推しはそのスジの中の人

おおらぎ

文字の大きさ
8 / 17
3.中の人攻防戦

しおりを挟む
 染谷が風呂場から上がると黒部はおそろいのバスローブのまま、冷蔵庫から取り出した缶ビールを飲みつつテレビを見ていた。

「長風呂だな」 
「誰のせいだと思ってるんですか?」 
「お前だろ。中に欲しいとかねだるから」

 にやにやと黒部が笑う。
 染谷は黒田と先ほどまで一緒に入っていた風呂場の痴態を思い出して、羞恥で顔を赤らめてどかっと黒部の隣に座った。

「だ、大体からして黒部さんがいっつも俺を生掘りするからでしょ。後始末が大変なんです。ゴムつけてくださいよ」 
「商品とやるときゃつけてるぜ。ガキなんかこさえてキズモンにするわけにはいかねえからな」 
「俺は商品じゃないんですか」 
「商品は商品でも、消耗品じゃねえだろ。お前は会社の備品だ。お前が壊れるときは俺もただじゃ済まねえ。一蓮托生。そのつもりで本番やってんだ。ビョーキになったら一緒にモグリの医者行こうぜ。その手の類では腕のいい奴を知ってる」 
「やだなあ。そんな伝手」

 ローテーブルの上には食べ散らかされた痕があった。その中から炭酸の抜けたビールを染谷は口に運ぶ。一時間ほど前まで黒部と食事をしていた最中だったのだ。急にムラついたらしく、風呂に連れ込まれた。今はやることをやって二人とも顔つきはすっきりしていた。
 テレビでは昼間にやっていたラーメン店の店主殺害事件についての続報を告げている。さすがにもう彼の本職は嗅ぎつけられて、隠されていなかった。

 なぜ、誰が、彼を殺したのか。

 ミステリー小説ならここから物語が始まる。
 だが染谷は一歩も自由に外へはいけない身分だ。かといって安楽椅子探偵など現実にはできるものでもない。せいぜいユメミの『雑談』で話題になったところに無責任に乗っかる程度の事だった。
 抗争、暗殺、排除……憶測が飛び交った。
 たぶん何人か本職の人がいるので、話の中身にはかなり信憑性がある。店長は組織の思い通りの駒にならないことで粛正されたのではないか。染谷は界隈の内の一人としてそういう見方をした。
 この時の「おとうふさん」は聞き手に回って比較的口数が少な目だった。普段は政治や経済、芸能界のネタの時などは割と饒舌なのに。ただ最終的にはユメミと同じラインでこの事件を見ているとはわかった。
 理由は、今の頭が割と狭量な人間らしいからだ、と。
 そんな情報は界隈の中にいなければ、それも組長を直接知る人間でなければわからない。染谷は彼自身がヤクザかその近縁の業界に生きている人間だと見た。
 おもむろに黒部が染谷の肩を抱いてくる。
 染谷はぐいっと引き寄せられて軽くキスをされた。
 唇が離れた後、黒部は少し本性が現れた真面目な目つきで染谷を見る。

「なあ。お前に聞きたいことがある」 
「なんですか?」 
「副業の件だ。俺はお前の好きにさせるつもりだったが、額がそうも言ってられなくなった」 
「今日の営業会議で言われたんですか?」 
「本家の親父が興味を持ち出してな。あいつは割と狭量な人間だ。儲かるとわかれば自分の縄張りに引き込もうとしやがる」

 だから黒部としては具体的な中身を知っておきたいという。その上で説明を求められたらメリットを過少に、デメリットを過大に説明して、特殊な成功例であると印象付けたいのだという。
 一方で染谷の方はというと、めんどくさい、としか思えなかった。
 まずユメミの件は話せない。
 配信内容には守秘義務に軽くふれるようなこともあるからだ。界隈やそこに所属する組織の内情を売っていると思われるのはよくない。これは知られてはならなかった。

「まず生成AIっての? それがどんなもんかみせてもらえるか?」

 なのにそんなことを言われて染谷はしぶしぶと立ち上がってPCの方へと歩いて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の大学院生は、俺の癒しでした。

結衣可
BL
仕事に追われ、残業ばかりの日々を送るサラリーマン・斎藤悠真(32)。 感情を表に出すことも減り、「今日も誰ともしゃべらなかったな」と思いながら帰宅する毎日。 そんなある夜、隣の部屋から漂ってきたカレーの香りとともに、インターホンが鳴る。 「作りすぎちゃって……よかったらどうぞ」 そう微笑んで皿を差し出したのは、隣に住む大学院生・風間緒人(25)。 栄養学を学びながら料理好きの緒人は、気づけば週に一度は“おすそ分け”をするようになる。 最初は戸惑いながら受け取っていた悠真だったが、温かい食事と緒人のさりげない気遣いに、 長い間感じたことのなかった「人の温もり」に心が揺らいでいく。 雨の日に差し出されるタオルや、疲れた体に沁みる味噌汁。 やがて二人で食卓を囲む夜、体調を崩したときの看病……。 少しずつ距離が近づくたびに、悠真は自分でも驚くほど笑顔を見せ、心を許してしまう。 逃げ腰のサラリーマンと、世話焼きの年下院生。 すれ違いと優しさの間で揺れる二人の関係は、いつしか「癒し」から「恋」へと変わっていく――。

親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布
BL
親友と異世界転生したら召喚獣になっていた話 一部完結

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

追放された『無能』オメガ、実は最強の薬師でした。~辺境でSSS級冒険者に溺愛され、実家の薬屋をざまぁします~

水凪しおん
BL
「お前のようなフェロモンの薄い無能オメガは、我が家には不要だ!」 実家の名門薬店『白龍堂』を追放された白蓮華(ハク・レンカ)。 しかし彼には、植物の「声」が聞こえるという秘密の能力があった。 傷心のまま辿り着いた辺境の村で、蓮華は小さな薬屋を開業する。 そこで倒れていた瀕死の男を助けたことが、彼の運命を大きく変えることに――。 その男は、国最強と謳われるSSS級冒険者(アルファ)、蒼龍牙(ソウ・リュウガ)だった! 「俺の古傷を治せるのは、お前の薬だけだ」 無自覚な天才薬師(オメガ)×強面スパダリ冒険者(アルファ)。 辺境でのんびり薬屋を営むはずが、いつの間にか国中から注目され、実家を見返す大逆転劇へ発展!?

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...