな、とルイスは身を固くした。
「僕、男娼じゃないです」
咄嗟に声が出ていた。
「何か手違いがあったようです」
「――って言ってますが?」
「あ?男娼を一人捕まえて売ってくれって言われただけだ。俺は知らない」
どうやらこの男は人を商売にしているらしい。ゲオルグの要請を受け、背後からルイスを襲ったのがこの男なのだろうか。
王国では人の売買は禁止されているが、それでも貧しい村では、親が子どもを売ることもあると聞いたことがある。どちらにしてもまっとうな商売人ではないのだろうが。
一か八かだな、とルイスは考えた。
「なぜこのようなことになったのかわかりませんが、ここから出してください。定期連絡が途絶えると、僕の捜索に騎士らが動きます」
「は、騎士?お前……なにもんだ」
「僕の口からは……」
なんだ、はったりか、という雰囲気が流れる。
ルイスはシャツの中に手を入れた。
普段着に内ポケットはないので、下着の上にハーネスをつけていつも身に着けていた。もう一体化していて違和感なく、着けていることも忘れるほどに定着している。
その銀の短剣を取り出した。
「僕の身分を証明するものです」
二人の男はわからないようだったが、主様と言われた男ははっとして鉄格子に寄ってくる。
「お前……まさか、それ!!」
「なぜこんなことになったのか、僕にもわかりません。ですが早く僕を解放してくださらないと……あの方のお怒りに触れたら、この街ごと、地図から消えることになります」
「主様?なんなんですか、あれ」
「待て。待て……なんだ?意味が分からねえ。なんでそんなことになってる」
「貴方は一体、何を頼まれたのですか?まさか、国家の転覆を……」
「馬鹿言うな!俺は細々と商売してんだ。面倒事を避けるためにどんだけ頑張って――ゲオルグ、あの野郎!俺に嘘をつきやがったのか!」
「そのゲオルグというものが、僕を捕らえるように命じたのですか」
「あいつ、裏切りやがったのか……?今更俺を嵌めようと……いや、まさか」
男は迷っていた。ヴェッターホーンの紋章を見たことで動揺させることはできたようだ。
「とりあえず、ここから出してもらえますか」
男は唸ってから、背後の男たちに指示をした。
牢の鍵は開けられる。
うまくいきすぎてルイスの方が大丈夫かなと思ったくらいだ。
「おい、俺はゲオルグと無関係だ。たまに人を寄こされるだけの付き合いだからな。報復ならゲオルグにしろよ。ガフマン商会のゲオルグ・シャンベンだ」
「ガフマン商会……その人はどこに」
「今夜六時にここで約束してる。あと一時間だ」
「わかりました」
「おい、撤収だ」
男が言うと、配下の二人は手慣れた仕草で証拠となりそうな物品をかき集め、鞄に詰めて去っていった。
ものすごい速さだ。
何かあればすぐに行方をくらますことで生き延びているのだろう。
ルイスは急いで外に出ようとして……足音に身を隠した。
「ルイス?」
ベンの声だ。
「ベン!」
呼ぶとベンが駆け寄ってくる。
見慣れた姿に全身の力が抜けるのを感じた。
「ベン……」
心の底から安心した。
ベンの背後にはシャルムがいた。
「ご無事ですか」
「うん。来てくれてたんだ」
「モンクレアの動ける影は全員連れてきています。しかし……想定外でした。申し訳ありません」
「僕が無茶した結果だから」
商会でのあれこれを想定して配置を考えていた。まさか宿から出てすぐに、いきなり捕まるとは。
「何もされなかったか?」
「うん。危なかったからちょっと奥の手使っちゃった」
想像以上にうまくいってびっくりしたが。
「逃げた男三人、見た?」
「捕らえております」
「良かった。家紋見られちゃったから」
「口は封じましょう」
「六時にゲオルグがここに来るらしい。捕まえられる?」
それは今回唯一の大きな収穫だ。そして最後の手がかりになるかも知れない。
犯罪が明らかになっている以上、泳がせる必要はない。姿を見せ次第捕らえてヴェッターホーンへ連れ帰る。
「容易いことです。――ベン、お前がルイスの身代わりをしろ」
「え、俺は十三歳に見えねえから駄目だって言ってなかったか」
「もうこれ以上ルイスを前に立たせるわけにはいかない。話をする訳でもないし、適当に子どもがいるとわかればそれでいい。そこに入ってろ」
「ええー?」
二人のやりとりにルイスは交互に見比べた。
「ちょっと待って。シャルムとベンは、いつ知り合ったの?」
ベンはルイスからケープを脱がしながら思い出すように視線を上にやった。
「いつだ……結構前だな」
「なんで」
「普通に、誘われて。仕事しないかって」
