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第3章
24.
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ベンは王室のパーティーに参加しろと言われた時、ヘルマンに自分でいいのか尋ねた。いつも万全を期すヘルマンがただ気まぐれに影の使い走りの様な事をやっているだけの自分に付き添いをさせる意図がわからなかった。
「見知ったものから絡まれるかも知れない。そうなるとお前が適任だろう」
ヘルマンにはそう言われた。
アーチと話すルイスを見て、こういう事だったのか、と思う。
少し人気の少ないところまで歩いて来て、アーチは止まった。
「ルイス、久しぶりだ!」
「アーチ。――あ、アーチボルト殿下」
ルイスは胸に手を当て、頭を下げようとして、アーチに止められた。
「頼む、普通に話してくれないか。以前のように。呼び方もアーチで構わない」
「そういう訳には」
チラリと周囲を伺う。王子と公爵子息が話していたら注目を集める。
「では、せめて公の場以外では」
皇帝ウィリアムと同じような事を言う。ルイスは思わず笑った。
「なんか……感じが変わったな」
「そりゃ、以前は平民として暮らしてたから」
「見た目もそうなんだけど……なんていうか、その……」
貴族の格好を見るのはこれで二回目で、確かに見惚れそうなほど目を引く容姿ではある。
アーチはうまく言葉にできなかった。
見ているようで見ていないような。一緒にいるのに心ここにあらずな感じ。それがなくなって、地に足をつけて立っているような感じがする。
相変わらず飄々とした態度は取っていても、あたたかみがある。それが逆に歳と不相応な落ち着きに見える。先ほどのように失礼なことを言われても全く動じないし、大人に囲まれていても少しも圧倒された様子がない。
「――男前になった」
「それはありがと」
さらりと言葉を受け取るところは相変わらずだ。
会話が続かなくてアーチが焦れた。
「何も、聞かないのか」
「何もって?」
「その……驚いただろう。私が王子だと知って。何か聞きたいことはないのか」
「ないかな」
即答である。
アーチががっかりした顔をする。ルイスは少し慌てた。
「あ、じゃあ――あれってもう食べていいのかな。みんなあんまり食べてないけど」
ずっと気になっていたテーブルを指す。挨拶回りは少しも終わってないが、見ているとお腹が空いてきた。
「いいけど、好きに食べたら。それなのか?私に関することはないのか」
「アーチに……」
ルイスは困ってベンを見上げた。アーチはがっくりと肩を落とす。
「そこまで興味がないか、私に」
「興味……」
ない、とはさすがに口には出さなかった。
「でもアーチがいいとこの子だってのはわかってたし。王子だって知ったのは今だけど。――へえ、って思ったよ」
「へえって……」
「あ、お父さんとちょっと似てるね」
「――いい。無理に言わなくていい」
気を違わせているのが分かって、アーチはそこで止めた。
はじめから今まで、ずっと興味を持たれないままだ。
ベンはその様子を黙って見ていた。
ルイスはユリア以外誰にでもこうだし、下手をするとベンに対しても同じような感じだ。アーチに僅かに同情はするが、それを言ってやるつもりはベンにはなかった。
「じゃ、またね」
いいと言われたのを会話の終わりと受け取ったのか、ルイスがあっさり去ろうとする。アーチは慌てて手を掴もうとして――ベンに阻まれた。
「――何をする」
「仕事だけど」
無礼な態度にムッとしたが,構っている場合でもない。
「……ルイス、もう少しだけ……待ってほしい。少し話したい」
「話?いいよ」
あっさり止まって、ベンの脇から顔をのぞかせてくれる。
「じゃあちょっと食べながらでいい?あそこ入ろうよ。お腹すいちゃった」
そう言って狙っていた公爵家の座席を指す。
「ベン、お願い」
「ガッツリ?あっさり?」
「ガッツリと甘いの!――あ、アーチもいる?」
「いや……」
そう言って、二人は公爵家の休憩場所に入る。
公爵子息と王子が同年で意気投合したのだろう、と周囲からは特に不思議がられることもない。
