狂喜なあなた達

生獣屋 芽怠

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バカップルは幸福妨害がお嫌い

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   【幸せの為に努力 表】

 傍らに絶え間ない笑みを育む存在が愛しさが倍増させる、彼女の細くて長い黒髪を所持する頭を撫でるのが好きだ。
 華奢な体は守りたいと強く思わせる要因であり、見事その効果により彼女の盾になることに異論は無い。

 みさぎは最高の彼女だ。

「ゆうちゃん大好き!」

「俺も大好きだ!」

 所謂バカップルに該当する、我が母校である私立剣崎高等学校でも有名となっているがいつの間にか日常化している為、他の生徒には珍しがられない。
 でもバカップルは言い過ぎだろうと抗議してやりたい、彼女を大切にして何が悪い。まあ、それを誰にすれば良いのか分からないがな。
 しかし良く考えればどうでも良いのだ、俺は愛する彼女のみさぎと一緒に居られるだけで幸せなのだから。

「はい、ゆうちゃんが大好きなウインナーをタコさんに加工してたっぷり入れた私特製弁当だよ!」

「おっ、待ってました、やっぱりみさぎは最高だ!」

「えへへ、私偉い? 偉い?」

「ああ偉い偉い!」

 小さな頭を撫でてやると子猫のように可愛い笑顔を向けてくれる、またやってるよとクラスメイトから白けた視線を受けるが二人だけの世界に入り込む隙は無い。

 ああ、俺は幸せ者だ。

 現在高校一年で今は昼休みの真っ直中、大好きな彼女のみさぎと一緒に教室で昼食を取っていた。
 そんな幸福溢れる教室にたった二人だけ、呆れたクラスメイト達は他の場所へと移動しているのだがそんなことにも気が付かずに二人だけの空間に浸る。
 このみさぎが作ってくれる弁当はいつも俺の好物ばかり、しかも旨い。

「はい、ゆうちゃん、あーーんして?」

「あーーん! ……ん! 超旨い! 正に神クラスだよみさぎ!」

「エッへへ! ゆうちゃんから神クラス貰っちゃった!」 

 パッチリとた二重瞼の中にブラウンの瞳が輝く、右頬に泣き黒子、ちょっと低い鼻と小さな口が童顔に見せているがそれが可愛らしい。ショートの黒髪は背中まで届くが少し癖毛だ、プロポーションは最高、言いにくいけど胸が大きくて、くびれが凄く細い、つまりモデル体型なのだ。
 そんなみさぎが俺の彼女だとは信じられないが事実なのだから仕方が無い。

「あんた達も良くやるわね」

 ラブラブ空間を侵す声を辿ると、同じクラスの女子が呆れた顔でこちらを観察していた。

「……なんだよ浅倉、俺達に文句あるのか?」

「文句はいっぱいあるけど、どうせ聞き入れないし意味ないわね。ラブラブなところをこれでもかって程に見せつけちゃってさ、周りの迷惑を考えないのかしらね」

「なんだ……嫉妬?」

「ち、違うわよ!」

 慌ててやがるな、やっぱり羨ましいんだろう。こんなに互いを好きになるカップルが他の何処に居ようか。
 可愛いみさぎとは対照的な、ロングのウエーブ掛かったショートの黒髪に眼鏡を掛け、レンズの向こうには鷹の様な目が潜んでいる。
 身長は俺よりも高く、ついでに鼻も高い。まあ、美人だと思うがみさぎには勝てないな。次元が違うのだ。

「みさぎの方が良い女だ! 参ったか浅倉委員長!」

「へぇ……喧嘩売ってるのかしら?」

 鷹の目が鋭利と化す。

「……う、すいませんでした委員長様」

 危ない危ない、こいつ空手を生き甲斐とする危険女だった。噂では姉がいるらしくて姉妹二人で空手を習ったとか。
 浅倉の姉はどっかの大会で準優勝、こいつは三位に入賞する程の腕らしい。
 化け物かこいつ。

「もうゆうちゃん! お弁当早く食べよ! はい、あーーんして?」

「あ、うん! あーーん! んんっ! 美味しい!」

「エッへへ、良かった!」

「……はぁ、一生やってなさいよ」

 引き上げる委員長、どうやら俺の勝利らしいな?
 ふっ、みさぎとの愛の力に敵う訳が無い。しかしいつもこんな風にみさぎとイチャイチャしている訳だが、委員長はやけに絡むよな。
 ま、いっか。
 幸福で空腹を満たされた同時に満腹感も浮上し実に良い気分でそれに浸っていると午後の授業を知らせるチャイムが鳴り響く、みさぎと一緒だと時間経過が麻痺するらしい、もうそんなに経つのかと準備を始める。

「あ、しまったシャーペンの芯が切れちまった、代えも無いし誰かに貰うかな」

 と独り言を言うと自慢げな笑みを浮かべるみさぎが視界に入った。

「もうゆうちゃん、隣りには誰がいるの?」

「そりゃあ可愛い可愛いみさぎがいるさ」

「エッへへ、ゆうちゃんから可愛いを貰いました! ……じゃなくて、はい」

 と手渡されたのはシャーペンの芯が入ったケースだった。

「おっ、サンキュー! 助かったよ」

「私偉い? 偉い?」

「偉い偉い!」

 また頭を撫でると彼女の破顔した姿にまた満足する。

「それにしても俺が使ってたのと同じ芯だな」

「きっと運命だよね!」

 そう言えばみさぎの使っているシャーペンとか消しゴムとかも同じだな確か、もしかして俺とお揃いにしてるのかな? もしそうなら可愛い奴だなみさぎは、ペアルックって言うのかなこう言うの。
 みさぎは何でも俺のことを理解し、食べたい物や欲しい物も熟知している。

 だがこっちだって負けてない、俺だってみさぎが好きな物は知っているぞ?
 ま、お似合いのカップルってことなのだきっと。

「みさぎ、今日も一緒に帰ろうな!」

「うん! 帰りにまたいっぱいチューしようね! 今日はゆうちゃんからしてよ? いつも私からしてるけど、たまにはゆうちゃんからのキスが欲しいよ」

「仕方ねぇな、分かったよ。口だろうがほっぺただろうが首筋だろうが太股だろうが何処でもキスしてやるよ!」

「何処でも? やだ、ゆうちゃんのエッチぃ、私の何処にキスしたいの?」

 もちろん太股にはキスしてないぞ? さすがの俺でもそれは恥ずかしいからな。

「太も……あ、なんでもないなんでもない、やっぱりみさぎの唇かな」

「この唇はゆうちゃん専用だから遠慮はいらないんだよ?」

 やばい、色んなものが爆発しそうだ!