ルイスのケープをばさりと被り、ベンは牢に入った。膝を抱えて座れば、少し小さく見える。
「これでいいか」
シャルムが牢を閉めた。
「寝るなよ」
「はいはい」
このやり取りを聞いていると、かなり長い付き合いのように思う。
どういうことだ、というルイスにシャルムはとにかくこちらへ、とルイスを外へ連れ出した。
「本当に大丈夫ですか」
「うん。あ、向かいの牢の子も保護しといてね。これも何かの縁だし」
「はい」
どうやら、ここは街の端の方だ。人通りが少ない。
シャルムは隣の空き家にルイスを誘った。
ルイスが捕まっている間に拠点として確保したらしい。
居場所は後をつけていたので把握していたのだが、地下の様子がわからないため、突入する機会を窺っていたという。
そのうち男たちが出てきたから、ベンが制止を聞かず入って行った、と。
「寿命が縮みました」
「うん。僕に何かあったら、シャルムとオーナーが危ないと思って。絶対死ねないと思った」
「ご冗談を……笑えませんよ」
冗談でもないのだが。
「それで、ベンはいつから……」
「王都で遊んでいるところに、声をかけました。まだ数ヶ月ですね」
「公爵様も知ってるの?」
「一度誘ってみたらどうだと、仰ったのは公爵様です」
「へえ……」
「体格にも恵まれてますし。影は騎士ほど堅苦しくない。出自も問わず、自由がきく。ベンには向いていると思います」
「じゃあ、なんでそんなに不満そうなの」
「自由が過ぎるので」
考えるのが苦手だからかと思ったが、そんなことはないらしい。指示されたことをこなすだけでも十分役目は果たせるし、ベンの直感は馬鹿にならない、と一応評価はしていた。
「そもそも今回、ゲオルグに嗅ぎつけられたのはベンのせいなんです。一度、長引いて徹夜になった事があり、それ以来絶対に夜は働かないと言ってきかない。今回も夕暮れになったからと不自然に現場を離脱した」
「そ……れ、は」
ルイスは驚いていた。
首都でのあれこれが、色々と腑に落ちる。
そうか、ベンは自分のために。
少しずつ離れていくような気がしていたベンが、実は少しも自分から離れてはいなかった。
シャルムは意外そうに眉を上げた。
「ルイスもそんな顔をするんですね」
ルイスは気恥ずかしくなって背を向けた。
「――とにかく、ごめんね。心配かけて。ゲオルグに会う前に情報を出し過ぎたと思う」
「と、いうと」
「身寄りのない孤児で、簡単に消せると思わせてしまった。僕の失敗」
だから単身訪ねたのを幸いと捕まえて売ってしまおうという訳だ。
「それは想定外です。当時赤ん坊だった子供の口封じをしようなど、考えるとは思わない」
その辺はゲオルグらしいと思った。
思い立ったら行動に移してしまうタイプに見えた。
「まあ、捕まえたら色々わかるかな」
六時まで待たずにゲオルグは現れた。
地下牢に入ってすぐさまその身柄は確保された。
他領のことなので静かに、秘密裏に、一同は気配を消して速やかにヴェッターホーンに帰還した。
ヴェッターホーンにいる時は守られた毎日で、驚くことというのがそもそもあまりなかった。
こうして調査を始めて、思いもよらないことの連続に会うと、所詮自分の十三年の人生経験では無理があるのだなと痛感する。
ルイスは鉄格子に手をかけた。
牢屋というものに初めて閉じ込められた。もちろん見るのも初めてだ。
揺らしてもびくともしない。当たり前ではあるが。
閉じ込められた牢屋の向かいには、もう一つ牢屋がある。ここがどこなのかもそもそもよくわからない。
ゲオルグの遣いという人について行ったら、てっきり商店へ向かうのだと思ったら背後から目隠しをされて口を塞がれ、荷馬車に積み込まれた後この建物に運ばれた。
時間的には街のどこかではあるのだろうが、おそらくは地下。時間もわかりづらい。
いったい何がいけなかったのか。
することもないのでルイスは考えた。
ここで自分に何かあれば、間違いなくシャルムとオーナーの首は飛ぶ。それはあまりにも申し訳ない。
少し離れたところからついて行くと言っていたベンが、最後までルイスを見失わずここを突き止めていることを祈るしかない。
どれくらい時間が経ったのかわからない。数時間は経ったと思う。
入り口の方からガチャガチャと音がして、数人の足音が聞こえた。
膝を抱えたまま、ケープを深く被りあまり目が合わないように見れば、男が三人。一人は肩に何かを抱えている。
向かいの牢に入っていった。
ドスン、と音がして下ろされたのはやせ細った少年だった。
うめき声をあげ、床に丸まっている。
何がおかしいのか男たちは下品な笑い声を立てていた。
「た、た、……たすけ……」