「あの男は……侍従だったのか」
「違うよ。言ったでしょ、友達だって」
「護衛のようだが、随分気心の知れた侍従のようでもある」
「ずっと一緒にいるからね。楽だよ」
「私は……彼が羨ましい。私もルイスともっと――」
そこまで言って、二人の間にゴン、とグラスが置かれる。ベンだ。
何も目の前に置かなくてもいいじゃないかとベンを見れば、じろりと見下ろされる。
わざとだ。
「そこ閉めて、ベンも食べようよ」
「あとでな」
アーチがいるのにヘルマンからの視界を遮るつもりはない。ヘルマンが時折こちらを窺っているのは気づいているから、ベンはルイスの後ろに立った。
「で、話って?」
「――お前が言うな!」
アーチはむっとしてベンに言ってから、ルイスに向き直る。
「その……今回の、一連のことを聞いたんだ……」
「うん」
「ファルト伯爵家のこと……すまなかった」
ピックに差された一口のものを3つまとめて口に入れたから返事ができず、ルイスは黙ってアーチを見つめた。
真面目な話とは思わなかったから。もごもごと目だけ真面目ぶってアーチを見ながら、口は忙しく動かしている。
「父も祖父も、謝罪はできないって。だから私が――謝って済む話じゃないが」
しばらく沈黙が流れる。やっと飲み込んで、ルイスはベンに水を渡されていた。
「なんでアーチが謝るの」
「王家の裁判で起きたことだからだ。そして……私が生まれたせいで」
報告を聞いた時、愕然とした。
あのルイスが公爵邸に迎え入れられた、公爵が後継を他家から迎えた、公爵のいつも連れていた補佐官が実はファルト家の生き残りだった――それらの貴族界を騒がせた知らせより何より、父の口から聞いたこの事実がアーチは衝撃だった。
国中に祝われて誕生し、文字通り祝福のもとに育ってきた自分のその陰で、隠匿され速やかに処理された事件があった。同じころに生まれたというのに、自分は何も知らずのうのうと生き、対照的にその犠牲になった子供たちは平民として想像もできない辛酸をなめ生きてきた。
それがよりによって、ルイスだと知って。
「本当は合わせる顔がなかった。けれどやはり、会いたくて……」
「あのさ、アーチ」
思い詰めるアーチとは対照的に、ルイスの声は明るかった。
「ファルト家の一件の首謀者は執事長だよ」
「それは知っている。しかし……」
「王家の思惑がどうとか、たまたま生まれた時期が悪かったなんて……飛躍しすぎだと思わない?」
冷静に考えればそうだろう。
しかしルイスを見て、自分を見ると、関係ないなどとは思えなかった。
「どんな想像してるか知らないけど、僕もリアも幸せだからね。王家に恨み持ってるように見えないでしょ?」
「それは……そうだが」
「自分のせいだって思ってたの?そんな風に思ったらつらかったでしょ」
ルイスは少し悲し気な顔になった。
同じような思いを持っているものとして、そのつらさだけは共感できる。
「ルイス……」
なぜ当事者であるルイスが、そんな風に言えるのだろう。
アーチは鼻の奥が痛くなりそうで。何とかこらえた。
「ほら、そんなことよりさ。これからよろしくね。僕が公爵になったら、その頃はアーチが皇帝になってるでしょ?そしたら元老院で年に何回も顔を合わせることになるでしょ」
ルイスが元気づけてくれているようで、それに単純にも乗っかりたい自分がいる。
「これからは、もっと会えるかな。今まで以上に」
平民で、しかもヴェッターホーンの子だと思っていたからと、半ば諦めていた。でも。
「そうだね。これからは、友達で、又従兄弟で、主従で……」
「最後のはいい。代わりに……」
アーチが身を乗り出す。
ぬっとルイスの顔を覆うようにベンの手が入ってきた。
「おい!」
「――ああ、悪い、虫が」
「お前……」
「俺も腹減ったな」
「だよね。多分これ好きだよ。いる?」
呆気にとられるアーチを放って、ルイスが振り返って尋ねる。ベンがにやりと笑った。
「ばれねえように」
「じゃあ、ほら、内緒話して」
ルイスが器用に肉を手で隠し、ルイスの耳に顔を寄せるベンの口元まで運ぶ。
