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第三章 覚醒
【二十四】交代(左京)
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『右京、貴殿は私の理想を見事形にしてくれましたね。拙者は笑いが止まりません!』
姫を抱えて城を脱出し、小屋へと向かう途中に佐助が待ち構えていた。
「おぉ、佐助か。やはり佐助の言葉通り、ここの輩は平和呆けした腑抜けばかり。唯一、気になったのは…才蔵に"弥助"と呼ばれておった忍のみ。太刀筋も美しく刀に威力はあるものの、それも今は宝の持ち腐。目の前の惨劇を受け入れることが出来ず剣は迷ってばかりで我の敵ではなかったがな。あいつは心を鍛えなければ使い物にはならない、しかし修行すれば伸び代はかなりのものになるだろう。」
『弥助…ですか。それは面白いですね。
それで、才蔵はどうなりましたか?』
「それも問題はない、我の一撃をくらい立てなくなって床に転がっておったからな。弥助とやらが血相を変えて処置しようとしておったが、あの出血量だと既に息耐えておるわ。」
『ご苦労でしたね、右京。拙者は先に冥国に戻り、報告をしてきます。姫を運ぶのに応援を小屋へと寄越すので休んで待っていて下さい。』
佐助と別れ、小屋へと走り続けている最中、突然体に電撃が走ったような衝撃を感じた。
"しまった、もうすぐ夜が明ける。急がなければ…この状態で左京に代わるのはまずい…"
なんとか小屋へと到着したが、頭はフラフラと回り始め意識が混濁し、動悸が始まっていた。
"あと少しだというのに…せめて引き渡すまでは自我を保っておかなければ、ややこしい事になってしまう…。"
奴らから受けた傷の痛みも増しており、体が悲鳴をあげている。抱えていた姫を床に降ろし、応援の到着を待つもその気配は未だ感じられない。ダメだ、頭が痛い……。
苦しみ出した我の気配を感じたのか
『大丈夫ですか?』
と女の声が聴こえた。我は…姫の拘束を解いたのか?記憶が混乱を起こし、左京の意識が流れ込み始める…そして”もう、終わりだ!”と脳に直接訴える声が響き渡ったかと思うと、そのまま意識を失った…。
________
月が沈んだのか、気がつくと俺は佐助殿との密会に使っていた小屋にいた。まだ薄暗く、詳細までは確認できないがどうやら姫を拘束しここまで連れてきたようだ…。俺から距離を取り、微かに震えている姫の気配を感じる。姫がここに居るということは、俺は佐助殿の作戦通りの任務をこなし、城は壊滅してしまったということだろう…
『…俺は、俺は何てことをして
しまったのだ……う、うわぁー!!』
自我が無かったとはいえ、自分が引き起こしてしまったこの事態。どんな言葉を吐いてもそれは言い訳でしかなく、慰めにもならない。とても姫と向き合って話をすることなどできなかった。
もしかすると、城は無事で姫だけが此方へ連れてこられただけかもしれない、仲間達も城も難を逃れているのではないか?という淡い期待を抱き、部屋を飛び出した俺は、まだ薄暗い林の中を全力で走りぬけ城の見える丘の上まできて我が目を疑った…。
「こ、これは…し、城が燃えている…俺の所為で…俺の所為で…う、うぁーーー!!」
事の重大さを改めて実感し、一気に体内へと渦巻く負の感情…。ダメだ、こんな精神状態では右京が出てきてしまうかもしれない…。こうなったら…一思いに胸を突き刺しここで死んでやろうか?…地面に両膝を付き、天を仰いでいると燃え盛る城の方から人影が近ずいてくるのが見えた。敵か?味方か?どちらにしても隠れたほうが良さそうだ。木に飛び乗り息を殺して潜む。ん、あいつは…
それは、才蔵師匠を抱えて走る弥助だった。まさか…師匠が死んだのか?手で口を抑えて叫びそうになるのを必死で堪え、弥助の行動を観察する。丘の上に到着し師匠らしき人物を地面へと降ろした後、
『うぅ、ぅぅう…師匠…!!!』
という言葉が風に乗って聴こえてきた。
やはり…師匠であったか…
最悪だ…あの優しかった師匠を俺は…
暫くすると、落ち着きを取り戻した弥助は穴を掘り始めた。どうやら師匠の亡骸を埋葬するようである。作業が終わると弥助は、どこからか花を積んできて即席の墓前へと供え何やら呟いたかと思うと、一目散に林の中へと消えていった。弥助は気が動転していたようで、最後まで俺の気配に気づくことはなかったようだ。
完璧に弥助の気配が消えたのを確認し、師匠の墓前へと近づいて行った。
「うぅ、師匠…師匠…!何故…こんなことに
俺の所為で…こんな…わぁーーーー!!」
叫びながら剣を振り回し、辺りに生えている雑草や木を切りつける。こんなことをしてもどうにもならないのは分かっているが、もう抑えが効かなくなっていた。姫を誘拐した上、才蔵師匠まで手にかけてしまうとは何たる重罪…もういい、俺なんてこの世から消えてしまえばいいのだ…。
正座をし、腹を斬ろうと短剣を振り上げた刹那、墓の方から突然、ガサゴソとなにかを掘るような音が聞こえてきた。
『ふぅ~危なかったの~!このまま出られなかったらどうしようかと思ったわい!おや?そこにおるのは…左京じゃな?そんな所で何をしておる!ちょっと手伝ってくれぃ!!』
何が起きているのだ?物音がしたと思って振り返ってみると、死んだはずの才蔵師匠が土の中から現れて一人で喋っている…これは、妄想?夢?なのか…?あまりの出来事の数々に俺はそのまま卒倒し、気がついた時には焼け焦げた城跡へと移動していた。
