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第一章 誕生
10月18日
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10月18日、二十歳の誕生日に俺は死んだ。
ぱっとしない人生だ。そう、みんなが言うところのありきたりな人生を全うした。
そうやって人は死を迎える。当然のことだと思っていた。
そして今日もまた
世界のどこかで誰かが自殺した。
俺、伊藤恵吾(いとうけいご)19歳。
東専大学に通う学生だ。名前があるだけ個性がある。
順風満帆とは言えないものの、満足な生活を送っている。
「おう、恵吾。早く帰ろうぜ」
大学仲間の井上が鬱陶しいほど長い前髪をなびかせながら近づいて来た。
「はいはい、さっさと帰ってモンハンやりたいんだろ?わかってるよ」
大学にいるときはほとんど井上と一緒に過ごしている。面白いことを言う奴ではないが良い奴だ。他にもサークルやバイト仲間など友達と呼べる人は多い、と思いたい、、
友達は楽しい奴ばかりだし、最近彼女も出来た。そんな俺も明日で二十歳だ。やっと酒が堂々と飲める。それに二十歳って聞くと、なんか大人だ。
そんな想いを巡らせながら井上と別れ帰路につく。
帰り道は変わらないが明日になれば自分が変わる。
色々なことをやってみたいし、体験して自分の視野を広げたい。大学生活での楽しい思い出作り。友達と旅行したり、彼女とデートしたり。就活して、どんな職業につくのかもまだわからない。面倒な卒論もあるけど、考えると今までの人生より色濃く思える。そんな思いでまだ見ぬ未来に期待していた。
次の日、10月18日。天気は雨のち晴れ
血塗れの男が雨にうたれながら天を仰いでいる。
「あ・・・身体が冷たくて・・・熱い・・」
伊藤恵吾は死んだ。
10月17日
授業中にブーブーとスマホが揺れた。
(明日は楽しみにしててね!プレゼントもらったら、恵吾びっくりするとおもうから!)
LINEで送られて来たのは、彼女の李咲(りさ)からのメッセージだ。
授業中なのに顔がニヤける。
返信を送り明日の事を考える。明日は二人でどこに行こうか。明日で俺も二十歳なんだ!大人の階段を登ってもいいんじゃないか!授業の内容はもちろん頭に入っていなかった。
「おう、恵吾。早く帰ろうぜ」
井上が声を掛けてきた。焦らす魂胆はわかっている。
「はいはい、わかったよ。帰ってモンハンやりたいんだろ?」
最近井上がモンハンにハマっているのは知っている。俺はイマイチ苦手だからやっていなかったから、何がそんなに面白いのかと思いながら帰路についた。
井上のモンハントークを受け流しながら帰っていると、いつものところで別れた。この先は独りの時間だ。明日の予定を整理して、いよいよだと心が躍った。明日から二十歳。この道、この街は変わらなくとも俺は二十歳に生まれ変わる。そう思い込んでいた。
10月18日、天気は雨だった。
午後は晴れると聞いていたので黒の折りたたみ傘で出かけた。高鳴る鼓動を抑えて待ち合わせ場所に向かった。
しかし、俺が向かったのは。
死の世界だった。
血塗れの男が、雨が落ちてくる方に手をあげて囁いた。
「また・・・死にたく・・・ない・・」
死の直前に出た言葉を、血塗れの男は聞き逃さなかった。
(また・・・?)
10月17日
今日は授業数が少ない楽な日だ。早く帰って明日の準備とか、やりかけのゲームとかしたいな。そんなことを思っていると、いつのまにか授業が終了していた。
「おう、恵吾。早く帰ろうぜ」
井上が近づいてきて俺に言った。何故か妙な感覚だった。またそのセリフかよって言いそうになったからだ。あ、そうだこれは。
「なんか、今の一瞬デジャヴだったわ!」
俺はよく既視感ある状況になると何故かテンションがあがる。見たことないけど見たことあるような景色に言動や行動。非科学的な何かが起こしている現象なんじゃないかと考えると興味が湧いた。
「あーそれたまにあるよな。夢でみたような光景だったりするやつだろ?」
井上はそんなこと気にしてもしょうがないと鼻で笑った。俺はそうは思わない。最近になってデジャヴを見ることが多くなってる気がするからだ。
夜久しぶりに寝付けなかった。授業中に寝たからかな?いやそんなのしょっちゅうだ。明日のデートが楽しみなんだと思い、無理矢理にでも寝ようと目を閉じた。
10月18日、天気は雨のち晴れ。
家から出た俺の足が止まった。何か黒い渦のようなものが、目の前に広がって見えたからだ。そんなの気のせいでいつもの道にいつもの家周りだってことはわかっている。なんだこれ?よくわからないまま折りたたみ傘をさして、待ち合わせ場所に向かった。
数分後。
「・・・なんで・・・これも・・デジャ・・」
血塗れの男は、雨の音に負けるくらいの声で囁いた。
また、俺は死んだ。
10月17日。
10月17日。
10月17日。
・
・
・
・
・
10月18日。綺麗な病院で産声が上がった。それはそれは元気な男の子だ。名前は決まっていなかった。
両親との対面。両親は感動に涙を溢していた。二人で顔を見てから名前を決めようと思っていた。そして決まった名前は。
(わかったよ。流石にこれだけやれば気がつくさ。いいよやってやるよ。どんな結末にするか、試してやる。なんたって何度でもやり直せるんだから。)
その子の名前は、恵吾と名付けられた。
(俺の人生はループしてる。今回の人生はどうやってけりをつけてやろう)
