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26 ぬらりひょん
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「それにしても編集部とやらが一体わらわに何の用があるのやら」
あれから、ぶつくさと文句を言いながらも刑部姫は月刊アルファの編集部があるビルへとたどり着く。
途中、何度か道に迷いもしたが、以前佳祐と共に歩いた道のりを思い出し、ようやく到着したのである。
ビルの中に入ると受付にいる人物に「月刊アルファの編集部に呼ばれた刑部姫じゃが」と伝えると、すぐさま担当へ連絡が行き、刑部姫の元に担当の美和が走ってくる。
「やーやー! 姫ちゃん、ようこそー! いやー、今日も可愛いねー! というかこの前といい、その格好でここまで来たのー!? うーん、巫女服似合うけれど姫ちゃん可愛いから周りの視線とか大変だったでしょうー!」
「ええい! 離せー! お主に抱きつかれている現状の方が周りの視線があるわー!」
叫ぶ刑部姫の言うとおり、彼女に抱きつく美和と刑部姫の姿にビルの内部にいた人間は釘付けとなり、それに気付いた美和が慌てた離れて、咳払いを一つすると改めて編集部へと案内をする。
「それでわらわに話とは一体なんじゃ。話ならば佳祐も一緒にいたほうが――」
「いや、話があるのは私じゃないんだ」
「は? では一体誰がわらわに話を?」
思わぬ美和のその一言に刑部姫は眉を潜ませる。
だが、美和はそれに答えることなく、刑部姫をある扉の前まで案内すると、その扉をノックする。
「道山先生。連れてきました」
「そうか。通せ」
美和が告げると扉の向こうから、そのようなくぐもった声が聞こえる。
それを聞いた美和が一瞬、体を緊張させたのを刑部姫は見逃さなかった。
「いやー、ごめんね。姫ちゃん……。君に用があるのはこの先にいるとある先生なんだ。彼がどうしても君に会いたいって言ってね……」
「ほぉ、そうなのか」
「いやぁ、ほんとごめんね……。私も仕事だから会わせないわけにはいかなくてさ……。けど、話して姫ちゃんが嫌だったら断ってもいいからね……」
そう言って、なにやら申し訳なさそうに謝罪する美和に対し、刑部姫は鼻を鳴らし答える。
「無論、そうするつもりじゃ。わらわはわらわの好きなようにするだけじゃ。今までもこれからもな」
そう美和に告げると刑部姫は扉を開けて、中に入る。
自分をこのような場所まで呼び出すとはどうのような奴かと、その顔を覗こうと思った刑部姫だが、扉の向こうにいた人物を見た瞬間、刑部姫は思わず息を呑む。
「ほお、これは驚いたのぉ。名前を聞いた時はもしやと思ったがやはりお主であったか。刑部よ」
「!? お、お主は……!」
そこにいたのはおよそ八十代の老人。
枯れ木のような体に異様に膨れた頭。長い年月によって刻まれたシワはまるで樹木のような独特な特徴となり男の顔に刻まれている。
ぱっと見はなにやら不気味な印象を受ける老人だが、刑部姫は目の前の老人に見覚えがあった。
「久しぶりじゃな。こうして会うのは二百年ぶりか?」
「ぬらりひょん……」
ぬらりひょん。そう呼ばれた老人はその顔に笑みを浮かべ、刑部姫を迎える。
「くっふっふっふ、懐かしい名じゃな。今は道山(どうさん)明光(あけみつ)と呼ばれておる。お主も今後は儂のことは道山と呼ぶがよい」
「……わ、分かった」
道山と名乗ったあやかしに対し、刑部姫は緊張の色を隠せず、彼に促されるまま対面の椅子へと座る。
「それでわらわに用とはなんじゃ。道山」
「うむ。それにはまず確認したいことがある」
そう言って道山は机に置いてあったある封筒を取り出し、その中から原稿を取り出す。
「これを描いたのはお主で間違いないか? 刑部姫よ」
「それは……」
その原稿は以前、佳祐と共に刑部姫が連載を目指して描いた原稿であった。
結果は残念ながら期待の新人・白縫雪芽に敗れ、連載とならなかった。しかし、なぜその原稿を道山が持っているのか。
いや、ここが編集部であり、彼がその関係者であれば持っていても不思議ではない。と刑部姫は思う。
問題はそこではない。なぜ彼がその原稿に目をつけたかだ。
「確かにそれはわらわが描いたが、それがどうしたのじゃ?」
「くっふっふっふ、やはりそうか。いや、重畳重畳」
刑部姫の答えに満悦の笑みで頷く道山。
