異世界転生した先の魔王は私の父親でした。

雪月花

文字の大きさ
10 / 41

第10話 大丈夫だよ。好きな時に仕事行っていいんだからね、無理しなくていいからね。で、いつ仕事行くの?

しおりを挟む
 気まずい。とにかく気まずい。

 あれから宿を出て私とイブリスは街の中を気ままに散策していたのだけれど、道行く人達にとにかく注目されて気まずいなんてレベルじゃなかった。

「おい、あれ昨日、オレ達を救ってくださった救世主様だぞ!」

「救世主様ー!」

「おお、救世主様が街に異常がないか散策してくださっているぞー!」

「さすが救世主様! 歩く姿すら我々とは異なり、動作一つ一つに深い積み重ねを感じますぞ!」

 歩くたびにそうやって周りの人々から無意味にヨイショされるものだから、とにかく歩きづらい。
 ちょっとした動作一つにしてもわざわざ大げさにリアクションされるものだから、歩くのも辛くなってくる……というか、私普段どうやって歩いていたっけ……?
 その後、たまたま立ち寄ってお店で料理を注文しようとすると――

「救世主様からお金を取るなんてとんでもない! どうぞどうぞ! 今日は貸切です! なんでも好きなものを注文してください! おい! 上から順に全部もってこい! お代? 勿論、結構ですよ! 救世主様からお代を頂くなんて、そんなこと出来るはずがないでしょう!」

 そう言って先程まで結構な数がいたお客さん達が笑顔で店の中からいなくなって、その場には私とイブリスだけが残され、机には注文していない豪勢な食事が端から端まで並んでいた。
 私はその料理の数々を見ただけで、色々とお腹がいっぱいになり一口二口食べたあたりでご馳走様と呟いた。
 ちなみに、イブリスはテーブルに並べられた料理をご丁寧に最後の一品まで綺麗に完食した。
 アンタ、さっき朝ごはん食べたよね……? と思わずツッコミそうになった。

 そんなこんなで行くところ行くところで救世主様と崇められて、とにかく居づらいことこの上ない。
 ある意味、街中からチヤホヤされた扱いでいい暮らしを送れるのかもしれないけれど、それだけではなく道行く先々で街の人達の隠れた本音が見え隠れしていた。

「いやー、しかし、救世主様がこの街にいれば魔王軍もおいそれと手を出せませんなー」

「そういえば近隣の森にゴブリンが巣食ったとか。ですが救世主様がいればゴブリン如き、恐ろしさのあまり森から出ても来れませんな!」

「馬鹿野郎! 救世主様がわざわざゴブリンなど退治するものか! 救世主様が動くとすればそれはもっと大物! そう、最低でもドラゴンくらいが襲ってこなければな!」

「違いねぇ! わははははははは!」

 あはははーと私を囲んで笑う街の人達に対し、私は乾いた笑みを返すしかなかった。
 う、うん。分かってはいたけれど、この人達、心の奥底で滅茶苦茶私を頼りにしてる!!
 というか勇者の称号を与えてくれた時点で王様もそんな感じだったし。
 ひょっとしなくても私のことをこの国を守る守護神みたいに思ってるのかも……。

 ま、マズイ。とにかくマズイ。
 居心地が悪い上に、外で食事するどころか歩くのすら視線が辛くなってきた。
 というか暗に街の人達が早く私に魔王を退治してくれと急かしているようで辛い。

 そんなこんなで街で過ごすこと数日。
 街の人達はとても親切で良くしてくれる。食事も美味しく、毎日いい宿に泊まり放題。その代わり――

「あれ、救世主様。今日も街の見回りですか? 我々に遠慮せずにいつでも冒険に出ていいのですよ」

「と言ってもこの辺の魔物では救世主様の相手になりませんか。いっそのこと、また魔王軍でも攻めて来ませんかねー」

「お、それいいじゃねぇか! また救世主様が魔王の画面に渾身の拳を食らわすところを見てみたいぞ!」

「がははは! いつでも来やがれ魔王軍ー! むしろ、ウェルカムだぜー!」

 マズイ。この雰囲気、マズすぎる。
 例えるなら不登校の子供に対し、親が「いつでも学校行っていいのよ。七海ちゃんの好きな時に行っていいからね?」と優しく言いつつも、内心急かされているような感覚だ……!
 あるいはニートに対し「いつ就職するの? いつ就活するの? 本気出せばすごいって知ってるんだから、早く本気出してよ」みたいな雰囲気にも通じる。
 ぜ、全然落ち着かねぇ……。それどころか、日に日に宿に泊まるのも心苦しくなって来る……!
 これはある意味、責めたれられるよりも効果のある精神攻撃で、その数日間、とても気の休まる日が来なかった。
 このまま何もせず街の中でダラダラできるほど私の精神は強靭ではなく、街人達の期待に背を押されるように、仕方なく私は何らかの行動を起こすべく、まずはギルドへと顔を出すことにした。
 ギルドのある場所は街を歩いているうちに覚えたため、そのまま入口を通ると、その瞬間、ギルドの中にいた人々が一斉に私の方へと注目した。

「おい、あれって噂の救世主じゃねぇか!」

「え、どれどれ!?」

「うひゃー! あんなに可愛い子が魔王に一撃食らわしたのかよー!」

「しかも噂じゃレベルもデータで測れない未知数な勇者らしいぜ。ちょっとオレお近づきになろうかな……」

「よせって! お前じゃ相手にもされねぇぞ!」

 そんなギルドにたむろしていた冒険者らしき人々の雑談が耳に入るが、いや! むしろお近づきになって欲しいです!
 正直、私のレベルは何の変哲もないレベル1なんで! マジで誰でもいいですから助っ人というか仲間が欲しいです! はい!
 そんなことを心の中で叫びつつ、私はとりあえず何か受けられそうな依頼がないかカウンターにいる男性に話しかける。

「あ、あのー。依頼を請けたいんですけどー」

 私がそう一言を発すると、後ろにいた冒険者一同が「ガタリ」と音を立てて立ち上がり、カウンターの男性までなぜかその場から立ち上がる。

「え、あ、はい! 救世主様がうちのギルドの依頼をお請けになると! わ、分かりました! し、しばしお待ちくださいませ! 現在、うちにある依頼の中で最高難易度のものを選別しますので!」

「いや! そういうのいいんで! あの、最初なのでゴブリン退治とか! そういう誰でも出来そうなのをお願いします!」

 余計なことをしようとして立ち上がったカウンターの男性を慌てて引き止める私。
 じ、冗談じゃないぞ! まさに見せかけだけのレベル1勇者なのに高難易度のクエストなんて行ったら、速攻死ぬわ!
 必死になんとか男性を引き止める私だったが、逆に男性の方が私に対し熱弁をふるい始める。

「いえ! とんでもありません! あの魔王と互角の殴り合いを果たしたという勇者様にゴブリン退治なんてありふれた依頼を与えた日には我がギルド一生の恥です! ここは勇者様に相応しい依頼をこちらで吟味し、お渡ししますので、ぜひもうしばらくお待ちくださいませ!」

 そう言ってカウンターにいた男性は私の静止を振り切り、そのまま奥へと向かいギルドメンバーと思わしき人達と会議をしだす。
 だ、だから余計なことしないで―――!!!
 
 そんな私の叫びも虚しく、しばしの会議の後、私に渡された初の依頼とは、ここから東にある廃墟に住まう魔王軍侵略部隊の将軍デュラハン討伐というレベル1勇者が請けてはいけない依頼であった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...