Open Heart 【たとえ病気だって裏返れば無双は出来なくても役に立てるもん!】

巴崎 サキ

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第5話 持たざる者

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「オヤジ!いつものやつをニつくれっ!」

 ザイラスは、BARのマスターに注文する。
 どうやらここの常連なのだろう。
 カウンターテーブルにすぐドリンクが届いた。
 やたらと大きなジョッキだ。
 例えるなら、持てるサイズにした樽のようだ。

「よぉ!ザイラス。今日は珍しく、えらいべっぴんさん連れてんじゃねぇか。しっかし、不思議な格好した姉ちゃんだな」

 マスターは、マナのスーツをまじまじと見る。

「まぁ、後で紹介すっから」

 ザイラスはそう言うと、シッシッと手を振り追っ払う。


「おぉ!マナ、遠慮なくやってくれ!」

 ザイラスは、そう言うと一気に煽る。それにしても、凄まじく豪快な飲みっぷりだ!

「じゃ~、いただきます!ってか、重っ!」

 重過ぎるジョッキを両手でしっかりと持つと、グビッと一口飲んでみる。

(えっ?ビール?)

「どや?ここの麦酒、なかなかうめぇだろぉ?」

「え⋯⋯えぇ。はいっ!そうですね!(麦酒?もしかして⋯⋯)」

 アルコール度数は少々高めだが、飲めない事はない。

 もう一口グビッと飲むと少しばかり思うことを質問し始めた。

「あの~、ビールって知ってますか?」

「あん?なんじゃそれ?」

「えっと、バケツは?」

「ん?知らねぇよ」

「桶は?」

「風呂に置いてあったろ?」

「ハンガー!」

「はっ?」

「衣紋掛け!」

「知ってるに決まってんだろ!さっきから何なんだよ?」

 そう言うと、ミニ樽を叩きつける。

「あはははは。いえ、そうじゃなくって!そっか。そう言う事だったんだ。あはははは。(けど、スキルだけ言葉が “技能” に言い替えられてないのはなんでだろう?」

 風呂場での噛み合わない会話の理由がまた一つわかったようだ。
 反して、首を傾げながら更にビールを煽るザイラス。


「オレからも少し聞いていいか?」

「へ?。勿論」

「一応、家で預かる以上、少し確認しておきたいんだが、あんた何処から来たんだ?風か?水か?」

 王宮、スキル、風や水。
 改めて、元の世界でよく聞いていた異世界という所にいるんだと感じさせられるマナ。

「⋯⋯風とか水とかの意味はわかりませんが、どれも違うと思います。ただ、国の名前は日本と言います。聞いた事ありますか?」

「⋯⋯いや」

「⋯⋯ですよね」

 遠くから、いくつかの笛の音が響いてくる。
 家々から、どんどん人が出てきたのか更に賑わってきたようだ。

「どうやってあそこの森まで来た?」

「ごめんなさい。わからないんです」

「じゃ、帰り方も?」

「⋯⋯はい。ごめんなさい。わかりません。あの⋯⋯」

 シュンと、うな垂れるマナ。
 一瞬何かを言いたげな素振りを見せるも、そのまま黙ってしまった。

 一方のザイラスは、「ここまで何も教わらずに育っちまう様な特殊な環境。やっぱり、よほどいい所の出の訳あり娘に違いねぇ」と確信した。
 ありきたりな所だと、世襲絡みで邪魔になり捨てられたとか。


「じゃ~、とりあえずステータス見せてみな。何かわかるかもしれねぇ」

「えっ?⋯⋯すて⋯⋯ステータス?あの⋯⋯えっと⋯⋯」

「それもわかんねぇのか?」

「⋯⋯はい」

「えっとなぁ、こう左手を出してだなぁ⋯⋯」

 ザイラスの手の平からフワーっと赤い小さな魔方陣が現れた。

 その上に霞んだ字で所持スキルが浮かび上がっている。

「頭で想像すれば出てくる筈だ。やってみな」


 属性で出身世界。
 生活必需の所持スキルで文化圏等がわかる筈だった。

 しかし⋯⋯

「ん??」

 流石のザイラスもこれには目を見開いて驚いた。
 マナの手から現れたのは、 “黒色の魔法陣” だった。
 そして、スキルらしき物は何一つ表示されていない。

(なんてこった。教わる教わってねぇ以前の問題だ。この娘には何もねぇ。スキルどころか、守護属性さえも。何かの模様みたいなのが少し書いてはあったが。そんな事って⋯⋯)

「あの⋯⋯なにかわかりました?」

 不安そうな声で問うマナ。

「いや、すまねぇ。余計わかんなくなっちまった」

「そ⋯⋯そうですか」

 驚くザイラスを他所に、不安気なマナ。

 それもそのはず、本人はどこから来たのかも、スキルなんてないのも承知の上。ただ、説明が難しい。下手に説明して突き放されたらと思うと怖いのだ。知りたいのは、ここが何処なのか?帰れるのか?そして、最悪ここでやっていけるのか?なのだ。


「あれっ?あっ!私、ちょっとトイレ⋯⋯いや厠行ってきます」

 何か気づいたところがあったのか、スタスタとカウンターを離れて行くマナ。

 トイレで一人になると、もう一度ステータスを開く。
 ザイラスには読めなかったみたいだが、マナには覚えのある言葉が並んでいた。

「見つけた。きっと、これが私がこの世界で生きて行く為の⋯⋯術」

・言語スキル(Language skills)
・足元強化スキル(Foot strengthening skill)
 そして、
・ナルコレプシー(Narcolepsy)

 この三つ。
 全て、筆記体での英語表記だ。

(えっ?⋯⋯これだけ?)

