異世界転生した先の魔王は私の父親でした。

雪月花

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第2話 あっさり死ぬとかひどくね?

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「というわけであなたは死にました」

 開口一番。気づくと私は目の前の綺麗な黒髪の女性にそう宣言された。

「はあ?」

 状況がよく飲み込めない私はそんな間抜けな声を出してしまい、それを見ていた女性がコホンと咳払いをする。

「まず確認なのですが、あなたのお名前は世良七海さんで合っていますか?」

「はあ、私は世良七海ですが……」

 それは紛れもない私の名前であり、それを確認すると女性は「結構です」と頷いた。

「それでは状況を説明いたしますが、あなたは朝、遅刻しそうになり、いつもの坂を自転車で急降下していました。ここまでは覚えていますか?」

 そう言われてみれば、そんな気がする。
 今日はママが朝から出かけていて、起こしてくれる人がいなかったからいつもより寝坊してしまった。
 そのため急いで坂道を自転車で降りていた。

「ですがその時、あなたは運悪く――」

 あっ、なんかこれ展開読めてきたかも。
 さては横からトラックか何かが飛び出してきて、それと衝突して死んだんだな。

「運悪く、異世界の魔王が弾いた勇者の一撃が次元を飛び越え、あなたのいた世界に飛来し、たまたまそこにいたあなたに直撃してあなたは跡形もなく消滅してしまいました」

 雑っ!! え、なに、その雑な死に方!? しかも異世界の魔王とか勇者とか滅茶苦茶とばっちりじゃん!?
 思わず私がツッコミを入れると、その女性も同情したような視線を私に向けてくれる。

「本当に……ご愁傷様です」

「いやいや! そんなとんでもない理由で殺されたこっちはシャレになりませんから! しかも自分が死んだって実感もまるでないですし! どうするですかこれ!?」

 あまりの状況に訳が分からず、私は目の前の女性に突っかかるようにまくし立てる。
 女性はそんな私を落ち着いた態度のまま受け入れて、静かに制止させる。

「まあまあ、どうか落ち着いてください。そのために私がここへ来たのです」

「? どういうことですか?」

「つまり不運にも、よその世界の事情で死ぬことになったあなたを生き返らせるために私は来ました」

「そんなことが可能なんですか!?」

 落ち着いた女性の答えに私は思わず驚く。

「はい、可能です。ですが、この場合は異なる世界で蘇って頂くことになりますので、いわゆる転生になります」

「転生……」

 そこまで聞いて私も事情が飲み込めてきた。
 確かにこういった転生者の創作は私も幾度となく読んできた。
 そのため、そういった事に関する知識はあるつもりだったけれど、まさか自分がその当事者になるとは思ってもみなかった。

「それでは準備はよろしいでしょうか?」

「えっと、その前に確認なのですが。地球にそのまま転生というか蘇りはダメなんですか?」

 ふと気になったことを問いかける。
 これは私自身、色んな創作を読んでいて気になった点でもあり、わざわざ危険な異世界に転生するよりも生まれ育った地球にそのまま蘇りを求めたかった。
 なによりも異世界って電気ガス水道とかなさそうだし、あっても不便なイメージがあったので、出来ることなら生活水準が豊かなこの地球にチートなスキルを持って転生して楽な人生を過ごしたいというのが本音だった。

「残念ながらそれは無理です。天界のルールというものがありまして、記憶を持った際の転生は他の世界限定になるのです。それにあなたの場合、特殊な事情があり、次の転生先が決まっているのです」

 そうなんだ……。少しというかかなり残念だけど……。

「ご安心を向こうの世界に転生した際は、あなたはとても権力のある人物の娘となりますので、生活面においては不自由はしないと思います」

 あっ、そうなんだ。もしかして、それがいわゆる転生特典ってやつかな?
 よく漫画や小説なんかで、異世界に転生する人達は特殊な能力なりスキルなり、生まれながらにいい暮らしを与えられている。
 前の生活に比べれば、裕福な暮らしを送れるのは魅力的だし、なによりも転生させてもらえるだけでも、ありがたいのでその女性の言うことを聞くことにした。

「それでは準備にかかってもよろしいでしょうか?」

「そう、ですね……。どっちみち、このままじゃ私死んだまま……なんですよね?」

 あんまり実感ないけど。それには目の前の女性も「はい。なんならこのまま成仏しますか?」とか言ってきたので、それには全力で首を横に振った。

 私からの了承を得ると、女性が腕を突き出し、その前方に魔法陣のようなものが現れ、私の体が光り輝いていく。
 こ、これがいわゆる転生ってやつなんだ……!
 アニメや漫画では何度となく見ていたけれど、やっぱり実物は迫力というか、体の内側に来る感覚が違う……!
 それまでどこかフィクションの中の出来事のように、ぼんやりと物事を受け入れていた私だけど、ここにきてようやく、目の前の全てが現実なのだと認識し始めたが、その瞬間、予想だにしない展開が現れた。

「はぁ~い。失礼いたします~。お待たせしました~、世良七海さん~。不慮の事故で死んだあなたを救済しに来ました天使ラブリアと申します~……って、あら~?」

 突然、私と女性の間に白い翼を生やした金髪のお姉さんが現れた。
 人の良さそうな笑顔を浮かべたその人物は女の私から見ても綺麗で美しくてまさに天使のような女性。
 その彼女――ラブリアと名乗った女性は、私と黒髪の女性を交互に見つめ、やがて黒髪の女性の方を凝視する。

「あなた、どなたでしょうか~? その少女の転生を任されたのは私のはずですが~?」

 え? 何やら、不穏な単語が聞こえたような気がする。
 目の前の黒髪の女性を見ると、冷静さを装いつつも、どこか気まずそうな目で明後日の方を向いて、私にかけている魔法みたいなものをドンドン強めていた。

 ちょっと、これって、もしかして……。

「あなた、もしかして……“堕天使”ですかぁ~?」

 ん!?
 なんかものすごく不穏な単語が聞こえてきたぞ!
 しかも黒髪の女性、めっちゃ魔力みたいなの上昇させて、私の転生(?)みたいなのを繰り上げようとしているし、ちょ、これ、もしかしなくてもまずいんじゃ!?

「――緊急事態発生。転生体No.10013の転生に堕天使の介入あり。これより敵性体堕天使の排除と共に転生体の確保に入る」

 先程まで優しそうな笑みを浮かべていた女性の表情が一変。
 まるで氷の戦士のような無慈悲な表情になり、その手には槍と盾を生み出し、姿も完全な武装を行う。
 それを見た黒髪の女性は何やら舌打ちしながら、慌てた様子でそれまでとは比較にならない魔力を私へと送り込む。

「え! いや! ちょ!? あなた一体何を!? 堕天使って、一体どういうこ――!」

「少々手順が異なりましたが、あなたは一足先に向こうの世界に転生していてください!」

 そのまま黒髪の女性から放たれた魔力に押し出される私。
 気づくと私は渦のようなものに飲み込まれながら、遥か彼方で先程の天使と刃を交える堕天使の背中を見ながら、意識がグルグルと遠のいていった――。
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