手で隠しているが、耳打ちしているようには見えない。下手をしたら口づけしているように見えるのではないか。
「うま……」
「だよね」
ホールからある程度死角になっているため気付いたものはいないようだが、間近でそれを見せられたアーチはびっくりする。
ベンがずっとアーチから視線を外さないのも気に入らない。
牽制されている?まさか。
「ル、ルイス、私も……」
「うん、どうぞ」
すっとルイスにフォークを渡された。
「……………………」
渡されたフォークを見て固まっていると、ベンが追い打ちをかけるように続けた。
「ルイス、ついてる」
「え、どこ」
「ほら……」
目の前でベンの手がルイスの頬をこする。
「ちょ、いた……」
とれた?と聞くルイスにベンが頷いた。
「おい、今――」
何もついていなかった。
「そろそろ戻らねえと、いつまでたっても帰れねえぞ」
ベンがしれっと遮った。
普段誰かに発言を遮られることなどないからアーチは単純に驚く。
「あー、そうだね」
人垣を見てげんなりするルイスをベンが元気づけた。
「頑張って、終わったら四十八時間寝るんだろ」
「付き合ってくれるの?」
「いいけど、四十八時間って……何日?」
「今日の夜から寝て、明後日の夜起きる」
「腹減りそうだな」
「一日二食はご飯運んでね」
「口までか?」
「それいいね」
ルイスが目を輝かせて、二人で笑い合っている。
引きこもってゴロゴロするなんていつぶりだろう、と本気で楽しみにしているようだ。
アーチは開いた口がふさがらなかった。
今の会話は。まさか。
「君たちは……そういう、関係なのか」
「あのさ、王子様もほら、あっちに挨拶したそうな奴らがぞろぞろこっちみてるぞ」
目線で指されるのも、不敬極まりない。
「殿下と呼べ!」
「あんま大きい声出すなよ。聞かれるだろ」
「おまえ……」
「アーチ、ベンは慣れてないんだよ。許してあげて」
「それにしても、失礼過ぎないか?こんなものをそばに置いていては……」
「俺は公爵様に頼まれてるんで」
ベンはしれっと言った。
ヘルマンの姿がよぎると、一気に意気を挫かれる。
「なんかってんなら、公爵様通してくれますかね」
後ろ盾が大きすぎる。
「お前……覚えていろよ」
「え、なに、喧嘩?仲悪いの?」
やめてよね、と面倒臭そうにルイスが言った。
「見知ったものから絡まれるかも知れない。そうなるとお前が適任だろう」
ヘルマンにはそう言われた。
アーチと話すルイスを見て、こういう事だったのか、と思う。
少し人気の少ないところまで歩いて来て、アーチは止まった。
「ルイス、久しぶりだ!」
「アーチ。――あ、アーチボルト殿下」
ルイスは胸に手を当て、頭を下げようとして、アーチに止められた。
「頼む、普通に話してくれないか。以前のように。呼び方もアーチで構わない」
「そういう訳には」
チラリと周囲を伺う。王子と公爵子息が話していたら注目を集める。
「では、せめて公の場以外では」
皇帝ウィリアムと同じような事を言う。ルイスは思わず笑った。
「なんか……感じが変わったな」
「そりゃ、以前は平民として暮らしてたから」
「見た目もそうなんだけど……なんていうか、その……」
貴族の格好を見るのはこれで二回目で、確かに見惚れそうなほど目を引く容姿ではある。
アーチはうまく言葉にできなかった。
見ているようで見ていないような。一緒にいるのに心ここにあらずな感じ。それがなくなって、地に足をつけて立っているような感じがする。
相変わらず飄々とした態度は取っていても、あたたかみがある。それが逆に歳と不相応な落ち着きに見える。先ほどのように失礼なことを言われても全く動じないし、大人に囲まれていても少しも圧倒された様子がない。
「――男前になった」
「それはありがと」
さらりと言葉を受け取るところは相変わらずだ。
会話が続かなくてアーチが焦れた。
「何も、聞かないのか」
「何もって?」
「その……驚いただろう。私が王子だと知って。何か聞きたいことはないのか」
「ないかな」
即答である。
アーチががっかりした顔をする。ルイスは少し慌てた。
「あ、じゃあ――あれってもう食べていいのかな。みんなあんまり食べてないけど」