 上記二つは理解できた。
 この異世界で言葉が通じている事。
 そして、パンプスで来てしまった事による補助的なもの。
 三つ目、ナルコレプシー。
 これは、いったい⋯⋯?



 BARのマスターがスルスルっとザイラスに近づくと小声で話しかける。

「よぉ。見たぜ。ザイラス。なんだあの娘のステータスは?属性なしって、精霊の加護を剥奪されちまってんのか?それって、余程の罪人じゃなきゃ⋯⋯それこそ、魔女とか⋯⋯」

「オヤジ!いいか。今見た事はまだ誰にも黙っててくれ。迷惑はかけねぇ」

「あ⋯⋯あぁ。だが、面倒事は勘弁してくれよ」


 マナが不思議そうな顔をして戻ってきた。

「オヤジ、オレに付けといてくれ!マナちょっと出ようか」

「えっ?あっ、はい」


 村は、まだまだ祭りが続いているようだ。
 中央には櫓が組まれ、笛やら太鼓が鳴り響く。その周りをかなりの人数が笑顔で踊っていた。
 端の方では、酒を飲みながら大声で談笑している人達で溢れていた。

 みんながみんな本当に楽しそうだ。

「賑やかだろ?この村はよう。けどな、元はいろんな闇を抱えた連中が流れ着いて出来た村なんだそうだ」

 ザイラスは、続ける。

 ここは、最初の頃は炭鉱場として奴隷が沢山集められてた場所だった。
 だが、ある時から周囲に沢山の化獣が現れるようになり、雇い主は奴隷を捨て皆逃げた。
 その中を必死に生き延びた連中が開いた集落がここ “ボコレ村” だった。
 化獣に対抗しながら生き抜くのは文字通り死に物狂いだったらしい。

 そして、次第に色々な人間が流れ着くようになった。

 この村は、国の外れで国境にも隣接していない。
 だから、警備隊もいない。

 おまけに、今じゃそこら中、化獣の巣窟だらけで基本的になんの支援もない。
 用は、捨てられた村。
 流れ着く先にはもってこいだった。

 この村にあるのは炭鉱だけ。
 月に一度、引き換えにポーションが大量に届くぐらいだった。

 この村は、今じゃいろんな人の寄せ集めで出来ていた。
 元犯罪者もいれば、諸事情で国を追放された者、傭兵、戦から流れ落ちた異国の正規兵、いろんな人が流れ着く。
 奴隷商から逃げてきた子供達。
 親に売られた娘。
 化獣に襲われて見捨てられた商人や兵士。
 性的搾取され続けた女性だって沢山いる。

 マナが一人混じった所で全く問題にはならないだろう。

 ここは、ある意味無法地帯と言ってよかった。
 国の法には今更誰も従わない。
 但し、一つだけ村のルールがあった。
 それは⋯⋯

 村の人達は、”皆家族”

だった。


「そうだったんですね。みんな過去には色々あっても、居場所を見つけたんですね。
生き甲斐をみつけたんだ。いいなぁ」

 マナ(真奈美)は、自分の過去と照らし合わせる。
 今見ている光景が、眩しくて仕方がない。

「⋯⋯いいなぁ」

 静かに、涙が頬を伝った。

「過去に何があったかは知らねえが、あんたが居たけりゃ、いつまでもここに居たらいい。それすら、ここでは自由だ」

 ザイラスは、マナの髪をグシャッと潰す。
 ゆっくり見上げるマナ。

「⋯⋯うん。ありがとう」

 輝く夜空。
 二つの月は変わらず美しく輝いていた
ーー。


 祭りを見て回っていると色々なところから声が掛かる。

「おい?綺麗な姉ちゃん連れてんじゃねぇか」
「スラっとした服。初めて見るわ」
「ちょいと、ザイラス。どこで捕まえてきたんだ?」
「お客さん?珍しいわね。あんた、いくらで買ってきたのよ?」

 どうも、このグレーのスーツは余程目立つらしい。
 
「捕まえてねぇ。森で拾ったんだ」
「買ってねぇ!タダだ!」

 など、いい加減な返しをしながら周るザイラス。

 会話の内容は下品だが、仲の良さは伺える。
 リアクションに困ったマナは笑顔でなんとか返していた。

 そうこうしていると突然、地平線で太陽が早くも登ってきたかのようにオレンジ色に輝く箇所が現れた。
 それは、次第に禍々しく揺らめき始める。

「あれは?」

 闇夜に包まれぼんやりとしか見えないが、どうもかなりの煙が上がっているようだ。

「他の村や街でも今日はお祭りなんですか?」
 
 視線をザイラスに移すマナ。

 「やりやがった。あの火は⋯⋯」

 固く拳を握るザイラス。その手は、怒りを滲ませながら小刻みに震えている。

 スーッと村中が静まり返る。

 笛の音が止み、太鼓の音も、人々の笑い声も止まっていた。

 不気味なほどの静寂の中、皆が皆同じ一点を見つめていた。

 あの地平線の炎を。

「あの⋯⋯」

 ハッと我に帰るザイラス。

「悪い、悪い。地域によって色々とやり方があるんだろう?まあ、気にしねぇでくれ。⋯⋯今日は、とりあえず帰るか」

 そう言うと、そそくさと帰路に着いてしまった。



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