「みさぎの唇は俺専用……じゃあ他はどうなんだ?」

「えへへ、どうだと思う?」

 意地悪だなこの小悪魔ちゃんは、幸せ倍増だぜ。

「みさぎ、大好きだ」

「うん知ってる。じゃあ私が大好きだってことは?」

「当然知ってるって」

 と笑い合った。

「……お前らラブラブは良いがもう授業始まってるぞ?」

 はっと気が付くと先生がもう教卓に立ってい
た。

「なんだもう授業か……みさぎ休み時間に今の続きをしよう」

「うん分かった!」

 勘弁してくれよとクラス全員が思うのだったが俺達には分からない。

 午後の授業は頭が痛くなるような眠気が襲って来る、だが隣の席で勉学に励む愛しき人を視界に入れると眠気も吹き飛ばす。
 時折視線が絡み合い笑顔を浮かべてくれる、眠気よさらば。みさぎパワーで放課後まで意識を持たせることに成功した。

「放課後だ、みさぎ帰ろうぜ!」

「うん! あ、その前にちょっとお花を積みに行ってくるね」

「ああ分かった、待ってるよ」

「本当だよ? 待っててくれなきゃ嫌だよ?」

「安心しろって、絶対に待ってる」

「うん!」

 手を振って教室を出て行った、もう可愛いな。

「ふん、トイレ行くだけで大げさね貴方達は」

 浅倉委員長の登場である、見張ってるみたいに絡むな。

「みさぎは純情なのだよ、誰かと違ってね」

「言いたいことはそれだけ?」

 拳を鳴らす姿は委員長ではなく格闘家そのもの、つまり命の危機だ。

「浅倉委員長様お許し下さい、俺が愚かでした」

「最初から素直にしておけば良いのよ……ねえ山本」

「な、なんでしょうか」

「……えっと、なんでもないわ、今のは忘れて」

 意味分かんねえ、腹でも減ってるのか?

「……あのさ」

「どうしたんだよ委員長、言いたいことがるならはっきり言ってくれよ、しおらしくされると調子が狂うだろう? いつものように高圧的に来てもらわないと、そういうキャラじゃないかよ」

「ちょっと、それじゃあたしがいじめっ子みたいじゃない!」

「そうだろ?」

「……良し、人間サンドバッグって一度してみたかったから丁度良いわ」

「ごめんなさい」

「全く……ただ高原さんのどこが好きなのか訊きたかっただけなのに」

「え? ごめん声が小さくて聞こえなかった」

「聞こえないように言ったのよバカ、じゃあねさようなら」

 訳が分からないまま浅倉委員長が去って行く、おそらくみさぎとのラブラブっぷりにヤキモチでも焼いたか?
 あれじゃ彼氏できないぞ。

 気が付けば教室に俺一人だった、急に寂しさがこみ上げる。情けないな、まあみさぎが返って来るまでの束の間なのだから心配する必要はない。
 不意に教室の外に誰かが立っているのを見掛けた、全体的に細身で青白い肌と細い目が失礼だが幽霊に見えてしょうがない。だって長い黒が見から覗く顔が人間らしさを乖離させているような感覚に身震いを覚えたのだから。
 見慣れない顔だが上履きの色が青色だからおそらく三年生だ。

「……君、浅倉さんはもう帰ったのかな?」

「え、はい今さっき帰りましたけど」

「そうか……ありがとう」

 影に溶ける、それが似合いそうな立ち去りは不気味さを匂わせている気がする。

「気持ち悪いなあいつ」

 暗い雰囲気をかき消すようにあ待ち人が現れた。

「ゆうちゃんお待たせ、私遅かった?」

「そんなことあるもんか、みさぎの為なら永遠に待っているさ」

「もう、それじゃ私が酷い人みたいだよ。ゆうちゃんに寂しい思いさせないもん」

「くぅ、可愛いこと言ってくれるな、俺も寂しい思いはさせない!」

「えへへ、ゆうちゃん大好き!」

「俺も大好きだ!」

 互いに大好きだと再確認してから下校する、その途中でキスして別れ道まで惜しむように手を繋いでいた。

「えへへ、ゆうちゃんの笑顔を見ているとこっちも笑顔になっちゃうな」

「本当か! それは良かった……良かった、幸福な気分になっているか?」

「うん、私は幸せだよ」

 そう言ってみさぎが笑う。その笑顔が一番見たかった。

「そっか、うん俺も幸せだ」

「えへへ……あ、もうお別れかあ、寂しいけどバイバイゆうちゃん」

「じゃあな、帰り道気をつけろよ」

 幸福のまま一日が終わる、この日常はいつまでも続くものと信じている。

 だが、それを妨害する要因はこの時、影に隠れていたのかもしれない。




 翌日、みさぎに会えると思って幸せ気分で登校すると、確かにいの一番にみさぎに会えて幸福を得た、しかし今朝のホームルームでちょっとした不幸が話された。
 昨日の夕方頃、クラス委員長の浅倉舞が自動車との接触事故を起こしたらしい。幸い命には別状は無いらしいが足を骨折し、その為しばらく入院とのことだった。

「……委員長が入院か、信じらんないな。熊も倒してしまいそうな格闘女なのに」

 見舞いに行ってからかってやろうか?
 いや、それはさすがに最低か。
 ま、元気に戻って来たら退院おめでとうぐらい言ってやるのが良いか、クラス全員が委員長のことで話題となったまま時間は進んで数日後の昼休み、いつもの日常を満喫して昼食を食べ終わる。
 みさぎが数学の宿題を忘れていたから職員室に届けに行って寂しい思いをしていると妙な噂話が発生していた。
 その噂をクラスの女子グループが話している。ひそひそと話しているつもりがけっこう声が大きい。

「……え、愛梨、その話マジなの?」

「本当よ、委員長の友達がお見舞いに行ったんだけど……」

「行ったけど?」

「……委員長怯えてたって」

 委員長が怯えている?

「怯えているって? まだ自動車にぶつかったのを怖がってるの?」

「そうじゃないらしいんだよ……えっとね、聞いた話だとね……押されたんだって」

「押された?」

「……信号待ちしている時にね、誰かにね、後ろから押されたって……」

 え?

 ちょっと待て、それって委員長を誰かが殺そうとしてたってことか?
 興味と畏怖が混ざり合い、その衝動は俺を動かし、噂を話していた女子に質問をしていた。

「おい、その話本当なのかよ田浦」

「あ、山本くん……えっと……うん、委員長の友達から聞いたから信憑性は高いと思うよ」

「……誰がやったのか分かってるのか?」

「知らないけど……噂じゃ委員長にフラれた三年の先輩が仕返ししたんじゃないかって噂だよ……あ、これ私が言ってたって内緒だよ!」

 三年の宮島先輩、確か成績優秀の人でテストの順位も廊下に貼られる結果表に出ているって聞いたことあるな、あそこには上位五十人だけを載せられるから秀才って奴なのか。
 まさか委員長にフラれていたとは意外だけどそれどころじゃない、そいつを問い質してやりたいが相手は三年だ、それに宮島先輩は不良グループと仲が良いらしい。
 俺一人が行っても返り討ちは間違いないだろう。

 ──イライラする。

 俺は幸せに暮らしたい、もちろんみさぎがいるだけで幸せだ。

 しかし周りの人が不幸だとその負の感情がこっちに牙を向きそうで怖い、だから俺が求める幸せは周りの人々も幸福で無ければならない。

 歪んだ感情かも知れない、でも誰にだってあるだろう?

