日本円から始まる異世界造り

雪月花

文字の大きさ
28 / 45

第28話 街を比べよう④

しおりを挟む
「ダンジョンを、作ったのですか!?」

「ほお」

 オレの発言にセバスは驚き、神様は何かを思案するように興味深い視線を向ける。

「ああ。セバスの言った通り、このギルドの要はなんと言っても『冒険者ギルド』だ。冒険者が持ち帰った報酬、戦果、戦利品。そうした成果を得た他のギルドはそれを活かし、次なる成果のために循環していく。だから、冒険者ギルドが一番活躍できる場、『ダンジョン』を百円の内、七十円を使って製作した」

「七十円を使ったダンジョンですか!?」

 オレの宣言に驚くセバス。
 それも当然であり、街や住民、あるいはその施設に使用するのではなく、街の外に七割の通貨を使用したのだ。
 街を発展させるという発想からはむしろ真逆の行為だろう。しかし、

「まあ、口で説明するよりも見せたほうが早いか。ついて来てくれ」

 そう言ってオレはセバス達を連れて、ギルド館を出て街から離れていく。

◇  ◇  ◇

「これがオレの作ったダンジョンだ」

「これが……」

 そこは巨大な崖に出来た小さな穴。
 この穴の向こう側に広がるのがオレが作ったダンジョンである。

「名前は『試練の迷宮』。まあ、名前は適当だけど」

 そう言って笑うオレであったが、とりあえずは中を紹介するべくオレはそのままセバス達を連れて穴の中に入る。

「これは……中は意外に広いのですね。それにしっかりとした作りで明かりもあるとは」

 中に入るとそこは意外にも通路がしっかりと作られた迷宮であり、壁には等間隔で明かりもある。
 まあ、一応人が探索しやすいようにイメージして作ったので、そのあたりはしっかりしているつもりだ。
 しばらく歩くと道が交差しており、オレは適当に右に曲がり、その先の角に当たる。
 が、そこには目的のものがキチンと置いてあった。

「宝箱……」

 そう、そこにはダンジョンには必ずお墨付きの宝箱があった。
 オレはケルちゃんに頼んで宝箱を調べてもらい、中のものを取り出してもらう。

「ご主人様。中にあったのはポーションです」

「そっか。まあ、一階層だし、そんなものか」

 オレはケルちゃんから受け取ったポーションをそのままセバスに渡す。
 それを見たセバスは驚いたように声を上げる。

「これは……マジックアイテムですか。飲むと傷を癒し体力を回復させる。驚きましたね。これを作るには通常は魔術師が様々な材料を揃えて、一週間で作る代物のはず。事実、私の街でもポーションをいくつか作るのに成功しましたが、そのようなものがここに普通に落ちてるとは……」

「それがダンジョンの醍醐味だろう」

 驚くセバスにオレは笑いかける。
 そう、これこそオレが作りたかったもの。
 ただギルドを作っただけでは内輪だけの製作になってします。それはギルド館にいる様々なギルドにしても、互いの技術を共有し合ったとして限界がある。
 ならば、外からの刺激。むしろ、外から手に入るものを受け取り、それに刺激を受けて、新たなものを生み出す。
 それにはまさにダンジョンがうってつけ。

「ちなみにダンジョン内の宝箱はしばらくするとまた自動的にどこかに現れる。内容もその時によってランダムに生成される。勿論、階層が深いほどレアなアイテムが生成される」

「……なるほど」

 オレの説明にセバスも納得したように頷く。
 どうやら、セバスもオレの狙いに気づいたようだ。
 こうしたマジックアイテムやレアなアイテムがダンジョンでは取り放題。しかも、一度取ったとしても、再び新しい宝箱が生成されるために挑戦は一度だけに終わらない。
 何度でも楽しめるよう、かつ新たなアイテム。刺激となる戦利品を冒険者達は持ち帰り放題。
 そして、そうした冒険者達が持ち帰った貴重品、マジックアイテムなどを他のギルドが共有し、解析し、それをヒントに新たな物を生み出したり、それをさらに強化したりする。
 無論、ダンジョンの醍醐味はそれだけではない。

「! ご主人様。出ました!」

 ケルちゃんの声に反応し、来た道を振り返るとそこにはプヨプヨと動くボールのような生き物がいた。

「プルプルー!」

 サッカーボールほどはあるそいつらは意思を持っているのか、奇妙な声を発するとオレ達と距離を取り、近くにいたケルちゃんに飛びかかる。
 が、ケルちゃんは瞬時にそのボールの攻撃を避けると、そのまま体をひねってボールに蹴りをお見舞いする。

