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3.中の人攻防戦
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黒部はずかずかと部屋に入るなり、リビングの長ソファーにどかっと体を投げ置いた。
「お疲れのようですね。食事は?」
「あーなんかあるか? ビールは?」
「用意しましょうか」
「頼む」
染谷は台所へ向かう。
料理をする方かと言われるとそうでもない。それでも食っていけているのは、冷蔵庫の中に電子レンジ一発で形になるものや、皿にのせたらそれなりに見えるものが山盛り入っているからだ。あとは組み合わせればいいだけ。
レンチンご飯と汁物のフリーズドライインスタント、あとは漬物と缶詰から出した魚の煮物。それらと冷えた缶ビールをお盆の上にセットしながら、デスクの上にまとめた書類を黒部に伝える。
「今日の売り上げ日報と経費精算書はそこに。俺の直接取引分の売上金はいつもの通り直接俺の口座に入ってますので」
「おー」
「今日、営業会議じゃなかったでしたっけ?」
「サクッと終わった。ニュース、見たか?」
「もしかしてラーメン屋の?」
「ああ……。その件で本家が警察から痛い腹を探られたらしい。急遽そっちの対応に追われたから、会議は終了だ」
「まあ、よかったじゃないですか」
機嫌がよくて。
染谷は出かかった言葉を飲み込んだ。
会議の後の黒部はいつも機嫌が悪い。それを宥めるとなるといろいろと面倒なのだ。
用意した食事をリビングの方へ持っていく。黒部は腹筋だけを使って起き上がると、真っ先にグラスビールを喉へ流し込んだ。
「スーツが皺になります」
染谷は背後に回って肩からジャケットをするりと引き抜く。肉付きのいい、鍛え上げられた背中を包む白いワイシャツが現れた。
「今日は?」
「泊る。今から組へ帰る気にもなれねえ。お前も一杯付き合えよ」
「では着替えと寝室の準備をしてから。スーツ、適当に脱いどいてください。クリーニングに出すので。返ってきてる予備があるので明日はそれを着て下さい」
「お、すまねえな」
染谷は黒部をリビングにおいて寝室へと向かう。
広い部屋には大きなキングサイズのベッドが一つ、存在感をしめしてそこにあった。
完全にヤリ部屋だ。改めて認識して苦笑いが出る。
実際、染谷がここへ住むようになるまでは、AVのスタジオだとか、風俗系キャストの教育だとかに使われていたと聞いていた。
今は染谷が常駐して仕事をしているので、ここは普通に寝室になっている。
手足が長すぎるせいでそれまで住んでいた部屋のシングルベッドではいろいろとはみ出ていた。それに比べるとこのロングタイプのダブルベッドは格段に快適な就寝環境だ。
染谷は寝乱れたシーツをはがしてベッドメイクを始めた。
黒部とはここで月に一回から多いときは週一回くらいの頻度で寝ている。
もちろん添い寝ではない。大体はつまらない会議でたまったストレス発散で、愛とか情とかいうのはない。使える場所をフルに使って染谷がご奉仕する形になる。
黒部が染谷を抱くときはだいたいイライラしていてしつこい。朝まで抱かれる。もうそろそろボーイズバーで客でも取れるんじゃないかと思う。そのくらいこれまで知らなかったセックススキルと知識を体に教え込まれた。
初めてそれを強要されたのはいつだったのか覚えていない。
男相手に女役は無理、と思っていた。今では大した抵抗はない。黒部専用というのもあるかもしれない。とにかく彼の手管は、多くの素人娘や生意気なヤンキー息子を風俗街の夜の蝶に変えてきただけあって上手いのだ。
AVやヤクザ映画ではとにかく恐怖で支配しようと無茶してくるステレオタイプが出てくるが、最近のヤクザはそうでもないらしい。
相手の依存ポイントを見極めて、それに合わせた手管で懐柔し、依存させ、骨の髄まで搾り取る。カルト宗教の手口をうまく利用していた。
ヤクザが昔ながらの恐怖を示すときというのは、獲物の精神がまともになってきて、現状から抜け出そうとあがいている時で、それを突き崩すために力を誇示するわけなのである。
「悪者は悪い顔をしていないんだよな……強面だけど」
そんな黒部のことを染谷は嫌いではない。
仕事のためとはいえど、欲しいものは言えば買ってくれるし、健康管理のために週二回ほどは運動に付き合ってもくれる。喧嘩はべらぼうに強くて、睨みつけるだけで誰も逆らえない。オールドタイプのヤクザ気質なので仁義は通して人間的に尊敬できるところがあるし、社会人としての見識は広い。
何よりセックスが気持ちいい。
キャバクラの女の子とのスナック感覚のエッチとはわけが違う。女衒という本職で飯を食っているので、その手腕に、たくましい肉体的な雄の要素に男惚れでメロメロになる。
今だけなのかもしれない。染谷はそう思うときはある。
役に立つから傍に置いてる。
正気じゃないから可愛がってくれる。
染谷が真っ当な社会に戻りたいという気持ちになった時、黒部の本性が牙をむくのではないか。その恐れは常にある。
「ま、今はないだろうけどね」
債務整理関係では1億円で関係者一人分の命が消える。黒部から笑い話に聞いたことがある。
その点において、染谷には片腕なくすくらいの額がまだ借金として残っている。稼ぎが途切れない限り殺すことはないだろう。
