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第2章 大聖女は愛憎をまだ知らない

第8話 メイドはプレゼンする

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 ゆっくりと開いたドアから、最初に見えたのはワゴンだった。


「大聖女さまーー、レレですよー」


 高めの声で明るい挨拶をしながら、室内に入ってくる。つむじが見えるぐらい小柄な彼女は、私の世話をしてくれる人だ。今日もメイド服が似合ってて、とってもかわいい。


「ああ、レレさんか」
 膝を抱えた腕にぎゅうと力が籠る。
 がっかりしてしまった自分が申し訳ない。


「はい! 大聖女さまのお世話係ににんめーされたレレですぅ!」
 小さな胸を張って、メイド服でちょこんと礼をする。


 この一週間で見慣れたやり取りだ。
 レレさんは毎日、食事を持ってきてくれたり、お風呂の準備をしてくれたりする。


 監禁されてから会った唯一の女の子で、なんと私よりもお姉さんらしい。おしゃべりしたときに知って、驚いたなあ。


「って、大聖女さま……、……なにか悲しいことでもあったのですか? ぽんぽん、痛いんですか? 」


 ベッドで膝を抱えたままだったから、勘違いさせてしまったみたいだ。


 レレさんは不安そうに眉を下げて、ぴょこぴょこしながら歩み寄ってくる。


「うんうん、違うよ、どこも痛くない」
「……ほんと、ですかぁ?」


 ベッドに手を置いて、私を覗き込んでくる。
 うたがってます、心配です、って顔に書いてあって、つい笑ってしまった。


「レレさんが来てくれたから、元気になっちゃった」
「……レレのおかげ、ですか?」
「うん、レレさんのおかげ。いつもありがとう」
「なら、よかったぁですぅ」


 安心したように息を吐き、レレさんもにぱっと笑う。かわいい。頭なでなでしたい。


 うん、腹黒に会うよりも、レレさんに会ったほうが楽しい。あいつがようやく来たかもと思った自分が信じられない。


「なにしろレレは、ご主人さまから大聖女さまの心身のけんこーを守るように言われてますから!」
「セオドアがそんなことを……?」


 胸に手を置き、どややんとする彼女に聞き返す。


「はい! ご主人さまは大聖女さまが快適に過ごせるように、いっぱいレレに指示してます」


 レレさんが急にベッドを離れて、パタパタ走る。


「たとえば、これです」


 身体全体を使って、ワゴンを押してきた。載っている料理からは湯気が立っている。


「大聖女さまが元気になるように、温かいご飯をいっぱい作るように言われてます!」
「ご飯はすっごくおいしい。私の好きなものばっかりだし」
「ご主人様が、コックに好きな食事リストを渡してました!」
「すごい調査力だね……」


 セオドアに若干引く。
 だけど、レレさんはそれにそれに! と話を続けた。


「それそれに、このお部屋、あったかいでしょう?」

 言われた通りだ。冬のまっさなか、一月だというのに、ワンピース一枚で快適なのだ。

「実は、お部屋全体に、炎の魔石を使ってます! 大聖女さまをお呼びするってなってから、つけたんですよぉ」


 魔石は高価なものなのに。こんな広い部屋を温めるのに、いくら必要なんだろう……。


 聞けば聞くほど、セオドアの用意周到さと財力を知る。教会に寄付してほしい。


 私がむすっとなるのと、対照的にレレさんは瞳をキラキラさせた。


「ご主人さまは、大聖女さまのこと、だい、だい、だーいすきなんです! こんなに準備しちゃうぐらい」


 そして、プレゼントを開ける前の子どもみたいに質問してくる。


「大聖女様…….、どうです、ドキドキしましたか……?」


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