クラウン・スフィア

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第一部 スプリングシリーズ

第6話 Exh.1 フェーズ間作戦会議①

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 フェーズⅠとフェーズⅡの間には十分間の休憩時間があり、この時間は作戦会議の時間でもある。捕縛されてしまった真宙まそらは控室に戻ってこれず、音声通信だけでこの控室にアクセスでき、フェーズⅡ開始時もスタンプラリー同好会の陣地の中に囚われた状態が続く。

 フェーズⅡは、フェーズⅠを無事に生き延びたけい雪葵ゆきがそのまま継続して出場し、加えて虎野とらのアイ、珊野さんの美瑚みこ冠原かんばら粕久かすくの三名が追加で参入する。

「1ポイントも取れねぇなんて、随分と無様な結果だなぁ、部長さんよぉ」

 アイの嘲笑するような物言いに、景はそれが挑発だとわかっていても反応してしまう。

「フェーズⅠで得られた情報、相手にかけた負担、払った犠牲。それらは決して無駄だとは思いませんよ。スタンプラリー同好会には点を与えてしまいましたが、他チームは軒並み無得点。次のフェーズでどう動くかが重要です」

「オレが派手に暴れて点を取ればいい。結果出しゃ文句もねぇ――いや、付けようがねぇだろ?」

「……アイくん、昨シーズンはそれで失敗したの、もう忘れたんですか? それなら私ももう助けてあげませんよ?」

 美瑚に痛いところを突かれ、アイは黙り込む。昨シーズンでどんな目に遭ったかを思い起こし、やがてきまりが悪そうに視線を外した。

「……悪かったよ。一人ではやらねぇ。けどな、点を取るのが正義だってことには変わりはねぇんだ。そうだろ? 勝つためにはな」

 美瑚に叱られて少しは考えを改めたかと思ったが、アイは自分を曲げようとはしない。景は深くため息を吐いて、そんなアイを冷たく見下ろした。

「勝つことはたしかに重要です。ですが、再現性のない勝利には価値がありません。クラウン・スフィアはリーグ戦。ただ一回きり勝てば良いわけではないのです。あなたのやり方で全勝できるならそれでも構いませんが、その保証はあるのですか?」

「めんどくせぇ……。そんな頭でっかちな考えじゃ、動くべき時に動けねぇよ」

 景はまだ何か言いたそうにアイをじっと睨みつけるが、小さく首を振り、またため息を吐いて自分を落ち着ける。

「……時間がありません。次のフェーズの作戦を伝えます。相手の陣地の場所は大体絞れました。フェーズⅠの勢いがあるスタンプラリー同好会を狙うよりは、戦力の落ちている生徒会を狙う方が勝機はあるでしょう。私と冠原で生徒会のスフィアの奪取を試みます。虎野は立花たちばなの指揮のもと、ドラゴンの討伐に集中してください。立花は虎野の援護を。珊野は立花のフォローとして探知を中心に、“祈祷”の発動をお願いします。タイミングの指示は立花に一任します。生徒会メンバーの討伐は無理をせず、スフィアだけ奪取して、その後は竜討伐を終えた虎野と合流し、天舞てんまいの救出に向かいます」

 景の指示を聞いて、アイが満足そうに鼻を鳴らす。

「ふん、結局好き放題暴れろって指示じゃねぇか」

「……何を聞いていたんですか、あなたは」

 フェーズⅡ開始の時間が迫り、フェーズⅢから参戦する花凪はななぎ夏灯なつひを残して、残りのメンバーが転送エリアに向かった。

「押すなよ、狭いんだから」

「一番場所取ってるの、アイくんですよ……」

「こんな時までじっとしていられないのか……」

 わがままを言うアイを窘める美瑚。アイはそれで大人しくはなったが、景は頭を抱えずにはいられなかった。

「みなさん、いってらっしゃーい!」

 夏灯に見送られ、天文部メンバー五人が再びステージに転送されていった。

 フェーズⅡが始まっても夜は明けず、ステージの損壊具合も引き継がれる。全員が陣地から再スタートできるのが救いで、フェーズⅠの終わりにリラに追い詰められていた景も、再び自陣からやり直すことができる。

 また、フェーズⅡには特殊ギミックとして、強敵存在・ドラゴンの出現がある。
 このドラゴンを討伐することでポイントを得られるが、単身で相手にできるほどの性能ではなく、ドラゴン討伐にあたって他チームと一時的に共同戦線を張ることも多い。でなければ、ステージを崩壊させ、周囲を破壊し尽くす勢いは止まらずにメンバーや陣地にも影響が及ぶ。

 ドラゴンの出現によって単純なチーム対抗戦にならず、チームの枠を越えての共同戦線も魅力的だとして視聴者の人気が最も高いのがこのフェーズⅡ。その分注目もされているということで、無様な失敗は視聴者の落胆を生み、チーム人気の失速にも繋がる。
 勝つこと以外にも、そうした背景からもこのフェーズは重要だと景は考えていた。
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