ずっと気になっていたテーブルを指す。挨拶回りは少しも終わってないが、見ているとお腹が空いてきた。
「いいけど、好きに食べたら。それなのか?私に関することはないのか」
「アーチに……」
ルイスは困ってベンを見上げた。アーチはがっくりと肩を落とす。
「そこまで興味がないか、私に」
「興味……」
ない、とはさすがに口には出さなかった。
「でもアーチがいいとこの子だってのはわかってたし。王子だって知ったのは今だけど。――へえ、って思ったよ」
「へえって……」
「あ、お父さんとちょっと似てるね」
「――いい。無理に言わなくていい」
気を違わせているのが分かって、アーチはそこで止めた。
はじめから今まで、ずっと興味を持たれないままだ。
ベンはその様子を黙って見ていた。
ルイスはユリア以外誰にでもこうだし、下手をするとベンに対しても同じような感じだ。アーチに僅かに同情はするが、それを言ってやるつもりはベンにはなかった。
「じゃ、またね」
いいと言われたのを会話の終わりと受け取ったのか、ルイスがあっさり去ろうとする。アーチは慌てて手を掴もうとして――ベンに阻まれた。
「――何をする」
「仕事だけど」
無礼な態度にムッとしたが,構っている場合でもない。
「……ルイス、もう少しだけ……待ってほしい。少し話したい」
「話?いいよ」
あっさり止まって、ベンの脇から顔をのぞかせてくれる。
「じゃあちょっと食べながらでいい?あそこ入ろうよ。お腹すいちゃった」
そう言って狙っていた公爵家の座席を指す。
「ベン、お願い」
「ガッツリ?あっさり?」
「ガッツリと甘いの!――あ、アーチもいる?」
「いや……」
そう言って、二人は公爵家の休憩場所に入る。
公爵子息と王子が同年で意気投合したのだろう、と周囲からは特に不思議がられることもない。
「あの男は……侍従だったのか」
「違うよ。言ったでしょ、友達だって」
「護衛のようだが、随分気心の知れた侍従のようでもある」
「ずっと一緒にいるからね。楽だよ」
「私は……彼が羨ましい。私もルイスともっと――」
そこまで言って、二人の間にゴン、とグラスが置かれる。ベンだ。
何も目の前に置かなくてもいいじゃないかとベンを見れば、じろりと見下ろされる。
わざとだ。
「そこ閉めて、ベンも食べようよ」
「あとでな」
アーチがいるのにヘルマンからの視界を遮るつもりはない。ヘルマンが時折こちらを窺っているのは気づいているから、ベンはルイスの後ろに立った。
「で、話って?」
「――お前が言うな!」
アーチはむっとしてベンに言ってから、ルイスに向き直る。
「その……今回の、一連のことを聞いたんだ……」
「うん」
「ファルト伯爵家のこと……すまなかった」
ピックに差された一口のものを3つまとめて口に入れたから返事ができず、ルイスは黙ってアーチを見つめた。
真面目な話とは思わなかったから。もごもごと目だけ真面目ぶってアーチを見ながら、口は忙しく動かしている。
「父も祖父も、謝罪はできないって。だから私が――謝って済む話じゃないが」
しばらく沈黙が流れる。やっと飲み込んで、ルイスはベンに水を渡されていた。
「なんでアーチが謝るの」
「王家の裁判で起きたことだからだ。そして……私が生まれたせいで」
報告を聞いた時、愕然とした。
あのルイスが公爵邸に迎え入れられた、公爵が後継を他家から迎えた、公爵のいつも連れていた補佐官が実はファルト家の生き残りだった――それらの貴族界を騒がせた知らせより何より、父の口から聞いたこの事実がアーチは衝撃だった。
国中に祝われて誕生し、文字通り祝福のもとに育ってきた自分のその陰で、隠匿され速やかに処理された事件があった。同じころに生まれたというのに、自分は何も知らずのうのうと生き、対照的にその犠牲になった子供たちは平民として想像もできない辛酸をなめ生きてきた。
それがよりによって、ルイスだと知って。
「本当は合わせる顔がなかった。けれどやはり、会いたくて……」
「あのさ、アーチ」
思い詰めるアーチとは対照的に、ルイスの声は明るかった。
「ファルト家の一件の首謀者は執事長だよ」
「それは知っている。しかし……」