その奇妙な笑いに刑部姫が眉をひそめると道山はすぐさま要件を切り出した。
「実はの、刑部姫よ。今この『月刊アルファ』にて儂が書いている小説『戦国千国』をコミカライズ……いわゆる漫画にしないかと話を持ちかけられておるのじゃ」
「『戦国千国』……小説……? それはなんじゃ?」
「なんだ、漫画は知っておるのに小説は知らんのか? ほれ、これが小説じゃ」
そう言って道山は机の隅に置かれた本を刑部姫に投げる。
そのタイトルには『戦国千国』と書かれており、受け取った本をめくると刑部姫の表情が一瞬曇る。
「……文字しかない本じゃな」
「当然じゃ。それが小説なんじゃ。いいから、読んでみよ」
刑部姫の愚痴にそう返す道山であり、刑部姫は仕方ないと言った様子で最初の数ページを読み出す。
が、気づくと刑部姫の表情が変化し、最初は仕方なくめくっていたはずの指がドンドン次のページを読むべく動き出す。
文字だけの本であり、そこには一切のイラストも絵もない。
漫画のように一目みただけで、どのような話でどのような動き、どういった展開が繰り広げられているのかは分からない。
文字だけで全ての話、キャラ、その場における展開などを書いているため、その状況は読み手の想像にしか浮かばない。
にも関わらず面白い。
刑部姫の脳内は目の前の文字だけの本の向こう側に本物の戦場、本物の戦国時代を見ているかのような錯覚すら覚えさせた。
「どうじゃ、それが儂の小説じゃ。面白いじゃろう」
気づくと夢中になって読んでいた自分がいて、道山からそう声をかけられるまで刑部姫の意識は完全に本の中にあった。
意識が現実に戻ると、刑部姫は慌てた様子で読んでいた本を机に置く。
「ま、まあまあじゃな。しかしわらわはどちらかと言えば漫画の方が好きじゃ」
「そうか。まあ、それも当然よな。文字だけではなく絵もあった方が読み手には伝わりやすい。いやはや、この漫画という文化を生み出した人間は天才じゃとあやかしの儂ですら認めるよ」
そう言って彼を知る刑部姫からすればぬらりひょんが人間を褒めるなど珍しいと心の中で驚く。
だが、彼女の驚きはそれだけにとどまらず、次なるぬらりひょん――道山のセリフに思わず固まる。
「それでどうじゃ、刑部姫よ。儂のこの小説、お主が漫画として描く気はないか?」
「え?」
それは予想だにしない刑部姫に舞い降りたデビューへの招待状であった。
あれから、ぶつくさと文句を言いながらも刑部姫は月刊アルファの編集部があるビルへとたどり着く。
途中、何度か道に迷いもしたが、以前佳祐と共に歩いた道のりを思い出し、ようやく到着したのである。
ビルの中に入ると受付にいる人物に「月刊アルファの編集部に呼ばれた刑部姫じゃが」と伝えると、すぐさま担当へ連絡が行き、刑部姫の元に担当の美和が走ってくる。
「やーやー! 姫ちゃん、ようこそー! いやー、今日も可愛いねー! というかこの前といい、その格好でここまで来たのー!? うーん、巫女服似合うけれど姫ちゃん可愛いから周りの視線とか大変だったでしょうー!」
「ええい! 離せー! お主に抱きつかれている現状の方が周りの視線があるわー!」
叫ぶ刑部姫の言うとおり、彼女に抱きつく美和と刑部姫の姿にビルの内部にいた人間は釘付けとなり、それに気付いた美和が慌てた離れて、咳払いを一つすると改めて編集部へと案内をする。
「それでわらわに話とは一体なんじゃ。話ならば佳祐も一緒にいたほうが――」
「いや、話があるのは私じゃないんだ」
「は? では一体誰がわらわに話を?」
思わぬ美和のその一言に刑部姫は眉を潜ませる。
だが、美和はそれに答えることなく、刑部姫をある扉の前まで案内すると、その扉をノックする。
「道山先生。連れてきました」
「そうか。通せ」
美和が告げると扉の向こうから、そのようなくぐもった声が聞こえる。
それを聞いた美和が一瞬、体を緊張させたのを刑部姫は見逃さなかった。
「いやー、ごめんね。姫ちゃん……。君に用があるのはこの先にいるとある先生なんだ。彼がどうしても君に会いたいって言ってね……」
「ほぉ、そうなのか」
「いやぁ、ほんとごめんね……。私も仕事だから会わせないわけにはいかなくてさ……。けど、話して姫ちゃんが嫌だったら断ってもいいからね……」
そう言って、なにやら申し訳なさそうに謝罪する美和に対し、刑部姫は鼻を鳴らし答える。
「無論、そうするつもりじゃ。わらわはわらわの好きなようにするだけじゃ。今までもこれからもな」
そう美和に告げると刑部姫は扉を開けて、中に入る。
自分をこのような場所まで呼び出すとはどうのような奴かと、その顔を覗こうと思った刑部姫だが、扉の向こうにいた人物を見た瞬間、刑部姫は思わず息を呑む。
「ほお、これは驚いたのぉ。名前を聞いた時はもしやと思ったがやはりお主であったか。刑部よ」
「!? お、お主は……!」
そこにいたのはおよそ八十代の老人。
枯れ木のような体に異様に膨れた頭。長い年月によって刻まれたシワはまるで樹木のような独特な特徴となり男の顔に刻まれている。
ぱっと見はなにやら不気味な印象を受ける老人だが、刑部姫は目の前の老人に見覚えがあった。
「久しぶりじゃな。こうして会うのは二百年ぶりか?」
「ぬらりひょん……」
ぬらりひょん。そう呼ばれた老人はその顔に笑みを浮かべ、刑部姫を迎える。
「くっふっふっふ、懐かしい名じゃな。今は道山(どうさん)明光(あけみつ)と呼ばれておる。お主も今後は儂のことは道山と呼ぶがよい」
「……わ、分かった」
道山と名乗ったあやかしに対し、刑部姫は緊張の色を隠せず、彼に促されるまま対面の椅子へと座る。
「それでわらわに用とはなんじゃ。道山」
「うむ。それにはまず確認したいことがある」
そう言って道山は机に置いてあったある封筒を取り出し、その中から原稿を取り出す。
「これを描いたのはお主で間違いないか? 刑部姫よ」
「それは……」
その原稿は以前、佳祐と共に刑部姫が連載を目指して描いた原稿であった。
結果は残念ながら期待の新人・白縫雪芽に敗れ、連載とならなかった。しかし、なぜその原稿を道山が持っているのか。
いや、ここが編集部であり、彼がその関係者であれば持っていても不思議ではない。と刑部姫は思う。
問題はそこではない。なぜ彼がその原稿に目をつけたかだ。
「確かにそれはわらわが描いたが、それがどうしたのじゃ?」
「くっふっふっふ、やはりそうか。いや、重畳重畳」
刑部姫の答えに満悦の笑みで頷く道山。
その奇妙な笑いに刑部姫が眉をひそめると道山はすぐさま要件を切り出した。
「実はの、刑部姫よ。今この『月刊アルファ』にて儂が書いている小説『戦国千国』をコミカライズ……いわゆる漫画にしないかと話を持ちかけられておるのじゃ」
「『戦国千国』……小説……? それはなんじゃ?」
「なんだ、漫画は知っておるのに小説は知らんのか? ほれ、これが小説じゃ」
そう言って道山は机の隅に置かれた本を刑部姫に投げる。
そのタイトルには『戦国千国』と書かれており、受け取った本をめくると刑部姫の表情が一瞬曇る。
「……文字しかない本じゃな」
「当然じゃ。それが小説なんじゃ。いいから、読んでみよ」
刑部姫の愚痴にそう返す道山であり、刑部姫は仕方ないと言った様子で最初の数ページを読み出す。
が、気づくと刑部姫の表情が変化し、最初は仕方なくめくっていたはずの指がドンドン次のページを読むべく動き出す。
文字だけの本であり、そこには一切のイラストも絵もない。
漫画のように一目みただけで、どのような話でどのような動き、どういった展開が繰り広げられているのかは分からない。
文字だけで全ての話、キャラ、その場における展開などを書いているため、その状況は読み手の想像にしか浮かばない。
にも関わらず面白い。
刑部姫の脳内は目の前の文字だけの本の向こう側に本物の戦場、本物の戦国時代を見ているかのような錯覚すら覚えさせた。
「どうじゃ、それが儂の小説じゃ。面白いじゃろう」
気づくと夢中になって読んでいた自分がいて、道山からそう声をかけられるまで刑部姫の意識は完全に本の中にあった。
意識が現実に戻ると、刑部姫は慌てた様子で読んでいた本を机に置く。
「ま、まあまあじゃな。しかしわらわはどちらかと言えば漫画の方が好きじゃ」
「そうか。まあ、それも当然よな。文字だけではなく絵もあった方が読み手には伝わりやすい。いやはや、この漫画という文化を生み出した人間は天才じゃとあやかしの儂ですら認めるよ」
そう言って彼を知る刑部姫からすればぬらりひょんが人間を褒めるなど珍しいと心の中で驚く。
だが、彼女の驚きはそれだけにとどまらず、次なるぬらりひょん――道山のセリフに思わず固まる。
「それでどうじゃ、刑部姫よ。儂のこの小説、お主が漫画として描く気はないか?」
「え?」
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