 幸福に生きる権利は。

「話してくれてありがとう」

「あ、内緒だからね」

「分かってるって」

 二人の話を聞いてから席に戻りずっと思考に明け暮れた。
 幸せになるには皆を幸せにさせなければならない、そうすれば恩恵を受けて俺も幸せになる方程式、これを成すには努力をするしかない。

 そう、努力しなければ幸せは掴めない。

「戻ったよゆうちゃん! ……あれ? ゆうちゃんどうしたの? ぼーっとしてるよ?」

「え、ああ、ごめん、考え事してたよ」

「何か悩んでるの?」

「そうじゃないよ、大丈夫だから」

「……私にも相談できないこと?」

「いやそんな訳じゃない……ただ幸せを妨害する奴が許せないだけだ」

「幸せを妨害……?」

「悪い、今度きちんと話すよ。まだ頭の中がグチャグチャだからさ……ごめんなみさぎ」

「うん、分かったよ、私待ってるね?」

 切ない笑顔を向けるみさぎ、くそ、俺がみさぎをそんな顔にさせてしまった。
 また幸福が後退する、ちくしょう。

 憤怒を孕む。

 こんな考え方をする俺は狂ってるのかもしれない、とにかく幸福を守る為にどうしたら良いのか考えないと。
 バカな俺は考えに考えてとある結論に達した、委員長に話を訊きに行けば良いんだ、そうすれば手っ取り早いじゃないか、本当俺って馬鹿だな。

 そんな結論を出したので放課後みさぎと下校して別れた後に委員長が入院している病院へと足を向けた。
 歩いて二十分掛かったが面会時間は大丈夫だろうか? 中へ入り受付を済ませると後一時間しか時間がないがそれだけあれば充分だろう。

 委員長の病室へ入ると四人部屋で入り口近くに眠っているおばあさんがいて、反対側は誰もいないが誰かが使用しているのか荷物が置いたあった。部屋の奥へ歩いて行くと左側は未使用で空っぽ、右はカーテンがしてある、多分ここだろう。

「委員長起きてるか?」

 声を掛けると布の擦れる音がした、多分ベッドから起き上がったのかもな。

「だ、誰……?」

「俺だよ俺俺」

「え? ……あ、その声、もしかして山本くん?」

「カーテン開けていいか?」

「え、あ、ち、ちょっと待って!」

 見えないがガサゴソ聞こえるから片付けでもしてるのかな。

「…………うん、良いよ」

 カーテンを開けるとパッと見元気そうな委員長が嬉しそうにこちらを見ていた、右足にギブスがしてあって天井から吊るされている。

「お見舞いに来てくれたの?」

「まあ暇だったからな。調子はどうだよ委員長」

「大丈夫……とは言えないわね、ギブス大変だからね」

「そっか、まあ無事でなによりだ」

 意外と元気そうで安心した。

「……それにしても病院着姿の委員長は新鮮だな、いつも制服姿しか見たことなかったし」

「ちょ、あんまりジロジロ見るんじゃない! 目を潰すわよ?」

「怖、じゃあどこ見れば良いんだよ?」

「えっと、窓の外……とかかしら」

「なんだそれ、後頭部向けて話せって言ってんのかよ、酷いな」

「あ、あたしに欲情されても困るからね」

「欲情?」

 と言って委員長の胸を凝視する。見事なぺったんこ。

「無理だぞ」

「殺す」

「う、嘘だって! 委員長ならどこ見たって欲情するって! 俺我慢できないって!」

「ば、バカ! 変なこと言わないでよ……」

 お、両腕で胸を隠したぞ、なんか可愛いな。
 いつもと違うギャップに新鮮さを感じていたがやはりみさぎが最高なので欲情することはなかった。
 元気そうだな、怖がってるって話だったがこれなら噂を聞いても大丈夫だろう多分。

「そういえばさクラスの女子たちが変な噂しててさ、委員長が誰かに背中を押されたって言ってるんだよ」

 何言ってるのよバカじゃないの?

 そう言い返してくると思っていた、だけど思い描いていたものとは違って視線を下げベッドのシーツを掴んで震えている。

「……委員長?」

「…………う、噂になってるんだ」

「あ、ああ……まさか本当なのか?」

 しばらく無言だった、耳鳴りがして痛むのが辛い。
 委員長は何かを決意したのか小さな声で語り始める。

「あの日……空手部の練習が終わっていつものように下校した。その途中にある交差点で赤になったから止まって青になるのを待ってた……でも、なんかいつもと違うような気がした、気の所為かもって思ったんだけどそうじゃなかった……あたしの後ろに誰かの息遣いが聞こえるのよ、信号待ちしているのはあたしだけじゃないんだって思った瞬間に……押された」

 病院着を強く握り締め、震えながら話を続けた。

「……道路に勢い良く倒されて一瞬何が起きたの分からなくて、両腕が擦り剥けてるから倒れたって分かった。振り返ろうとした瞬間にトラックが来て慌てて避けようとしたけど間に合わなかった……直撃じゃなかったから足が骨折した程度で済んだけど、もし運が悪かったらあたし……死んでたよ」

「……押した奴の顔は見なかったのか?」

「それどころじゃなかったよ、凄く痛くて周りを見られなかったから」

 噂は本当だった、委員長は誰かに背中を押されたんだ。

「……えっと、トラックの運転手は押されるところ見てなかったのか?」

「警察が事情を詳しく聞いたけど分からないって。あたしが立っていた交差点の後ろに住宅の塀があって丁度トラックから死角だったらしいの……姿を見た訳じゃないしトラックの運転手も見ていないから事件だと断定できないって警察から言われた……あたしの気の所為かもしれない可能性も否定できないからそのまま……ねえどう思う?」

 俺はなんと答えれば良いのか。

「……困るよねこんな話されてもさ、でも……怖いよ、あたしを殺したいって思う奴がいるって思うだけで体が震えるの」

「い、委員長……」

 見る見る内に委員長の顔が不幸に染められる。 

「……ご、ごめん、ごめんね、あはは、確かに怖いけど話したら少し楽になったかな」

「悪い……俺気の利いたこと言えないから」

「ううん、今日来てくれただけで嬉しかったわ……ありがとう。もうそろそろ面会時間が終わるわ、外も暗くなって来たし早く帰った方が良いよ」

「あ、ああ、そうだな」

 噂を確認できたが委員長に酷なこと聞いてしまったかもしれない、俺から不幸にしてどうする。

「……えっとさ、これやるよ」

「え?」

 そう言って渡したのは交通安全のお守りだった。

「俺が高校受かった時に母さんに貰った奴だ。効力は違うかもしれないけどさ、ないよりマシだろ?」 

「くれるの?」 

「ああ……俺これくらいしかできないけど」

「ううん、嬉しい」

 大事そうに胸の前でお守りを握り締める。

「ありがとう、あんたって良い奴なのね」

「良く言われる」

「あはは、バーカ、自分で言うな」

 少しだけ不幸が去った気がした。

 病院を去った帰り道委員長の怖がる姿が脳裏に焼き付いて離れなかった、あいつを幸福にしないと俺が不幸になりそうだ。

 そんなことは絶対に嫌だ。

「……あ」

 委員長の怖がる姿に宮島先輩のことを聞くのを忘れてしまっていた、でもあの姿を目撃したら訊けないよなやっぱり。
 どうしようかな、明日までに答えが出るのだろうか。



 翌日は憂鬱な気分だった、みさぎの姿を見て多少は気分の回復ができたがいつものようにはしゃげなかった。
 そんな時に朝のホームルームで先生が言いにくそうに語った。

「……昨日、田浦が交通事故にあってな、現在意識不明で眠ったままになっている」

 田浦って、昨日委員長の噂を話してた子じゃないか。
 俺に噂を教えてくれたあいつが交通事故で意識不明?
 どういうことだよ続けてだぞ?
 委員長は足の骨折だけで済んだけど田浦は意識不明。
 どうして彼女が? 交通事故って不注意過ぎるだろ。

 ――いや違う。

 田浦は委員長の話をしていたからやられたんだ、宮島先輩の話を言いふらしていたじゃないか、だから……宮島先輩にやられたんだ。
 委員長にフラれたって確か言ってたよな田浦は、だから宮島先輩は委員長を押して足を骨折させた。
 それを言いふらしていた田浦を疎ましく思い決行した、きっとやり方は簡単だろう。
 委員長と同じ様に背中を押した、車が来るのを見計らって押したんだ!
 ほら、こう考えたら全て繋がるじゃないか!

