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2.無自覚なご主人様
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黒部のスマートフォンの右上に示された時間は19時を少々過ぎていた。
「あっと……ごめんねぇ。そろそろ終わりにしなきゃ」
ユメミが少し媚びたような様子を見せて言う。少女のような外見をしながら、操っている中の人のせいか、態度が妙に世慣れている。そんなところもまたイイと黒部は感じていた。
『彼氏?』
1万円で尋ねたリスナーに対抗して、黒部は3万円をぶっ込む。
『旦那だ!』
『子供のお迎えとか?』
3000円ごときで横やりを入れんな、と黒部はイラついたが、バーチャルアイドルは万人に優しい。照れたような仕草とほんのちょっと色めいた頬で微笑む。
「うふふふ。ご主人様♡ それじゃあまた、明日ね~。おやすみなさ~い」
挨拶の返しを待つことなく配信は唐突に終了した。よほどその『ご主人様』というのが厳しいのだろう。黒部は少々気の毒になる。そんな彼女の自由の足しになれば良い。自分が貢いだ金の行方をそのように黒部は期待する。明日の配信も楽しみだった。
スマートフォンの電源ボタンを押して内ポケットに仕舞う。ここまで送ってきてくれた舎弟の姿はもうない。黒部は配信が終了になるまで、マンションの足下に立って動画を見ていたのだ。
「さて……」
見上げた地上7階建ての最上階に監禁された王子様に、少々尋ねなくてはならないことがあった。稼ぎの件だ。
副業をしたいという申し出は数か月前。
外に出歩かせて、そのままバックレられたり、弁護士や公的機関に駆け込まれたりしても困るので、部屋の中でできることならいいと黒部は言った。黒部の候補としては偽造、栽培、精製、解体あたりが適当かと提案してみたが、染谷は真っ青な顔で否定した。
染谷から提案されたのは、生成人工知能とかいう技術の利用だ。
便利な世の中になったもので、命令するだけで想像している絵でも動画でもなんでもぽんとパソコンが出してくれるらしい。著作権法の問題等はあるらしいが、法整備はまだ行き届いていない。稼げるとするなら黎明期の今である。
これまでも趣味の範囲ではあるがAIを使ってエロをメインとした同人誌なる粗利のくそたっかい本を大量に作ってネットで売りさばいていたという。
最近のヤクザというのはスマートフォンの普及等々で文字を読む習慣がある者も多い。対して黒部などはそういった者達に比べるとどちらかというと学がなく、泥臭い努力と根回しと腕っ節でのし上がってきたタイプだ。だから本家の組長に指摘されるまでもなく、染谷の言うシノギがどんなものなのか検討もつかない体たらくである。
ただ稼ぎの全体の3割をそれでしのいでいるのであれば、管理者として知らないわけにはいかない。
ノウハウを先に本家の組長に盗まれでもしたら、あの度量の狭い男のことだから、こっちのシノギを削りにくるだろう。それだけは避けたかった。
カードキーを通さなくてはたどり着けない7階へとエレベーターは上っていく。ちぃんと小さな音を立てて扉が開く。まっすぐに続く廊下には扉が3つしかない。各部屋はホテルで言うならスイートルームクラスの広さがあった。廊下の一番奥に染谷がいる。カメラ付きのインターホンを鳴らした。
『はい』
「俺だ。あけろ」
『あ、すぐに』
扉を挟んで人が動く気配がする。それはほとんど待つことなく開いて、ぬぅっと影がおちてきた。
「お疲れ様です、黒部さん」
少し疲れた様子で染谷が微笑む。
相変わらず、でかい男だな。
黒部は自分を見下ろす男を少し見上げて小さくため息をついてから、押しのけるように中へ入っていった。
「あっと……ごめんねぇ。そろそろ終わりにしなきゃ」
ユメミが少し媚びたような様子を見せて言う。少女のような外見をしながら、操っている中の人のせいか、態度が妙に世慣れている。そんなところもまたイイと黒部は感じていた。
『彼氏?』
1万円で尋ねたリスナーに対抗して、黒部は3万円をぶっ込む。
『旦那だ!』
『子供のお迎えとか?』
3000円ごときで横やりを入れんな、と黒部はイラついたが、バーチャルアイドルは万人に優しい。照れたような仕草とほんのちょっと色めいた頬で微笑む。
「うふふふ。ご主人様♡ それじゃあまた、明日ね~。おやすみなさ~い」
挨拶の返しを待つことなく配信は唐突に終了した。よほどその『ご主人様』というのが厳しいのだろう。黒部は少々気の毒になる。そんな彼女の自由の足しになれば良い。自分が貢いだ金の行方をそのように黒部は期待する。明日の配信も楽しみだった。
スマートフォンの電源ボタンを押して内ポケットに仕舞う。ここまで送ってきてくれた舎弟の姿はもうない。黒部は配信が終了になるまで、マンションの足下に立って動画を見ていたのだ。
「さて……」
見上げた地上7階建ての最上階に監禁された王子様に、少々尋ねなくてはならないことがあった。稼ぎの件だ。
副業をしたいという申し出は数か月前。
外に出歩かせて、そのままバックレられたり、弁護士や公的機関に駆け込まれたりしても困るので、部屋の中でできることならいいと黒部は言った。黒部の候補としては偽造、栽培、精製、解体あたりが適当かと提案してみたが、染谷は真っ青な顔で否定した。
染谷から提案されたのは、生成人工知能とかいう技術の利用だ。
便利な世の中になったもので、命令するだけで想像している絵でも動画でもなんでもぽんとパソコンが出してくれるらしい。著作権法の問題等はあるらしいが、法整備はまだ行き届いていない。稼げるとするなら黎明期の今である。
これまでも趣味の範囲ではあるがAIを使ってエロをメインとした同人誌なる粗利のくそたっかい本を大量に作ってネットで売りさばいていたという。
最近のヤクザというのはスマートフォンの普及等々で文字を読む習慣がある者も多い。対して黒部などはそういった者達に比べるとどちらかというと学がなく、泥臭い努力と根回しと腕っ節でのし上がってきたタイプだ。だから本家の組長に指摘されるまでもなく、染谷の言うシノギがどんなものなのか検討もつかない体たらくである。
ただ稼ぎの全体の3割をそれでしのいでいるのであれば、管理者として知らないわけにはいかない。
ノウハウを先に本家の組長に盗まれでもしたら、あの度量の狭い男のことだから、こっちのシノギを削りにくるだろう。それだけは避けたかった。
カードキーを通さなくてはたどり着けない7階へとエレベーターは上っていく。ちぃんと小さな音を立てて扉が開く。まっすぐに続く廊下には扉が3つしかない。各部屋はホテルで言うならスイートルームクラスの広さがあった。廊下の一番奥に染谷がいる。カメラ付きのインターホンを鳴らした。
『はい』
「俺だ。あけろ」
『あ、すぐに』
扉を挟んで人が動く気配がする。それはほとんど待つことなく開いて、ぬぅっと影がおちてきた。
「お疲れ様です、黒部さん」
少し疲れた様子で染谷が微笑む。
相変わらず、でかい男だな。
黒部は自分を見下ろす男を少し見上げて小さくため息をついてから、押しのけるように中へ入っていった。
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