日本円から始まる異世界造り

雪月花

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第26話 街を比べよう②

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「これは……」

「……すごい」

「ほっほっほっ、また随分と変わった街じゃな」

 セバスが作った街。蒸気街セバトスに入ったオレ達は一目で普通の街とは異なる光景に驚いた。
 まずほとんどの家に煙突やパイプがあり、そこから蒸気のようなものが溢れ、街は文字通り蒸気の街と呼ばれるほど熱を持った煙に覆われていた。
 無論、それだけではなく店先に並んでいる商品も普通とは違う。
 オレのいた地球でも普通に売っていそうな壁に掛けかける時を告げる時計。
 それだけでも十分画期的な発明なのだが、それを小型化した懐中時計などがあり、更には音を鳴らす機械のようなものまで並んでいたので、そのあまりの異様っぷりに驚いたほどだ。

「お、セバス様じゃないですか! そちらの方々は?」

「こちらは私がお仕えしています主様になります」

「ああ! 前にセバス様が言っていた方ですか! それならこちらのコーヒーメーカーとかどうですか? うちの工房で出来た最新の商品でして、これにコーヒー豆を入れてセットすると美味しいコーヒーが作れるんですよ! 勿論、料金はいりません。タダでどうぞ!」

「あ、こ、これはどうも」

 そう言って店の主人からもらったのはかなり古めかしいデザインではあったが、オレが知るコーヒーメーカーに近い作りものであり、確かにこれでならコーヒーを作れそうだった。
 思わぬ街の発展に驚くオレに対し、セバスは嬉しそうに微笑みを浮かべる。

「いかがでしょうか、主様。この街の発展は」

「あ、ああ、正直かなり驚いている。まさかここまで街を発展させるなんて。セバス、一体どうやってこの街を作ったんだ?」

 それは紛れもないオレの正直な気持ちであり、それを聞いたセバスは「お褒めのお言葉、ありがとうございます」と頭を下げる。

「この街の発展についてですが、私はまず手持ちの百円の内、五十円を使用し、この街そのものを作りました」

「ご、五十円も使ったの!? セバス」

 その答えを聞いて驚いた声を上げるケルちゃん。
 だが、それはオレも同じであり、思った以上に大胆な選択をしたセバスに驚く。

「ええ、まず土台となる街そのものにお金を掛けるのは決して悪いことではないでしょう。事実、そのおかげもあって街そのものを含めて住民達の発展能力には驚くべきものがあります。彼らを教えられたことを吸収し、それを取り込み、発展に活かす。土台が優秀でなければ、ここまでの進化は出来ませんでしたよ」

 なるほど。確かにその通りだ。
 農業とかでも、そもそもの土がしっかりしていないと作物はよく育たない。
 セバスは何に神の通貨を消費すべきか、ちゃんとわきまえている。
 さすがというべきだろう。

「けど、それだけでここまで発展するものなんですか……?」

 しかし、そんなセバスの説明を聞いて疑問をあらわにするアメジスト。
 確かにアメジストの言うとおり、いくら地盤がしっかりしていても、それだけでこの街がここまで進化するものだろうか?
 当然の疑問を抱くオレ達であったが、それに対しセバスは「付いてきてください」とオレ達を街の奥へと案内する。

 セバスに連れられた先は一つの工場。
 その扉を開くと、そこでは様々な機械とそれに包まれる蒸気の姿があり、たくさんの人達が働いていたが、その中で周りに指示を出している一人の男性の姿があった。
 セバスは彼を見つけると、傍まで近づき声をかける。

「トーマス。よろしいですか?」

「誰だ? 今オレは忙しい……って、なんだセバスかよ。何の用だ?」

 振り向いたその人物は三十代くらいの男性。
 無精ひげを生やし、いかにも研究者らしい白いコートを身につけている。

「紹介いたします。彼こそがこの街の発展を担う中核、トーマス・エジスン。私が残る五十円で生み出した人物でもあります」

「なっ!」

「えええー!?」

「ご、五十円で一人を作ったのですか!?」

「ほぉ」

 セバスの説明にオレを含むケルちゃん、アメジストはひどく驚き。神様は興味深そうに目を細める。
 ちなみに紹介されたトーマスは怪訝そうな顔でオレ達を見ている。

「おい、セバス。こいつら誰だよ?」

「この方は私を生み出した主様になります。それとその隣にいるのが私と同じ主様に仕えるメイドで、あちらのご老人は神様だそうです」

「ほっほっほっ、よろしく」

「ふーん。まあ、どうでもいいけど、今オレは乗ってる最中なんだ。話はあとで聞くから、とりあえず今は集中させてくれ」

 そう言ってトーマスはすぐさま振り返り、近くにあったボードになにやらペンで色々な数式を書き始める。
 な、なんだか変わった人だな。
 生みの親であるセバスに対しても、尊敬というかそういう感情があまり感じられず、一つの事に集中しているようだ。
 そんな彼の様子をセバスは「やれやれ」と見つめつつ、オレ達に対し謝る。

「もうしわけありません。主様、皆様。あのとおり、彼は自分の研究や製作にしか興味がなく、一日中何かを作ることに集中しているのです」

「ああ、まあ、それは構わないんだけど……あの人がこの街にある技術を作ったってことでいいのか?」

「はい、その通りです。主様」

 オレからの質問に対しセバスは素直に答える。
 街を生み出した後、すぐに残る五十円を使い、その街を発展させるための人物をセバスは生み出したという。

「街を発展させる一番重要なもの。それはすなわち『人』。ですが、ただの人ではいけません。あらゆる人間の上に立ち、その模範となるべきもの。新しい技術、革命をもたらす人物こそ発展に一番繋がるものです。ですので私は五十円を使い世に言う『天才』を生み出しました」

 天才。確かにセバスの宣言通り、あの街にある様々な技術を生み出したのだとしたら、それは天才以外の何者でもない。
 セバスが言うにはトーマスのおかげで『蒸気』なる魔術とは全く異なる熱を生み出す装置を生み出し、それによって街の発展は一気に飛躍したという。
 これは以前オレが使っていた『火魔石』を応用した技術らしく、それによって蒸気機関車なるものも生み出したという。

「現在、彼はその技術をさらに応用し『飛空船』なるものの製造にも入っているそうです」

「飛空船!? それって空を飛ぶ乗り物のことか!?」

「はい。トーマス曰く、あと一ヶ月もあれば、その乗り物を完成させると言っているそうです」

 その発言にはたまらず驚いた。
 まさか、蒸気機関車だけでなく飛行船まで作る技術を生み出しつつあるとは……。
 五十円によって生み出された『天才』と、最先端の技術を取り込む街。
 セバスが作り上げた街はまさにオレ達の想像の遥か上を行く、未知数の街であった。
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