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イヴ視点12

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「あ、あの…」

「どうした?ユーリ」

「に、煮物好きですか!?」

恥ずかしそうに頬を赤らめる姿はとても愛おしい。

ユーリの顔ばかり見ていたから、何を作っているのか気にしていなかった。
ユーリが作るものは全て食べるつもりだから何でも嬉しいが、煮物を作っているのか。

正直どんな食べ物も好んで食べた事はない。

この味、ユーリが好きそうだな…とかそればかり考えている。

一人でいるときもユーリを考えると、まるで側にユーリがいるように感じる。

ユーリの得意料理なのかな、家族以外で初めて他人に手料理を食べさせるならいいな。
ユーリの初めてが全て俺だったら嬉しい。

そうじゃないなら……いや、これは後にしよう。

でも、ユーリは変な事を言っていた。

ユーリが煮物を作る事を今初めて聞いた。
騎士団に入ってからずっとユーリを見る事が出来なかったからだ。

なのに何故ユーリは俺が煮物嫌いだと言うのだろうか。
こんなにもユーリを想っているのに…

嫌な予感がして、詳しく聞くために厨房に入り詳しくユーリから聞いた。

ユーリを魔物から助けたパレードのあの日のお礼を持って俺に会いに来た事があったそうだ。
そんな話、聞いた事がない。

ユーリが来たなら俺が拒む筈がない、そうしたらもっと早くユーリに会えたのに…

あの時の城の門番だった騎士は誰だ?興味なさすぎて全然覚えていない。
俺への贈り物は問答無用で破棄する騎士はいたが、まさかユーリのも…?

俺のために作ってくれたのに、俺のものを捨てた?

今すぐにでもその騎士を見つけて、ユーリの贈り物を捨てた理由を問い質したい。
当然、ただ質問をするだけなわけがないけど…

瞳が焼けるように熱い、腸も煮えくり返っていた。

今ここで力を出すと、ユーリを巻き込んでしまう。

深呼吸して無理矢理落ち着かせる。

「イヴさん、煮物…食べてくれますか?」

ユーリのその言葉を聞いて、すぐに現実に戻ってきた。
そうだ、今ユーリといるのに他の奴の事を考えるなんて俺とした事が失敗した。

ユーリの顔を見ると怒りがスッと消えて、穏やかな気持ちになった。
瞳の熱もなくなり、俺は過去より今手料理を食べれる事を喜んだ。

ユーリとの時間に浮かれすぎていて、見失っていた。
俺とユーリが会えた筈の貴重な時間を消した奴は絶対に許さない。

ユーリと俺の間に入る邪魔者は後でどうにかするとして、今は…

「…食べたい、ユーリ」

つい、本音が出てしまった…ユーリには気付かれていないみたいだけど…

俺が煮物を食べると言っただけで喜んでくれて良かった。

本当はユーリを食べたいって意味だったんだけど…

それはまだ慌てる時じゃない、もっとゆっくり慣らさないと…

ユーリの料理が出来たみたいで、俺も料理を並べるくらい手伝いたいと言ったが断られた。
ユーリが嫌なら仕方ないが、使用人として呼んだ事を少し後悔した。
これじゃあユーリが遠慮してしまってばかりだ。

お金で繋がっている関係をすぐに変えたいが、それも焦ってしまったら失敗してしまう。
余裕がある男の方が、ユーリも心を開いてくれる筈だ。

椅子に座ると、ユーリが料理を並べてくれる。
これがユーリの料理、想像していたよりキラキラと輝いている。

「イヴさん、なにか飲みますか?」

「ユーリは酒飲めるか?」

「お酒ですか?強くはないですけど飲めます」

「じゃあ一緒に飲もう、果物の甘い酒があったと思うけど」

「取ってきますね!」

ユーリの背中を眺めて、微笑む。
意外にも酒が飲めるのか?ユーリが飲みやすい甘い酒を用意しといたけど、酒にこだわりがあるのか?

酒豪ではなさそうだが、そこの調べはユーリの見た目からして弱いと勝手に思っていて調べ不足だった。

ユーリも酒に誘って一緒に食事をした。

これがユーリの味、これから毎日味わえると思ったら嬉しくてユーリに熱視線を向ける。
ユーリの顔が赤くなっていて、食事をする手を止めて慌ててユーリを引き寄せる。

果物酒は強い酒ではないんだが、ユーリは酒が弱かったのか?
ユーリの飲んでいたグラスを見ても、半分も減ってはいない。

「ユーリ…?」

「ん…んぇ?」

ユーリを呼ぶと、虚ろな瞳で俺を映していた。
異変が起きたのは、普段しない行動をしたからだ。

ユーリが俺の腕に頬をくっ付けていて、甘えていた。

異変があろうとなかろうと、ユーリが可愛い事には変わりがない。
でも、酔っているユーリは可愛いが…一番は素のユーリがいい。

ユーリの首筋が見えた、焼けていない綺麗な色白の首に吸い寄せられるように唇を押し付けた。
柔らかいそこがだんだんと色付いていく。
俺の印を刻まれて、満足そうに笑みを浮かべる。

「今日はこのくらいにしてあげる、でも俺の愛はこんなものじゃないから覚悟しといてね」

ユーリの額に口付けて、ユーリを部屋まで運んだ。
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