「ゆ、ゆうちゃん……顔が怖いよ」

「え? ……あ、ごめん、考え事してたんだ」

「そうなんだ……理由は聞かない方が良いんだよね?」

「……ごめん」

 不安げに俺を覗き込むみさぎ、くそ、またみさぎを不安にさせてしまった。

 俺の幸福がどんどん崩れて行く。

 どうしてこんな思いに苦しめられなくてはならない、ただ幸福に暮らしたいと願うのは罪なのか?

 ――本当にそうか?

 事件が起きなければ何事も無く平穏な日々が続いたはずじゃないか、結果的にみさぎを心配させることは無かった。

 ――なら誰が悪い?

 決まっている、噂の根源、宮島先輩が疑わしい。
 疑わしきは黒、だったらこの事件はやっぱり宮島先輩が?

 だけど証拠が無い。

 だったら見付ければ良い、今日から宮島先輩を尾行してみよう、そしたら何か分かるかもしれない。
 みさぎとの時間が削られるが幸福を掴む為には努力しなければならない。

 ごめんみさぎ、また君の笑顔を取り戻す為に俺は戦う。

 証拠を手に入れたら警察に言う、そうすれば委員長は怯えなくて済むし、みさぎと一緒に笑い合える。

 俺の幸福を妨害する者は許さない。




 放課後、みさぎを適当に言いくるめて先に帰した。
 そのまま学校の門のところで奴を待つこと数分、数人の男子グループが現れその中に見覚えのある人物を目撃する、そいつは委員長が事故に遭う前日の放課後に委員長を訪ねて来たあの幽霊みたいな三年生が紛れていた。
 そいつが何者なのかは他の男子がそいつの名前を呼んで気が付く、何故ならそいつが宮島と呼ばれたからだ。

 あいつが宮島か。

 何やら楽しげに会話しながら下校して行く、奴等の後に付いて行くと繁華街へ繰り出しゲーセンで暫く遊び、全員がバラバラの方向へ散るのを辛抱強く待った。
 日も暮れ出した頃ようやく宮島が一人になり尾行しやすくなったが心臓が暴れ出しそうな程に鼓動している、緊張しているのだと心臓が教えたのだろうか。

 まあ良い、見付かってはいけないし決定的な証拠を掴まなければ話にならない。緊張に幸福を妨害されてたまるか。
 奴は人気が無い公園へ足を向けた。
 公園に何かあるのか? まさか事件に関わるような秘密が?

 宮島は草むらに潜り込み何かを探している、怪し過ぎるだろうこれは、一介の高校生が人気の無い公園で草むらを掻き分けてどうすると言うんだ?

 疑わしきは黒って本当だったんだな。

 そして宮島は何かを見付け茂みから取り出す、俺は拍子抜けの意味を思い知らされた。

「よしよし、今日もちゃんと居たんだな、よしよし」

 中から取り出したのは可愛い子猫だったのだ、まるで赤ちゃんをあやすみたいに子猫を可愛がっていた。子猫が嫌がって無いところ見ると懐いているんだろう、つまり前からここに居る子猫と遊んでいたのか。
 なんだそれ。

「マンションだから飼えなくてごめんねぇ、でも毎日来てあげるからねぇ」

 どう見ても悪い人間には見えないな、もしかして今回の尾行は全くの無駄骨? 噂に惑わされて自制を押さえられなかったんだ。

 そう考えると恥ずかしい。

 じゃあ二回起こった事故はどう説明するだよ、委員長は押されたって言ってたじゃないか。

 たまたま偶然が重なっただけだろう。

 そうだ、きっとそうに違いない、俺の幸福は脅かされては無かったんだ。

「……馬鹿らしくなって来たな」

 もう帰ろう、みさぎに理由を説明して謝らなくちゃな、変に考え過ぎていたって。
 この場を去ろうとしたが着信音が鳴り響く。
 俺のじゃない、宮島先輩のスマホだ。

「……ああ、お前か、……うん、うん……へぇそうなんだ、あははは」

 もう関係ない、早く帰ろう。

「分かった分かった……じゃあ一年にさ、タカハラミサギっているじゃん? あれで良いんじゃない? 僕の好みなんだよね彼女」

 え?

 高原みさぎって言ったのか?

 聞き覚えのある名前に帰宅を望む足を引き止めた。

「あの子可愛いよな……あ、彼氏が居る? ははは、関係ないじゃん……有名なバカップルだけど面白そうじゃんか……ああ、そう言う手筈でな?」

 なんの話をしているんだ奴は!

「ワゴンは先輩が用意……ああそう、抜かり無いじゃん……ああ分かってるよ、ビデオカメラはこっちで用意するよ……あ? 駄目だ駄目、最初は僕だって、後は好きに回せよ……ははは、じゃあそっちはお前にやっから……あははは! じゃあ明日決行するか?」

 ナンテイッタ?

 みさぎヲドウスルッテ?

 オレノカワイイカノジョ二ナニヲスルッテ?

「売れるのか? ……ああ、無修正なら高いよな? ……まあ仕方無いさ、浅倉舞が入院しちまったんだからさ、ま、僕をフッた罰じゃね? 本当はこのビデオに出演させるつもりだったのに……ああ、高原みさぎで我慢するよ」

 完全に確信した、こいつならやる、委員長を事故に合わせた張本人に違いない。そして昨日、噂を流してた田浦を事故に合わせた!
 今度は俺の大切な彼女を、みさぎを狙っている、させるものか、俺の大切なみさぎに指一本も触れさせはしない!

 お前が脅かす元凶、幸福を食い散らかす化身。
 お前は居てはならない、俺の幸福を妨害する者は許さない、みさぎにも手は出させない。

 こんな悪草は根元から取り除かねばまた生えて来る。そうさ、草取りだって根っ子を残したらダメじゃないか。
 歪んだ茎を矯正してもまた曲がる、それと同じ。こいつを警察に突き出したところで反省なんかしない、罰を受けたとしてもまたみさぎを狙うに決まっている。
 罰を受けて反省するのなら戦争なんか起きる訳がない。

 ああ、不幸が乗り移ってしまう。

 だからそれに釘付けになった、手頃な物が目の前に落ちている、それを拾いそっと奴に近付く、幸福を妨害する根っ子を引き抜くだけだ。
 そうさ、それは容易い。

 そら、一振り。

「ぎゃああああ!」

 二回目。

「がっああ! な、なんだお前……」

 うるさいな、三回目だ。

「ぎゃああああ! ああ、や、止めてくれ……ああ」

 まだ動いてる、後何回すれば良い?
 ほら頭を庇うなよ、石が届かないじゃないか。

「ひぃいいい! や、止めて下さい、止めて!」

 みさぎは俺が守るんだ!