産声をあげていた赤ん坊が一瞬笑ったように見えた。
ぱっとしない人生だ。そう、みんなが言うところのありきたりな人生を全うした。
そうやって人は死を迎える。当然のことだと思っていた。
そして今日もまた
世界のどこかで誰かが自殺した。
俺、伊藤恵吾(いとうけいご)19歳。
東専大学に通う学生だ。名前があるだけ個性がある。
順風満帆とは言えないものの、満足な生活を送っている。
「おう、恵吾。早く帰ろうぜ」
大学仲間の井上が鬱陶しいほど長い前髪をなびかせながら近づいて来た。
「はいはい、さっさと帰ってモンハンやりたいんだろ?わかってるよ」
大学にいるときはほとんど井上と一緒に過ごしている。面白いことを言う奴ではないが良い奴だ。他にもサークルやバイト仲間など友達と呼べる人は多い、と思いたい、、
友達は楽しい奴ばかりだし、最近彼女も出来た。そんな俺も明日で二十歳だ。やっと酒が堂々と飲める。それに二十歳って聞くと、なんか大人だ。
そんな想いを巡らせながら井上と別れ帰路につく。
帰り道は変わらないが明日になれば自分が変わる。
色々なことをやってみたいし、体験して自分の視野を広げたい。大学生活での楽しい思い出作り。友達と旅行したり、彼女とデートしたり。就活して、どんな職業につくのかもまだわからない。面倒な卒論もあるけど、考えると今までの人生より色濃く思える。そんな思いでまだ見ぬ未来に期待していた。
次の日、10月18日。天気は雨のち晴れ
血塗れの男が雨にうたれながら天を仰いでいる。
「あ・・・身体が冷たくて・・・熱い・・」
伊藤恵吾は死んだ。
10月17日
授業中にブーブーとスマホが揺れた。
(明日は楽しみにしててね!プレゼントもらったら、恵吾びっくりするとおもうから!)
LINEで送られて来たのは、彼女の李咲(りさ)からのメッセージだ。
授業中なのに顔がニヤける。
返信を送り明日の事を考える。明日は二人でどこに行こうか。明日で俺も二十歳なんだ!大人の階段を登ってもいいんじゃないか!授業の内容はもちろん頭に入っていなかった。
「おう、恵吾。早く帰ろうぜ」
井上が声を掛けてきた。焦らす魂胆はわかっている。
「はいはい、わかったよ。帰ってモンハンやりたいんだろ?」
最近井上がモンハンにハマっているのは知っている。俺はイマイチ苦手だからやっていなかったから、何がそんなに面白いのかと思いながら帰路についた。
井上のモンハントークを受け流しながら帰っていると、いつものところで別れた。この先は独りの時間だ。明日の予定を整理して、いよいよだと心が躍った。明日から二十歳。この道、この街は変わらなくとも俺は二十歳に生まれ変わる。そう思い込んでいた。
10月18日、天気は雨だった。
午後は晴れると聞いていたので黒の折りたたみ傘で出かけた。高鳴る鼓動を抑えて待ち合わせ場所に向かった。
しかし、俺が向かったのは。
死の世界だった。
血塗れの男が、雨が落ちてくる方に手をあげて囁いた。
「また・・・死にたく・・・ない・・」
死の直前に出た言葉を、血塗れの男は聞き逃さなかった。
(また・・・?)
10月17日
今日は授業数が少ない楽な日だ。早く帰って明日の準備とか、やりかけのゲームとかしたいな。そんなことを思っていると、いつのまにか授業が終了していた。
「おう、恵吾。早く帰ろうぜ」
井上が近づいてきて俺に言った。何故か妙な感覚だった。またそのセリフかよって言いそうになったからだ。あ、そうだこれは。
「なんか、今の一瞬デジャヴだったわ!」
俺はよく既視感ある状況になると何故かテンションがあがる。見たことないけど見たことあるような景色に言動や行動。非科学的な何かが起こしている現象なんじゃないかと考えると興味が湧いた。
「あーそれたまにあるよな。夢でみたような光景だったりするやつだろ?」
井上はそんなこと気にしてもしょうがないと鼻で笑った。俺はそうは思わない。最近になってデジャヴを見ることが多くなってる気がするからだ。
夜久しぶりに寝付けなかった。授業中に寝たからかな?いやそんなのしょっちゅうだ。明日のデートが楽しみなんだと思い、無理矢理にでも寝ようと目を閉じた。
10月18日、天気は雨のち晴れ。
家から出た俺の足が止まった。何か黒い渦のようなものが、目の前に広がって見えたからだ。そんなの気のせいでいつもの道にいつもの家周りだってことはわかっている。なんだこれ?よくわからないまま折りたたみ傘をさして、待ち合わせ場所に向かった。
数分後。
「・・・なんで・・・これも・・デジャ・・」
血塗れの男は、雨の音に負けるくらいの声で囁いた。
また、俺は死んだ。
10月17日。
10月17日。
10月17日。
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10月18日。綺麗な病院で産声が上がった。それはそれは元気な男の子だ。名前は決まっていなかった。
両親との対面。両親は感動に涙を溢していた。二人で顔を見てから名前を決めようと思っていた。そして決まった名前は。
(わかったよ。流石にこれだけやれば気がつくさ。いいよやってやるよ。どんな結末にするか、試してやる。なんたって何度でもやり直せるんだから。)
その子の名前は、恵吾と名付けられた。
(俺の人生はループしてる。今回の人生はどうやってけりをつけてやろう)
産声をあげていた赤ん坊が一瞬笑ったように見えた。
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