少年が声を震わせている。
「たてよ、ほら」
男の一人が立たせようと腕を掴むが、少年の膝はがくがくと目に見えて震えており、立つことができない。
「おいおい。しっかりしろよ」
野太い声はそれだけで恐怖心を煽るようだった。男二人が両脇から腕を掴んで立たせるが、それにぶら下がるようになっている。
「主様、こんなの売れるんですか」
「まあ、まだ若いからな。高くはならんだろうが買い手はある」
主様、と呼ばれた男はあとの二人より少し身なりが良かった。
「だってよ。良かったな、売れるってよ」
「ひっ……」
男が小突くと、少年はその場にしりもちをついた。離れていてもわかるほど震えている。頭を抱えて、また丸まってしまった。
「主様、これちょっと遊んでもいいですか」
「お前、その癖どうにかしろ。前回も来たばっかりのやつを駄目にしただろう」
「この震えてるのが、面白いでしょう」
「舌でも噛まれたらどうすんだ。もうちょっと落ち着いてからにしろ」
「――だってよ。じゃあ、また夜に遊びに来てやるよ。それまでに心の準備しておけよ」
男は丸まった少年を弄ぶように小突き、唯一出ていた耳を噛んだ。
「ひいいっ……!!」
少年の悲鳴が響く。
それを見て男たちが本当に楽しそうに笑っている。
男たちは牢屋を出て鍵を閉めた。
そのままルイスに目を止める。
「――あれ?いつの間にもう一人」
「小汚いが……子供か?」
「あれは、ガフマン商会からだ」
「ああ、ゲオルグの」
「モンクレアの男娼らしいぞ。遊ぶならあっちだな」
「へえ……」
男二人が舌なめずりするのが分かる。
歩を進められ、まずいな、とルイスは身を固くした。
「僕、男娼じゃないです」
咄嗟に声が出ていた。
「何か手違いがあったようです」
「――って言ってますが?」
「あ?男娼を一人捕まえて売ってくれって言われただけだ。俺は知らない」
どうやらこの男は人を商売にしているらしい。ゲオルグの要請を受け、背後からルイスを襲ったのがこの男なのだろうか。
王国では人の売買は禁止されているが、それでも貧しい村では、親が子どもを売ることもあると聞いたことがある。どちらにしてもまっとうな商売人ではないのだろうが。
一か八かだな、とルイスは考えた。
「なぜこのようなことになったのかわかりませんが、ここから出してください。定期連絡が途絶えると、僕の捜索に騎士らが動きます」
「は、騎士?お前……なにもんだ」
「僕の口からは……」
なんだ、はったりか、という雰囲気が流れる。
ルイスはシャツの中に手を入れた。
普段着に内ポケットはないので、下着の上にハーネスをつけていつも身に着けていた。もう一体化していて違和感なく、着けていることも忘れるほどに定着している。
その銀の短剣を取り出した。
「僕の身分を証明するものです」
二人の男はわからないようだったが、主様と言われた男ははっとして鉄格子に寄ってくる。
「お前……まさか、それ!!」
「なぜこんなことになったのか、僕にもわかりません。ですが早く僕を解放してくださらないと……あの方のお怒りに触れたら、この街ごと、地図から消えることになります」
「主様?なんなんですか、あれ」
「待て。待て……なんだ?意味が分からねえ。なんでそんなことになってる」
「貴方は一体、何を頼まれたのですか?まさか、国家の転覆を……」
「馬鹿言うな!俺は細々と商売してんだ。面倒事を避けるためにどんだけ頑張って――ゲオルグ、あの野郎!俺に嘘をつきやがったのか!」
「そのゲオルグというものが、僕を捕らえるように命じたのですか」
「あいつ、裏切りやがったのか……?今更俺を嵌めようと……いや、まさか」
男は迷っていた。ヴェッターホーンの紋章を見たことで動揺させることはできたようだ。
「とりあえず、ここから出してもらえますか」
男は唸ってから、背後の男たちに指示をした。
牢の鍵は開けられる。
うまくいきすぎてルイスの方が大丈夫かなと思ったくらいだ。
「おい、俺はゲオルグと無関係だ。たまに人を寄こされるだけの付き合いだからな。報復ならゲオルグにしろよ。ガフマン商会のゲオルグ・シャンベンだ」
「ガフマン商会……その人はどこに」
「今夜六時にここで約束してる。あと一時間だ」
「わかりました」
「おい、撤収だ」
男が言うと、配下の二人は手慣れた仕草で証拠となりそうな物品をかき集め、鞄に詰めて去っていった。
ものすごい速さだ。
何かあればすぐに行方をくらますことで生き延びているのだろう。
ルイスは急いで外に出ようとして……足音に身を隠した。
「ルイス?」
ベンの声だ。
「ベン!」
呼ぶとベンが駆け寄ってくる。