 そら、もう一振りおかわりだ、汚ならしい脳をぶちまけて消えろ。

「た、助け……」

「みさぎは俺の彼女だ。お前なんかに触らせない」

「ひぃ! ひぃいいいいいい!」

 憎き奴に近付いたときに俺が持っているものより更に大きな石があった、おもむろにそれを持ち上げて奴を見下ろす。

「ひぃい! そ、それされたら、し、し、し……」

「幸福妨害の罪だ、消えろ」

 怯える小物に一撃を落とすと、あっけなく動きを止めた。
 次は顔面に落とす、何度も何度も何度も何度も何度も。

「はあ、はあ、こ、これで幸福だ、俺の幸福は維持された! あははは!」

 歓喜、それが全てを潤す源。

 ああこれで良かったのだ、こうしなければみさぎが大変な目に合っていたんだ。俺はみさぎを守った、そして俺自身の幸福も継続させたのだ。
 罪の意識は無い、だって幸せになる為に努力したのだから。

 さて、後片付けをしなければならない、とにかく今は茂みに隠しておこう。
 この後はどうしようか、馬鹿な俺に考え付くかどうかだ。
 そうだ、埋めてしまえば良いのではないだろうか。でも大きいから面倒だぞ? だったらパーツに分ければ大丈夫、細かくして隠すんだ。それなら運搬も楽だし、どうとでもなるさ。
 それまでは見付からないようにしなくちゃな、ここは普段から誰も来ない公園だ、茂みの中に隠しておけば大丈夫だと思う。
 早くしないとな、これから道具を持って来て分けよう、大丈夫、俺ならできるさ。

 幸福の為に戦ったんだから。

 重い肉を運ぶのは大変だけど茂みに引きずる、赤い地面を掘って削り取り先輩と一緒に置いた。
 夕暮れから闇が染み始めたので一旦家へと戻り道具を用意した、それを携え戻ると辺りは暗くなっていたが今宵は月が幸福の為に手伝ってくれたらしい、その光を頼りにパーツに分ける。

 意外と重労働だった、骨はノコギリじゃないと取れないし臭いし汚れるし。
 汗だくになって仕分けを終えると、黒いビニールにパーツを入れリュックに背負い、何度かに分けて運搬して山奥に埋めた。
 幸いにも誰にも見付からなかった、全てを完了させたのは夜明けを山奥で拝んだ時だ、奴は不良グループと繋がっていたんだ、失踪しても家出扱いとなるだろう。

 当分は騒がれないさ。

「はぁ、疲れた……」

 事を終えると疲労が責め立てる、しかし安堵がそれを上回り今は上機嫌だ。終わったんだ、俺は幸福を守ったのだ。
 披露と幸福感に挟まれて家に戻ると家族の誰にも遭遇することはなかった、まあ当然だろう親父は出張中で家にいないし母親も看護師だから夜勤で遅いし。だから今回は家族にバレる心配はない。
 しかしどうしてこんなことになったのか、あんなことをしようなんて思ったことは一度もないのにすんなりと遂げてしまった。

「……あれ?」

 手が震えている?

 違う、そんなこと思うもんか。後悔しているのか?
 絶対にそれはない。
 ない筈だ。

 これは試練かもしれない、幸福に生きるに値するのかどうかの試練。これに耐えてこそ幸せを受けられる資格が与えられる、きっとそうだ。
 幸福な人生を全うする、それが最大の願いだから。

 眠気を我慢してシャワーを浴び体の汚れを落とす、不幸も排水に混じって流れて行くと信じて清潔にする。
 部屋に戻る頃には眼球を圧迫されたかの如く眠気が押し寄せて足がふらついた、今日は学校があったっけ? あってもなくてもどうでも良いさ今は。
 ベッドに倒れ瞼を閉じるが意外と眠れなかった、お腹が膨れれば寝れるだろうかとキッチンへ食料の確保を行い母親が出掛ける前に用意していた昨夜の晩御飯が朝御飯となる。

 もう一度ベッドにダイブすると今度は夢へと旅立てた。




 子供の頃、幼い俺が笑うと大人たちがそれに釣られて笑うのだ。
 きっと幸せな気分が大人たちに伝染して笑顔を受信したのだと子供心にそう思った。

 なら幸せを届けなくちゃ、幸せが伝染して誰かを幸せにする、そしてその誰かはまた誰かを幸せにして世界は幸せに溢れて光り輝くのだと今でも信じている。

 だから笑う、誰の前であったとしても、嫌いな奴でもどうでもいい奴でも笑ってそいつに幸せが伝染すればもっとたくさんの人が幸せになれる。

 世界平和なんて簡単じゃないか。

 そう思っていた。

 簡単だから気が付いてしまったのだ、逆に不幸な奴は不幸を伝染させるのだと。

 その不幸が今まで分け与えて来た幸せを壊してしまう、頑張って笑顔を振りまいて温かな世界を作ろうとしたのにどうして妨害するのだ、絶対にそんなことはさせない、俺は幸せになりたい、どうしても。
 幸せにしたいと思える彼女に出会ってより強く思うようになった、みさぎとならきっと幸せになれる、あいつの笑顔が俺に幸せを運んで来る、温かな世界が完成されて戦争がなくなる。

 そうであって欲しい。

 それが世界の理となって醜悪なものを遠ざけて欲しい。
 幸せになりたい、ただそれだけ。
 それだけなんだ。




 頭が痛い、首も痛い寝違えたのかもしれない。

「あれ……? 外が真っ黒だ」

 枕元に置いていたスマホを掴み時刻を確認するともう夜の八時を過ぎていた、相当疲れていたのか約半日寝ていたらしい。

「ん? みさぎから着信あったみたいだな」

 そういえば今日は学校サボって寝てたんだから心配するよな、ごめんなみさぎ。
 さて今日のことをどう説明しようか、まさか人をバラしてたとは言えない。

 それを言ってしまったら幸福が崩れてしまう。

 そうだな、家族の事で悩んでいてストレスを解消する為に走り回っていた、幼稚かも知れない、でもいつも仕事仕事で構ってくれない。分かっている、二人は家族の為に仕事をしているのだから……。
 と言って同情を誘おう、きっとみさぎなら信じてくれる。みさぎに嘘を付くのは忍びないが、幸福な未来の為にやむを得無い。それが終わったらみさぎ、また幸福な日常が訪れるからな。
 俺達はずっと一緒だからな?

 オマエハオレヲリカイシテクレテイルヨナ?

 みさぎへと電話を掛ける。

「あ、みさぎか? 今日はごめんな何も言わずに休んで」

『それは良いけど、どうかしたの? ずっと心配だったんだよ』

「ごめん」

『……今からお家行っても良い?』

「ああ、大歓迎だ。ちゃんと話すから」

『うん。あ、お腹空いてない? 何か作って行くから待っててね』

「ああ待ってる」

 小一時間後に最愛のみさぎが到着した、時間がなかったからとおにぎりと夕食の残りを持って来てくれたから空腹が即座に退散して幸福が溢れ出す。
 落ち着いたところで先程考えた妄言を聞かせた、予想通り真剣に聞いてくれている。
 話が終わるとホッとした様に胸を撫で下ろすみさぎの姿があった。

「そうだったんだ……小さい頃からゆうちゃんのご両親は忙しかったんでしょ?」

「ああ……悪いな、俺情けないよな?」

「ううん、ゆうちゃんは偉いよ、今まで頑張って来たんだもん……ご両親の事は仕方無いかもしれないね……ゆうちゃんがムシャクシャするのも当然かも知れないよ」

 そう言ってみさぎが俺を抱き締めてくれた。

「みさぎ……?」

「私には貴方を抱き締めてあげるしかできないから……」

 不意に一筋の涙が流れ出た。

 あれ、俺泣いてるのか?
 おいおい、妄言なのにどうして泣くんだよ。確かに小さい頃から両親は忙しくて構って貰えなかった、夕ご飯は自分で作って一人で食べていた。
 ずっとそうして来たんだ。

 あれ?

