17 / 28
第一章 バネッサ・リッシュモンは、婚約破棄に怒り怯える悪役令嬢である
第十七話 悪役令嬢、殿下の言葉に混乱する
しおりを挟む
最愛の人が告白を告げる。
バネッサは何を言われたのか、それすら分からなかった。
涼しげな声は脳に届いたのに、言葉の意味を把握しきれなかったのだ。
――聞き間違えでしょうか?
――むしろ、聴き間違えであってほしい。聴き間違えでなければならない。
バネッサはそんな切実な気持ちでいっぱいだった。
何しろ彼女は、自分がどん底にいるつもりなのだ。
先ほどまで、己が世界で一番不幸なつもりでいた。
大好きな大好きな殿下と、こんな長期間会えないのは初めてだった。
両親に謹慎を言いつけられるなんて、生まれて一度もなかった。
周りの環境だけじゃない。
バネッサ自身も本調子ではなかった。
たとえば、応接間に来るまでの道で、ドレスがまとわりついて、派手に転んだ。
暴飲暴食のせいで、肌の状態は完璧じゃないし、ボディラインだって緩んだ気がしている。
バネッサは絶対なる悪役令嬢であった。
公爵家の愛娘は、幼い頃からの初恋にしがみついてる。
完全無欠な殿下と釣り合うためなら、何でもしてきた。
結果、身も心もボロボロになったのだと、バネッサ自身は認識している。
悪行の代償が回ってくることを、ようやく知ったところだったのだ。
傍から見れば、恵まれた乙女が悲劇に陶酔しているところだ。
こんなものは喜劇にすらならないと、国民たちは指差し、笑いものにするだろう。
バネッサは向う見ずな乙女である。
傲慢な悪役令嬢だと、他ならぬ彼女が自負している。
それでも、そんな彼女が婚約破棄される覚悟でここにきたのだ。
男爵令嬢を突き飛ばしかけたのは、妃と相応しい振る舞いじゃない。
国母として英才教育を受けてきたから、愚かさを痛感していた。
終わりを告げられても、美しい堂々と終わるつもりだったのだ。
なのに。なのに!
ここで好意を告げられるから、彼女は訳が分からなくなってしまった。
何一つ頭が回らない。
殿下の言葉を拒絶しかけるなんて、初めてことだった。
混乱するの同時に、彼女は激しい後悔に襲われる。
あの人がどんな顔をして愛を伝えてくれたのか、バネッサは見られなかったのだ。
問い返すことがこんなに怖いことはなかった。
面をあげるのに躊躇する立場ではないはずなのに。
――どうしましょう、殿下が怖い
強がっていたけれど、彼女はずっと怯えたいたのだ。
――わたくし、謝罪の手紙だって出せてないのに。
「バネッサ、あの……」
沈黙に耐え兼ねて、殿下が言葉を重ねる。
「今更なのは、重々承知なのですが、バネッサ……、何か言葉を……」
愛する人に催促される。
未来の妃として、答えなければいけない。
いけないのに。
桜のような唇をわななかせようとして、それさえ未遂に終わる。
「なんで……」
幼児のような泣き言が漏れた。
誰かの鼓動でかき消されそうなか細さだった。
「なんで、なんで、なんでなのですか」
困惑しきって、それしか言えなくなるほど、衝撃的だった。
バネッサは何を言われたのか、それすら分からなかった。
涼しげな声は脳に届いたのに、言葉の意味を把握しきれなかったのだ。
――聞き間違えでしょうか?
――むしろ、聴き間違えであってほしい。聴き間違えでなければならない。
バネッサはそんな切実な気持ちでいっぱいだった。
何しろ彼女は、自分がどん底にいるつもりなのだ。
先ほどまで、己が世界で一番不幸なつもりでいた。
大好きな大好きな殿下と、こんな長期間会えないのは初めてだった。
両親に謹慎を言いつけられるなんて、生まれて一度もなかった。
周りの環境だけじゃない。
バネッサ自身も本調子ではなかった。
たとえば、応接間に来るまでの道で、ドレスがまとわりついて、派手に転んだ。
暴飲暴食のせいで、肌の状態は完璧じゃないし、ボディラインだって緩んだ気がしている。
バネッサは絶対なる悪役令嬢であった。
公爵家の愛娘は、幼い頃からの初恋にしがみついてる。
完全無欠な殿下と釣り合うためなら、何でもしてきた。
結果、身も心もボロボロになったのだと、バネッサ自身は認識している。
悪行の代償が回ってくることを、ようやく知ったところだったのだ。
傍から見れば、恵まれた乙女が悲劇に陶酔しているところだ。
こんなものは喜劇にすらならないと、国民たちは指差し、笑いものにするだろう。
バネッサは向う見ずな乙女である。
傲慢な悪役令嬢だと、他ならぬ彼女が自負している。
それでも、そんな彼女が婚約破棄される覚悟でここにきたのだ。
男爵令嬢を突き飛ばしかけたのは、妃と相応しい振る舞いじゃない。
国母として英才教育を受けてきたから、愚かさを痛感していた。
終わりを告げられても、美しい堂々と終わるつもりだったのだ。
なのに。なのに!
ここで好意を告げられるから、彼女は訳が分からなくなってしまった。
何一つ頭が回らない。
殿下の言葉を拒絶しかけるなんて、初めてことだった。
混乱するの同時に、彼女は激しい後悔に襲われる。
あの人がどんな顔をして愛を伝えてくれたのか、バネッサは見られなかったのだ。
問い返すことがこんなに怖いことはなかった。
面をあげるのに躊躇する立場ではないはずなのに。
――どうしましょう、殿下が怖い
強がっていたけれど、彼女はずっと怯えたいたのだ。
――わたくし、謝罪の手紙だって出せてないのに。
「バネッサ、あの……」
沈黙に耐え兼ねて、殿下が言葉を重ねる。
「今更なのは、重々承知なのですが、バネッサ……、何か言葉を……」
愛する人に催促される。
未来の妃として、答えなければいけない。
いけないのに。
桜のような唇をわななかせようとして、それさえ未遂に終わる。
「なんで……」
幼児のような泣き言が漏れた。
誰かの鼓動でかき消されそうなか細さだった。
「なんで、なんで、なんでなのですか」
困惑しきって、それしか言えなくなるほど、衝撃的だった。
0
あなたにおすすめの小説
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
他小説サイトにも投稿しています。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる