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第10話 大丈夫だよ。好きな時に仕事行っていいんだからね、無理しなくていいからね。で、いつ仕事行くの?
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気まずい。とにかく気まずい。
あれから宿を出て私とイブリスは街の中を気ままに散策していたのだけれど、道行く人達にとにかく注目されて気まずいなんてレベルじゃなかった。
「おい、あれ昨日、オレ達を救ってくださった救世主様だぞ!」
「救世主様ー!」
「おお、救世主様が街に異常がないか散策してくださっているぞー!」
「さすが救世主様! 歩く姿すら我々とは異なり、動作一つ一つに深い積み重ねを感じますぞ!」
歩くたびにそうやって周りの人々から無意味にヨイショされるものだから、とにかく歩きづらい。
ちょっとした動作一つにしてもわざわざ大げさにリアクションされるものだから、歩くのも辛くなってくる……というか、私普段どうやって歩いていたっけ……?
その後、たまたま立ち寄ってお店で料理を注文しようとすると――
「救世主様からお金を取るなんてとんでもない! どうぞどうぞ! 今日は貸切です! なんでも好きなものを注文してください! おい! 上から順に全部もってこい! お代? 勿論、結構ですよ! 救世主様からお代を頂くなんて、そんなこと出来るはずがないでしょう!」
そう言って先程まで結構な数がいたお客さん達が笑顔で店の中からいなくなって、その場には私とイブリスだけが残され、机には注文していない豪勢な食事が端から端まで並んでいた。
私はその料理の数々を見ただけで、色々とお腹がいっぱいになり一口二口食べたあたりでご馳走様と呟いた。
ちなみに、イブリスはテーブルに並べられた料理をご丁寧に最後の一品まで綺麗に完食した。
アンタ、さっき朝ごはん食べたよね……? と思わずツッコミそうになった。
そんなこんなで行くところ行くところで救世主様と崇められて、とにかく居づらいことこの上ない。
ある意味、街中からチヤホヤされた扱いでいい暮らしを送れるのかもしれないけれど、それだけではなく道行く先々で街の人達の隠れた本音が見え隠れしていた。
「いやー、しかし、救世主様がこの街にいれば魔王軍もおいそれと手を出せませんなー」
「そういえば近隣の森にゴブリンが巣食ったとか。ですが救世主様がいればゴブリン如き、恐ろしさのあまり森から出ても来れませんな!」
「馬鹿野郎! 救世主様がわざわざゴブリンなど退治するものか! 救世主様が動くとすればそれはもっと大物! そう、最低でもドラゴンくらいが襲ってこなければな!」
「違いねぇ! わははははははは!」
あはははーと私を囲んで笑う街の人達に対し、私は乾いた笑みを返すしかなかった。
う、うん。分かってはいたけれど、この人達、心の奥底で滅茶苦茶私を頼りにしてる!!
というか勇者の称号を与えてくれた時点で王様もそんな感じだったし。
ひょっとしなくても私のことをこの国を守る守護神みたいに思ってるのかも……。
ま、マズイ。とにかくマズイ。
居心地が悪い上に、外で食事するどころか歩くのすら視線が辛くなってきた。
というか暗に街の人達が早く私に魔王を退治してくれと急かしているようで辛い。
そんなこんなで街で過ごすこと数日。
街の人達はとても親切で良くしてくれる。食事も美味しく、毎日いい宿に泊まり放題。その代わり――
「あれ、救世主様。今日も街の見回りですか? 我々に遠慮せずにいつでも冒険に出ていいのですよ」
「と言ってもこの辺の魔物では救世主様の相手になりませんか。いっそのこと、また魔王軍でも攻めて来ませんかねー」
「お、それいいじゃねぇか! また救世主様が魔王の画面に渾身の拳を食らわすところを見てみたいぞ!」
「がははは! いつでも来やがれ魔王軍ー! むしろ、ウェルカムだぜー!」
マズイ。この雰囲気、マズすぎる。
例えるなら不登校の子供に対し、親が「いつでも学校行っていいのよ。七海ちゃんの好きな時に行っていいからね?」と優しく言いつつも、内心急かされているような感覚だ……!
あるいはニートに対し「いつ就職するの? いつ就活するの? 本気出せばすごいって知ってるんだから、早く本気出してよ」みたいな雰囲気にも通じる。
ぜ、全然落ち着かねぇ……。それどころか、日に日に宿に泊まるのも心苦しくなって来る……!