 もしかして妄言だと思っていたのは真実だったのか? 一人の晩ご飯に幸福は無かった、灰色の日々が続いた。

 幸福には程遠い。

 でもみさぎが彼女になってから二人で晩ご飯を食べた日もある、みさぎが俺の幸福そのものと気が付いた。
 だから外道をやれた、みさぎを守ることが幸福を守る方法だと知った。
 いつの間にか大粒の涙がポロポロ流れ出てみさぎの服に染み込む。

 好きだ。

 大好きだ。

 みさぎ!

「あ、ゆうちゃんが笑った! でも目が赤いから兎さんみたい」

「あははは、俺は兎か」

「うん! あははは!」

 これからみさぎと幸福な人生を共に歩きたい、本気でそう思った。
 みさぎ以外の女なんて考えられない。

「はぁ、話したらスッキリしたよ」

「そう、良かった…………あ、私も安心したらお手洗いに行きたくなっちゃった」

「行ってこいよ」

「うん、じゃあ借りるね?」

 何故か恥ずかしそうに部屋を後にした、トイレに行くだけでそんなに恥ずかしいものだろうか。でも今の顔可愛かったな、トイレから戻って来たみさぎはそろそろ戻ると言うので家まで送ることにした。
 みさぎの家はここから十分も掛からない程に近い、みさぎとの出会いもそれが影響していると思う。

 高校一年の頃に付き合うようになってから初めて近くに住んでいると知った、今までは小、中学校が真反対の場所にあったから出会う機会はなかったが偶然同じ高校へ通うようになった。
 入学式の日に俺はみさぎに一目惚れした、自分が理想としていた女性像そのままだったから目が釘付けになって離せなかったのを覚えている。
 話し掛けたのはその直後、それから友達として付き合うようになって夏休みに告白して今に至る。

「ゆうちゃんどうかしたの私の顔ずっと見てる」

「だって可愛いから」

「えへへ、ゆうちゃんから可愛いの称号を貰いました、嬉しいな」

 可愛い笑顔をこうやって眺められるのも俺が努力したからだ、絶対に誰にも奪わせない。

「ねえゆうちゃん」

「ん? どうかしたか」

「私ね……幸せだよ」

「ど、どうしたんだよ急に」

「えへへ、だってねもう一人じゃないのが嬉しいんだ」

 みさぎが小学生の頃に両親が事故で亡くなった、今では叔父が保護者と生活費の面倒をみてくれていると聞かされている。
 叔父は仕事で海外に行くことが多くみさぎは一人暮らしをしているのだがやはり夜は寂しいと感じているらしい。
 少し立場が違うが一人が寂しいのは理解できる、だから余計にみさぎを愛おしく感じてしまう、一人の夜が孤独だと知る彼女が幸せだと言ってくれたのが嬉しい。

「俺も幸せだよ」

「えへへ、同じだ」

「うん、同じだな」

「お揃いって大好き」

 ああ、俺達は幸せだ。

 この幸福が誰かに移ってみんなが幸せになれば良い。
 夜が深けて行く、その闇を打ち払うように俺は努力を惜しまないと誓う。

 ドンナテヲツカッテデモシアワセニナル。






  



   【幸せの為に努力 裏】

 手が汚れたので洗面所で洗っていた。

 なかなか落ちないから洗うのに苦労しちゃった、でもこれで私の、高原みさぎの幸せが継続されるから仕方がないか。

 洗い終えて日課になっている日記を書こうと自室へ戻った。
 誰もいない家は耳鳴りがする程に静寂を内包している、叔父は忙しいし叔母とは仲が悪いから一人暮らしになってしまった。
 女特有のねちっこい嫌がらせを良く受けたっけ、今思い出すだけでも怖くて怒りを感じるけどゆうちゃんの御陰で暗い思考も明るくなった。

 小学生の頃は両親との仲は良好で二人とも大好きだった、お父さんは大食いでお腹に余計なお肉が付いていたけど凄くオシャレでいつもカラフルな服を着ていたっけ。
 お母さんは料理ができて家事も完璧、だけど天然だったから良くお財布を落とすし買い物に行って買ったものをお店に忘れるのはさすがに呆れたっけ。
 賑やかな家族、温かい家族、世界に一つだけの家族。

 コワレチャッタ。

 ゆうちゃんには事故って言ってるけど本当は殺されたんだ。
 学校でクラブ活動を終えて家に帰るといつも明るい家に照明すら付いてなくて、中に入っても静まり返っていて、リビングに行くと二人は血を流して倒れていた。

 警察が調べるとここで起きたのは強盗殺人だと結論付ける、荒らされた部屋に無くなっている通帳や印鑑が証拠だって言ってた。
 検死の結果お父さんが先に殺された、そしてお母さんは犯人に弄ばれた。
 おそらく死んだお父さんの目の前で行為に及んだ、お母さんの遺体から犯人の体液が見付かったって言われてそれが犯人を探し当てるのに役立ったのは複雑だけどね。

 犯人は捕まり死刑宣告を受けもうこの世にいない。

 ──憎むべき犯人はもういない。

 私は中学までずっと憂鬱な人生を歩んでいたと思う、でもそんな負の感情を吹き飛ばしてくれたのはゆうちゃんだった。

 最初は知らない男の人に話し掛けられてびっくりしたけど話してみると面白い人で段々と好きになって行ったと思う、一筋の光を降り注ぐ彼が神々しくて無くしてしまった笑顔を取り戻してくれたのが嬉しかった。
 孤独じゃないって教えてくれた。
 ゆうちゃんは私の世界そのもの、私が私である為に無くてはならない存在。

「ゆうちゃん……大好きだよ」

 そう何回も彼に伝えて感謝を伝えて来た、これからも変わらない感謝と愛を伝える為に好きだと言い続けると誓う。

 そしてもう一つ誓ったんだ、ゆうちゃんとの幸せを永遠にする為に努力を惜しまないと。

 ゆうちゃんが泣いていたら抱き締める。

 ゆうちゃんが震えていたら手を握る。

 ゆうちゃんが絶望していたら希望になる。

 ゆうちゃんが困っていたら助けになる。

 そう決めたんだ。

 ゆうちゃんの幸せは私にとっても幸せだということ。
 だからゆうちゃんの幸せは私が守ってみせる。

「あ、考え込んじゃった。早く日記つけて寝よっと」

 ノートを取り出し書き始めた。

 

 六月三日
 今日ゆうちゃんから頭をいっぱい撫でられました、それがすっごく気持ち良くてずっと撫でて欲しいなぁと思った。
 お弁当を一緒に美味しく食べました、ゆうちゃんすっごく喜んでた、嬉しいな、嬉しいな!
 ゆうちゃんと一緒にいると私は幸せだ! 幸せ過ぎて逆に怖いくらい。
 でも今は幸せが優っているからへちゃらだ。



