あやかしが漫画家を目指すのはおかしいですか?

雪月花

文字の大きさ
25 / 46

25 担当からの誘い

しおりを挟む
「それにしても、まさかあの『スノーアイドルフェアリー』の作者がわらわと同じあやかしで、しかもこのマンションに住んでおり、お主のファンじゃったとはなぁ……」

「ああ、世界は狭いよなぁ」

 後日。編集部にて雪芽と会ったことを思い出した二人が何気なくそのような会話をしていた。
 無論、現在もまだ新連載に向けて佳祐はストーリーを練り、刑部姫は画力を磨いていた。
 ここ最近の二人は完全にそうしたお互いの作業を分担し、それらを磨く日々を続けている。

「しかし、白縫雪芽か。確かにその名を聞いたときに気づくべきじゃった。白縫と言えば雪女一族に伝わる苗字でもあった。わらわも前にどこかでその名を聞いたことがあると思っておったが……」

「へえ、やっぱりあやかし同士、そういうのって耳にするんだ」

「まあ、そうじゃな。しかし、まさかわらわの他にも漫画家を目指そうとしたあやかしがおったとは予想外じゃった。とはいえあやつの見る目がいいのは確かじゃ。なにせわらわもお主の漫画を見た瞬間からお主の漫画に惚れていた。あれはいわば一目惚れ。お主の作品にはそれだけの魅力がある」

「一目惚れって、刑部姫もすごいこと言うな」

 笑いながらそう答える佳祐であったが、それを聞いた刑部姫は瞬時に耳まで真っ赤になりすぐさま否定をする。

「ち、違うぞ! お主に一目惚れしたわけではないぞ! あくまでもお主が描く作品に惚れただけじゃ! か、勘違いするでないわ!」

「あ、ああ、そりゃ勿論わかってるよ」

 むしろ、そんなに否定しなくてもいいのにと。心の中で佳祐は思う。
 そんなことを思っている内にふと刑部姫がなにやら気になったのか佳祐に尋ねる。

「……のう、佳祐よ。あの時の雪芽からの誘いじゃが、あれはすでにわらわというパートナーがいたから断ったみたいじゃが。もしもわらわと会う前ならば、あやつと組んでいたのか?」

「え?」

 突然のその宣言に驚く佳祐。
 だが、刑部姫の表情は真剣であり、佳祐は少し考えてから答えた。

「……どうだろうか。その時になってみないと分からないけれど、今のオレの状態で連載を抱えてなくてうまくいってなかったら……雪芽からの誘いにも乗っていたかもな……」

「そうか」

 その答えに頷く刑部姫。
 佳祐は嘘でも誤魔化すべきだったかと悩むが、それを吹き飛ばすように刑部姫が笑う。

「まあ、当然じゃな。お主にとっては漫画は仕事。チャンスがあるのならばそれを掴むべきじゃ。むしろ、わらわと組むのにこだわらず、あそこで雪芽と組んだほうがお主もすぐに連載出来て良かったのではないのか?」

「ははは、まさか。たとえそうでも今のオレは刑部姫と組んでるんだ。それはこれからも変わらないよ」

「ふふ、そうか。では、早いところわらわとお主の漫画が連載できるよう頑張るとするかの」

 そう言って二人共に作業に入ろうとしたその時、佳祐のスマホが鳴り響く。
 何事かとスマホに映った電話先の相手を見るとそれは担当の美和であった。

「あれ? また美和さんだ」

 昨日呼び出しがあったばかりで今度はなんだろうかと電話に出る。

「もしもし美和さん。どうしたんですか?」

『おお、佳祐君。すまない。実はちょっとした頼みがあってねー』

「頼み……ですか?」

 何事かと美和からの頼みを聞くと、その内容は意外なものであった。

「え? 刑部姫を?」

『うんうん、ちょっと頼める?』

「まあ、とりあえず本人に聞いてみます。行くかどうかは本人に任せますので」

『そうか、わかった! いやー、すまないね。期待してるよ!』

 要件を聴き終えた後、電話を切る佳祐。
 見ると刑部姫は自分の話をしていたのを聞きつけたのか、何事かと佳祐の顔を見ていた。

「一体どうしたのじゃ? 今の電話はなんじゃ?」

「いや、それが刑部姫に用事があるからまた編集部に来てくれって」

「なんじゃ、またか。今度は一体何の用じゃ」

「いや、そうじゃないんだ。今度は刑部姫だけを指定してるんだ。だからオレはついてくるなって言われたんだ」

「なんじゃと?」

 佳祐からの内容に眉を潜ませる刑部姫。

「それは一体どういうことじゃ? なぜわらわだけで行かねばならぬのだ?」

「さあ……。よく分からないけれど刑部姫にだけ話したいことがあるんだって。勿論、刑部姫が行きたくないなら無理にはとは言っておいたけれど、どうする?」

 佳祐がそう尋ねると刑部姫は少し考えるように悩み、やがてしばし思考した後、答える。

「せっかく向こうからの頼みが来たんじゃ。佳祐がよければわらわは行こうと思うが構わぬか?」

「勿論。刑部姫が行きたいなら行ってきていいと思うよ。もしかしたら有益な話かもしれないしね」

「うむ。もしそうなら土産話としてお主に持ってきてやろう。では、許可も降りたようなのでわらわ一人で編集部に行くとするかの」

「あ、場所は分かるよね?」

「無論じゃ、もう二回もあそこに行ったのじゃ。お主の付き添いがなくとも大丈夫じゃ」

「それじゃあ、気をつけてね。刑部姫」

「うむ」

 玄関から出て行く刑部姫を見守りながらそう声をかける佳祐。
 その後、ドアを開き刑部姫が出ていくのを確認すると、一人の残った佳祐は机へと向かう。
 刑部姫が編集部に行ってる間に次のストーリーのネタを考え、それをまとめなければと自分に課題を出す。
 そうしていくつかのネタを手元のノートに書いていると、突然ドアの向こうから呼び鈴が鳴る。

「ん? 誰だろう?」

 慌てて振り返った佳祐であったが刑部姫が忘れ物でもしたのかと、すぐに扉を開ける。
 だが、開いた扉の先に立っていた人物を見て佳祐は思わず驚きに息を呑む。

「なっ、ゆ、雪芽さん……!?」

「ど、どうも。いきなり訪ねてすみません。佳祐さん……」

 そこにいたのは佳祐が先日、編集部で会ったあの白縫雪芽であった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...