6 / 31
#6
しおりを挟むうおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!
小国のはずれにある街のギルド。そんな辺境の地に現れたSランカーの冒険者。
本来なら滅多に訪れない機会を前に、ギルド内は騒然と化していたーー。
「あ、あの、アシュリー・ホワイト様ですね。本日は何故このような地に足をお運びになられたのでしょうか?」
ギルドのお姉さんがどうもご丁寧に対応している。当然だ。ギルドにとってSランカーとは切り札も切り札。本来であれば聖国や大国の重要な役割を担ったり、ギルドでは通常受付をしていないような極秘任務などで忙しく辺境の、とりわけごくごく平凡かつ平和。そう言えるような場所にわざわざ足を運ぶような存在ではないのだーー。
控えめに言っても、王族に次いで宰相や聖騎士といった優遇される存在。それと同等の存在である。
そんな生きた英雄とも呼べるにはあまりに似つかわしくない表装の少女ーーアシュリーから放たれた返事は、予想もしない意外なものだった。
「別に……調べ物が終わったから、ただの暇潰しよ……。」
「え、……暇……潰し、ですか……?」
「ええ、そうよ。何か文句でもある?(ここの改行は入力ミスと思われます)
」
鬱陶しいとばかりに毒舌を吐き捨てる。
その様子を見た職員のお姉さんがあ、いいえ!ご協力ありがとうございました!!と深々とお辞儀すると同時に、あっけなくこの場を去っていった……。
初めてみる冒険者の姿ーー。その中でもあまりに雲の上の存在すぎるSランカーの少女を前に私の胸は、高揚でいっぱいだった……のだが、
「ああ。あとこの子、ちょっと借りていくわ……」
「え?あっ、ちょっと!?」
人一人抱えるには似つかわしくない、華奢な体で担がれていく。ギルド内の全員がポカンとしながら、じたばたしている私とそれを担ぐ少女という異様な光景を見送っていったーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ギルドから北上していったところにある中央区。
樹木が並ぶ公園の一角で……
「離して!ちょっと……これ、いつまで私担がれてるの?そろそろ降ろしてくれても……ってああっ!服のボタンが取れちゃった!ちょっと、見えちゃう!見えちゃう!降ろしてぇ~」
子猫のように泣き出し始めた頃合いになって、バサッと投げ捨てられる。
いてぇっ、と尻もちをついてお尻をさすっていると、ふと周囲の人達の目線が集まっている事に気がついた。
「はぅっ!」
バッーーと急いで外れたボタンを閉めてコートを着直す。
ふぅ、とため息をついて落ち着いた頃合いをみて、少女は口を開いた。
「あなた、冒険者?」
唐突の問いに一瞬頭が混乱する。
「いいえ、冒険者ではないわ。ただの鍛冶師で、さっき職業登録をしようとしてたの……」
意外だったのか目を丸くする少女。しかしその瞳は一瞬で何かを睨みつけるような視線に切り替わる。
「あなた鍛冶師なの?へぇ……でも一つ忠告しておくわ。職業登録はやめておきなさい……あなた、普通じゃないから」
いきなりなダメ押しにえっ、と思わず尻込みする。わざわざ街まで職業登録をしに来たのに職業登録せずにとんぼ返りするなんて何しに来たのやら。
「どうして?普通じゃないってどういうこと?」
そう問い返すと、少女は訝しむようにこう答えた。
「あなた、自分でわかってるくせに言い返すなんてバカにしてるのかしら……まあ、よっぽど言いたくない事情とかあるんだろうし、それを考えるとそういう反応になるのがある種の普・通・……ね」
何を言っているのか?全く意図が理解できない中で、少女ーーアシュリーから放たれた言葉は、私の思考を停止させるのに十分なものだった。
「だってあなた……前・世・の・記・憶・があるんでしょ?」
「ーーーっ!!!」
何故知っているの?どうして?どうやって?そんな疑問が思考を駆け巡る。
誰にも、今の家族にも言った事すらない。なのにこの少女は今日会ったばかりにも関わらずそれを知っている。
そんな私の疑問を見透かしたように、アシュリーは続けた。
「《星》が教えてくれたのよ。私の魔術は相手の持ち得る全・て・の・情・報・を可視化してくれる。それで、あなたを街で見かけた時偶然目にしちゃったのよ……。あなたの所持スキル欄に《鍛冶師》と並んで《転生者》のスキルがある事に……。本来このスキルは《秘・術・》である《輪・廻・転・生・》を使うか、前世の記憶を持った冗談で生まれ変わった者しか持たないのよ……でもあなたの職業欄に《輪廻転生》が使える《不死王リッチー》は無かった……。だからあなたは前世の記憶を持っている……故に、その《転生者》スキルを持っている……。これが、私があなたが前世の記憶を持っていると確信した理由よ……」
何を言っているのか?きっと正常な思考状態であればギリギリなんとか……ヒュイくらいの頭があれば理解できただろう!(私には無理!!)