 日記を書いていると不意にスマホが鳴り響いた、誰からかを確認すると直ぐに出た。

『こんばんは可愛いお嬢さん』

「ゆうちゃん! ちょうど声が聞きたかったんだ」

『俺も聞きたくてさ、もしかして今忙しい?』

「ううん大丈夫、手を洗ってただけだから」

『手?』

「うん、明日のお弁当の仕込み! 期待しててよ絶対に美味しいものを作っていくから」

『期待してるって! みさぎの弁当は宇宙一だからな!』

「えへへ、ゆうちゃんから宇宙一の称号を貰っちゃいました! 嬉しいな嬉しいな!」

 話しているだけで胸がドキドキしている、飛んでいってしまいそうな程に騒がしくして幸せだって教えてくれる、ゆうちゃんの声は魔法みたいだ。

『……あ、そうだ聞きたいことあったんだけど』

「なあに?」

『最近さ、変わったことなかった?』

「え? 変わったことって? 別になのもないよ」

『本当にそうか?』

「どうかしたのゆうちゃん?」

『あ、いや、その……みさぎが誰かに連れていかれる夢を見たから不安になってさ』

「そうなんだ。大丈夫だよ今日も一日無事平穏に暮らしてるよ! ゆうちゃん心配し過ぎだよ私たちは今幸せパワーで守られているから絶対にへっちゃら!」

『そうだよな……あいつら諦めたんだよな』

「え? 今なんて言ったの?」

『愛してるって言ったんだ』

「もう私の方が愛してるもん」

『俺がもっと愛してる』

「私の方が愛してるもん!」

 と言って笑い合った。

『じゃあもう遅いから明日学校でな、おやすみみさぎ』

「うん、おやすみなさいゆうちゃん」

 通話が終わると顔のニヤケが取れなくて困ってしまう、ゆうちゃんの声が聞けて幸せだって実感できる。喜びはどんなものよりも尊いからいつまでも困っていようかなと馬鹿な考えを巡らせる。

「あ、忘れてた」

 忘れている用事があったのを思い出し明日に支障を来さないように部屋を出てお風呂場を目指す、行く途中で用事に必要なものを台所で調達した。
 お風呂場の脱衣場で服を脱ぎ捨て中へ、汚れちゃったら大変だからね。あ、でも下着は付けてるよ恥ずかしいから。

 私の体は正真正銘汚れていない、ゆうちゃんの為に大切なものを失おうと決意している。
 だから本当は嫌だけどお気に入りのパジャマがダメになるのは嫌だった、だってあのパジャマを一度ゆうちゃんに見せたら凄く可愛いって言ってくれたんだ。
 汚したくないから恥ずかしい姿でお風呂場へ、でもここで裸って普通のことだと気が付くと多少はマシだろう。

 じゃあ早速用事を始めよう。

 シャワーを使い音を立て、台所で入手したものを使う。

「ふぐううううううううううううううううう!」

「もうさっきもしたでしょ? だからこれくらいは我慢してくれないと困るよ?」

 うるさいけど一戸建ての家はお隣とだいぶ離れているし不在だって調べてるから問題ないと思う。

 だからもう一度使用する。

「うぐぅ、ふぎゅゆううういいいううう!」

「またなの? もう我慢できない子は女の子に嫌われちゃうぞ?」

 お風呂場で呻くそいつは両手両足を縛って口の中にハンカチを多めに詰め込んでガムテープで栓した、騒がれるのは嫌だったから。

「騒がしい子だけど質問に答えてくれるよね?」

 そいつが虚ろな目で首を縦に降る。

「はいお利口さん。じゃあ質問するね? 田崎、佐藤って貴方のお友達でしょう?」

 縦に降る。

「だと思った。じゃあ次の質問ね? 貴方達は何かを計画していたよね?」

 縦に降る。

「そうだよね? じゃあねそれは私に関係ある」

 縦に降る。

「うんお利口さん、貴方……えっと渡辺くんだっけ? これが最後の質問だよ宮島って名前に覚えはある?」

 縦に降る。

「はい、ご協力に感謝するね?」

 そして台所にあった包丁を渡辺の足に刺す。

「ふぐぅふぐごうううううううう!」

「実はね田崎くんが全部話したから知ってて質問したんだ、私意地悪さんだから。私に変なことをしようとしたのは確かに許せないけどね、ワゴン車で拉致してビデオカメラを回してみんなで楽しむって変態さんのすることだよ? まあもうそれは起こらないから許してあげるんだけどね……でもね?」

 感情が黒く染まる。

「ゆうちゃんを困らせた、それだけはぜったいに許さない」

 刺す。

「ふむぅふううううううううううううううう!」

「一人で悩んでたゆうちゃん、可哀想なゆうちゃん、私が助けてあげないとね」

 数回、刺す。

「何かに悩んで私の話すら聞き逃すゆうちゃん、困らせただけでは飽き足らず私の幸せな時間すら奪うなんて……許せない許せない許せない!」

 足はもうボロボロ、指す場所がなくなっちゃった。

「じゃあ次は腕だね?」

 怒りに突き動かされお風呂場は赤色に侵食されて池が出来上がる、だけどこいつをお風呂場に連れて来たのは後始末がやり易いからだ。

 数日前ゆうちゃんが何かに困っているようだった、クラスの女子に宮島先輩のことを熱心に聞いていたのを目撃している、だから先輩を調べれば何か分かると思って調べた。
 良くつるんでいたグループの男、田崎先輩に色仕掛けで誘うと面白いように網に掛かったから後は簡単、先輩の飲み物に眠り薬を仕込んで眠らせて渡辺くんと同じように尋問したのだ。
 何を計画していたのかというと変態映像を撮ってそれでお小遣いを稼ごうとした、そんな身勝手な理由でゆうちゃんを困らせて私の幸せな時間を奪ったのか。

「許せない許せない許せない」

 もう叫び声も上げない。

「気絶しちゃったの? 頑張れ後ちょっとだからね?」

 私の気が済むまで続けると渡辺くんは他の奴らと同じ結末を迎える。
 もう手馴れた後始末を決行する、パーツに分けてビニールに包んで冷蔵庫、隙を見て捨てに行こう。

 お風呂場も体も綺麗にして部屋へと戻り書き残していた日記を続けることにした。



 ゆうちゃんの敵はもういない、これでゆうちゃんは困らなくて済む。
 私の幸せな時間も継続させられて安堵したよ。
 でも、今思い出してもムカムカすることがあります、とてもとても嫌でどんどん私は不機嫌になっちゃいます。

 ゆうちゃんたら私と一緒にいるのに他の女の子とお話してた、横に私がいるのに酷いよ。私、嫉妬しちゃった、ゆうちゃんは嫉妬する子は嫌いかな?

 だから浅倉委員長は死ねば良い。

 あんな女なんか死んでしまえば良い、私のゆうちゃんとお話するだけで大罪、なんて愚かで罪深い女。
 それに知っている、委員長はゆうちゃんを昔から好きだったって知ってる、だから狙ってるの知っているんだから。

 ゆうちゃんは私だけの物、誰にも渡さない。

 だから罰を与えられて少しだけ良い気分、部活で帰りは遅い浅倉委員長、ゆうちゃんと下校しても別れてから引き返しても間に合う。
 どんな罰にしようかなと考えて交通事故になれば私は疑われないって思った、だから後は簡単、信号待ちの時に背中を押しちゃえば良い。

 そうしたらゆうちゃんは私だけのもの、あんな女に渡すものか。

 結果浅倉委員長は骨折しただけだったな、死ねば良かったのに。

 退院したら釘をさしておかなくちゃ。ゆうちゃんに近付いたらお仕置だよって。

 うんそうしよう。

 委員長はそれで良い。でも問題はあいつだ、今度は違うメスがゆうちゃんと話してた。

 確か田浦って人、あいつまさかゆうちゃんを狙ってる?

