37 / 46
37 再び紡がれた原作とあやかし
しおりを挟む
「それでこれからまずはどうするのじゃ? 早速下書きから入るか?」
「いや、その前にしなきゃいけないことがあるだろう、刑部姫。まずはその道山って人のところに行って説明しないと」
「あー……確かにそうじゃったな……」
佳祐と再び漫画を描くと決意してすぐ、刑部姫は早速原稿に取り掛かろうとするが、そんな彼女を抑えながら佳祐はまずは彼女と組むはずだった道山という人物に会い、漫画を描かないという旨を伝えなければならないと諭す。
刑部姫もそれには同意し、ちゃんと筋を通してから物事を進めなければと納得する。
「うむ、それでは早速道山のところに行ってわらわから断りの話を告げよう」
「なら、オレも一緒に行くよ。刑部姫」
「え、じ、じゃが、それはその……」
「何言ってんだよ。オレとお前は二人で一人の漫画家だろう。それに事情を説明するなら、原案のオレが一緒でないと意味ないだろう」
「佳祐……。うむ、そうじゃな!」
そう告げる佳祐に刑部姫は頷き、彼と共に道山がいる屋敷へと向かうこととなった。
◇ ◇ ◇
「ここがその道山がいる屋敷か……。すごい立派な屋敷だな。それに少し山に入ったところとは言え、あやかしがこんな屋敷を持って普通に住んでるなんて、結構変わってるんだな」
「うむ。あやつは少し前から人間社会に溶け込み、こうして普通に暮らすようになったらしい。というよりも、案外そうして人間社会に溶け込んでいるあやかしは多いのじゃ。雪女の雪芽などもそうであろう? むしろ、わらわのようなあやかしが時代に取り残されておるのじゃ」
あれから道山の屋敷へ行く途中、刑部姫は道山――ぬらりひょんの事を佳祐にも説明しながら案内をした。
ぬらりひょん。
数あるあやかし、妖怪の中でも一際有名なあやかしがこれであると言える。
その姿は一見するとただの老人のようにも見えるが、普通の人間に比べ後頭部が膨れ上がった姿であり、ひょうたんのような頭にも見える。
江戸時代に出版された浮世草子にも登場することから古くから日本に人々より認識されてきたあやかし。
しかし、その正体や性質については未だハッキリとしたものはなく、その名の知名度に反比例し、謎に包まれたあやかしとも言われている。
実際、その名のぬらりひょんも何を起源としたものなのかハッキリとしていない。
人間がこのあやかしを捕まえようとした時「ぬらり」と手をすり抜け、「ひょん」と浮いてくる様から付けられた名とも、または『百鬼夜行』と呼ばれる妖怪絵巻にて駕籠から降りる際、当時は乗り物から降りることを『ぬらりん』と言ったことからぬらりひょんと言われるようになったのか、はたまた掴みどころのないあやかしということから単純にぬらりひょんと呼ばれるようになったとも様々な説があるがどれが真実であるかは定かではない。
刑部姫にとってもそれは同様であり、彼女もこれまで数々のあやかしと接する機会はあり、そのあやかし達の一通りの性質や性格についても熟知しているつもりであった。
だが、ぬらりひょんについては未だ理解できぬことが多く、あれが何者なのか同じあやかしである刑部姫ですら疑問に感じる点が多かった。
今回の『戦国千国』の漫画制作の協力に関しても、なぜ自分に頼んだのか未だ納得行っていなかった。
とはいえ、ここに来て刑部姫も自分が進むべき道を定め、佳祐と共に漫画を描くと決めた以上、ぬらりひょんからの誘いはきっぱりと断らなければならない。
半ばほとんど決まった事とはいえ、これを断るのは申し訳ない気持ちは刑部姫にもあるが、そこはキチンと話し合うのが筋である。
多少の緊張を抱きながら、刑部姫は佳祐と共にぬらりひょん――道山がいる屋敷の扉を叩く。
「ぬらりひょ――道山。いるか? わらわじゃ、刑部姫じゃ。少し話がある。入って構わぬか?」
少し大きな声を出しながら刑部姫は屋敷の扉を叩く。
しばらくすると扉がひとりでに開き、その向こうから道山の声がする。
「入るがいい。隣にいる人間も一緒にな」
一瞬、その声にびくりと体を震わせる佳祐と刑部姫であったが、相手はあやかし。
こちらが二人で来ていることは見抜いていて当然。
ならば、話は早いと二人は玄関を通り、通路を抜け、道山がいる部屋の前まで来る。
「失礼するぞ。道山」
扉を開けると、そこには茶の間にてくつろぐ姿の道山――ぬらりひょんの姿があった。
ちょうどお茶をした後、キセルで一杯をしていたようであり、口元から「ふーっ」と白い煙を吐くと、中に入ってきた刑部姫と佳祐を一瞥する。
「……ふむ、お主が刑部姫と組んでいた人間か。して、何用じゃ?」
「は、はじめまして。オレの名前は田村佳祐と言います」
まるで恋人の父親に会うような緊張を抱きながら、佳祐はその場で正座をしながら挨拶をする。
そんな佳祐を道山は特に興味を抱いた風もなく一瞥した後、隣に座る刑部姫へと視線を移す。
「実は道山。お主に頼みがあるんじゃ」
「……ふむ」
そうして刑部姫は道山を前に、これまでの経緯を話し、彼に漫画の制作を取りやめる旨を伝えるのであった。