これはある意味、責めたれられるよりも効果のある精神攻撃で、その数日間、とても気の休まる日が来なかった。
このまま何もせず街の中でダラダラできるほど私の精神は強靭ではなく、街人達の期待に背を押されるように、仕方なく私は何らかの行動を起こすべく、まずはギルドへと顔を出すことにした。
ギルドのある場所は街を歩いているうちに覚えたため、そのまま入口を通ると、その瞬間、ギルドの中にいた人々が一斉に私の方へと注目した。
「おい、あれって噂の救世主じゃねぇか!」
「え、どれどれ!?」
「うひゃー! あんなに可愛い子が魔王に一撃食らわしたのかよー!」
「しかも噂じゃレベルもデータで測れない未知数な勇者らしいぜ。ちょっとオレお近づきになろうかな……」
「よせって! お前じゃ相手にもされねぇぞ!」
そんなギルドにたむろしていた冒険者らしき人々の雑談が耳に入るが、いや! むしろお近づきになって欲しいです!
正直、私のレベルは何の変哲もないレベル1なんで! マジで誰でもいいですから助っ人というか仲間が欲しいです! はい!
そんなことを心の中で叫びつつ、私はとりあえず何か受けられそうな依頼がないかカウンターにいる男性に話しかける。
「あ、あのー。依頼を請けたいんですけどー」
私がそう一言を発すると、後ろにいた冒険者一同が「ガタリ」と音を立てて立ち上がり、カウンターの男性までなぜかその場から立ち上がる。
「え、あ、はい! 救世主様がうちのギルドの依頼をお請けになると! わ、分かりました! し、しばしお待ちくださいませ! 現在、うちにある依頼の中で最高難易度のものを選別しますので!」
「いや! そういうのいいんで! あの、最初なのでゴブリン退治とか! そういう誰でも出来そうなのをお願いします!」
余計なことをしようとして立ち上がったカウンターの男性を慌てて引き止める私。
じ、冗談じゃないぞ! まさに見せかけだけのレベル1勇者なのに高難易度のクエストなんて行ったら、速攻死ぬわ!
必死になんとか男性を引き止める私だったが、逆に男性の方が私に対し熱弁をふるい始める。
「いえ! とんでもありません! あの魔王と互角の殴り合いを果たしたという勇者様にゴブリン退治なんてありふれた依頼を与えた日には我がギルド一生の恥です! ここは勇者様に相応しい依頼をこちらで吟味し、お渡ししますので、ぜひもうしばらくお待ちくださいませ!」
そう言ってカウンターにいた男性は私の静止を振り切り、そのまま奥へと向かいギルドメンバーと思わしき人達と会議をしだす。
だ、だから余計なことしないで―――!!!
そんな私の叫びも虚しく、しばしの会議の後、私に渡された初の依頼とは、ここから東にある廃墟に住まう魔王軍侵略部隊の将軍デュラハン討伐というレベル1勇者が請けてはいけない依頼であった。
あれから宿を出て私とイブリスは街の中を気ままに散策していたのだけれど、道行く人達にとにかく注目されて気まずいなんてレベルじゃなかった。
「おい、あれ昨日、オレ達を救ってくださった救世主様だぞ!」
「救世主様ー!」
「おお、救世主様が街に異常がないか散策してくださっているぞー!」
「さすが救世主様! 歩く姿すら我々とは異なり、動作一つ一つに深い積み重ねを感じますぞ!」
歩くたびにそうやって周りの人々から無意味にヨイショされるものだから、とにかく歩きづらい。
ちょっとした動作一つにしてもわざわざ大げさにリアクションされるものだから、歩くのも辛くなってくる……というか、私普段どうやって歩いていたっけ……?
その後、たまたま立ち寄ってお店で料理を注文しようとすると――
「救世主様からお金を取るなんてとんでもない! どうぞどうぞ! 今日は貸切です! なんでも好きなものを注文してください! おい! 上から順に全部もってこい! お代? 勿論、結構ですよ! 救世主様からお代を頂くなんて、そんなこと出来るはずがないでしょう!」
そう言って先程まで結構な数がいたお客さん達が笑顔で店の中からいなくなって、その場には私とイブリスだけが残され、机には注文していない豪勢な食事が端から端まで並んでいた。
私はその料理の数々を見ただけで、色々とお腹がいっぱいになり一口二口食べたあたりでご馳走様と呟いた。
ちなみに、イブリスはテーブルに並べられた料理をご丁寧に最後の一品まで綺麗に完食した。
アンタ、さっき朝ごはん食べたよね……? と思わずツッコミそうになった。
そんなこんなで行くところ行くところで救世主様と崇められて、とにかく居づらいことこの上ない。
ある意味、街中からチヤホヤされた扱いでいい暮らしを送れるのかもしれないけれど、それだけではなく道行く先々で街の人達の隠れた本音が見え隠れしていた。
「いやー、しかし、救世主様がこの街にいれば魔王軍もおいそれと手を出せませんなー」
「そういえば近隣の森にゴブリンが巣食ったとか。ですが救世主様がいればゴブリン如き、恐ろしさのあまり森から出ても来れませんな!」
「馬鹿野郎! 救世主様がわざわざゴブリンなど退治するものか! 救世主様が動くとすればそれはもっと大物! そう、最低でもドラゴンくらいが襲ってこなければな!」
「違いねぇ! わははははははは!」
あはははーと私を囲んで笑う街の人達に対し、私は乾いた笑みを返すしかなかった。
う、うん。分かってはいたけれど、この人達、心の奥底で滅茶苦茶私を頼りにしてる!!