「王家の思惑がどうとか、たまたま生まれた時期が悪かったなんて……飛躍しすぎだと思わない?」
冷静に考えればそうだろう。
しかしルイスを見て、自分を見ると、関係ないなどとは思えなかった。
「どんな想像してるか知らないけど、僕もリアも幸せだからね。王家に恨み持ってるように見えないでしょ?」
「それは……そうだが」
「自分のせいだって思ってたの?そんな風に思ったらつらかったでしょ」
ルイスは少し悲し気な顔になった。
同じような思いを持っているものとして、そのつらさだけは共感できる。
「ルイス……」
なぜ当事者であるルイスが、そんな風に言えるのだろう。
アーチは鼻の奥が痛くなりそうで。何とかこらえた。
「ほら、そんなことよりさ。これからよろしくね。僕が公爵になったら、その頃はアーチが皇帝になってるでしょ?そしたら元老院で年に何回も顔を合わせることになるでしょ」
ルイスが元気づけてくれているようで、それに単純にも乗っかりたい自分がいる。
「これからは、もっと会えるかな。今まで以上に」
平民で、しかもヴェッターホーンの子だと思っていたからと、半ば諦めていた。でも。
「そうだね。これからは、友達で、又従兄弟で、主従で……」
「最後のはいい。代わりに……」
アーチが身を乗り出す。
ぬっとルイスの顔を覆うようにベンの手が入ってきた。
「おい!」
「――ああ、悪い、虫が」
「お前……」
「俺も腹減ったな」
「だよね。多分これ好きだよ。いる?」
呆気にとられるアーチを放って、ルイスが振り返って尋ねる。ベンがにやりと笑った。
「ばれねえように」
「じゃあ、ほら、内緒話して」
ルイスが器用に肉を手で隠し、ルイスの耳に顔を寄せるベンの口元まで運ぶ。
手で隠しているが、耳打ちしているようには見えない。下手をしたら口づけしているように見えるのではないか。
「うま……」
「だよね」
ホールからある程度死角になっているため気付いたものはいないようだが、間近でそれを見せられたアーチはびっくりする。
ベンがずっとアーチから視線を外さないのも気に入らない。
牽制されている?まさか。
「ル、ルイス、私も……」
「うん、どうぞ」
すっとルイスにフォークを渡された。
「……………………」
渡されたフォークを見て固まっていると、ベンが追い打ちをかけるように続けた。
「ルイス、ついてる」
「え、どこ」
「ほら……」
目の前でベンの手がルイスの頬をこする。
「ちょ、いた……」
とれた?と聞くルイスにベンが頷いた。
「おい、今――」
何もついていなかった。
「そろそろ戻らねえと、いつまでたっても帰れねえぞ」
ベンがしれっと遮った。
普段誰かに発言を遮られることなどないからアーチは単純に驚く。
「あー、そうだね」
人垣を見てげんなりするルイスをベンが元気づけた。
「頑張って、終わったら四十八時間寝るんだろ」
「付き合ってくれるの?」
「いいけど、四十八時間って……何日?」
「今日の夜から寝て、明後日の夜起きる」
「腹減りそうだな」
「一日二食はご飯運んでね」
「口までか?」
「それいいね」
ルイスが目を輝かせて、二人で笑い合っている。
引きこもってゴロゴロするなんていつぶりだろう、と本気で楽しみにしているようだ。
アーチは開いた口がふさがらなかった。
今の会話は。まさか。
「君たちは……そういう、関係なのか」
「あのさ、王子様もほら、あっちに挨拶したそうな奴らがぞろぞろこっちみてるぞ」
目線で指されるのも、不敬極まりない。
「殿下と呼べ!」
「あんま大きい声出すなよ。聞かれるだろ」
「おまえ……」
「アーチ、ベンは慣れてないんだよ。許してあげて」
「それにしても、失礼過ぎないか?こんなものをそばに置いていては……」
「俺は公爵様に頼まれてるんで」
ベンはしれっと言った。
ヘルマンの姿がよぎると、一気に意気を挫かれる。
「なんかってんなら、公爵様通してくれますかね」
後ろ盾が大きすぎる。
「お前……覚えていろよ」
「え、なに、喧嘩?仲悪いの?」
やめてよね、と面倒臭そうにルイスが言った。
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