「いや、その前にしなきゃいけないことがあるだろう、刑部姫。まずはその道山って人のところに行って説明しないと」
「あー……確かにそうじゃったな……」
佳祐と再び漫画を描くと決意してすぐ、刑部姫は早速原稿に取り掛かろうとするが、そんな彼女を抑えながら佳祐はまずは彼女と組むはずだった道山という人物に会い、漫画を描かないという旨を伝えなければならないと諭す。
刑部姫もそれには同意し、ちゃんと筋を通してから物事を進めなければと納得する。
「うむ、それでは早速道山のところに行ってわらわから断りの話を告げよう」
「なら、オレも一緒に行くよ。刑部姫」
「え、じ、じゃが、それはその……」
「何言ってんだよ。オレとお前は二人で一人の漫画家だろう。それに事情を説明するなら、原案のオレが一緒でないと意味ないだろう」
「佳祐……。うむ、そうじゃな!」
そう告げる佳祐に刑部姫は頷き、彼と共に道山がいる屋敷へと向かうこととなった。
◇ ◇ ◇
「ここがその道山がいる屋敷か……。すごい立派な屋敷だな。それに少し山に入ったところとは言え、あやかしがこんな屋敷を持って普通に住んでるなんて、結構変わってるんだな」
「うむ。あやつは少し前から人間社会に溶け込み、こうして普通に暮らすようになったらしい。というよりも、案外そうして人間社会に溶け込んでいるあやかしは多いのじゃ。雪女の雪芽などもそうであろう? むしろ、わらわのようなあやかしが時代に取り残されておるのじゃ」
あれから道山の屋敷へ行く途中、刑部姫は道山――ぬらりひょんの事を佳祐にも説明しながら案内をした。
ぬらりひょん。
数あるあやかし、妖怪の中でも一際有名なあやかしがこれであると言える。
その姿は一見するとただの老人のようにも見えるが、普通の人間に比べ後頭部が膨れ上がった姿であり、ひょうたんのような頭にも見える。
江戸時代に出版された浮世草子にも登場することから古くから日本に人々より認識されてきたあやかし。
しかし、その正体や性質については未だハッキリとしたものはなく、その名の知名度に反比例し、謎に包まれたあやかしとも言われている。
実際、その名のぬらりひょんも何を起源としたものなのかハッキリとしていない。
人間がこのあやかしを捕まえようとした時「ぬらり」と手をすり抜け、「ひょん」と浮いてくる様から付けられた名とも、または『百鬼夜行』と呼ばれる妖怪絵巻にて駕籠から降りる際、当時は乗り物から降りることを『ぬらりん』と言ったことからぬらりひょんと言われるようになったのか、はたまた掴みどころのないあやかしということから単純にぬらりひょんと呼ばれるようになったとも様々な説があるがどれが真実であるかは定かではない。
刑部姫にとってもそれは同様であり、彼女もこれまで数々のあやかしと接する機会はあり、そのあやかし達の一通りの性質や性格についても熟知しているつもりであった。
だが、ぬらりひょんについては未だ理解できぬことが多く、あれが何者なのか同じあやかしである刑部姫ですら疑問に感じる点が多かった。
今回の『戦国千国』の漫画制作の協力に関しても、なぜ自分に頼んだのか未だ納得行っていなかった。
とはいえ、ここに来て刑部姫も自分が進むべき道を定め、佳祐と共に漫画を描くと決めた以上、ぬらりひょんからの誘いはきっぱりと断らなければならない。
半ばほとんど決まった事とはいえ、これを断るのは申し訳ない気持ちは刑部姫にもあるが、そこはキチンと話し合うのが筋である。
多少の緊張を抱きながら、刑部姫は佳祐と共にぬらりひょん――道山がいる屋敷の扉を叩く。
「ぬらりひょ――道山。いるか? わらわじゃ、刑部姫じゃ。少し話がある。入って構わぬか?」
少し大きな声を出しながら刑部姫は屋敷の扉を叩く。
しばらくすると扉がひとりでに開き、その向こうから道山の声がする。
「入るがいい。隣にいる人間も一緒にな」
一瞬、その声にびくりと体を震わせる佳祐と刑部姫であったが、相手はあやかし。
こちらが二人で来ていることは見抜いていて当然。
ならば、話は早いと二人は玄関を通り、通路を抜け、道山がいる部屋の前まで来る。
「失礼するぞ。道山」
扉を開けると、そこには茶の間にてくつろぐ姿の道山――ぬらりひょんの姿があった。
ちょうどお茶をした後、キセルで一杯をしていたようであり、口元から「ふーっ」と白い煙を吐くと、中に入ってきた刑部姫と佳祐を一瞥する。
「……ふむ、お主が刑部姫と組んでいた人間か。して、何用じゃ?」
「は、はじめまして。オレの名前は田村佳祐と言います」
まるで恋人の父親に会うような緊張を抱きながら、佳祐はその場で正座をしながら挨拶をする。
そんな佳祐を道山は特に興味を抱いた風もなく一瞥した後、隣に座る刑部姫へと視線を移す。
「実は道山。お主に頼みがあるんじゃ」
「……ふむ」
そうして刑部姫は道山を前に、これまでの経緯を話し、彼に漫画の制作を取りやめる旨を伝えるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる