あやかしが漫画家を目指すのはおかしいですか?

雪月花

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23 憧れたあの人は三流漫画家

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「のお、佳祐よ。今日は一体なんの用でこの編集部とやらに来ているのじゃ?」

「さあ、それがオレもよく分からなくて。担当の美和さんが急に来てくれって言ってきたんだ」

 翌日。佳祐は急な担当からの呼び出しに刑部姫を連れて『月刊アルファ』の本社ビルにある編集部へと来ていた。
 編集部スペースにはたくさんの机が並べてあり、中には打ち合わせ中の担当と作家らしき人物の姿もあり、それ以外にも編集部内を慌ただしく仕事している人間達の姿が多数あった。
 佳祐にとっては時折見る光景であるが、刑部姫にとってはやはり珍しい光景らしく、他の作家の原稿を手にあちらこちら走り回る編集の姿は特に物珍しい様子であった。

「やあ、お待たせ」

 そんな風に編集部の仕事を遠巻きに観察していた佳祐のもとに美和がやってくる。

「美和さん。今日は一体何の用なんですか?」

「いやー、それが用があるのは私じゃなく別の人でねー」

「? どういうことですか?」

 美和の奇妙な言い回しに小首を傾げる佳祐であったが、美和はそんな佳祐に対し「まあ、会えば分かるよ」とはぐらかしながら案内を始める。
 そこは編集と作家が打ち合わせに使う小部屋の一つであり、その扉を美和がノックした後、中を開けるとそこには意外な人物がいた。

「あ、ど、どうも! き、昨日ぶりです!」

「あれ、君は確か……」

 そこにいたのは先日、佳祐がマンションの前で女性。
 あやかしにして月刊アルファの期待の新人漫画家・白縫雪芽であった。
 なぜ彼女がここにと疑問に思う佳祐であったが、それに答えたのは彼の担当の美和であった。

「実は彼女からどうしても君に会いたいとせがまれてね」

「え、オレにですか?」

 美和のセリフに思わず驚く佳祐であったが、雪芽はそんな佳祐に対し首をブンブン縦に振って近づく。

「あ、あの、昨日私、ある漫画家さんに憧れて漫画家になったって言いましたよね」

「え、ええ」

「そ、それが……あ、あなたなんです! 田村佳祐さん!」

「え!?」

 思わぬ雪芽からの告白に驚く佳祐。
 一方の刑部姫はなにやらよくわからないと言った顔で二人の顔を眺めている。

「おい、佳祐。こやつはなんなんじゃ? お主の知り合いか?」

「あー、そのこの人はオレ達と同じマンションに住んでいる白縫雪芽さん。昨日部屋に戻る時に偶然会ったんだ。で、実は月刊アルファのあの新連載を描いた漫画家で……」

「なにー!? あのスノーアイドルフェアリーの作者か!?」

 刑部姫がそう叫ぶと雪芽はなにやら恥ずかしそうにマフラーで口元を覆いながら頷く。

「これはたまげたのぉ……。まさかあの漫画の作者がわらわと同じあや――むぐぅ!」

「あー、それで雪芽さんはオレに一体何の用なの?」

 危うく雪芽の正体を喋りそうになった刑部姫を佳祐が慌てて止め、話題を逸らす。
 すると雪芽はなにやら真剣な様子で佳祐に迫る。

「はい……実はその、佳祐さんにお願いがあるんです……」

「お願い?」

 問いかける佳祐であったがなぜだか雪芽はモジモジとした態度を取り、そのあとに意を決したように告げる。

「その、私と……私と組んで一緒に漫画を描いて欲しいんです!!」

「へ?」

 それはあまりに予想外な一言であり、雪芽のお願いに対し、息を呑み固まる佳祐。
 だが、すぐさまそれに反応する者がいた。

「だめじゃーーー!! だめじゃだめじゃだめじゃだめじゃあああああああああ!!!」

 それは他ならない刑部姫であり、雪芽が佳祐に対し「一緒に漫画を描いて欲しい」と宣言するや否やすごい勢いでそれに待ったをかける。
 あまりの大声に傍にいた佳祐と美和は思わず耳を塞ぐ。
 一方の雪芽はキョトンとした表情のまま刑部姫に問いかける。

「えっ……ど、どうしてだめなんですか?」

「だめに決まっているじゃろう! 佳祐はこう見えてわらわと一緒に漫画を描くと約束しているんじゃ!」

「え、ええええええええ!?」

 と刑部姫のその発言に今度は雪芽が耳をふさぐほどの大声を上げる。

「ほ、本当なんですか!? け、佳祐さん!?」

「あ、ああ、まあそういうことなんだ」

 すぐに目の前にいる佳祐に確認を取り、それが事実だと分かるやいなや雪芽は全身でガッカリしたようにうなだれる。

「すまない、雪芽さん。オレは今こいつと一緒に連載用の漫画を描いているんだ。実はつい先日も二人で描いた原稿をこちらにいる担当の美和さんに渡したんだけど、それは君の新作漫画『スノーアイドルフェアリー』に負けて落とされたんだ」

「えっ!? そ、そうだったんですか!? そ、それじゃあ、私が佳祐さんの新連載の邪魔を……ご、ごめんなさいー!!」

 佳祐から事情を聞くと、すぐさま頭を下げて謝罪する雪芽だが、そんな彼女を諌めるように佳祐は声をかける。

「いやいや、君は悪くないよ。むしろあれは君が実力で勝ち取った連載なんだから、むしろ誇るべきだよ」

「で、でも……」

「そのとおりじゃ。わらわも佳祐もお主の漫画に負けて連載を逃したのは悔しいが、それでもお主の漫画は面白かった。事実あれにわらわも佳祐も感銘を受けた。故に次に連載を狙う漫画は前の比ではない。今お主が連載している『スノーアイドルフェアリー』にも負けぬ作品してくれよう!」

 刑部姫のその宣言に雪芽は一瞬驚いたような顔をするがすぐさま安堵するような息を吐き、頷く。

「……分かりました。それじゃあ、私と組むというのは佳祐さんにはできませんね……」

「まあ、そういうことだな。今はこの刑部姫と一緒に漫画を描いているから」

「うむ。そういうこじゃ!」

 佳祐の呼びかけに胸を張る刑部姫。そんな刑部姫を雪芽はどこか羨ましそうに見るのだった。
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