日本円から始まる異世界造り

雪月花

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第33話 ダンジョンの共有

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「トオル様、本当ですか!?」

 オレのセリフに真っ先に顔を上げたのはカテリーナさんで、その顔は喜びと驚きに満ち溢れていた。

「ええ、別に独占する理由もないですし、皆さんのお役に立てるならそれが何よりですから」

 よければ今から案内しましょうか? というオレのセリフにカテリーナさん含む一行は「ぜひお願いします!」と目を輝かせた。

◇  ◇  ◇

「ここがオレ達の保有するダンジョンになります」

「これが……」

 そこにあるのは巨大な崖にできた小さな穴。
 いわゆる洞窟型に位置する比較的オーソドックスなダンジョン。
 カテリーナさん達は早速、物珍しげにダンジョンの周囲を調べ、何人かの騎士達が中に入っていき、しばらくすると慌てた様子で戻ってくる。

「姫様! ここは間違いなくダンジョンのようです! しかも一階層でありながら宝の中にはマジックアイテムなどが入っていました! これはランクB、いえ下手したらAに相当するダンジョンかもしれません!」

「まあ! なんと!」

 騎士達の調べに驚きの声を上げるカテリーナさん。
 そのまま彼女は慌てた様子でオレの元へ駆け寄る。

「と、トオル様。今現在、このダンジョンは何階層まで攻略が住んでいるのですか!?」

「ええと、一番進んでいるのが“暁の剣”っていう冒険者ギルドで、クラトスっていう人がリーダーです。その人達が今五階層を攻略中で……」

「れ、レベルは? 失礼ながらその方達のレベルはいくつですか!?」

「レベル、ですか? 確か……31くらいだったかと」

 あれ、32だったかな? ちょっとうろおぼえだが確かそのくらいだった気がする。
 オレがそう答えると同時にカテリーナさんが驚いたような顔を向ける。

「さ、三十一!?」

 え、何か問題でも? もしかして低い、ですか?
 とそんな心配をして聞き返すと、慌てた様子でカテリーナさんが否定する。

「と、とんでもありません! レベル三十と言えば英雄クラスですよ! 我が王国でも三十を超えるものは十人にも満ちません! それが少し前までこの場所に何もなかった街のギルドに三十越えの冒険者がいるなんて……やはりトオル様。あなた様はどこかの大国より遣いなのですか!?」

 いやー、そんなことはないんですが。
 というか、それを言うとオレと一緒にいる執事のセバスやメイド達も全員軽くレベル三十を超えていますし、ケルちゃんに至っては百越えしてるんですが……さすがにこれは黙っておいた方が良さそうだ。

「あれ? 領主様じゃないですか。珍しいですね。ダンジョンに何かご用なんですか?」

「お、クラトス」

 と、そんなことをしていると向こうから噂のクラトス率いる“暁の剣”が近づく。
 オレがクラトスの名を呼ぶとカテリーナさんは慌ててそちらの方を振り向き、クラトス達が装備している武具を見て、一瞬表情が固まる。

「なっ……!」

 どうしたのだろうかとカテリーナさんに聞くと彼女は信じられないと言った様子で答える。

「か、彼らが着ている武器防具、す、全て魔法の加護が宿ったものではないですか!?」

 ん? 言われてみれば確かに。
 クラトス率いる“暁の剣”のメンバーは六人。
 その全員が何らかのマジックアイテムによる武器防具を装備している。
 これらは全てダンジョンで手に入れたものもあれば、持ち帰った素材を各ギルドが改良し、魔法武具として売り出したものもある。
 だが、クラトスの場合はそれとは別に入手したものもある。

「ああ、これですか? 実は先日、四階層にいたボスを倒した際、ドロップしたんですよ。どうもそれがレアドロップだったらしく、他のメンバーはまだ誰も持ってないんですよ」

 そう言ってクラトスは腰に携えた剣を抜く。
 そこからは炎の魔力が宿っているのか鞘から抜くと刀身に淡い炎が宿った。

「ぼ、ボス!? 四階層にですか!?」

「ああ? 何か変か?」

「へ、変も何も! 通常、ダンジョンにボスは中間地点と最終階層にしかいないはずですよ!? まさかトオル様、このダンジョンには各階層にレアアイテムをドロップするボスがいるのですか!?」

「え、ああ、まあ、とはいえ、そいつらは別に倒さなくてもいい隠しボスみたいなものだから」

 慌てるカテリーナさんにオレが補足するように説明する。
 クラトスの言う通り、オレが作ったダンジョンには各階層にボスとなる魔物を配置していた。
 とはいえ、ボスを倒さないと先に進めないのでは一部の冒険者が詰まるかもしれないと思い、倒さなくても進めるように設計し、各階層のボスはいわゆる見つけて倒せたらレアなアイテムをドロップするという隠しボス的なものにした。

「す、すごい……。このような品質の高いダンジョンがこの無平原にあったとは……一生の不覚です」

 そう言って悔やむように唇を噛むカテリーナさんだが、うん、このダンジョンはオレが作ったものなので、多分カテリーナさん達が探しても見つからなかったので気にしないでください。

「トオル様、本当にこのダンジョンを我々が使用してもいいのですか!?」

「構いませんよ。さっきも言った通り、別に制限するものでもないですし。なあ、クラトス。この人達もダンジョンを使ってもいいよな?」

 オレはすぐ傍にいるクラトスにダンジョンの使用許可について尋ねる。
 するとクラトス達は笑いながら答えた。

「いいに決まってるでしょう、領主様。オレ達も別に独占したいなんて微塵も思ってませんよ。領主様がその人達に使わせたいのなら大歓迎です。むしろ、これからオレ達、ダンジョンに入りますけど、よかったらサポートや案内しましょうか?」

「ほ、本当か!? た、助かる!!」

 クラトスの誘いにカテリーナさんの傍にいた騎士達が明るい表情をして食らいつく、彼らはそのままカテリーナさんの許可を取るとクラトス達の後をついてダンジョンの中に潜っていく。
 あとにはカテリーナさんとその護衛であるケインが残った。

「トオル様……本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのか……」

「いやいや、気にしないでください」

 畏まる二人に対し、オレが気にしないでくれと頼むものの二人は「ですが……」と申し訳なさそうな顔をする。

「それよりも一つ相談があるんですけどいいでしょうか?」

「は、はい、なんでしょうか」

 オレからの相談に対し、僅かに身を構えるカテリーナさん。
 おそらくはダンジョン使用許可による何らかの代価の要求を覚悟したのだろうが、オレが口にした内容はそれとは真逆であった。

「先ほど言っていた帝国に盗られたダンジョンについてなのですが、詳しく話してもらえませんか?」

「え?」

 どういうことだろうかと戸惑うカテリーナさんにオレは告げる。

「そのダンジョン。オレ達の手で取り戻したいと思います」
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