どうせ堕ちるなら此処が良い

おきたワールド

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本編

凡人らしさは落としてきました

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先輩がお手洗いに行っている間にゲームの準備をする。
空色と赤色の左右一対の本体着脱式コントローラーが着いたゲーム機は普段は姉と遊んでいるものだ。
これなら先輩と二人でも出来るだろう。
ACアダプターをリビングのコンセントに差し込んでから、HDMIケーブルをテレビに繋いだ。初めてのことで少々手間取った。
いつもは姉がやってくれている。
テレビに映像が映ったことを確認した。問題ないね。よしよし。
今回わたし達がプレイするのは正方形と半円が接したフォルムをした赤色と黄色の二体のキャラクターを操作して、パズル要素のある様々なステージのクリアを目指すという内容のアクションパズルゲームである。所謂、協力プレイだ。

大人数で盛り上がれるし、キャラクターのデザインが可愛くて気に入っている。
わたしは姉としかプレイしたことはないけど、動画サイトに投稿されているゲーム実況動画は複数人でわちゃわちゃと楽しんでいた。きっと、先輩だって楽しんでくれるはずだ。きっと多分。
推し実況者を信じろ、わたしッ。
二つのコントローラーを握ったり、無意味に重ねたりして気を紛らわす。
カチャカチャとプラッチック同士が擦れる音がする。駄目だわ、落ち着かねえ。
「へえ、それがコントローラー?実物は初めて見たよ」
「みゃッ」
ビクリッと肩が跳ねる。

床に座ったまま振り返ると身を屈めた先輩が背後にいた。ビビった。心肺停止するかと思った。顔が良い殺人鬼である。
「し、死ぬかと思った……」
「うん?……それを使うんだよな?どうやるんだ?」
先輩はコントローラーから目を離さない。興味津々のご様子だ。意外である。良かった。
「えっとね。コントローラーを持って、そうだね、先輩が操作するのは赤い方のキャラで……重なった部分を切って変形させたりするんだよ。説明するよりやってみた方が早いかな」
「へえ、なるほど」
ステージを選択すると、ゲームがスタートした。決められた場所に指定の形に切り取ったプレイヤーキャラクターをパズルのようにはめるとクリアという、単純かつ非常に簡単にクリアできるステージである。

しかし、先輩はゲーム初心者だ。
先程の発言からするとコントローラーを触ることすら初めてであろう。
ここはゲームにおいてはセンパイであるわたしがリードするしかない。
先輩がミスをしても、空よりも広く海よりも深い心で許してやろうではないか。
完璧超人な先輩がわたしに教えを乞う様を想像して、ワクワクした。
なんなら、慰めてやる準備だって出来ているのだ。任せろバリバリ。
「先輩先輩ー、ゲームならわたしがセンパイになるんだよ」
「そうだな。あーちゃんはセンパイだ。お手柔らかにお願いしますね。センパイ」
「んふふ、仕方ないね。……世話の焼けるコーハイくんには、ご褒美制度を制定してやろう。わたしの足を引っ張らないで全ステージクリアが出来たら、お願いひとつ叶えてあげるっ」

……なーんて、調子乗っていたのは最初だけでした。
わたしの提案を聞いて、一瞬真顔になった先輩は、すぐにいつもの笑顔でコントローラーを手に取った。そこまでは良い。
なんと先輩は、わたしからの説明もなしに黙々と操作を開始して、あろうことか一切のミスもなく十五個全てのステージをクリアしたのだ。過大評価ではない。
わたしが何か言う前に先輩はわたしの望む操作をしてくれる。
足を引っ張られるどころかむしろわたしが助けられてしまった。
こんな静かな協力プレイってある?
つまらなかった訳では無いけど、空想していた展開とはかなり違っていた。宇宙猫の顔になる。

「これで終わり?楽しいな」
「そ、ソダネー」
試合中のカーリング女子選手みたいな返答だ。北海道の方言はわかりません。
コントローラーを置いた先輩はテーブルからウーロン茶の入ったグラスを取って喉を潤した。ふぅと息を吐く姿が色っぽい。
そして、先輩はわたしの手を骨ばった両手で握る。嫌な予感がした。
「俺のお願い、聞いてくれますよね。セ・ン・パ・イ」
苺ジャムみたいに蕩けた瞳に、情けない顔が反射する。
疑問符がついていない。ご褒美あげるなんて言わなきゃ良かった。やっちまった。タイムマシンを探したい。猫型ロボットの販売はまだか。

「な、ナニカナー。ナンノコトカナー。わたしは後輩だからわからないなー」
「ははっ、頑張ったコーハイに嘘をつくなんて、センパイは酷いひとだなぁ」
「か、勘弁してください……お金ないです……わたしが調子乗りました……」
「うん?カツアゲなんてしないよ?」
「え、じゃあ何が望みなの?」
「……そうだな。何が良いかな。……うーん。じゃあ、これ以外であーちゃんが好きなゲームがあったら教えて欲しいかな」
先輩は照れ臭そうに笑う。
ブルブルと振動していたわたしの身体がピタリと静止した。
「えっ、そんなことで良いの?わたしの好みの話なんてつまらなくない?大丈夫?」

「良いよ。話してくれよ。それに好きな子の好きな物について、興味があるのは普通じゃないかな。少なくとも俺はあーちゃんの全部を知りたいよ」
先輩みたいな人間をスーパーダーリン、略してスパダリって言うんだな。明日菜覚えた。
わたしの好きなゲームの話をするなら、キャラクターの立ち絵や詳細なキャラクター情報が載っている本を見せた方が手っ取り早い。
わたしは先輩を自室に案内した。辞書並みの分厚さの本が全部で六冊もあるのだ。
自室の本棚からリビングまで運ぶのは中々に面倒臭い。
部屋の掃除は昨日のうちに済ませてあるし、神絵師によるほにゃほにゃな同人誌はダンボールに詰めてクローゼットの奥に幽閉している。完璧だ。

天井の光を反射させる瑠璃色の函から、本を取り出す。
先輩の隣に座って、ペラペラとページをめくりながら、キャラクターの説明をしていく。
せめて、帰るまでに第一巻分の内容は履修して頂きたい所存である。
わたしの説明を、先輩は始終ニコニコと聞いていた。
適当に聞き流している様子はなく、ちょこちょこ質問をしてくれる。最高だ。
話せることが楽しくて、共有できることが嬉しくて、わたしは夢中になっていた。
熱中すると喉が渇いて、ウーロン茶を飲む頻度が上がる。ソワソワと身体が揺れた。
説明の途中だけど、ごめん先輩ッ。
「ちょ、ちょっと、お手洗い行ってくるね!すぐに戻るから、先輩は部屋で寛いでてね!あ、その本は読み返したかったら勝手に読んで!よろしくっ」
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