見慣れた姿に全身の力が抜けるのを感じた。
「ベン……」
心の底から安心した。
ベンの背後にはシャルムがいた。
「ご無事ですか」
「うん。来てくれてたんだ」
「モンクレアの動ける影は全員連れてきています。しかし……想定外でした。申し訳ありません」
「僕が無茶した結果だから」
商会でのあれこれを想定して配置を考えていた。まさか宿から出てすぐに、いきなり捕まるとは。
「何もされなかったか?」
「うん。危なかったからちょっと奥の手使っちゃった」
想像以上にうまくいってびっくりしたが。
「逃げた男三人、見た?」
「捕らえております」
「良かった。家紋見られちゃったから」
「口は封じましょう」
「六時にゲオルグがここに来るらしい。捕まえられる?」
それは今回唯一の大きな収穫だ。そして最後の手がかりになるかも知れない。
犯罪が明らかになっている以上、泳がせる必要はない。姿を見せ次第捕らえてヴェッターホーンへ連れ帰る。
「容易いことです。――ベン、お前がルイスの身代わりをしろ」
「え、俺は十三歳に見えねえから駄目だって言ってなかったか」
「もうこれ以上ルイスを前に立たせるわけにはいかない。話をする訳でもないし、適当に子どもがいるとわかればそれでいい。そこに入ってろ」
「ええー?」
二人のやりとりにルイスは交互に見比べた。
「ちょっと待って。シャルムとベンは、いつ知り合ったの?」
ベンはルイスからケープを脱がしながら思い出すように視線を上にやった。
「いつだ……結構前だな」
「なんで」
「普通に、誘われて。仕事しないかって」
ルイスのケープをばさりと被り、ベンは牢に入った。膝を抱えて座れば、少し小さく見える。
「これでいいか」
シャルムが牢を閉めた。
「寝るなよ」
「はいはい」
このやり取りを聞いていると、かなり長い付き合いのように思う。
どういうことだ、というルイスにシャルムはとにかくこちらへ、とルイスを外へ連れ出した。
「本当に大丈夫ですか」
「うん。あ、向かいの牢の子も保護しといてね。これも何かの縁だし」
「はい」
どうやら、ここは街の端の方だ。人通りが少ない。
シャルムは隣の空き家にルイスを誘った。
ルイスが捕まっている間に拠点として確保したらしい。
居場所は後をつけていたので把握していたのだが、地下の様子がわからないため、突入する機会を窺っていたという。
そのうち男たちが出てきたから、ベンが制止を聞かず入って行った、と。
「寿命が縮みました」
「うん。僕に何かあったら、シャルムとオーナーが危ないと思って。絶対死ねないと思った」
「ご冗談を……笑えませんよ」
冗談でもないのだが。
「それで、ベンはいつから……」
「王都で遊んでいるところに、声をかけました。まだ数ヶ月ですね」
「公爵様も知ってるの?」
「一度誘ってみたらどうだと、仰ったのは公爵様です」
「へえ……」
「体格にも恵まれてますし。影は騎士ほど堅苦しくない。出自も問わず、自由がきく。ベンには向いていると思います」
「じゃあ、なんでそんなに不満そうなの」
「自由が過ぎるので」
考えるのが苦手だからかと思ったが、そんなことはないらしい。指示されたことをこなすだけでも十分役目は果たせるし、ベンの直感は馬鹿にならない、と一応評価はしていた。
「そもそも今回、ゲオルグに嗅ぎつけられたのはベンのせいなんです。一度、長引いて徹夜になった事があり、それ以来絶対に夜は働かないと言ってきかない。今回も夕暮れになったからと不自然に現場を離脱した」
「そ……れ、は」
ルイスは驚いていた。
首都でのあれこれが、色々と腑に落ちる。
そうか、ベンは自分のために。
少しずつ離れていくような気がしていたベンが、実は少しも自分から離れてはいなかった。
シャルムは意外そうに眉を上げた。
「ルイスもそんな顔をするんですね」
ルイスは気恥ずかしくなって背を向けた。
「――とにかく、ごめんね。心配かけて。ゲオルグに会う前に情報を出し過ぎたと思う」
「と、いうと」
「身寄りのない孤児で、簡単に消せると思わせてしまった。僕の失敗」
だから単身訪ねたのを幸いと捕まえて売ってしまおうという訳だ。
「それは想定外です。当時赤ん坊だった子供の口封じをしようなど、考えるとは思わない」
その辺はゲオルグらしいと思った。
思い立ったら行動に移してしまうタイプに見えた。
「まあ、捕まえたら色々わかるかな」
六時まで待たずにゲオルグは現れた。
地下牢に入ってすぐさまその身柄は確保された。
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