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第三章 覚醒

【二十五】自責(左京)

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目が覚めると俺は、城の地下部分にあった酒庫に寝かされていた。辺りには焼け焦げた匂いが充満し、煙が燻っているところもある。やはり昨晩の出来事は夢ではなかったか…

『おや?お目覚めのようじゃな、
左京よ。気分はいかがかな?』

目の前で何事も無かったかのように話しを始めた才蔵師匠…そうだ、死んだと思っていた師匠が突然現れたことに驚き、俺は意識を失ってしまったのだった。

「師匠、どういうことなのか説明してください!弥助が泣きながら、遺体を埋めていたと思ったのに何故貴方はここにいるのですか?」

才蔵師匠はニヤリと笑って
事の経緯を説明してくれた。

『いや~、お主に切られた時は本当に死ぬかと思ったぞ?手加減一切無しに斬りかかってくるもんじゃからな~?ま、血糊を仕込んでおったし厚手の防具も身につけておったから大事には至らなかったがな。ワシが生きていると佐助に知れたら、任務失敗としてお主が糾弾される可能性もあったから弥助と右京が戦っている最中に、奥の手を使ったのじゃよ。知りたいか?』

「奥の手、ですか?」

『うむ、ワシも初めて使ったものだったから一か八かの賭けみたいなものだったが、上手くいってホッとしたわい。簡単に言うと、自分の首裏にある秘孔を付いて仮死状態にしたのじゃよ。敵を欺くにはまず味方からということで、弥助には少し可哀想なことをしたが、まぁ致し方ないということじゃな。』

「秘孔でそんなことが…師匠すみません、俺は昨日の記憶がやはり全く無いのです。城がこんなことになってしまったというのに…こうなれば、死んで詫びることしかできませぬ…」

持っていたはずの武器は全て師匠の手元に移動されており、着物だけの完全な無防備状態だったことに気づいた。しかも、立ち上がって動く度に体の至る所から痛みが襲ってきて、俺はまた座り込んでしまった。

『左京よ、お主は昨日ワシと弥助二人を相手にしながら姫を人質に取っておったのじゃ。いくら佐助に鍛えられておるとはいえ、あの様な無茶な体の使い方をしておれば体にガタは出てくる。いくつか深い傷もあることじゃろう。身体を完璧に治すまでは暫くここに隠れて心身共に休息させるのが先。今は精神も不安定じゃろうからな、武器も今日はワシが預かっておく。少し用事を済ませてくるから、お主はゆっくり休んでおくのじゃぞ?ここには結界を張っておくから誰かきたとしても、気づかれることは無いから安心して眠れ。』

俺は…才蔵師匠を、国を、
仲間を…裏切ったというのに…
佐助殿に心酔し、この様な事態を引き起こしてしまった首謀者であるというのに…
何故、この人はここまで優しくしてくれるのか…?この際、怒鳴り散らしてくれたのなら、もっと楽になれたかもしれない。何も聞かずただ労わってくれるその行動、言葉に涙が止まらない。

「師匠、どうして俺を…責めてくれないのですか?俺は全てを裏切り、国をこんなにしてしまったと言うのに…」

『…左京よ?お主を責めて何になるというのだ?ただ、ワシの力が足りなかっただけの事。罵声を浴びせても、死者が生き返えることはないし、城が元の状態に戻ることもないのじゃ。でも、お主と力を合わせたらこの国は必ず復活することができる。だから、ワシに力を貸してくれぬか?ワシが憎むべきは、佐助タダ一人!あいつをギャフンと言わせるまでは死んでも死にきれぬわ!はははっ。では、行って参る!』

そう言って才蔵師匠は、姿を消した。
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