というか勇者の称号を与えてくれた時点で王様もそんな感じだったし。
ひょっとしなくても私のことをこの国を守る守護神みたいに思ってるのかも……。
ま、マズイ。とにかくマズイ。
居心地が悪い上に、外で食事するどころか歩くのすら視線が辛くなってきた。
というか暗に街の人達が早く私に魔王を退治してくれと急かしているようで辛い。
そんなこんなで街で過ごすこと数日。
街の人達はとても親切で良くしてくれる。食事も美味しく、毎日いい宿に泊まり放題。その代わり――
「あれ、救世主様。今日も街の見回りですか? 我々に遠慮せずにいつでも冒険に出ていいのですよ」
「と言ってもこの辺の魔物では救世主様の相手になりませんか。いっそのこと、また魔王軍でも攻めて来ませんかねー」
「お、それいいじゃねぇか! また救世主様が魔王の画面に渾身の拳を食らわすところを見てみたいぞ!」
「がははは! いつでも来やがれ魔王軍ー! むしろ、ウェルカムだぜー!」
マズイ。この雰囲気、マズすぎる。
例えるなら不登校の子供に対し、親が「いつでも学校行っていいのよ。七海ちゃんの好きな時に行っていいからね?」と優しく言いつつも、内心急かされているような感覚だ……!
あるいはニートに対し「いつ就職するの? いつ就活するの? 本気出せばすごいって知ってるんだから、早く本気出してよ」みたいな雰囲気にも通じる。
ぜ、全然落ち着かねぇ……。それどころか、日に日に宿に泊まるのも心苦しくなって来る……!
これはある意味、責めたれられるよりも効果のある精神攻撃で、その数日間、とても気の休まる日が来なかった。
このまま何もせず街の中でダラダラできるほど私の精神は強靭ではなく、街人達の期待に背を押されるように、仕方なく私は何らかの行動を起こすべく、まずはギルドへと顔を出すことにした。
ギルドのある場所は街を歩いているうちに覚えたため、そのまま入口を通ると、その瞬間、ギルドの中にいた人々が一斉に私の方へと注目した。
「おい、あれって噂の救世主じゃねぇか!」
「え、どれどれ!?」
「うひゃー! あんなに可愛い子が魔王に一撃食らわしたのかよー!」
「しかも噂じゃレベルもデータで測れない未知数な勇者らしいぜ。ちょっとオレお近づきになろうかな……」
「よせって! お前じゃ相手にもされねぇぞ!」
そんなギルドにたむろしていた冒険者らしき人々の雑談が耳に入るが、いや! むしろお近づきになって欲しいです!
正直、私のレベルは何の変哲もないレベル1なんで! マジで誰でもいいですから助っ人というか仲間が欲しいです! はい!
そんなことを心の中で叫びつつ、私はとりあえず何か受けられそうな依頼がないかカウンターにいる男性に話しかける。
「あ、あのー。依頼を請けたいんですけどー」
私がそう一言を発すると、後ろにいた冒険者一同が「ガタリ」と音を立てて立ち上がり、カウンターの男性までなぜかその場から立ち上がる。
「え、あ、はい! 救世主様がうちのギルドの依頼をお請けになると! わ、分かりました! し、しばしお待ちくださいませ! 現在、うちにある依頼の中で最高難易度のものを選別しますので!」
「いや! そういうのいいんで! あの、最初なのでゴブリン退治とか! そういう誰でも出来そうなのをお願いします!」
余計なことをしようとして立ち上がったカウンターの男性を慌てて引き止める私。
じ、冗談じゃないぞ! まさに見せかけだけのレベル1勇者なのに高難易度のクエストなんて行ったら、速攻死ぬわ!
必死になんとか男性を引き止める私だったが、逆に男性の方が私に対し熱弁をふるい始める。
「いえ! とんでもありません! あの魔王と互角の殴り合いを果たしたという勇者様にゴブリン退治なんてありふれた依頼を与えた日には我がギルド一生の恥です! ここは勇者様に相応しい依頼をこちらで吟味し、お渡ししますので、ぜひもうしばらくお待ちくださいませ!」
そう言ってカウンターにいた男性は私の静止を振り切り、そのまま奥へと向かいギルドメンバーと思わしき人達と会議をしだす。
だ、だから余計なことしないで―――!!!
そんな私の叫びも虚しく、しばしの会議の後、私に渡された初の依頼とは、ここから東にある廃墟に住まう魔王軍侵略部隊の将軍デュラハン討伐というレベル1勇者が請けてはいけない依頼であった。
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