ベッドメイクを終わらせ、黒部の着替えを用意して染谷は部屋を出た。
「お疲れのようですね。食事は?」
「あーなんかあるか? ビールは?」
「用意しましょうか」
「頼む」
染谷は台所へ向かう。
料理をする方かと言われるとそうでもない。それでも食っていけているのは、冷蔵庫の中に電子レンジ一発で形になるものや、皿にのせたらそれなりに見えるものが山盛り入っているからだ。あとは組み合わせればいいだけ。
レンチンご飯と汁物のフリーズドライインスタント、あとは漬物と缶詰から出した魚の煮物。それらと冷えた缶ビールをお盆の上にセットしながら、デスクの上にまとめた書類を黒部に伝える。
「今日の売り上げ日報と経費精算書はそこに。俺の直接取引分の売上金はいつもの通り直接俺の口座に入ってますので」
「おー」
「今日、営業会議じゃなかったでしたっけ?」
「サクッと終わった。ニュース、見たか?」
「もしかしてラーメン屋の?」
「ああ……。その件で本家が警察から痛い腹を探られたらしい。急遽そっちの対応に追われたから、会議は終了だ」
「まあ、よかったじゃないですか」
機嫌がよくて。
染谷は出かかった言葉を飲み込んだ。
会議の後の黒部はいつも機嫌が悪い。それを宥めるとなるといろいろと面倒なのだ。
用意した食事をリビングの方へ持っていく。黒部は腹筋だけを使って起き上がると、真っ先にグラスビールを喉へ流し込んだ。
「スーツが皺になります」
染谷は背後に回って肩からジャケットをするりと引き抜く。肉付きのいい、鍛え上げられた背中を包む白いワイシャツが現れた。
「今日は?」
「泊る。今から組へ帰る気にもなれねえ。お前も一杯付き合えよ」
「では着替えと寝室の準備をしてから。スーツ、適当に脱いどいてください。クリーニングに出すので。返ってきてる予備があるので明日はそれを着て下さい」
「お、すまねえな」
染谷は黒部をリビングにおいて寝室へと向かう。
広い部屋には大きなキングサイズのベッドが一つ、存在感をしめしてそこにあった。
完全にヤリ部屋だ。改めて認識して苦笑いが出る。
実際、染谷がここへ住むようになるまでは、AVのスタジオだとか、風俗系キャストの教育だとかに使われていたと聞いていた。
今は染谷が常駐して仕事をしているので、ここは普通に寝室になっている。
手足が長すぎるせいでそれまで住んでいた部屋のシングルベッドではいろいろとはみ出ていた。それに比べるとこのロングタイプのダブルベッドは格段に快適な就寝環境だ。
染谷は寝乱れたシーツをはがしてベッドメイクを始めた。
黒部とはここで月に一回から多いときは週一回くらいの頻度で寝ている。
もちろん添い寝ではない。大体はつまらない会議でたまったストレス発散で、愛とか情とかいうのはない。使える場所をフルに使って染谷がご奉仕する形になる。
黒部が染谷を抱くときはだいたいイライラしていてしつこい。朝まで抱かれる。もうそろそろボーイズバーで客でも取れるんじゃないかと思う。そのくらいこれまで知らなかったセックススキルと知識を体に教え込まれた。
初めてそれを強要されたのはいつだったのか覚えていない。
男相手に女役は無理、と思っていた。今では大した抵抗はない。黒部専用というのもあるかもしれない。とにかく彼の手管は、多くの素人娘や生意気なヤンキー息子を風俗街の夜の蝶に変えてきただけあって上手いのだ。
AVやヤクザ映画ではとにかく恐怖で支配しようと無茶してくるステレオタイプが出てくるが、最近のヤクザはそうでもないらしい。
相手の依存ポイントを見極めて、それに合わせた手管で懐柔し、依存させ、骨の髄まで搾り取る。カルト宗教の手口をうまく利用していた。
ヤクザが昔ながらの恐怖を示すときというのは、獲物の精神がまともになってきて、現状から抜け出そうとあがいている時で、それを突き崩すために力を誇示するわけなのである。
「悪者は悪い顔をしていないんだよな……強面だけど」
そんな黒部のことを染谷は嫌いではない。
仕事のためとはいえど、欲しいものは言えば買ってくれるし、健康管理のために週二回ほどは運動に付き合ってもくれる。喧嘩はべらぼうに強くて、睨みつけるだけで誰も逆らえない。オールドタイプのヤクザ気質なので仁義は通して人間的に尊敬できるところがあるし、社会人としての見識は広い。
何よりセックスが気持ちいい。
キャバクラの女の子とのスナック感覚のエッチとはわけが違う。女衒という本職で飯を食っているので、その手腕に、たくましい肉体的な雄の要素に男惚れでメロメロになる。
今だけなのかもしれない。染谷はそう思うときはある。
役に立つから傍に置いてる。
正気じゃないから可愛がってくれる。
染谷が真っ当な社会に戻りたいという気持ちになった時、黒部の本性が牙をむくのではないか。その恐れは常にある。
「ま、今はないだろうけどね」
債務整理関係では1億円で関係者一人分の命が消える。黒部から笑い話に聞いたことがある。
その点において、染谷には片腕なくすくらいの額がまだ借金として残っている。稼ぎが途切れない限り殺すことはないだろう。
ベッドメイクを終わらせ、黒部の着替えを用意して染谷は部屋を出た。
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