おじいさんとおじいちゃん

Green hand

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桜の木/お花見

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『桜の木』

朝食の片付けを終え、おじいさんが畳の部屋へ戻ると、おじいちゃんは網戸をガリガリと引っ掻いて、縁側へ出たがっていました。
おじいさんが買ってきたペットドアは、お腹がつかえてしまい、ぽっちゃりのおじいちゃんには少し小さかったようで、それ以来おじいちゃんは無かったことにしています。

「おぉい待て待て、開けるから。引っ掻いたら破けちゃうよ。」

少し厳しめに声を低くして言いながらも、おじいさんは網戸を開けてやりました。
当然のような顔をしておじいちゃんは縁側へ出ていき、ペタンと横座りをして庭を眺めます。
そのだらしのない後ろ足を見て、おじいさんはプッと思わず笑ってしまいました。
その時、部屋の中へ白い花びらが入ってきたのを目にして、おじいさんは縁側へ出て、おじいちゃんの隣りに立って、目の前に佇む木を見上げました。

「あ~・・・、うちのももうすぐだなぁ。」

沢山ついたソメイヨシノのつぼみの中に、チラホラと顔を見せ始めた桜の花がありました。

「公園の桜も、ちょっと咲き始めてたからな。そうか・・・そのうち、お花見でもするか?」

(・・・・・・・)

「スーパーで寿司でも買って、こういう時だけだし、ワンカップくらい良いよな?」

(・・・・・・・)

「お前には、ケーキでも買って。だから・・・婆さんには内緒だぞ?」

(・・・・・・・)

「な?相棒よ。我々は同志だ。」

そう言って、おじいちゃんの頭に手を軽く乗せて、ひっそりと咲く桜の花を眺めました。
おじいちゃんは、その木の根元で微動だにしない、茶色のトカゲを凝視していました。



それから3日も経たずに、庭の桜は八分咲き程になりました。

「なんだ、今年は早いなぁ。」

おじいさんは、引き出しから剪定バサミを取り出して庭へ行くと、何とか手が届く高さにある花のついた枝を、2本切って家の中へ入りました。
縁側で寝そべったままのおじいちゃんは、薄目を開けてそれを見ていました。
あれからどれくらい経ったのでしょう。日向ぼっこしていて、そのまま眠ってしまったおじいちゃんが目を覚ましました。
大きなあくびを1つして、前足を伸ばしてお尻を上げて、最後に後ろ足を伸ばしてから、開けっ放しの網戸から畳の部屋へ上がり、おじいさんを探します。でも、いません。
台所へ行きました。でも、いません。洗面所・お風呂場・トイレにも、いません。
玄関を通り過ぎて、突き当たりの部屋。おじいさんの寝室へ行きました。いつも開けてくれている襖の隙間から、そっと中を覗くと、おじいさんがいました。
おじいさんの寝室には、仏壇があります。その前に、おじいさんは正座して、手を合わせて、小さな声で何か喋っています。

(・・・・・・・)

いつもなら堂々と中へ入っていって、布団の上でゴロゴロするのに、今日はどうしたのでしょう。
おじいちゃんは、襖の隙間からおじいさんの背中をじっと見つめるだけで、中へ入ろうとしません。
おじいさんは、両手を下ろして膝に置いて、ふぅ・・と息をつきました。

「また、桜の季節が来たよ。近いうち、男2人で花見をするんだ。本当は婆さんの桜餅が食べたいが、スーパーで我慢するよ。だから、ワンカップだけ・・・いいよな?」

(・・・・・・・)

その時、突然白い花びらが飛んできて鼻をくすぐり、

「は・・はぁ・・くしゅっ。」

おじいちゃんは、小さなクシャミをしました。すると、おじいさんは振り返って、笑って手招きします。

「な~んだおい。そんな所にいないで入っといで。」

おじいちゃんは、トボトボとゆっくりおじいさんのもとへ歩いていきます。

「気ぃ使わせちまったか。ん?ちょっとな、婆さんに報告をしていたんだ。」

仏壇には、先程切った庭のソメイヨシノの枝が供えられています。

「男2人で春を迎えるのは、もう5回目だ。心配しなくても、仲良くやってるから安心しろってな。婆さんの事だから、大好きな桜の木の下で、いつも見てくれているんだろうが・・・。そう思ってね、どうせ見つかってしまうから、ワンカップの件は先に伝えておいた。だから、もう内緒じゃなくていいぞ?」

(・・・・・・)

そう言って笑うおじいさんの目は、涙で少し潤んでいました。
おじいちゃんは気づいていましたが、おじいさんの横に座って、桜の木の枝をクンクン嗅いでいました。




『お花見』

翌日、縁側で男2人だけのお花見が開かれました。
おじいさんには、8貫入りの握り寿司と、2つ入りの桜餅。そして念願のワンカップ焼酎。
おじいちゃんには、サツマイモで出来た和菓子風の犬用おやつ。

「う~ん、うんっ。スーパーの寿司も結構美味いな。どうだ、お前もうまいか・・・。」

「ゲフ・・・」

「・・もう食ったの?えぇ~?」

(・・・おいしかった。もっと。)

おじいちゃんはお座りして、尻尾を振りながらじっと見つめて、おじいさんに訴えかけます。

「まぁサツマイモだから消化はいいが、もっとゆっくり食べるようにしないと、お互い年よ・・・うっえホっゴホっ・・・。」

おじいさんは咽せながら、焼酎を流し込みました。

「はぁ~・・・。気をつけよう、お互い。」

(うん。もっとたべる。)

「それにしても、今年も綺麗に咲いたなぁ~。」

(もっと。)

「大した手入れもしてやれんのに、お前さんも毎年よく咲いてくれるな。」

(もっと。)

「たしか、私が生まれる前からそこに立って、先祖の代からずっと見てきてくれたんだな。」

(もっと・・・たべる。)

「きっと、我々があの世へ呼ばれた後も・・・そこに立っているんだろうな。」

(・・もっと・・・)

お酒が入ったおじいさんには、さすがのおじいちゃんも負けてしまいました。
おじいさんは焼酎のカップを掲げて、

「あと少しの間、よろしくお願いします、大先輩。」

乾杯の音頭のように、先輩のソメイヨシノに挨拶をしてから飲みました。

「ヒュン・・・」

おじいちゃんは拗ねたように一鳴きして、ふて寝してしまいました。

「ん、なぁ~んだ・・・食ったら寝るのか?ふふっ、呑気なモンだ。お前も、私もな。」

(・・・ふん。)

咲いた花の重みで、若干枝垂れたソメイヨシノがユラユラと風情を漂わせる様に、2人は眠りに誘われ始めました。おじいさんは頬を赤く染めて窓ガラスに凭れ、おじいちゃんは自分の前足に顎を乗せて、春の日差しに包まれながら、夢の世界へ旅立ちました。

そこで2人は、ソメイヨシノの下で佇む人影を見つけ、近づいていきました。
そして、咲き乱れる桜を3人で眺めながら、あの美味しい桜餅を食べました。

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