しかし、何となくこの子が言いたい事が重要であるという事だけは、かろうじて私の頭でも理解できた。
「星が……あの……ごめんなさい!なんというか……私、鍛冶師としてしか生きてこなかったからあんまり魔術の事とかよくわからなくて……その~結局私がギルドで職業をもらうのとどういう関係があるのかな~って……あはは……」
アシュリーはきょとんとした顔で、ハァ……とため息を吐く。きっと私の理解力の低さに呆れたという表しなのだろう。非常に申し訳ない。
しかしこの心優しい少女ーーアシュリーは親切丁寧に私に事の重要性を説いてくれる。
「つまり、職業選択というのは所有者のスキルや職業によってギルド側が判断する事が多いのよ。それは自分から前世の記憶がありますって申告しているような者なのよ……」
「ええと、確かにあまり人には言いたくなくて、前世の事は家族にも言ってないのだけど……それってマズイ?」
頭を振りながら、アシュリーは答える。
「マズイもマズイ。大問題。本来《不死王リッチー》以外の《転生者》なんて職業数百年に一人単位の存在なの。まず間違いなくアナタ、まともに鍛冶師なんてやってられないわよ……。王国から聖国まで大賑わいのお祭り騒ぎ。《勇者》や《大賢者》ですらここまでならないのに非不死王転生者ノンリッチリバイバルなんて一生不自由まっしぐらよ。……まあ、あなたがそれでもいいって言うなら止めはしないけどね」
「え?えええええええええええええええええっ!!!!!」
事の重大さと初めて知った自分の職業《転生者》という真実をどう受け止めたらいいのか………。少なくとも私よりもこの少女の方が、私の事を理解しているのだと認めざるを得なかった。
「はぁ……何だか一生分ビックリした気分かも……って!そんな事より!」
咄嗟にバッーー、とアシュリーの手を掴む。
「ありがとう!!本っっ当に、ありがとう!!あなたがいなかったら私、一生鍛治師として生きていけなかったのね!ありがとう!!」
ぱあああっ、と笑顔が咲いたようなポピィのありがとう連呼を聞いて恥ずかしくなったのか、アシュリーのほっぺが真っ赤になって掴まれている手を振り解く。
「な、べ、別にワタシは……。まあ、アナタがよかったなら……いいんじゃない」
ほっとしたような、年相応の微笑みを見せるアシュリー。
そんなアシュリーの笑顔に応えるようにーー
「うんっ!!!」
屈託ない笑顔で返すーーポピィであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「な、何だ……おまえ達は……うっ……ブフォッーー」
「父さんっーー!父さんしっかりして……ゴルベルさん……ウェサルさん……」
炎に包まれた家屋の中で、ヒュイは血を吐いた父を抱き抱える。
傍らには先程まで一緒に休息を取っていた鍛冶職人の二人の亡骸が倒れていた。
「母さん……どこなの?母さんーー!!」
意識が遠くなりながら、先程洗濯に外へと出ていった母親の名を叫ぶ。
「ブッーー!ゴホォッーー!!」
自身も大量の血を吐き、もはや命が長くない事を悟るーー。
これが死か……。なんて残酷なのだろう?あまりに非常ではないか…………。あまりに唐突に訪れた不条理に、涙が溢れる。
あの子は大丈夫なのだろうか?せめて、せめてあの子だけは生き延びてほしいーー、戻って来てはいけない。ヒュイはただひたすらにそう願っていた。
「…………ポピィ…………どうか、……神様…………あの子……を、お助………け、くだ…………さい…………」
左手に祖母の肩身の女神の紋章が刻印されたペンダントを握りしめ、少女は暗闇の中に意識を落としたーー。
「ベハハハハハハハハハハハハッ!!!!!どうだどうだ!?ニンゲン共ぉ、俺様直々にこれから大虐殺をしてやるぜぇ!待ってろよぉ~、街の連中共ぉ~。俺の手下《死の蠱毒隊デス・ベルゼ》と共に全員息の根を止めてやらぁ!まずはこの国だ!魔王様より拝命せし《魔将十傑ましょうじゅっけつ》が一人、ベルゼブブ様が直々に潰してやるんだから感謝しやがれよぉ~、ベハハハハハハ!」
燃え盛る家屋を前に、紫色の触角と仮面を着けた男が高らかに嘲笑う。
その姿はまるで絶望をもたらす悪魔ーーそう例えるに相応しい光景だった…………。
28
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる