永久人生

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第一章 誕生

無限回の10月17日

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何度目だ?この日は。

俺は19歳になった。なんら変わりない19歳。
しかし、人より経験している・・・・人生を。


10月17日。
俺は何度この日を迎えたんだろう。
東専大学の門をくぐって、いつも通りの日常が始まった。

(明日・・・・俺は死ぬ)

気楽な大学生の中に独り、重い足取りの男がいた。
周りの学生達の顔つきとは明らかに違うその男は、伊藤恵吾。パーカーにジーンズ、リュックを背負ったごく普通の大学生に見える。

(俺は二十歳の誕生日に死ぬ。これは今までの人生で経験済みだ。でも何でだ?この人生がループしてるって気が付いたのは、ここ何回かの人生の中でだ。思い出したかのように、今までの人生が頭に浮かんできた。)

今までの事を思い出して、俺は教室の席に着いた。
まずは状況の整理をしようと、ノートに今までの軌跡を書き綴った。

(これまでにわかったとこは・・・まず二十歳の誕生日には必ず死ぬ。時間と場所は違ったものの、必ず二十歳の誕生日に死ぬ。そして、また生まれた時からスタートする・・・。これの繰り返しだ。途中の人生で多少何かを変えても、結果は変わらなかった。一体全体何が起こっているのやら)

授業の話などお構いなしに、ノート自分のわかっていることを書いていき分析した。それもそのはず。なにせ明日死ぬのに授業を受ける必要なんて無いからだ。それでも大学に来ているのは、日常を壊さない為だった。

(違う大学に入っても、大学に入らなくても、仕事をしてても、ニートでも条件は変わらない。唯一違ったのは、この東専大学大学ルートだけ彼女が出来たことだな。)

LINEを開いて、じっとスマホを見つめた。そして次の瞬間スマホのバイブがなった。

(明日は楽しみにしててね!プレゼントもらったら、恵吾びっくりするとおもうから!)

李咲からのLINEだ。
このタイミングで来ることはわかっている。いつも通りの返信をしてまたノートに向かう。

(これが俺の運命なのか?それとも、俺達人間は死んだらまた同じことを、繰り返し転生して行うだけの生き物なのか?前の俺みたいに気が付かず永遠に・・・・)

幾度となく繰り返される思考に、答えは出なかった。

(いくら考えても答えなんか出ない・・・。今は僅かな変化を見逃さずに、色々行動して試して、未来を変えるしかない!)

そう決意を新たにしたところで授業が終わり、次の教室へと移動した。
わざわざ遠回りをして、教室へ向かう最中の階段でスカートを履いた女の子がつまずいた。その瞬間を見逃さずに俺は上を見上げていた。

(そう、何も変わらない。明日死ぬ事も。見知らぬ女の子のパンツの色だって)

新鮮味のない光景を、後悔しつつも何故か遠回りしてまで見たくなる男心があった。



「おう、恵吾。早く帰ろうぜ」

もうこんな時間か。と思うように、井上の声掛けがアラームのような機能を果たしていた。

「あぁ、そうだな」

俺は素っ気ない返事をして、いつも通り何気ない会話をして帰路についた。どうせ言葉を交わしても意味はない。明日にはいなくなるのだから。
そんな態度を気にしてか、井上がジュースを奢ってくれた。いい奴だ。今までにない行動に少し驚いたが、気にする事なく冷えた炭酸を飲んだ。


10月18日、天気は雨。
毎回のように折りたたみ傘で家を出る。行く必要は無いだろうとも思うが、これには理由がある。
この誕生日に家にこもりっきりだと、家族まで俺の死に巻き込まれるからだ。出来ればそんな苦しみを味わってほしく無い。

待ち合わせの場所に向かった。
そこで思わぬことが起きた。
ブーブーとポケットのスマホがなる。

(ごめん、恵吾。今日風邪ひいちゃって、また今度会えないかな?うつしちゃったら悪いし、、)

李咲からのLINEだった。

(あれ?・・・今までにこんな事なかった。このルートは・・・もしかしたら)

予想外の出来事に動揺した。
この後はどうする?外にいたらトラックが突っ込んでくる。屋内に居ても、火事やら、通り魔やらにやられておしまいだ。どんな状況になってもいいように気を張っておこう。

数時間経過した。近くの公園で誰も巻き込まないように独りベンチに座った。ケツが濡れたがそんなのは関係ない。今までにない展開。いつもは17時には死んでいたはずなのに、今はそれを更新して17時50分だ。もしかしたら・・・。
期待に胸が膨らみつつある。
何かがきっかけで変えられるんだと分かって嬉しかった。希望が持てた。
後6時間、今日を乗り越えられるかもしれない!そう思っていた。


後ろから急加速したトラックが、公園の柵を越えて俺をペシャンコにした。


まただ。

でも分かった。
これは何かが影響してる。
俺の人生のどこか、何かがこの結末へと誘っているんだ。

何かを確信した俺は、何回目かわからない産声をあげた。
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