姫を抱えて城を脱出し、小屋へと向かう途中に佐助が待ち構えていた。
「おぉ、佐助か。やはり佐助の言葉通り、ここの輩は平和呆けした腑抜けばかり。唯一、気になったのは…才蔵に"弥助"と呼ばれておった忍のみ。太刀筋も美しく刀に威力はあるものの、それも今は宝の持ち腐。目の前の惨劇を受け入れることが出来ず剣は迷ってばかりで我の敵ではなかったがな。あいつは心を鍛えなければ使い物にはならない、しかし修行すれば伸び代はかなりのものになるだろう。」
『弥助…ですか。それは面白いですね。
それで、才蔵はどうなりましたか?』
「それも問題はない、我の一撃をくらい立てなくなって床に転がっておったからな。弥助とやらが血相を変えて処置しようとしておったが、あの出血量だと既に息耐えておるわ。」
『ご苦労でしたね、右京。拙者は先に冥国に戻り、報告をしてきます。姫を運ぶのに応援を小屋へと寄越すので休んで待っていて下さい。』
佐助と別れ、小屋へと走り続けている最中、突然体に電撃が走ったような衝撃を感じた。
"しまった、もうすぐ夜が明ける。急がなければ…この状態で左京に代わるのはまずい…"
なんとか小屋へと到着したが、頭はフラフラと回り始め意識が混濁し、動悸が始まっていた。
"あと少しだというのに…せめて引き渡すまでは自我を保っておかなければ、ややこしい事になってしまう…。"
奴らから受けた傷の痛みも増しており、体が悲鳴をあげている。抱えていた姫を床に降ろし、応援の到着を待つもその気配は未だ感じられない。ダメだ、頭が痛い……。
苦しみ出した我の気配を感じたのか
『大丈夫ですか?』
と女の声が聴こえた。我は…姫の拘束を解いたのか?記憶が混乱を起こし、左京の意識が流れ込み始める…そして”もう、終わりだ!”と脳に直接訴える声が響き渡ったかと思うと、そのまま意識を失った…。
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月が沈んだのか、気がつくと俺は佐助殿との密会に使っていた小屋にいた。まだ薄暗く、詳細までは確認できないがどうやら姫を拘束しここまで連れてきたようだ…。俺から距離を取り、微かに震えている姫の気配を感じる。姫がここに居るということは、俺は佐助殿の作戦通りの任務をこなし、城は壊滅してしまったということだろう…
『…俺は、俺は何てことをして
しまったのだ……う、うわぁー!!』
自我が無かったとはいえ、自分が引き起こしてしまったこの事態。どんな言葉を吐いてもそれは言い訳でしかなく、慰めにもならない。とても姫と向き合って話をすることなどできなかった。
もしかすると、城は無事で姫だけが此方へ連れてこられただけかもしれない、仲間達も城も難を逃れているのではないか?という淡い期待を抱き、部屋を飛び出した俺は、まだ薄暗い林の中を全力で走りぬけ城の見える丘の上まできて我が目を疑った…。
「こ、これは…し、城が燃えている…俺の所為で…俺の所為で…う、うぁーーー!!」
事の重大さを改めて実感し、一気に体内へと渦巻く負の感情…。ダメだ、こんな精神状態では右京が出てきてしまうかもしれない…。こうなったら…一思いに胸を突き刺しここで死んでやろうか?…地面に両膝を付き、天を仰いでいると燃え盛る城の方から人影が近ずいてくるのが見えた。敵か?味方か?どちらにしても隠れたほうが良さそうだ。木に飛び乗り息を殺して潜む。ん、あいつは…
それは、才蔵師匠を抱えて走る弥助だった。まさか…師匠が死んだのか?手で口を抑えて叫びそうになるのを必死で堪え、弥助の行動を観察する。丘の上に到着し師匠らしき人物を地面へと降ろした後、
『うぅ、ぅぅう…師匠…!!!』
という言葉が風に乗って聴こえてきた。
やはり…師匠であったか…
最悪だ…あの優しかった師匠を俺は…
暫くすると、落ち着きを取り戻した弥助は穴を掘り始めた。どうやら師匠の亡骸を埋葬するようである。作業が終わると弥助は、どこからか花を積んできて即席の墓前へと供え何やら呟いたかと思うと、一目散に林の中へと消えていった。弥助は気が動転していたようで、最後まで俺の気配に気づくことはなかったようだ。
完璧に弥助の気配が消えたのを確認し、師匠の墓前へと近づいて行った。
「うぅ、師匠…師匠…!何故…こんなことに
俺の所為で…こんな…わぁーーーー!!」
叫びながら剣を振り回し、辺りに生えている雑草や木を切りつける。こんなことをしてもどうにもならないのは分かっているが、もう抑えが効かなくなっていた。姫を誘拐した上、才蔵師匠まで手にかけてしまうとは何たる重罪…もういい、俺なんてこの世から消えてしまえばいいのだ…。
正座をし、腹を斬ろうと短剣を振り上げた刹那、墓の方から突然、ガサゴソとなにかを掘るような音が聞こえてきた。
『ふぅ~危なかったの~!このまま出られなかったらどうしようかと思ったわい!おや?そこにおるのは…左京じゃな?そんな所で何をしておる!ちょっと手伝ってくれぃ!!』
何が起きているのだ?物音がしたと思って振り返ってみると、死んだはずの才蔵師匠が土の中から現れて一人で喋っている…これは、妄想?夢?なのか…?あまりの出来事の数々に俺はそのまま卒倒し、気がついた時には焼け焦げた城跡へと移動していた。
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