「はあッ!」

 ケルちゃんの渾身の蹴りを受けボールはそのまま壁に激突し、哀れ四散。
 それを見て他のボール達も戦意を喪失したのか「プルルー!」と奇妙な声を上げて逃げていく。

「ふぅ……」

「主様、今のは……?」

「ああ、見ての通り、魔物だな」

 そう、ダンジョンと言えば魔物。
 ただ宝を取るためだけの場所であるなら、わざわざ冒険者の必要はない。
 そこには宝を守るための障害物、魔物が潜んでいて当然。
 むしろ、こうした魔物達を倒しながら、奥深くを目指すのがダンジョンの醍醐味である。
 とは言え、オレもあまり危険になりすぎないよう注意を払い、このダンジョンを製作している。

「魔物についてはダンジョンを作る際に特に気をつけた。勿論、第一階層の魔物はそれほど強くなく、一般人でも対処できるやつが多い。それに魔物の多くはダンジョンに入ってきた人間を殺さないように指令を与えている。あくまでも気絶程度。で、戦闘不能となった人物はその瞬間、ダンジョンの入口まで転移するっていう仕掛け付きだ」

「なるほど。それは考えましたね」

 そう、これならば比較的安全に冒険者達もダンジョンの攻略に挑める。
 とは言え、あまりヌルゲーになりすぎないよう。ダンジョン内で気絶、戦闘不能となった場合、それまでダンジョンで手に入れたアイテムは自動的にロストする仕掛けも入れておいた。
 ここらへんの機能が結構厄介だったために、製作には七十円必要だった。
 まあ、ほかにも魔物や宝箱が一定時間経ったら自動的に復活するシステムなども入っているため、通貨相応の施設とも言える。

「それから魔物もただの障害物じゃなく、それ自体にも価値がある」

 そう言ってオレは先ほどケルちゃんが倒したスライムに近づくと、そこには死体の代わりにビンに入った緑の液体があった。

「あったあった。こいつは『スライムの液体』。まあ、見ての通りの代物でこれ自体だと何の価値もないただのゼリーなんだけど、実はこいつはマジックアイテムの材料に使えて、魔術ギルドや生産ギルドにとっては立派な資源なんだ」

「なるほど、そういうことですか」

 オレの説明にセバスも納得したのか大きく頷く。
 そう、このダンジョンはそれ自体が天然の資源山であり、宝の山である。
 冒険者達がこのダンジョンを攻略し、そこから得られた成果、報酬は全てギルド館へと還元され、そこから全ギルドが新たな物を生み出す。
 街、人、ギルド、ダンジョン。この四つ全てが噛み合い、結果オレの街は新しい発展を遂げた。
 オレがセバス達にそう説明し終えると、ダンジョンの奥から数人の人影が現れる。

「おや、誰かと思ったら領主様じゃないですか」

「お! クラトス!」

 そこに現れたのはオレが生み出した冒険者ギルドの中でも精鋭とされる“暁の剣”のクラトス達であった。
 彼らはオレ達と共にいるセバス、ガーネット、神様達を見ると、珍しそうな顔をする。

「あれ、そちらの方達は新しい冒険者ですか?」

「いや、彼らはオレの執事とメイド。一人違う人もいるけれど、オレの知り合いだ」

「ほっほっほっ、そういうことじゃ」

「なるほど。なんにしてもちょうど良かったですよ。今回の成果、よければ見てください」

 そう言ってクラトスが開けた袋の中にはたくさんの金銀財宝は勿論、見たことのないマジックアイテムや魔物の素材がたくさん詰まっていた。

「おお、これすごい角だな。何の魔物のやつだ?」

「ミノタウロスですよ。あいつから採れる角はどんな武器や防具に加工しても一級品のマジックアイテムになりますよ」

「それからこっちはゴーレムを生み出す杖です。といっても一メートルほどの土くれを生み出すだけですけど、こいつは魔術ギルドの連中に渡せば、一ヶ月後にはすごい杖になってますよ」

「確かに。こりゃ楽しみだ」

 クラトス達が持ち帰った成果を一通り見た後、オレ達は彼らと別れ、このダンジョンから脱出するのであった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

処理中です...