 ゆうちゃんは渡さない。

 あいつは死んじゃえば良い。

 委員長と同じ目に合わせてやった、あいつも部活で帰りは遅い、同じ手が使える。
 私はゆうちゃんの事を誰よりも知ってる。

 浅倉委員長よりも田浦よりも。

 ゆうちゃんが好きな食べ物、ゆうちゃんが好きなジュース、ゆうちゃんが好きなテレビ番組、他にも使っている文房具も洋服も下着も歯ブラシもシャンプーも全て知っている、全部お揃いにしているんだ。

 ゆうちゃんのことまだまだ知っているんだ。

 昨日の夜だってゆうちゃんは癖の鼻を指で掻く事を三十二回もやった。二回咳き込んで漫画を読んでた、その時間は三十八分五十一秒、きちんとストップウォッチで測ったから正確だ。
 三回鼻をほじって欠伸を六回、その後ベッドに横になってポテトチップスのりしお味(近所のコンビニでサイダーと一緒に購入)を食べ始める、太っちゃうよ?
 でも太っちゃたゆうちゃんでも私の愛は変わらない。その後はトイレに行ってオシッコをした、綺麗な黄色、ゆうちゃんのものはどんなものでも綺麗だ、数日前よりも良い色。

 部屋戻るとゆうちゃんティッシュと雑誌をベッドに置いて最近お気に入りの女優で男の人の口では言えない行為をした。

 ほら、田浦よりも委員長よりも私はゆうちゃんを知っている!

 だからゆうちゃんにふさわしいのは私!

 どうしてゆうちゃんが私を好きになったのか知っている、私はゆうちゃんのお母さんに似ている、お母さんに満たされなかったものを私で満たしたかったんだと思う。
 最初はそうだったかもしれないけど今は私だけのゆうちゃんだ。

 ゆうちゃんの手も耳も髪も声も全部全部私だけのもの。

 誰にも邪魔はさせない、ゆうちゃんとの日々は私の幸せなんだから。

 誰にも幸せを妨害させない、ゆうちゃんは私の物!

 大好き!

 ゆうちゃんゆうちゃんゆうちゃんゆうちゃんゆうちゃん!

 何回何千回何万回だって好きって言える、大好きって言える!

 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!



 書き終える頃には夜中の三時が回っていた、もう寝ないと明日に響くかな。
 あ、この前ゆうちゃんのお家のトイレに仕掛けた盗撮カメラまた壊れちゃってるんだったな、また遊びに行った時に新しいのに変えなきゃ。

 気掛かりは多いけど今は明日の為に寝なきゃね、枕元に置いている写真立てを手に取ると大好きなゆうちゃんを視界に入れて幸せな気分をいっぱいにして就寝した。
 やっぱり寝ていてもゆうちゃんのことを考えちゃう、ゆうちゃんは猪突猛進なところがあるから私がちゃんと導いてあげなくちゃ。

 この前の宮島先輩を倒しちゃったのは思い切りがあって素敵だったけど詰めが甘いのが弱点かな? パーツに分けて運搬して山奥に埋めたのはいいけど穴が浅いと野犬が掘り起こしてバレてしまうこともある、だからゆうちゃんが帰った後私が埋め直したんだ。

 その行為は鬼畜、だけどゆうちゃんが望んだのなら私がその願いを叶えてあげる。
 どんなことだろうと手伝ってゆうちゃんがやりたいようにさせて満足してもらいたい。

 なんでもお揃いが良い、ゆうちゃんがしたことは全てやりたい。

 ああ、ゆうちゃん大好きだよ。

 アナタダケハワタシヲヒトリニシナイヨネ?

 この幸せが続くように努力する、ゆうちゃんを支えられるのは私だけだから。

 おやすみゆうちゃん。

 愛してる。






   【幸せの為に努力 裏表一体】

「はいゆうちゃんあーーんして?」

「あーーん……うん、旨い! 正に神クラスだ!」

「あれれ、神クラス前に貰ったよ?」

「え、ああそうか。じゃあ悪魔クラスだ!」

「美味しくなかった?」

「違う違う、悪魔みたいに俺を魅了しているってことだ」

「良く分かんないけど褒め言葉だよね? なら嬉しい! ゆうちゃんから悪魔クラスの称号貰らっちゃった! 私偉い? 偉い?」

「うん偉い偉い」

「えへへ」

 またやってるよとクラスの連中は呆れていた、いつものことなのにな。
 こうやってみさぎと一緒にいられる幸福は何者にも代え難いもの、みさぎが笑えばそれで良い、そうすれば俺も幸福となるのだから。

 あれから一週間が経過した、宮島の仲間がみさぎを拉致しに来るんじゃないかとずっとみさぎを警護している、放課後帰り道が分かれてもずっと付けて見張ったが奴らは現れることはなかった。
 安心するにはまだ早いからしばらくは現状維持した方が賢明かもしれない。

「ゆうちゃんどうしたの? 考え事?」

「違うよ、ただ……」

 幸福には敵が多過ぎる、それだけだ。

「ただ、みさぎをどうコーディネートしたらエロくなるか考えてたんだ」

「え、私をエロくしたいの? もうゆうちゃんたらどれだけ欲情しているの? エッチ」

「はっはっはっ、俺は狼なのさ」

「私の狼さんはとってもエッチだね? でもそれでも大好きだよ」

「俺も大好きだ」

 努力を惜しまない、命ある限り。

 ラブラブな雰囲気に酔いしれていると朗報がクラスに持ち上がった、なんと意識不明だった田浦が目を覚ましたらしい。
 事故に遭って二週間も経過していたからもう目を覚まさないのではと噂立っていたが目が覚めて喜ばしい。

「良かったよな目が覚めてさ」

「…………そうだね、目が覚めてよかったよね」

「ああ。誰だって幸せであって欲しいからな」

「……それがゆうちゃんの願い?」

「まあね、そりゃあみさぎが幸せであって欲しいのは当たり前だぞ? でも知り合いもみんな幸せであって欲しいんだ」

 そう話すとみさぎは何か考え込む、どうかしたのだろうか?

「そっか、それがゆうちゃんの願い……みんな幸せ……」

「みさぎ?」

「あ、なんでもないよ? ゆうちゃんが熱く語ってるから聞き入ってたんだ」

「う、そう言われると恥ずかしいな」

「でも熱く語るゆうちゃん格好良い」

「本当か? なら熱い男になるかな」

「えへへ、私を燃やしてね?」

「黒焦げだ!」

「もうゆうちゃんのエッチさん!」

 可愛いな。

「ゆうちゃんの願いならどんなことだって……」

「ん? 何か言ったかみさぎ?」

「ううんなんでもないよ。あ、そうだ、言い忘れてたけどねゆうちゃん」

「どうしたんだみさぎ」

「他の女の子とあんまり仲良くしないでね?」

「え、ああ分かってるって、みさぎだけが全てだから」

「本当に?」

「ああ本当だ、約束するよ」

「うん分かった、じゃあヤクソク、だよ?」

 そう言って彼女は笑った。


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